日本の「国の借金」がついに1000兆円を超え、国民1人あたり800万円近い借金を背負っている計算になる、という話を聞いたことがある人は多いはずだ。
日本の債務超過体質の改善に歯止めがかからず、やがて日本は財政破綻する、と我々の不安を煽るような記事でよく使われるこの数字だが、実際に日本経済が危機的状況に陥るかどうかという点に関しては諸説あり、素人にはなかなかわからない。ただ、いつか本当に日本が財政破綻、あるいは債務不履行(デフォルト)したら、私たちの生活にどのような変化が起こるのかということについては、過去に世界で起きた様々な事例から、ある程度予想は可能だろう。
“ハイパーメディアクリエイター”という肩書きで知られる高城剛氏の著書である本書は、そんな観点で読むと興味深い。
そのマルチな活動ぶりから、日本では「タレント」として見られることもある高城氏だが、実は若い頃から取材等で海外を飛び回り、経済危機に陥ったり、デフォルトした国々を見てきた。
たとえば、まだ経済危機として記憶に新しいのは、なんといっても「リーマン・ショック」だろう。その余波がヨーロッパを襲ったのが2009年。「ユーロ危機」が起こり、スペインでは不動産バブルがはじけ、ギリシャはデフォルト寸前まで追い詰められた。
当時、ギリシャの首都アテネを取材した高城氏の第一印象は「いったい、この街はどうなってしまったんだ」というものだったという
経済危機というと、まず想像するのが銀行のサービスが止まるというものだ。窓口が開かなかったり、ATMが使えなかったりというところまでは誰もが想像できるだろう。
しかし、国家財政が破綻した影響はこんなものではない。
公務員に給料を払えなくなるため、公共サービスは止まる。ギリシャの例でいえばゴミの回収はストップし、地下鉄も動かない。観光の目玉であるパルテノン神殿も閉鎖されたままだったという。先進国であっても、こんなことが起こりうるのである。
インターネットはいうまでもないが、物流においても金融システムにおいても、全世界がつながってしまっている今、「世界同時不況」が発生する可能性は常に高いと高城氏はいう。技術発展によって世界各国の交易がたやすくなった以上、どこで起きたどんな経済危機が自国に波及するかわからないというわけだ。
唯一いえることは、どんな経済危機であれ近づく時は静かで、ある日突然表面化すること。それは、高城氏が本書で取り上げている数々の経済危機。財政破綻の事例が物語っている。
日本もいつかそんな事態に襲われるかどうかはわからない。しかし、これらの危機がどのように近づき、我々の生活の直撃するのかを知っておくことで、万が一の備えをする助けにはなるだろう。
1964年8月18日東京都柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。2008年より、拠点を欧州へ移し活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。