だれかに話したくなる本の話

「夏の100選」はどうやって選んでいる? 「新潮文庫の100冊」の舞台裏を聞く

夏になると必ず書店の文庫の平台を占領するのが「夏の100選」だ。各出版社が、それぞれが出版している文庫本の中から文庫を選びフェアを行うという、まさに夏の風物詩である。しかし、この100冊、どのようにして選ばれているのか知っているだろうか。
 夏が終わり、「燈火親しむべし」という言葉がぴったりなこの時期、「夏を振り返る」という名目で新刊JPニュース編集部はさっそく「夏の100選」の元祖といわれる新潮社に取材を敢行。新潮文庫編集部副部長・佐々木勉さんにその舞台裏を聞いた。

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 新潮社が毎年夏に行う「新潮文庫の100冊」は1976年から始まっており、33年間の歴史がある。フェアの対象期間は6月28日から8月28日までの2ヶ月間。新潮社から刊行されている文庫の文芸作品から約100冊を選定し、これまで新旧作問わず、さまざまな作品がそのラインナップを飾ってきた。
 では、何故「夏」なのか。読書と言えば、「読書の秋」というように秋のイメージがあるが、「夏」の100選なのだろうか。その問いに、佐々木さんは以下のように語る。

「夏休みがあり比較的読書にあてる時間がある中学生や高校生を、フェアのターゲットにしているからです。たくさんの名作が文庫となっていて、比較的安く買うことができます。だから、この夏という時期に名作に出会って欲しいと思っています」

 では、どのようにして100冊を選んでいるのか。

「単純に読んで面白かったと思える本、または感動した、ためになったなどの文芸的体験ができる本を中心に選んでいます。基本的に読書初心者を想定しているので、読書上級者でないとその作品の深いところが読み取れないような作品は入れません。読書嫌いになってしまったら悲しいですから」

 毎年、本の入れ替えはどのくらいあるのか。

「だいたい全体の20%から30%のタイトルが入れ替わります。もちろん、その中で、33年間採用され続けてきた作品もあります。毎年1月に、前年度の反省会をもって、そこから新しく選定本を考えます。
傾向としては、外国文学なんかは入れ替わりが激しいですね。33年間ずっと100冊に選ばれていたアルベール・カミュの『異邦人』なんかも、危うい立場にいます。私としては、100冊の中でも是非読んで欲しい作品の1つなんですけどね」

 100冊の中で、特に人気が高い作品は?

「毎年安定して読まれているのは夏目漱石や太宰治、三島由紀夫といったところです。作品でいうと、『こころ』や『人間失格』は必ずトップ5に入って来ますね」

 今年の「新潮文庫の100冊」を振り返ってどうだったか。

「特徴としては、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』が売れたということがあげられます。58万部だったかな。映画化の影響もあるんでしょうけれど、おそらくは中高生の間の口コミで評判が広がり、読んでみたという人が多いのだと思います」

 今年のフェアの目玉の1つとして、4作品限定で特製ブックカバーを行っていたが。

「そうです。非常に目立つ、デザイン性の高いカバーを4作品限定で行いました。今、他社さんでもカバーをアニメのイラストにしたり芸能人の方を使ったりしていますが、軒並み売り上げがあがっています。
これは、おそらく普段小説に興味を示さない人がそのデザインに魅かれて手に取ったということでしょう。つまり、文庫マーケットの外側の人たちを文庫マーケット内に引き込んだということです。文庫マーケットの中にいる読者を出版社同士で取り合うより、新しい人を引き込むほうが業界全体の活性化につながります」

 他にも、ウェブを使ってのプロモーションや「Yonda?エコバッグ」のプレゼントキャンペーンなどさまざまな方法で読者の心をつかむ努力をしているという。
 また、100冊を見渡してみると、難解でドロドロした内容の作品はほとんどない。夏の100選は読書を好きになってもらうためのきっかけなのだ。ちなみに、佐々木さん曰く「エッチな作品も入っていますよ。それも数点」とのこと。「中高生だし、そういうことに興味が出てくる年齢だから必要じゃないか、と」と佐々木さん。気になった人は書店へ行って探してみて欲しい。
 学生がターゲットとはいえ、大人が読んでも十分楽しめる名作ぞろいの「新潮文庫の100冊」。来年はどんな本が選定されるのか楽しみだ。

(取材・執筆/川口絵里子)