解説
あなたはどんなとき、「親の老い」を感じるだろうか。
「親の背中が小さく見えたとき」、「自宅の階段を上るのが辛そうだったとき」……など様々だろうが、「親の耳が遠くなったことに気づいたとき」もその一つだろう。
難聴には2タイプある
ところで、『1分で耳がよくなる! 今野式聴力回復 水琴鈴スティック』(今野清志著/永岡書店刊)によれば、難聴には
- 1.伝音性難聴
- 2.感音性難聴
の二種類があるという。
「伝音性難聴」は外耳から中耳にかけて障害があるときに起きるのに対し、「感音性難聴」は内耳や聴神経、脳の障害によって起きる。件の「耳が遠くなる」老人性難聴は、一般的に感音性難聴であることが多いそうだ。
ただ、いったん耳が遠くなってしまったとしても諦めることはないし、補聴器に頼る必要もない。本書では、「脳が本来持っている“聞く力”を呼び覚ますこと」と「耳周辺の血行を促進すること」ができれば、聴力は回復すると説いている。
では、どうすれば脳が本来持っている“聞く力”を呼び覚ませるのだろう。
脳を刺激すれば聴力が回復する?
著者の今野さんによると「音は、耳と脳の共同作業で聞こえている」。つまり、音を聴き取るうえで、耳と同じくらい脳の役割が大きいのだ。
音は初め振動として知覚され、内耳の蝸牛という部位にある有毛細胞で電気信号に変換される。そして、この電気信号が聴神経を通って脳に伝わることで、ようやく意味のある「音」として認知される。逆にいえば、電気信号が脳に届かなければ、音が音として認知されることはない。
もし感音性難聴になってしまったら、耳自体の機能低下だけでなく、脳の「聞く力」が弱まっている可能性についても考慮すべきだが、こちらは訓練によって回復が望めることに注目だ。
今野さんは、5,000~16,000Hz程度の高周波数の音を意識的に聞き続けるのが効果的だとしている。この程度の高周波数の音は鈴虫の鳴き声などに似ており、脳が心地よく感じる刺激を与えることができるからだという。
ちなみに、聴力回復のもう一つのキーワード、「耳周辺の血行を促進する」は本書の附録「水琴鈴スティック」で実践できる。親、あるいはあなた自身、最近、聴力に不安を感じているのなら、チェックしてみる価値はあるだろう。
インタビュー
聴力は30代から衰える!回復させるために聴くべき「音」とは
30代前半の自分が、聴力に不安を感じることはまだない。
だが、ほぼ毎日ヘッドフォンやイヤフォンを使って、大きめの音量で音楽を聴いているため、「日々、耳を傷めつけてしまっているかも……」と思うことはある。
一般的に聴力は30代から徐々に衰え始めるといわれる。だとしたら、自分の聴力が低下していても不思議はないわけだが、一度衰えた聴力を回復させることはできないのだろうか。
今回は、『1分で耳がよくなる! 今野式聴力回復 水琴鈴スティック』(永岡書店刊)の著者、今野清志さんに、聴力回復のメカニズムについてお話をうかがった。
―― 本書は、昨年7月に刊行された『耳は1分でよくなる!─薬も手術もいらない奇跡の聴力回復法』の実践編と位置づけてよろしいのでしょうか。
今野: そうですね。本書の特徴は、私が普段、治療院で行なっている今野式聴力回復法を、誰でも手軽に実践できるよう開発したセルフケアグッズ「水琴鈴スティック」が付録として付いていることです。前著と重なる部分もありますが、より実践に重きを置いた内容になっています。
―― 具体的に、水琴鈴スティックがどのようなものなのか教えていただけますか。
今野: エンピツのような形をしたスティックの先端に「水琴鈴」という鈴が付いています。これを耳元で鳴らすことで、高い周波数の優しい音色を聞くことができ、耳や脳が本来持っている「聞く力」を活性化できるというものです。
―― 高い周波数とは具体的にどの程度のものなのでしょうか。
今野: 鳴らし方によって幅があるのですが、およそ5,000から16,000Hzです。これは、鈴虫の鳴き声などに似ており、聴力に問題がない人でも、よくよく耳を澄まさないと聞き取ることができません。
また、この程度の周波数帯の音というのは、加齢にともなって聞こえづらくなるとも言われています。この音に意識を集中させて聞くことで脳に心地よい刺激を与えることができ、結果として聴力回復につながります。
―― なぜ脳に刺激を与えることが聴力回復につながるのですか。
今野: 「音は耳で聞くもの」と思われがちですが、実は脳で聞いています。耳から入った音は、振動として知覚され、内耳の蝸牛という部位にある有毛細胞で電気信号に変換されて、脳へと送られることで初めて意味のある音として認識されるのです。
脳が心地よい音だと判断すると、それが良い刺激になって聴神経や脳の細胞が「この音を聞きたい」と動き出し、次に同じ音を聞いたときに、「あっ、この音だ」と認知しやすくなる。このようなメカニズムで聞く力がよみがえっていきます。
―― なるほど。脳に心地よいと感じさせることが重要なのですね。
今野: その通りです。ただ、ぜったいに水琴鈴を使わなければならないという話ではありません。その人なりの好きな音を思い出せばいいのです。
当院に来て下さった方に、好きな音を思い出してもらうときに私がよく言うのは、「目をつぶって、子どものころに聞いた音を思い出してみてください」ということ。そう問いかけられることで、ある人は太鼓の音を、またある人は蛙の鳴き声といった具合に、各々懐かしさをおぼえる好きな音を思い出します。
あとは、その好きな音を繰り返し聞いてもらうようにもしますね。そうこうするうちに、「この周波数帯の音は聞き取れる」というふうになっていく。こうなればしめたもので、あとはここを起点にして、徐々に聞き取れるゾーンを広げていけば、確実によく聞こえていたころの耳に戻っていきます。
多くの人が見逃しがち 自律神経の乱れによる難聴
最近、テレビの健康番組などでも見かけることが多くなった「自律神経」という言葉。その重要性は認識しつつも、実際に自律神経が乱れたとして、身体のどこにどのような不具合が生じるのかまでは分からない。
自分も含めて、自律神経に対してその程度の知識しかないという人は少なくないのではないだろうか。
そして、『1分で耳がよくなる! 今野式聴力回復 水琴鈴スティック』(今野清志著、永岡書店刊)によれば、自律神経の乱れが重度の難聴につながることもあるようだ。
―― 今野さんが提唱されている「水琴鈴スティック」を使ったセルフケアでは、最短どれくらいで効果を実感できるものなのでしょうか。
今野: 早い人だと、数日から一週間ほどで、聞こえづらさ・耳鳴り・耳閉塞感などが改善していきますね。
―― 効果が出やすい人というのは、どういう人ですか。
今野: ご高齢の方は効果が出やすい傾向があります。というのも、耳鼻科に行ったものの、「もう歳だからしょうがない」と匙を投げられてしまうケースが少なくないからです。
このような場合、言ってみれば、何もせずに放置していたわけですから、ちょっとしたきっかけを与えるだけで、比較的簡単に「あ、聞こえる」となります。
―― そんなにも分かりやすく効果が出るものですか。
今野: 出ますね。それに高齢者の方というのは、再びコミュニケーションをとれるようになったことへの喜び方がすごいので、見ているこちら側にも強烈なインパクトを残します。
でも考えてみれば、それまで「女房が何を言っているのか分からない」だとか「息子の言っていることが聞き取れなかった」といったストレスを抱えていたのが解消されるわけですから、それはたしかにうれしいでしょうね。
相手の言っていることを聞き取れるからこそ、相手に反応を返せる。反応を返せれば、相手からも言葉が返ってきて会話がつながっていく。こうしたケースを見るたび、聞くことはコミュニケーションの起点なのだと実感します。
―― 逆に、効果が出にくいケースもありますか。
今野: あります。いちばん時間がかかるのは、自律神経が麻痺してしまっているケースですね。この状態だと、血流が滞り、耳が聞こえづらくなってしまうのです。
自律神経というのは、一年や二年で悪くなるものではありません。十年、二十年という長い時間をかけて、少しずつ悪くなっていくものです。それだけに、本人が気づいたときには、すでにかなり悪化していたというケースが多い。
このような場合、水琴鈴スティックを使うだけでは不十分で、自律神経を整えることから始めなければなりません。
―― 具体的には、どのようなエクササイズをすればいいのでしょうか。
今野: とにかく全身運動をすることです。たとえば、本書でも紹介している「エア縄とび」。これは文字通り、縄を持ったつもりで縄とびをするように、その場でジャンプするというものです。
この動作は脚力だけでなく腹筋や腰の力が必要になり、肩や腕なども動かすので、全身の血流を促し、心肺機能を高める効果があります。その結果、呼吸が深くなり自律神経のバランスが整いやすくなるのです。
―― 最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
今野: 耳の聞こえが悪くても、絶対に諦めないで下さいということをお伝えしたいですね。これまでお話してきように、必ず聞こえを悪くしている原因はあるものなので、それを少しずつ改善していけば、聴力は必ず回復します。
だからこそ、耳の聞こえが悪いことは決して恥ずかしいことではないという点も強調したいところです。
先ほどはご高齢の方の例を出しましたが、40代や50代でも、「耳の聞こえが悪くなった」と感じ、当院にお見えになる方は少なくありません。でも、この年代の方はつい「この歳で難聴だなんて恥ずかしい」と隠してしまうことが多いんですね。
でも、こうしたことを隠したままコミュニケーションをとり続けてしまえば、相手にしてみると「この人には自分の言っていることが伝わっているのだろうか」と懐疑心を持ったまま話すことになります。これでは人間関係が悪くなってしまいますから、その悪循環を抜け出すためにも、まずは「聞こえが悪くなっている」という現実を受け止め、まわりにもそのことを伝えるということから始めていただきたいですね。