だれかに話したくなる本の話

「アナロジー思考」――新しいアイデアは「遠くから借りてくる」?―細谷功さん

の記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 これまでの日本の繁栄を築いた一つの「成功パターン」であった、欧米の先進事例や製品をブラッシュアップしてより「安く」「速く」作るというモデルは徐々に新興国に侵食され、日本独自のアイデアがこれまで以上に必要になってきています。

 ここではそんな時代に必要な、新しい発想を生み出すヒントについて解説します。「新しい発想というのもどこかにあったものの組み合わせでしかない」とはよく言われることですが、どうすれば「どこかにあるものを借りてくる」ことができるのでしょうか?アナロジー思考というのは、その問いに対する一つの答えです。

■アナロジー思考とは、「高度なパクリ」のこと

 アナロジーとは日本語では「類推」のことです。つまり「類似しているものから推し量る」ということです。つまりある意味でこれも「真似」の一種ということになります。身近な例でいけば、「たとえ話」というのもアナロジー思考の典型的な応用例ということになります。人間は新しい経験をするときにでも無意識のうちに昔の経験から類推して物事を考えます。これは誰しも普段から実践しているものの考え方ですが、新しいアイデアを生み出すための発想にも応用することができます。ではこれは単なる真似、いわゆる「パクリ」とはどこが違うのでしょうか?

 アナロジー思考で重要なのは、「遠くから借りてくる」ということです。誰でも気付くような「近くから借りてくる」のでは価値がありません。そのために必要なのは、普通の人では簡単に気付かないような思わぬ類似点を見つけることが原点になります。例えば全く縁のなさそうな他業界からとか、ビジネス以外の伝統芸能やスポーツ、あるいは歴史上の出来事や趣味の世界等、何でも「借りる」対象になりえます。

 実は何かと何かが「似ている」というのもさまざまなレベルやタイプがあります。ここで区別する必要があるのは「表面的類似」と「構造的類似」の違いです。これらはデジタルに2つに分かれるものではありませんが、「表面的類似」というのは文字通り見た目が似ているもので、「構造的類似」というのは、直接的に個別の対象物が似ていなくても「関係性」が似ているということです。具象と抽象のレベルの違いとも言えます。

■業界内でなく他業界から「借りてくる」

 わたしたちが普段考える「類似業界」というのは、同じような商品やサービスを扱っている企業のグループを指します。「食品業界」とか「ホテル業界」といった具合です。「競合」として意識するのもこの意味での「同業他社」であり、新しい商品やサービスを考えるときに真っ先に参考にするのがこうした競合のアイデアということになるでしょう。

 ただそれだけでは単なる人まねになってしまうばかりでなく、下手に競合のアイデアをそのまま持ってくれば訴えられるということにもなりかねないでしょう。これは「表面的類似」の世界だからです。

 したがって、アナロジーの活用には構造的に似ている遠くの他業界に目をつけることが重要です。例として、参考になる視点をいくつか挙げておきます。

 ・「新規顧客(一見さん)」中心か「リピート顧客」中心か

 ・「見込み生産」(作ってから売る)か「個別受注生産」(売ってから作る)か

 ・ビジネスプロセスの中での成功要因がどこにあるか?(営業か開発かアフターサービスか)

 ・収益「構造」が「単品売り」中心か「継続的な保守サービス」中心か

 ・競合関係が限られた少数プレーヤー間か、不特定多数のプレーヤー間か

(このほかにもいくらでも考えられます)

 こうした視点で違う業界を見てみると、思わぬ共通点が見つかってその世界のアイデアを借りてくることも可能となるかもしれません。卑近な例で言えば、1つ目の「一見さんか常連さんか」の視点で考えれば「1人(社)目のお客様をつかまえる」のと「1度入ったお客様に2度来てもらう」のとでは明らかに成功要因が異なり、逆にその成功要因は商品やサービスが異なっても共通性があるからです。さらに個人の世界にまで広げれば、「友達が多い人」と「長く付き合いたい人」が必ずしも一致しないこともアナロジーとして使えるかも知れません。

■アナロジー思考活用のために

 日本の伝統的な「言葉遊び」で昨年ブームにもなった「謎かけ」ですが、これも「全く違う2つの世界の共通点を見つけて結び付ける」という観点からはアナロジー思考と「構造的に類似」の発想といえるので、思考トレーニングとしても役に立ちます。ただし異なっているのは、謎かけの場合の「共通点」というのは、「単なる言葉の音の共通性」、つまり「表面的類似」であることがほとんどということです。

 アナロジー思考を活用するためには、必要以上に個別の事象を特殊視しないことが重要です。ついつい我々は「自分のいる業界は特殊だから」とか、「自分の立場は○○さんとは違うから」という思考に陥ってしまい、経験の積み重ねの少ない人や視野の狭い人ほどこうした落とし穴にはまり勝ちです。全く違う世界での成功事例を見聞きした場合に、まずは「どこかに自分の世界との共通点はないか?」と考えてみることによってアナロジーの思考回路が起動します。それは「心の目」をよく開かなければ気付くことができないのです。

 最後にアナロジー思考の「使用上の注意」を一言加えておきます。アナロジーというのは、論理的な推論ではありません。つまりよくも悪くも「話を飛躍させる」ことが特徴だということです。したがって、うまく使えば普通では思いもつかないような発想につながる反面で、使い方を誤ると「論理の飛躍」にもなりかねないので注意が必要です。

 そのためには、つなげようとする2つの世界の共通点と相違点を的確に見極めることです。「なるべく共通点を探す」という話をしましたが、逆に「共通性を過大評価」してしまうと、例えば「人間だろうが動物だろうが地球上で生きていることに変わりはないんだから同じものが食べられるはずだ」という「暴論」にも発展しかねないのです。

 読者の皆さんも、謎賭けのような遊び感覚で「実は似ている」業界を探してみてはいかがでしょうか。

(記事提供:ITメディアエグゼクティブ

■著者プロフィール:細谷功さん
ビジネスコンサルタント 株式会社クニエ マネージングディレクター
東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。製品開発・マーケティング・営業・生産などの分野で戦略策定、業務改革計画・実行支援等のコンサルティングを手がける。
著書に『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)、『「Why型思考」が仕事を変える』(PHPビジネス新書)、『象の鼻としっぽ』(梧桐書院)等がある。