第1回 経済アナリストが「リオ五輪後が要注意」と警鐘を鳴らす理由
5月に開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)での安倍晋三首相の発言が物議を起こしたことは記憶に新しい。
安倍首相は、世界経済の指標について2008年のリーマン・ショック前後と比較しながらその深刻さを説明。すると、「リーマン・ショック前と似た状況だと発言した」という報道が一斉になされた。その後、首相はその発言をしていないという声明が出されたが、世界経済が危機にある状況には変わりない。では今後どのように進んでいくのだろうか。
J.P.モルガン証券などに在籍し、30年以上にわたり活躍してきた経済アナリストの塚澤健二氏は次のように見ている。
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まず、サミットでの安倍首相の発言についてですが、今年1月に「リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り」確実に消費税増税を進めると言っています。おそらく内心としては増税を延期したいと思っていて、サミットの場でリーマン・ショックを引き合いに出したのではないでしょうか。でも、実際にリーマン・ショックレベルの危機が起きると考えているわけではないように思います。
年初から世界同時株安が始まり、2015年12月から27%下落しました。これを一部報道ではこの暴落をリーマン・ショックに例えていましたが、違います。1987年のブラックマンデーと同じタイプです。
1987年10月19日のブラックマンデーでは、NYダウ平均の終値が前週末から22.6%という歴史的下落を見た後、12月28日に三番底を付けてから再び上昇に転じています。私は1月の時点で今回の下落も同じ動きをすると予想していましたが、やはりその通りの動きを見せていますね。
典型的なのがニューヨーク・ダウ平均株価で、2ヶ月から3ヶ月で戻りました。日本も同じように戻らないといけないのですが、為替が円高になってしまっているので、その分押されているという感じです。
拙著『未来からの警告!』(集英社刊)は、ちょうど1月から2月に書いたもので、ちょうど底打ちの時期であり、この本に書いた通りに戻りました。
『未来からの警告!』では、様々な指標を通して作り上げたオリジナルの分析ツール「T-Model」を元に経済予測を試みています。そうすると、今年の夏にバブルが終焉し、第二のリーマン・ショックに向かうと予測が出てくるのです。その危機を表す指標が2つあります。
「GOLD(NY)/SILVER(NY)」レシオと、「GOLD(NY)/PLATINUM(NY)」レシオです。
これは私が作った指標ですが、横線が入っているところを超えると危機を表していると考えられます。
プラチナレシオは、ヨーロッパの景気の状況を示す指標です。産業用プラチナの4割がヨーロッパで消費されているということから、プラチナの価格が金の価格を上回るときは、ヨーロッパの景気が良く、逆に金がプラチナの価格を上回る場合は景気が悪いと判断できます。シルバーレシオは世界的な危機を表しています。この指標によると、すでにヨーロッパも世界も危機に入っていることになります。
私の予測では今の景気は夏がピークであり、オリンピックが終わると危機が一気に顕在化するという流れです。
今までの歴史を見ても言えることです。大統領選挙イヤー、つまりオリンピックイヤーは、オリンピックが終わるとマーケットが急変する傾向があるのです。2012年のロンドンオリンピックのときも、五輪終了時に1ドル77円だったのが、年末までに1ドル86円と円安になりました。
秋以降に私が危惧しているのは債券デリバティブのバブルです。リーマン・ショックの引き金となったサブプライムローンは、デリバティブ全体の中での2、3%くらいの比率ですが、債券デリバティブはそれとは比にならないレベルの規模の大きさです。そこに火がついたら…と考えると非常に怖いですね。
第2回 トランプがもし大統領になったら…何を世界にもたらすのか?
今、世界的に注目を集めているのが、アメリカ大統領選挙だ。その中でも共和党の指名を確実にしているドナルド・トランプ候補は、「彼が大統領になるなんて冗談だろう」という声を吹き飛ばしつつある。
イスラム教徒の入国拒否をはじめ、差別的発言、暴力的発言もお構いなし。それでも支持を集め続けているトランプ候補が、もしアメリカの大統領になってしまったらどうなるのだろうか? 経済アナリストの塚澤健二さんに聞くシリーズ、第2回はトランプ旋風の影響について語っていただいた
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もし、ドナルド・トランプがアメリカの大統領になったら、世界はガラっと変わるでしょうね。逆に民主党のヒラリー・クリントンが大統領になれば、現状維持です。方向性は基本的に変わりません。
第1回でも述べたように、リオデジャネイロオリンピック後にマーケットが大きく動くかもしれません。「壊し屋」たるトランプは、そういった社会的な変革期にピッタリの人物です。
その背景には、人々が「偽装経済」に対して苛立ちを覚えているということがあります。昨年、フォルクスワーゲンの排ガス規制の偽装が問題になりましたが、そのような「偽装」がどんどん出てくる。「偽装」まみれだということが人々が分かっていて、トランプが大統領になるとそれを暴露してくれると思っているわけです。
それをできるのは、彼が政治家ではないからでしょう。政治の外にいる人、つまりはアウトサイダーです。アメリカ国民は政治家に任せても期待できないと思っているから、アウトサイダーたるトランプに期待するわけです。
アウトサイダーは常に既得権益を壊し続けてきました。既存の金融業界に対するアウトサイダーといえば、フィンテックです。IT技術を使ってより安い形で使える。原油で言えば、メジャーグループに対して、シェールガスというアウトサイダーが出てきました。それまで牛耳っていた存在がどうしようもなくなってきたときに、アウトサイダーが登場し、一気に覇権を奪います。
トランプのような存在は社会にとってはまさに劇薬です。でも、アメリカ国民は不安定になったほうが良いと思っています。
では、日本はどうかというと、規制を緩和したほうがいいという話は出るものの、既得権益者たちは規制を緩和したくない。そのせめぎ合いが起きているわけですが、安倍政権は既得権益の壁をなかなか崩せないでいるのが現状です。
さて、投資の話に戻すと、既得権益が壊れて得をするのはヘッジファンドです。彼らは下落局面で高いパフォーマンスを上げることができます。
ヘッジファンドが元気なときは、社会の転換点になっていることが多い。だから、私の予測では2016年にはじまり、2017年、2018年は世界経済が混乱する時期になるのですが、彼らが驚異的なパフォーマンスを上げることが考えられます。
世界では大転換するための様々な条件が、2016年後半に揃いつつあります。だから、今こそどのような生き方をしている人が生き延びるのか? そしてどのような志で経営している会社が生き残るのか、真剣に考えるべきでしょう。
第3回 アナリストが推測する「パナマ文書」と「高額紙幣廃止」の共通点
2015年8月、パナマに構えるモサック・フォンセカ法律事務所からあるデータが流出した。それは、租税回避行為に関する機密文書であり、2016年5月10日に専門家やジャーナリストによって分析された結果が公表された。
これは世界を揺るがす衝撃をもたらし、アイスランドではグンロイグソン首相(当時)が辞任するなど混乱をもたらした。では、経済アナリストの塚澤健二さんはあの「パナマ文章流出」と「タックス・ヘイブン」をどのように捉えているのだろうか。第3回はパナマ文章を皮切りに話をうかがっていく。
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タックス・ヘイブンは租税回避地のことで、税金がかかりません。勘違いしている人も多いのですが、これは違法ではありません。ただ、一点気になることをあげるとすれば、こうした場所を誰がつくったのかということですね。
ただ違法ではないとはいえ、それが明らかにされてしまい世界中から批判の声が上がった以上は、こうしたシステムの役目は少しずつ消えていくように思います。ただ、もちろん次の抜け道として考えられる存在も出てきています。それが「仮想通貨」です。
「仮想通貨」は法定通貨ではないので、正式なお金ではありません。ようは「アウトサイダー」です。ところが、2013年に、当時FRB議長だったバーナンキが懸念を示すとともに、長期的な価値があると認める発言をしています。
実際のところ、アウトサイダーたる「仮想通貨」はそこでは無視されないといけない存在であったはずです。でも、その価値を認めたということは、有用性があるということが考えられるのではないでしょうか。
また、「パナマ文書」とともにもう一つ気になる事象があります。それが「高額紙幣の廃止」です。今年2月にロイターが高額紙幣廃止論についての記事をあげ、その翌日、アメリカのサマーズ元財務長官が新たな100ドル紙幣の発行停止を呼びかけました。そして今年の5月に、欧州中央銀行が500ユーロ紙幣の廃止することを発表しましたね。
拙著『未来からの警告! 2017年 超恐慌時代の幕が開く』の中で、私は「高額紙幣は『退蔵マネー』として使われている」と指摘しています。つまり、隠し持っているお金のことです。そして、高額紙幣を廃止することで、貯まっていたお金を一度、動かさなければいけなくなるはずです。そうなるとマネーは流動化するでしょう。
サマーズ元財務長官は高額紙幣の廃止と、マイナス金利政策を機能させることに関連があるという見方に否定的ですが、私は逆だと考えています。中央銀行の狙いはマネーを動かす、ということです。
「パナマ文書流出」もマネー流動化の契機になると考えられます。口座を閉鎖することで、お金が動く。これまでは各国の中央銀行が規制を緩和することでお金を膨らましていたわけですが、それが限界にきた。だから、「退蔵マネー」を動かして、世界の景気を延命させるフェーズに入っていると考えられるのです。
第4回 中国は知りたくない? オリンピックのジンクス
これまで驚異的な経済成長を遂げていた中国に翳りが見えている。特に昨年後半から、それにまつわる識者の分析レポートが出されており、日本への影響も気になるところだ。
世界で最も多くの人口を抱え、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けてきた中国は、今後どうなるのか。経済アナリストの塚澤健二さんに聞いてみると、「中国の体制は崩壊に向かっている」と“予言”を述べる。そこには、独裁国家・共産主義国家とオリンピックに関連するあるサイクルがあるという。
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新興国は物価が下落すると、その分のダメージが大きいんです。中国はまさに今その影響をもろに受けていますね。習近平が国家主席になってから体制が変わり、引き締めに入っているので、その部分も大きいでしょう。でも、最近はまた経済を膨らませてきていて、多少は上昇の兆しが見えているようで、特に不動産はバブルのように膨らみつつあります。
特に気になるのは、中国が次々に超高層ビルを建てていることです。おそらくそれで景気を立て直す狙いがあるのでしょうけど、中国政府にとってそれが裏目に出てしまう可能性もあります。
というのも、これまでの歴史を辿ると、独裁国家や共産主義国家がオリンピックを開催すると10年前後で体制が崩壊するというサイクルがあるんです。例えば1936年にヒトラー政権下で開催されたベルリンオリンピック、1980年のモスクワオリンピック、1984年のサラエボオリンピック(旧ユーゴスラビア)がそれに当てはまります。
そして中国は2008年に北京オリンピックを経験しています。私はこの超高層ビル群の建設が、バブル崩壊、そして体制の崩壊の予兆ではないかと考えています。
私が予測する際に重要視しているものの一つが「サイクル」です。つまり過去に起きた出来事から法則性を見つけるのです。過去の現在がどのようにリンクしているのか。サイクルだとどう出るのか、先行指標であればどうか、そういう様々な要素を組み合わせて「T-Model」という経済を予測するための独自のツールを作りました。
サイクルに気づかなければ、先を読むことはできません。世界の金融市場の方向性を知る上で、最も重要な指標は「米ドル・インデックス」です。これは、主要国との貿易額などを前提に、ユーロ・円・ポンド・スイスフランなどの主要通貨に対する米ドルの価値を総合的に弾き出した指数です。
この指数を見ると、実は米ドルのピークは約15年おきにきていることがわかります。これは一つのサイクルです。では、このピーク時に何が起きているのか、なぜ上がっているのか、そこを考えるのです。拙著『未来からの警告! 2017年 超恐慌時代の幕が開く』はそうした指標からはじき出した経済予測を詰め込んでいます。
最後に、日本についてお話します。7月に参議院選挙がありますが、安倍政権が浮動票を獲得するためには景気を良くすることが必要です。しかし、景気自体は良くなっていない。となると株価を上げるという選択肢もでてきます。私の見方としては、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)とゆうちょ銀行の資金を、株式相場に大量注入するのではないかと見ています。
また、今はすでにオーナーの時代になりつつあります。つまり、お金を出している人が強く、雇われている人は弱い。雇用は激変するでしょうし、極端な考え方をする人のほうが生き残っていけて、平均的な考え方しかできない人たちは路頭に迷ってしまう時代がもうすぐやってくるかもしれません。