エステサロン大手「たかの友梨ビューティクリニック」を経営している「不二ビューティ」の社員が、同社による「違法な残業代減額や制服代の天引きなど」を労働基準監督署にユニオンを通じて申告し、是正を勧告された件は記憶に新しいところ。
一連の流れで特に波紋が大きかったのは、「不二ビューティ」側が、内部通報した社員を全従業員の前で2時間半にもわたり詰問したといわれる件だ。この際、同社社長の髙野友梨氏が言ったとされる「(労基法通りにやれば)潰れるよ、うち。それで困らない?」などという発言はネット上を中心に強い反発を生んだ。
「不二ビューティ」の件はあくまで一例だ。しかし、「ブラック企業」という言葉が定着した今、こうした労使紛争が減ることはなく、各都道府県労働局や労働基準監督署内などに設置されている総合労働相談コーナーへの平成25年度の相談件数は、依然として100万件を超えている。
■「ブラック企業」は増えたのか?
本書の著者で、特定社会保険労務士の望月建吾氏は、こうした労使紛争が減らない背景として「終身雇用制度の崩壊」とともに、「労使間のコミュニケーション不全」を挙げている。
労働関連法に違反するような企業自体は、昔も今も一定数存在していたはずだ。
終身雇用制度が機能していて、長く働き続けることで給与やその他の待遇が上がっていくことが予想できた時代は、若手時代に少々不当な労働を強いられたとしても、労働者は我慢ができた。しかし、「我慢して働けばいつかは報われる」という価値観が崩れた現在、「今もらえるものは今要求する」労働者が増え、これまではトラブルにならなかったことが、トラブルになってしまっているのである。何も「ブラック企業」が増えた訳でも、ゆとり世代だからすぐ訴えるからでもないのだ。
■「人財」「夢と絆」「笑顔」…会社が繰り返す“キラキラワード”は汚物に消臭剤でしかない。
この状況は労働者にとっても、会社にとってもいいはずがなく、企業側は法律を守った上で、労使双方が納得できるような組織づくりが急務だというのはまちがいない。
しかし、望月氏は、企業側が法律やこれまでの労働裁判の判例を踏まえた労務コンプライアンス体制を整備することは当然重要であるが、極端な性悪説の立場で要塞のような就業規則を押しつけたり、労働条件の悪さへの言い訳のように「人財」、「夢と絆」、「笑顔」、「仕事はお金のためじゃない」といった聞こえのいい言葉で従業員をけむに巻くケースを指摘。また、経営者がよく口にしてしまう「労働基準法を守っていたら会社経営はできない。」という言葉も、結局は問題を何ら解決することなく、火に油を注いでいるだけである。これらがかえって従業員の反発を招き、労働紛争が減らない理由の一つとなってしまっているという。
では、労使の摩擦が起きにくい組織は、どのように作っていけばいいのだろうか?
望月氏は本書で、労使間の「双方向」のコミュニケーションの重要性を説き、ワーキンググループ(WG)を通じて双方が対話しながら、納得できる就業規則を作っていく方法を解説している。
従業員は組織に不満を持ちながら働き、会社は彼らに目を光らせて、規則で縛るという組織体制では業績が伸びるはずもない。双方が気持ちよく働ける組織を作るために、本書から学べるものは大きいだろう。
昭和54年、静岡県生まれ。特定社会保険労務士、残業ゼロ将軍®® 。
中央大学文学部卒業後、外資系戦略コンサルティング会社を経て、アイエヌジー生命保険株式会社に入社。平成15年に社会保険労務士試験に合格。平成22 年に望月建吾社会保険労務士事務所/ 株式会社ビルドゥミー・コンサルティングを開業。人材や組織に特化した戦略コンサルタント、外資系大企業の人事部門、そして開業社労士と一貫して組織・人事のスペシャリストとしてのキャリアを歩む。現在は、従業員数万人規模の東証一部上場企業から小さな会社まで、数多くの顧問先企業へのヒトと組織の生産性アップに特化した経営指導にあたる傍ら、これまで200 社余りの就業規則づくり支援、100 社余りの残業ゼロの労務管理™ 支援を手掛ける。また、最近はこれまでの実践経験を生かし、全国の商工会議所・商工会・法人会などでの講演活動、及び雑誌の記事執筆、並びに大学での実務家教員なども数多くさせて頂いている。さらに、N H K 総合テレビ『クローズアップ現代』や『あさイチ』に、企業と二人三脚で長時間労働対策に取り組む専門家として出演するなど、テレビ出演も多数ある。著書として、『会社を劇的に変える!
残業をゼロにする労務管理』( 日本法令 刊) がある。加えて、全国史上最年少支部長候補( 平成24 年11月現在)
として擁立されるなど、「お客様目線」の社労士業界を目指して、後進育成でも精力的に活動している。
■連絡先/ コンサルティング依頼先
望月建吾社会保険労務士事務所/ 株式会社ビルドゥミー・コンサルティング
東京都杉並区荻窪5 丁目1 1 番1 7 号 荻窪第二和光ビル2 階
■電話番号: 0 3 - 5 3 4 7 - 2 3 8 5 ■電子メール: i n f o @ b u i l d m e - c o n s u l t i n g . c o m
h t t p : / / b u i l d m e - c o n s u l t i n g . c o m