最近、メディアの報道などで目にすることも増えた「空き家」というワード。
「自分には関係のない話」に思えるかもしれないが、親の逝去などにより、あなたが「空き家」を相続するという事態は、いつ起きてもおかしくない。
『空き家は2018年までに手放しなさい』(SBクリエイティブ/刊)の著者である沖有人さんは、不動産コンサルタントとしてこれまでに多数の不動産投資に関わってきた経験にもとづき、「空き家の処理の仕方」「処理すべきタイミング」などについて解説している。
もう誰にとっても他人事ではない「空き家問題」について私たちはどう向き合うべきなのか話を聞いた。
― まずは本書の執筆動機からお聞かせ願えますか。
沖:最近、社会問題化している「空き家問題」に対して、何かしらのソリューションを示すことができればと思い執筆しました。特に、総務省による最新の「住宅・土地統計調査」(2013年度)で、空き家の数が820万戸にものぼることがわかったのは大きなきっかけでしたね。
― 沖さん自身、クライアントから空き家に関する悩みを持ちかけられることはありますか?
沖:あります。本のなかでも紹介しましたが、最近、「実家の空き家をどうすればいいか」という類の質問をいただく機会が増えました。
たとえば、「今、遠く離れた田舎にある実家には誰も住んでいない。定年を迎え、子どもも巣立って、マイホームでさえ持て余している。できれば手放して、夫婦二人で駅近くのマンションに引っ越したいと思っている」というシニア世代からの相談。
定期的に空き家の換気に行けば、自分が幼かったころの記憶が蘇りノスタルジーを感じる。その一方で、このまま実家を手放さずにいれば、固定資産税と都市計画税とをあわせて、毎年およそ30万円もの税金を払い続けなければいけない。こうした状況のなかで「実家を手放すべきかどうか」に頭を悩ませている人は少なくないのです。
― 「実家に愛着があるがゆえに、なかなか手放せない」という話は、誰にでも起こり得る話だと感じます。
沖:冗談のような話ですが、私自身も以前、親から「実家に住んでもらえないか」といわれ、頭を抱えたことがありました(笑)。私にしてみれば、結婚してすでに20年近く経つわけだし、いまさら実家に戻ったところで、自分たちのライフスタイルにフィットするとは思えない。親側の都合で「家をあげる」と言われても困るわけです。
― 日本人の特性なのかは分かりませんが、沖さんの親御さんのように、私たちはつい「いったん手にした家や土地は、後生大事にしなければならない」という考えにとらわれてしまいがちです。
沖:拙著『マンションは10年で買い替えなさい 人口減少時代の新・住宅すごろく』(朝日新聞出版/刊)にも書かせていただいたのですが、私は以前から「人にとっての家は、ヤドカリにとっての貝のようなものだ」と思ってきました。
もう「終の住処」などという考えは捨てたほうがいい。高度経済成長期に比べて、これだけライフスタイルや家族の形も変化しているわけですから、ヤドカリが身体の成長に合わせて貝を着替えるように、人間もその時々のライフステージに合わせて住みかえたほうがいいというのが私の考えです。
このような意識がもっと浸透すれば、新たに家を建てる前にどうすべきかを考える習慣が身につき、結果として空き家に悩む人も減っていくのではと思っています。
― 「住みかえる」ということは、自ずと不動産を「売る」場面も増えてくると思うのですが、「ダメな売り方」の例を教えてください。
沖:地主さんが土地を相続することになって、慌てて売るケースですね。全部が全部とは言いませんが、地主の方のなかには「土地は持っているが、現金は持っていない」という方が少なくありません。
その上、相続が発生すると、その後10か月以内に相続税の申告・納税をしなければならない。四十九日を過ぎる前に不動産取引をするのは縁起でもない等と考えると、実質8か月で納税資金を用意しなければならない。
そういう状況のなかで慌てて不動産を売り、結果として、かなり悪い条件を飲まざるを得なくなるというケースは少なくありません。
― 今、沖さんがお話してくださった例は、地主さんに限らず、これから資産の相続を控えている、あらゆる方にとって他人事ではないように思います。資産を相続して慌てて売ってしまったために「損をする」こと自体も問題ですが、それ以上に、損をしたことで、相続人同士で揉め事が起こってしまうのは避けたいですね。
沖:おっしゃるとおりで、そういった揉め事を避けるためにはひと工夫が必要です。キーワードは納得感。当事者間で不動産を売却するまでのプロセスを共有し、「この値段なら仕方ないよね」とお互いに納得できるような状態へ持っていくことがとても重要です。
詳しい手順は本書に書かせていただきましたが、まずは不動産業者をうまく使って、空き家なり土地なりを購入してくれそうなマンションや戸建ての開発事業者を100社ほど見つけましょう。そして、そこから候補の開発事業者を数社に絞り、あとは我々が運営しているサイト「スタイルランド」のように、購入希望者に入札額を競わせ、それをリアルタイムで見られる仕組みを使いましょう。
従来の不動産取引にそのまま「乗っかって」しまうと、不透明な部分が多すぎます。その結果、よく分からないうちに勝手に売れてしまう。これだと、低い価格で売れてしまったときに「損をした」という感触だけが残り、「なぜ損をしてしまったのか」は一切、見えてきません。すると、「あんな業者じゃなくて、私の知り合いに依頼すべきだった」等と言う人が出始め、ドロ沼にはまっていってしまう。こうした事態を避けるためにも、不動産の売却プロセスの情報を、当事者間でできるだけオープンにし、共有していくことが重要なのです。
― インタビューの前編では、「従来の不動産取引は不透明」という話が出ましたが、沖さんの目から見て、今の不動産業界はどのように映りますか?
沖:「誰が顧客なのか」の意識が曖昧な業界だと思いますね。土地であれば、買い手と売り手のどちらからも、当たり前のように手数料を受け取ってきたという流れがあります。
たとえば、買い手も売り手も「売値1億円でOK」と言ってくれている土地があるとしましょう。この場合、仮に手数料が3%ずつという契約であれば、仲介業者は計6%、すなわち600万円を受け取ることができます。でも、もし売り手の利益を大きくしようとして、1億20000万円にし、買い手にそっぽを向かれたら、3%分、つまり360万円しか受け取れなくなってしまう。それでは困るから「1億円のままにしておこう」となるわけです。
我々はその点が他の業者とは違っていて、「ひとりのお客さんのためだけに」動きます。たとえば、土地を買いたいという人がいれば、その人のためだけに動く。「誰からフィーをもらうのか」がはっきりしています。
― なるほど。ただ、自分も含め、不動産業界に対する知識をほとんど持っていない人間が、沖さんたちのように「信頼できるプロ」を見つけるにはどうすればいいのでしょうか?
沖:結論から言ってしまうと、アメリカの「レッドフィン」という不動産情報サイトのようなものが出てこないと、それは難しいと思います。そして、我々が将来的にやってみたいと思っていることが、まさにそれです。
― 「レッドフィン」とは、どのようなサイトなのでしょうか?
沖:特定の会社にしばられず、ひとりひとりの仲介人単位で、「この人はこのエリアに強い」「この人は相続税の節税に長けています」「この人は難しいローンを引っ張ってきてくれます」、さらには「この人は女性の顧客からウケがいい」など、細かに「どこが強みなのか」の情報が開示されているサイトです。
日本では、お客さんがまず「●●ハウス」といった不動産会社に行って、そこでたまたま出てきた人が担当者としてつくわけですよね。でも、そうではなくて、お客さんが担当者を選べるようにするための仕組みですね。
― なるほど。それは便利な仕組みですね。ところで、これまでは不動産業界の「内部」について話をうかがってきましたが、本書のなかでは、外的環境の変化についても多く触れられています。そのひとつに「空き家対策特別措置法」がありますね。
沖:この法律の施行により、空き家を放置することが許されなくなりました。どういうことかと言いますと、この法律により行政の権限が大幅に強化されたため、倒壊の恐れのある空き家や衛生上著しく有害となる恐れのある空き家、すなわち「特定空き家」に認定された場合、その所有者は撤去や修繕の命令に従わなければならなくなったのです。また税制面でも、土地の固定資産税が最大6倍になることが決まっています。
そして私は、この法律だけでなくいくつかの要因から、「空き家を売るなら、早ければ早いほどいい」と考えています。
― それはなぜですか?
沖:今、日本ではものすごいスピードで少子高齢化が進行しています。その結果、2006年を境に、亡くなる人の数が生まれる人の数を逆転しました。そして、その差はどんどん開いています。
子どもの出生や進学は、マイホームを購入する最大の動機。逆に、人が亡くなれば相続が発生し、空き家が生まれます。加えて、日本では60代以上になると持ち家率が8割を超え、遺産相続の大部分は自宅です。
つまり、今後ますます「マイホームを買いたい人」と「売りたい」人のバランスは崩れ、空き家はどんどん売りづらくなるだろうことが予想されるのです。
― さらに言えば、本書では「2018年までに売るべき」とも書かれています。
沖:もちろん、すでに不動産を相続していれば、という前提ではあるのですが、おっしゃるとおり2018年までに売るのが得策でしょう。
2020年の東京オリンピックに向けて、不動産価格が上がっていくことが予想されますが、オリンピック「直前」に売るのではやや遅い。また、アベノミクスの3本の矢のひとつである「金融緩和」が続くことが予想されるので、2018年としています。
― 最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
沖: 冒頭でお話した「ヤドカリ」の話にもつながりますが、不動産を「背負おう」としすぎないでくださいということをお伝えしたいですね。不動産に対して思い入れを持ちすぎていたり、色々なものを投影しすぎたりしてしまったばかりに判断を鈍らせ、大きな傷を負ってしまうという例を私はこれまでに沢山見てきましたので。不動産については、エモーショナルにではなくロジカルに考える。本書がそのための一助になればうれしいですね。
(了)