BOOKREVIEW

「PDCAを回せ!」の合い言葉が不祥事を生む? 東芝の不正会計事件、三菱自動車の燃費偽装…不祥事の連鎖が止まらない。その原因はもしかしたら、行きすぎたPDCA信奉かもしれない。
いまや常識となった予算や経営計画によって社員が苦しんでいる。PDCAサイクルのP=計画で、「無理な計画」が作られると必ず現場に悲鳴が上がる。もしかしたら「先の見えない」環境においては、PDCAそのものの見直しが必要かもしれない。
米軍は新しい手法OODAを用いて、計画&管理一辺倒の見直しをしているようだ。

PDCAが悲劇を生むケース

『米軍式 人を動かすマネジメント』(日本経済新聞出版社刊)の著者であり、公認会計士の田中靖浩氏は、「日本人の過剰なPDCA愛好」に対して警鐘を鳴らす。

当初の計画に固執するあまり、それが無謀であり、あるいはマーケットの変化に対応できないものであったとしても、マネジメント層は現場に「初志貫徹」を貫かせ、これが不祥事を生む温床となる。

また、目標達成のために従業員のDo(行動)は日々細かくチェックされ、「任務を遂行したかどうか」で評価される。これは従業員の自主性を失くす原因になる。さらに短期的なCheck(評価)は「長い目で顧客を考える、従業員を育てる」という視点を失わせる。

すべてを計画通りに進めることはできない

田中氏いわく、「PDCA的な計画の管理は、環境が安定的で変化が少ないビジネスにおいて有効」であるという。しかし、このご時世では、大きな変化に晒されているビジネスの方が多いはずだ。

PDCAは「想定できない変化」への対応が難しい。例えばエンターテインメント業界では、売り出す作品が「100%売れる」と断言するのは難しいし、いつライバルが入ってくるかもわからない。CMで起用している著名人がスキャンダルに巻き込まれる可能性もある。

だからといって、トップがころころ計画を変更すると、現場に不信感を募らせる。LINEの社長を務めた森川亮氏は、著書『シンプルに考える』の中で、社員から「ブレている」という批判があがっていたことを吐露し、「計画を発表しない」という方法を取ったことを告白している。

湾岸戦争におけるアメリカ軍の戦術に学ぶ

では、想定できないことだらけの世の中で、どのように計画を立て実行し、結果を出せばいいのか。

田中氏は本書の中で、湾岸戦争におけるアメリカ軍の例をもとに説明する。
それは1990年の湾岸戦争をキッカケに生まれたManeuver Warfare(機動戦)という新スタイルの戦い方である。

この「機動戦」の特徴は次のようなものである。

  • 敵の動きを読んでその弱点を突く
  • 体力勝負の消耗戦でなく、頭脳戦で挑む
  • 事前の計画より、事後の臨機応変を重視する

先の項目で「PDCAは変化が少ない安定した環境向き」だと述べたが、この「機動戦」は変化が多い不安定な環境下において有効な手法なのだ。

「OODAループ」という手法

『米軍式 人を動かすマネジメント』では「機動戦」的な経営を可能にするための手法として「OODAループ」を提案する。

OODAとはO=Observe(観察)、O=Orient(方向付け)、D=Decide(決心)、A=Act(実行)のことで、周囲の状況から自分たちのすべきことを策定し、アクションを取るという意思決定プロセスを意味する。

OODAループを提唱したのはアメリカ空軍のジョン・ボイド大佐(1927-97)。ビジネスには軍事由来の手法が多いが、この意思決定プロセスも、軍事モデルをもとにしている。変化が激しい環境に有効なOODAループのビジネス活用は、これからますます増えていくことだろう。

結果を出す組織に成長するには

日本の経営企画はいまだ工業時代に培われたPDCAの枠組みにどっぷりつかっている。しかし工業のサービス業化が叫ばれる今、経営企画に新たな視点を取り入れる必要があろう。

変化への対応が企業成長のカギを握る現代において、とりわけ中小企業にOODAループの実践は有効性が高そうだ。

PDCAは確かに組織を結果にコミットさせるために適した手法ではあるが、現場は「やらされている感覚」を持ってしまうことが多く、受け身になりがちだ。

『米軍式 人を動かすマネジメント』では、従来のPDCAにOODAを組み合わせて「動ける組織」を作る方法を豊富な事例を通して伝授する。変化に対応するためには動くことが必須であり、それが組織の成長にもつながる。なかなか事業が上手くいかない…と悩んでいるマネジメント層にとって、新たな視点やヒントが散りばめられているはずだ。

(新刊JP編集部)
 無料特典 航空自衛隊 伊藤大輔氏による解説全文ファイル

CONTENTS

  1. プロローグ 湾岸戦争の敗者と勝者
  2. 第1章 機動戦経営とは何か?
    • 湾岸戦争で敗れたイラク軍と東芝不正会計事件の類似性
    • 経営企画部よ、いまこそ常識を破壊せよ!
    • 先が見えない環境で戦うための機動戦
    • OODAとミッション・コマンドで「動き・動かす」組織を目指す
    • 孫子の兵法から機動戦へ受け継がれた勝利の方程式
  3. 第2章 OODAで「動く」個人をつくる
    • 20世紀の礎をつくった3人の男たち
    • オーバーヘッド・コストがもたらす「数字の霧」
    • 21世紀の管理会計は「人を動かす会計」
    • 米空軍戦闘機F86が高性能ミグ15に勝利した秘訣
    • OODAで敵を観察し、すばやく動く機動戦経営
  4. 第3章 ミッション・コマンドで部下を「動かす」
    • 1日2時間しか営業しないビールスタンドの謎
    • ルール重視で失われた機動力を取り戻せ
    • 現代に甦った参謀モルトケの訓令戦術
    • 「選択と分散」経営を成功に導くミッション・コマンド
  5. 第4章 クリティカル・インテリジェンスで「動ける」組織を目指す
    • 誰よりも数字を愛し、「効率」を確立させた男
    • 「動ける」インテリジェンスで戦う機動戦経営へ
    • 数字に心理学を組み合わせて「勢い」をつくる
    • 見えない問題を見抜くインテリジェンス
    • 「探す・捨てる・絞る」数字のインテリジェンス
  6. 第5章 D-OODA(ドゥーダ)で戦う機動戦経営
    • 作戦の大筋をデザインし、臨機応変に戦うD-OODAループ
    • 「任せて動かす」ことで組織を成長させる

PROFILE

田中 靖浩

たなか・やすひろ
田中公認会計士事務所所長。東京都立産業技術大学院大学客員教授。
1963年三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社を経て現職。中小企業向け経営コンサルティング、経営・会計セミナー講師、執筆、連載を行う一方、落語家・講談師とのコラボイベントも手がける。
難解な会計・経営の理論を笑いを交えて解説する「笑いの取れる異色会計士」として活躍中。
主な著書に「経営がみえる会計」「クイズで学ぶ孫子」「40歳からの名刺を捨てられる生き方」ほか多数。

INTERVIEW

『米軍式 人を動かすマネジメント』(日本経済新聞出版社刊)で提唱されている「OODAループ」について知っている人はあまり多くないだろう。

「OODAループ」はアメリカ空軍ジョン・ボイド氏が開発した意思決定プロセスで、観察(Observe)、方向付け(Orient)、決心(Decide)、実行(Act)の頭文字を取ったものである。周囲をよく観察し、方向性を決め、実行に移す。個人の意思決定のスピードを飛躍的に速め、組織の機動力を高めることを可能にするOODA。

コンサルタントで公認会計士の田中靖浩氏はこの「OODAループ」を、「PDCAサイクル」の限界を補うものとして紹介している。では、「PDCAサイクル」の限界と「OODAループ」の力とはどのようなものなのだろうか? お話をうかがった。

■不正会計や偽装を引き起こすPDCAサイクルの功罪

――PDCAサイクルが多くの企業で採用されている今、本書はマネジメント層にとって必読の内容だと思います。この本はPDCAを信じ込むことに対する警鐘から入っていますね。

田中:
PDCAは分かりやすいモデルで、業務効率を上げるためにも非常に有効であることは事実ですが、やはり弱点や限界があります。

私は公認会計士としてPDCAの枠組みに沿って会社のサポートをしてきました。しかし、経営におけるメインのツールである予算組みや経営計画を作ることにおいて、少なからず違和感があったんです。というのも、経営を管理する上で、中期経営計画だとだいたい3年くらいのスパンで計画を作り、それをさらに落とし込んで向こう1年の予算を立てます。しかし、景気が悪くなってから、どうもPDCAでは立ち行かなくなっていることが多いんですね。

――それはなぜでしょうか。

田中:
PDCAは、変化が少なく先が読みやすい環境では有効なのですが、急速に状況が変化する環境においては、時間の経過につれて計画の前提が大きく変わってしまうため、立ち行かなくなります。

――経営企画で立てられた計画が行き過ぎていると、その数字を達成するために従業員たちが社会的な倫理に反するような行動を取ってしまうこともありますよね。

田中:
この本を書いている段階で東芝の不正会計が発覚し、またこういったケースが出てくるということを懸念しながら書きあげたら、すぐに三菱自動車の燃費偽装問題が表に出ました。

具体的な数字目標は凶器になる危険性を孕んでいて、無理な数字を設定された現場は、その数字を達成するために嘘をつくことになりかねません。経営層は業績をより伸ばそうとするために、高すぎる目標をPDCAの「P」に置いてしまいがちで、その弊害が日本中で噴出し始めたのだと思いますね。

――この本で提唱されているOODAループは、変化の速い時代に即したスピーディーな意思決定を可能にするモデルです。

田中:
OODAループは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐がドッグファイト(機動しながらの空中戦)からヒントを得て考案したものです。刻々と戦況が変わるなかで、目の前の状況観察からはじまり、その観察を通して直観重視で意思決定し、実行するというプロセスですが、これを知ったときにPDCAの限界を補うものではないかと思いました。

――業界によっても異なるのかもしれませんが、例えばIT業界はトレンドが一瞬で変化するので、計画を立ててPDCAをまわしても、世の中のニーズと合わないところがでてきますよね。そういう意味ではOODAループは合うように思います。

田中:
IT業界をはじめとした情報サービス産業全般に効果的だと思います。人が重要である組織は、このOODAループが良い形で作用するはずです。あとOODA経営は中小企業に効果的で、成功事例は大企業よりも中小企業の方が早く登場するでしょうね。

――「OODAループ」は観察(Observe)、方向付け(Orient)、決心(Decide)、実行(Act)という4つのフローがありますが、この中で最も重要なものはなんですか?

田中:
「方向付け」です。これまでOODAループについて説明している本を見ると、「Orient」を「状況判断」と訳していることが多かったのです。今回は、「状況判断」より一歩強い意味を持たせたいということで、「方向付け」と訳しました。

戦闘機のパイロットは、方向づけを自分で決定した瞬間に、操縦桿を動かします。確かにその後に「Decide」(決心)という段階があるのですが、大組織で「Decide」は、会議の手順を踏まねばなりません。観察し、状況を判断して動こうと思っても、個人の一存ではできない。そうなると行動のスピードが遅くなるわけです。スピードを上げるためには、「方向付け」と「決心」を同時に行わねばなりません。

――つまり、「OODAループ」は個人の裁量が大きくなるプロセスであるわけですね。

田中:
そうなんです。みんなの合議で決めずに、ある程度権限を分散して個人に任せる。つまり、OODAによって多くの企業が苦手としている「任せる」ことが可能になります。

■「OODAループ」を大企業に適用するには?

――OODAループは「任せる」ことが有効であると同時に、失敗をしてもすぐに状況を立て直せますよね。つまり、失敗に対して非常に寛容な姿勢が求められるのではないでしょうか。

田中:
その通りです。それはとても大事なポイントですね。もちろん、例えばビジョンに沿わない行動や、偽装問題や不正会計といった社会的倫理に反する失敗はNGです。1回起きてしまえば10年から20年は立ち直れなくなりますから。

でも、基本的にミッションに沿ったものであれば、OODAループにおいて失敗はむしろ奨励されます。行動しなければ分からない状況もありますし。OODAは失敗に寛容なプロセスであり、「失敗から学ぶ」姿勢。それがむしろ強みなのです。

――ただ、結果は数字ベースで見られます。OODAプロセスには数字に対するコミットが欠けているように思うのですが、それを克服する手立てはあるのでしょうか。

田中:
OODA自体は軍事の思考なので、数字は直接出てきません。何機撃墜するという話ではなく、「勝つ」という大きな目的のための考え方ですから。

そこで大切になるのが勝ち方です。「Ends」、終わり方のことなんですが、これを最初にデザインします。現在のアメリカ軍は、作戦計画の立案にあたって「Operational Design」(オペレーショナル・デザイン)という作戦の大筋をまず考えます。「Ends」はその大筋を構成する一つの要素で「目標」を意味します。それがビジネスでいえば「数字」で表現されるのですね。

――この「Operational Design」を含めて、田中さんは「D-OODA」と名付けています。これが、OODAとPDCAを組み合わせたものである、と。

田中:
そういうことになります。「Ends」(目標)のほかにも、「Ways」(方法)、「Means」(資源)、「Risk」(リスク)の3つがあり、それらを最初にデザインすることで作戦の大筋を可視化していき、徹底させていくわけです。決して数字だけを目標にするのではなく、そのほかのことにも目を配って、やるべきことを正しくデザインすることが大切です。

――最近、IT化とともに「数字による見える化」や「PDCA」がますます強まっているように思えますが。

田中:
そうなんですよ。とくに日本のPDCAの場合、予算で「上」ばかり見る傾向があります。対前年比何%プラスという形で上乗せばかり考える理想論が多い。

私は本書で「この数字以下だと危ない」という予算のボトムを決めて、それを死守する形で自由にやってもらうという方法を提案しています。そうしないと、現場はただ目標のために働いていることになり、仕事がつまらなくなって、アイデアも詰まってしまいます。
どうやって短時間で、楽しく、成果につながるアイデアを生み出せるか、これを考えねばなりません。

そういえば先日、この本を出版した直後、書店に配るPOPを作ろうということになったのです。ただ、印刷所に頼むまでの時間が「2時間」を切っていたので、さすがに私も諦めかけました。しかしスタッフが「せっかくだからやりましょうよ」と諦めないので、一緒に書店まで、他の書籍のPOPを見に行ったんです。

書店のPOPを見ると、明るい色で、長い文章が書かれているものが多い。これを「観察」して私たちは、逆を行こうと「方向付け」しました。全体に黒っぽくて、メッセージはたった一言。時間がなくても一言なら書ける。この本はPDCA本のそばに置かれると予想して、「さらばPDCA」というメッセージを入れました。そこにイメージを明確に表す兵士の写真を置きました。これは、わざと違和感を作って目を引く作戦です。こうして制作開始から20分で完成したのがこのPOPです。

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当たり前に「どういうデザインにしたいか」を打ち合わせしていたら間に合いませんでした。そこでまず書店を「観察」し、他のPOPがやっていないことをやる。短い時間で成果を出す、それを可能にするのがOODAループなんです。

――なるほど。たしかにこのケースの場合はOODAループが機能しましたね。

田中:
ただ、すぐにPDCAからOODAに移行しようとしても、簡単に上手く移行できるものではありません。OODAは個人の基礎能力が高くないとできない。個人に求められる裁量が大きいので、その裁量を使えるだけの能力がないと難しいのです。だから、指示待ちの人は向いていません。指示を待たないで「自ら動きたい人」には向いていますね。

――たしかに中小企業では取り入れやすいプロセスではありますが、大企業ですぐに応用するのは難しいのではないかと思います。そのうえで、大企業がOODAを導入したいときにどのような形で取り入れればいいと思いますか?

田中:
大企業の場合、小さなところで導入し、成功事例を作っていくことが大事でしょう。製造の現場であればPDCA重視でいいですが、営業はB to Bであれ、B to Cであれ、対人なので臨機応変さが求められます。その際にマニュアル対応をさせるよりは、OODAループを取り入れて本人たちに任せることで、彼らが自由に仕事をできると思います。また、新規事業もOODAループを取り入れてみるといいかもしれませんね。小さな成功事例を積み重ねていけば、少しずつ定着していくと思います。

――最後に、本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

田中:
まず大企業でいえば経営企画の方たちです。経営企画にはすごく頭の良い人たちが集まっています。そんな将来の幹部候補たちが絵に描いた餅みたいな計画をつくるだけではもったいない。彼らがOODA思考を取り入れることで会社は変われるはずです。

もう一つは中小企業経営者です。彼らは自分で動けるし、動きたいと思っている。また仕事を部下に任せたいと思っています。

この本はあくまでOODAの入門書、出発点にすぎません。私自身、著者として今後もこのテーマで本を出したいと思っています。だから、もし実践したら、成功事例、失敗事例を聞きたいと思っています。それもまた著者としてのOODAですね。

(了)

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