だれかに話したくなる本の話

メタボもうつも、食べて防ぐ――タフなビジネスマンの食事の秘訣

の記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 ビジネス書を栄養士が書く意味は、すぐには理解されにくい。しかし、「成功する人は生姜焼き定食が好きだ」は、仕事の効率を上げるための食べ方の本であり、第一線で活躍し続けるための食と健康の知識がつまった一冊だ。

 以前よりも疲れやすくなった、ぐっすり眠れない、気持ちがうまく切りかえられなくなった……そんな日常のささいな兆候が、ビジネスマンとしてのキャリアを阻む要因となることがある。「がんばってね」と差し入れた甘いものが、かえって部下や社員の仕事の効率を落とすこともある。健康情報が氾濫している今、印象的なものだけが頭の中に残り、それを寄せ集めた結果として、“健康”のために“実は不健康”な選択をしている人がとても多い。基本に戻ることが大事なのは、食も同じだ。

 本のタイトルからは、なにか突拍子もないことが書いていそうに見えるだろう。もちろん、生姜焼き定食を食べたから成功するわけではない。ただ、これまでに8000通り以上の食事記録を見てきたことから、どんなに忙しくても食事をおざなりにしない人、どんなときでも食欲がある人、体調や気分に合わせて身体が欲するものが分かる人は、社会においてのサバイバル能力も高く、出世の階段を上る傾向が強いといえる。

 時間がないからといってランチを抜く人よりも、しっかり休憩をとって定食を食べている人の方が大体において精力的。さらには、デスクで食べ物片手に残業している人よりも、サッサと仕事を切り上げて飲みに出てしまう人の方がなぜか出世していたりする。もちろん、要領の良さもあるかもしれない。しかし、食べる時間を確保しているということは、脳へのエネルギーを確実に確保していることになるのだ。仕事がハードなときこそ、食をおろそかにしてはいけない。

 心療内科クリニック併設の研究所で、心にトラブルを抱えるクライアントに食事のアドバイスをするようになって8年が経つ。その間、いわゆる精神疾患の患者数は飛躍的に伸び、厚生労働省が発表した平成20年の統計では323万人を超えた。その急激な増加の中で、うつ病を抱えた社員の存在は、企業内で多岐に渡る課題を生み、さまざまな取り組みが行われるようになった。うつはもう、個人の問題ではなく、企業や社会の問題になった。

 同時に社会的問題となっているのはメタボだろう。一般的に、心の問題と身体の問題は分けて考えられるが、心は脳が映し出す映像でもあり、脳は身体の一部、臓器である。メタボになる原因は、食生活に大きく起因するはずだ。同じ食べものを原料としているのに、身体が不健康、でも脳と心は健康、だなんてうまい具合にはいかない。メタボになりやすい食生活ということは、自然と心にもトラブルを抱えやすくなる。

 そのような背景の中、近年「メタボとうつは食べて防ぐ」というテーマで、講演を頼まれる機会が増えた。そうして、クリニックの外で、メンタル面がタフな経営者の食事記録を見るようになって驚いたのは、心にトラブルを抱えているクライアントとの食事内容の違いだ。食の重要性は、美容を気にする女性に限った話ではなかった。ビジネスマンにとっては、運命の大きな分かれ道になるのだと痛感するようになった。

 まず、タフなクライアントの食事記録を見てみると、少々食べ過ぎな傾向はあるものの、目立った栄養の不足がない。特に、良質なタンパク質をきちんと取っているのが印象的だった。主にタンパク源となるものといえば、魚・卵・肉・豆だが、良質なタンパク質とは“できる限り原形に近いもの”。焼き肉や刺身のように、何が原料かが一目で分かるものがいいのだ。

 一方、心にトラブルを抱えるクライアントの食事記録を見てみると原料のすべてが判断しにくいパターンでタンパク質を取っていることが多い。朝サンドイッチ、昼ハンバーガー……となれば、添加物が入ったハムやソーセージなどの加工肉を取り、ひき肉の形状になったものは知らずに脂肪分を多く取っていたりする。原形から離れるほどに、メリットよりもデメリットが増える。

■タンパク質量はiPhone3つ分

 健康になるために積極的に食べるのは野菜だ、という概念が浸透している。それは事実だ。しかし、身体を作る原料となるのはタンパク質だ。それが良質なものか、そうでないか、取ってさえもいないか……にもっと目を向ける必要がある。

 1日に取るべき目安となるタンパク質量はiPhoneの大きさ3つ分程度。あなたはどのくらい取っているだろうか?夜は飲み中心だから朝食は抜く、もしくはトースト1枚にコーヒーのみ。昼はダイエットでそばだけ……という生活では、良質なタンパク質はあっという間に不足してしまう。

 「食事はお腹にたまればいい」という発想で食費への投資が減り、おにぎりとカップラーメンで済ます若い世代も増えている。しかし、それでは「最近の若い者は覇気がない」と言われてしまうのも仕方ないのだ。

 なぜなら、タンパク質の構成成分であるトリプトファンは、気持ちをフラットにし、前向き思考のサポートをしてくれるホルモン・セロトニンの原料となるからだ。必須アミノ酸は、食べ物からしか取ることができない。なので、食生活がおろそかで、純粋に“やる気の材料不足”の人を「やる気がない」などと怒ってはいけない。ランチに定食屋に連れていってあげることの方がずっと効果的だ。

 先日、経営者の方から「うちの会社はうつ病が多いから、産業カウンセラーも産業医もつけているが、もしも食事が大事ならチェックした方がいいのか?」と尋ねられた。答えはもちろん「できるのであればチェックした方がいい」だ。せっかく休んでいても、必要な材料を身体に取り入れていなければ、根本からの改善が難しくなる。想像してみてほしい。うつで休職中にお給料が平常と同額にはなりにくい。ましてや、退職、無職となって収入が減ったとき、まず一番に抑えるのは食費ではないだろうか。安価でお腹が満たされるもの。中には良いものがあるだろう。しかし、それだけで栄養は満たされない。

 一方で、どんなに食生活に気を使っていても、ストレスが免疫力を下げて病気になることもある。毎日お酒を飲み、煙草を吸い、食べたいものを食べ、いつも豪快でよく笑うクライアントの血液検査がオールAだったりすると、ストレスが免疫力に与える影響を感じざるを得ない。

 しかし、世の中ストレス耐性が強い人ばかりではない。そんなときには、ストレスへの抵抗力を高めてくれるビタミンCを意識するといいだろう。ただし、ビタミンCは熱に弱く時間の経過とともに減少するという性質があるので、サプリやパックに入った野菜ジュースよりも、生の野菜や果物を取ることを薦めている。

 いざ、心にトラブルを抱えたとき、カウンセリングを受ける時間は長くても1時間。しかも、毎日のことではない。しかし、食べることは毎日のことだ。そして、その食べ物によって心身が機能する時間は365日24時間、人生の長さと同じだけある。それだけに、食べ方ひとつで変わることは本当に多い。

 努力している人が結果を出せるまで働き続けられるように。自身のキャリアを積み重ねられるように。あなたの基盤を強固にするために、本書を参考にしてもらえたらそんなにも嬉しいことはない。

(記事提供:ITメディアエグゼクティブ

著者プロフィール:笠井奈津子さん
聖心女子大学文学部哲学科卒業後、香川栄養専門学校にて栄養士免許取得。食を通じた心と体のケアの専門家として、都内心療内科クリニック併設の研究所での食事カウンセリングやセミナーなど、これまでに8000通り以上の食事記録をみてきた。著書には15万部を超えた「甘い物は脳に悪い」(幻冬舎)や「成功する人は生姜焼き定食が好きだ」(晋遊舎)など。ダイヤモンド・オンラインで「男を上げる食事塾」を連載中。

●笠井奈津子さん健康セミナー
http://www.klproject.com/profile/natsuko_kasai