だれかに話したくなる本の話

60年代の連続殺人事件を手がかりに社会を分析した名論考―【書評】『まなざしの地獄』

本書は1968年から69年にかけて日本を震撼させて連続射殺事件を手がかりに、当時の日本社会の実態と、都市の非条理を浮き彫りにし、個人―特に青年たちの「生」の実像的意味を分析した論考書である。

 時は行動経済成長期。「金の卵」として東京にやってきた青年たちにとって、上京は「自己解放」をも意味する。そして、「N・N」も普通の青年たちと同じように友人たちと集団就職で上京してきた青年の1人であった。

 そんな「N・N」たち青年を、東京は迎えてくれなかった。東京が歓迎していたのは青年たちではなく、「新鮮な労働力」であった。この頃の青年たちの転職率が高く、その多くのは「ささいな理由」で辞めていく。この「理由のなさこそ」が、都会における彼らの生活の社会的存在感の希薄を暗示している。

 見田宗介氏は、N・Nは「東京拘置所から捉われるずっと前に、都市の他者たちのまなざしの囚人であった」という。それは、「ある表面性において、ひとりの人間の総体を規定し、予科するまなざし」であるという。
 そのまなざしが彼自身を限定し、人間が結ぼうとする関係をその都度、偏曲させてしまうのである。

 日本を代表する社会学者、見田宗介氏の名論考がついに復刊した。本書は今年6月に発生した秋葉原の無差別殺傷事件やかつての酒鬼薔薇聖斗の事件を考える上で、重大な示唆を与えてくれるだろう。
(新刊JPニュース編集部)

◆『まなざしの地獄―尽きなく生きることの社会学』
著者:見田宗介
出版社:河出書房新社
定価(税込み):1260円
発売中