1億円売る営業マンが最初にお客さんに聞くこと
経団連が10月30日に発表した、年末ボーナス(賞与・一時金)の一次集計によれば、大手企業(従業員500人以上の245社)の平均額は91万697円で過去最高レベルとなった。世の営業マンたちにとっては、年末商戦を迎えるにあたって朗報といえるだろう。
『なぜあの営業マンは1億円の商品をいともたやすく売るのか』(かんき出版/刊)著者の瀧本真也さんは約25年にわたって住宅営業に携わってきた。本書では、家という高額商品を売るなかで発見した、営業の普遍的な「法則」が解説されている。営業マンとして、お客の心を開かせ、掴み、契約まで持っていくには何がポイントなのかを中心に話をうかがった。
――執筆経緯から教えてください。
瀧本:私は以前、ある住宅フランチャイズのスーパーバイザーとして、新築住宅の営業マン1500名ほどをマネジメントしていました。すると、同じ商品を同じ価格で売っているにもかかわらず「こんなにも差が出るものなのか」と思うほど、ひとによって営業成績に違いが見られました。そこで「売れる営業マンと売れない営業マンは何が違うんだろう?」と疑問に感じたのが出発点です。
そして売れる営業マンはどんな営業活動をしているのか、観察やヒアリングを繰り返すうちに、彼らは本当に流れるように、お客さんと「会話」をしていることが分かりました。また、その会話はある一定の法則にしたがって生まれていることも分かってきたんです。その「法則」を広く色々な方にお伝えしたいと思い、本を書きました。
――その「法則」が、本書に出てくる「8×4=32の法則」でしょうか。
瀧本:そうですね。「8×4=32の法則」は、営業マンがどんな順番でお客にヒアリングし、商談をまとめていけばよいのか、一連の流れをまとめたものです。
営業マンは得てして、様々なテクニックを駆使して売りたがるものですが、買う側は一通りの買い方しか求めていない。
「8」は、営業マンがお客さんに必ず聞かなければならない8つのことです。営業マンはお客から「Why(なぜ)、When(いつまでに)、How money(いくらで)、What(どの会社の商品を)、Where(どこで)、Who(誰が決定権を持って)、Which(ほかに検討しているものは)、How to(見積もり)」といった情報を引き出す必要があります。
「4」はお客さんの購買意欲の変化に4つの段階があることを意味します。具体的には「警戒心をもって近づく」「興味を持ち始める」「感情が高まる」「決断したいが迷う」という順番で変化していきます。
つまり「8×4=32の法則」とは、お客さんから聞きださなければならない8つのことそれぞれについて、4つの心理変化に合わせてヒアリングをしていきましょうということを言っているんです。
――購買意欲の4つの変化のうち最初の段階である警戒心をもっているお客さんに対して、営業マンはどのように「最初の一声」をかければよいのでしょうか。
瀧本:お客さんが「YES」と答えやすいような質問を投げかけることです。たとえば、モデルハウスの展示場に来てくれたお客さんに対しては「いつか、どこかで、お家づくりをお考えですか?」と声をかける。
「いつか」だから「今」でなくていい。「どこか」だから「当社」でなくてもいい。つまりこのように問いかけられると、お客さんは「YES」と答えやすく、また何より安心できるんです。
営業マンは、お客さんから「YES」を引き出し安心させた上で、「なぜ家を建てたいんですか?」と訊けばいい。そうすれば「今はアパートに住んでいるんだけれど、将来的には戸建てに住みたくて…」といった具合に話が深まっていきます。自然と「会話」になっていくんです。
逆に、いきなり「家づくり、お考えですか?」とストレートに訊いてしまうのはご法度。お客さんは「いや、今日はたまたま目の前を通りかかっただけで…」と心理的にブロックしてしまい、話をそこから先へ発展させるのが難しくなってしまうんです。
――そのように「最初の一声」をかけられるようになるには、営業マンは普段からどのようなことを心がけ、トレーニングしておけばよいのでしょうか。
瀧本:「最初の一声」にかぎらず、お客さんとの間でちゃんと「会話」をするために意識してほしいのは、つねに相手目線になって言葉をかけることです。そこで参考にしてほしいのが、私の会社が提供している研修メニューのひとつに「お医者さんごっこ」というロールプレイがあります。二人一組になり、医者役が患者役に問診するというものです。このロールプレイを通して、優れた営業マンが必ず実践している「問診型営業」を体感してもらうことを目的としています。
実際にやってみると分かるのですが、どんな人でも「お医者さん役をしてください」と言われれば、何の苦もなく「今日はどうされましたか?」という「最初の一声」をかけることができる。その後も自然と「その症状は、いつ頃からですか」「どのような痛みですか」「特にどのへんが、どれくらい痛みますか」「まずは、どうしたいですか」といった言葉が出てきます。そして、このように質問を重ねていけば、訊かれるほうは自然と安心し、本心を打ち明けてくれるようになる。そのことを実感していただくために、このロールプレイをしてもらうんです。
ここで重要なのは、営業マンはお客さんの心を開かせるために、特別なことをする必要はないということを理解することです。特別なことではなく、当たり前のことを当たり前に訊く。たったそれだけのことで相手は安心してくれるものなんです。
優秀な営業マンは人格を自由に変えられる
――本書では、お客さんの気持ちになって話を進めるためにも、営業マンは相手の性格のタイプに合わせた接し方をすることが重要だと書かれていますね。
瀧本:ヒアリングをするうちに、優れた営業マンの多くが「お客さんの性格を見分ける能力」を身につけていることが分かってきました。
私たちはそれぞれ「ソーシャルスタイル」と呼ばれる、コミュニケーション上の「クセ」を持っています。そこで、相手がどんなクセを持っているのかを知っていれば、スムーズにコミュニケーションをとれるようになるはずです。
ソーシャルスタイルは4種類あります。自分の気持ちに正直で変化を好み、リスクも取れるタイプの「感覚型」。協調的な態度をとれる一方、あまりリスクは取りたがらない「友好型」。実利主義者で感情より能率や効率を優先する「主導型」。そして、慎重で綿密、体系的な思考をすることができる「理論・分析型」です。
自分と性格的に似ているタイプの人との会話は弾むものなので、「どの商談が盛り上がったか」を振り返るだけでも、自分や相手のタイプの手がかりは得られるでしょう。
――本書でもうひとつ興味深かったのは「クロージングでは別の性格を演じることも必要」と書かれていた点です。これは具体的にどのようなことなのでしょうか。
瀧本:クロージングとは、営業がお客さんとの間に契約関係を結ぶこと。つまり営業活動における「仕上げ」の段階です。そして高額商品であればあるほど、人はこの段階に来て、迷ったり悩んだり不安になったりすることが多い。ここで営業マンが対応を間違えると、契約を取り逃してしまいます。
最近、住宅業界には「決めること」が苦手な友好型のお客さんが来ることが多い。これはおそらく、「消費税が5%から8%へ上がったタイミングでも決めきれずにいたが、今後さらに2%上がるとなるとさすがに…」と重い腰をあげて、家の購入に踏み切ったんでしょう。でも、このように「買う気満々」でいるお客さんでさえ、友好型の営業マンだと押しが弱いため話がいっこうにまとまらない。ところが、営業マンが「主導型」を演じると、あっさり話がまとまることが多いんです。
――でも、人によっては自分と真逆のタイプを演じることは難しいと感じる営業マンも少なくないのではないでしょうか。
瀧本:おっしゃる通りです。したがって、担当者が自分で対応するのが難しければ、上長が同席して替わりに真逆のタイプを演じたり、あるいは適任の営業マンへスイッチしたりといった対応をすればいいでしょう。
――なるほど。クロージングの場面で顕著とはいえ、今のソーシャルスタイルの話は営業のどのような場面にも使えそうですね。
瀧本:はい。その意味では、このくだりを特に読んでもらいたい読者層はマネジメントの立場にある方々ですね。マネージャーは部下に対してこまめに「今のお客さん、性格どうだ?」と声をかけてほしい。部下の性格はマネージャーがいちばんよく分かっているので、「お客さんと合わない」ということであれば、先ほども話したように何らかの策を講じてほしいんです。
チームで戦っていかなければ、目標数値を達成し続けるのは難しい時代になってきていますからね。
――クロージングに関して、本のなかで瀧本さんは「お客さまがしっかりと納得して契約をしたかどうかが重要」とも書かれています。お客さんが本当に納得した上で物を買うために、営業マンは何をすべきでしょうか。
瀧本:お客さん自身が「これを買ったら、いちばん喜ぶのは誰か」ということを、できるだけ早い段階でイメージできるように話を持っていくことが重要だと思います。そうすることで、お客さんは「買ったものをどのように使っていくのか」のイメージを描くことができる。このイメージが固まれば固まるほど、お客さんの納得感は増すと思います。逆にいえば、このイメージが固まっていないと少しでも感じられるのなら、さらに具体的な説明をする必要があるでしょう。
人間、「誰かに納得させられたもの」だと、あとで必ず「この選択は間違っていたのでは…」と不安がフラッシュバックしてくるものです。なので、最後の最後はお客さん自身にしっかりと考えてもらい、イメージを固めてもらって、自分で納得のいく結論を出してもらうことが重要だと思います。
優秀な営業マンほど「これで最後になります。いかがされますか」と言ったあとは、5分でも30分でも、じっと黙ってお客さんの決断を待つことができる。その意味では、いかにして「お客さんが納得する場」をどう作るのかが営業の仕事とも言えるかもしれません。
――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
瀧本:まだまだ「話し上手=腕の良い営業マン」というイメージが一般的だと思います。でも、これからの営業マンにとっては「聞き上手であること」がとても重要になってくる。ですから、自分の営業スタイルに悩んでいるという方は、「自分は聞けているかな」と疑問を持ちながらこの本を読むことで、スランプを脱するためのヒントを得られるのではないかと思います。
(了)