だれかに話したくなる本の話

なぜ私だけが…May J.があの不可解な「Let It Go」バッシングの渦中に思っていたこと

まさかディズニーソングで叩かれるなんて、思いも寄らなかった」――シンガーのMay J.は、デビュー10周年を記念し2016年3月に出版された初の語り下ろしライフストーリー・ブック『私のものじゃない、私の歌』(TAC出版刊)のなかで、“あの時期”を振り返ってこう述べている

◆「カバーの女王」になるまで

2006年、洋楽アプローチ色の強いR&BシンガーとしてCDデビューしたMay J.。

デビューから数年間は主にクラブシーンに訴求する活動をしていたが、2012年から出演したバラエティ番組『関ジャニの仕分け∞』(テレビ朝日)の“カラオケ得点対決コーナー”で26連勝し話題になったことをきっかけに、カバーアルバムを複数枚リリース。これらカバー作品がヒットし、世間的には「カバーの女王」のイメージが広く浸透した。

語り下ろし本『私のものじゃない、私の歌』では、歌うことが大好きだった幼少期から、歌手へと動き出した14歳、そしてデビューからこれまでのMay J.(本名:橋本芽生)の半生が彼女本人の口によって赤裸々に語られている。

音楽業界のここ10年の歴史や裏側が垣間見られる点も興味深い本書。そのなかで特に印象的なのは、やはり2014年に『Let It Go〜ありのままで〜』が社会現象を巻き起こすなかで彼女が置かれた状況を振り返った部分だ。

◆同じものを愛しているのに…

言わずと知れた『Let It Go』。大ヒット映画『アナと雪の女王』の主題歌であるこの曲には、劇中歌として女優の松たか子が歌ったバージョンとエンドソングとしてMay J.が歌ったバージョンのふたつがあった。このふたつは、アレンジも歌詞も違えば、求められる役割も違う。

May J.が歌うエンドソングとしての『Let It Go』は、プロモーションのためにテレビなどで歌うという役割をはじめから付与されており、May J.はその使命を全うしたに過ぎなかった。

しかし、劇中歌を歌った松たか子にはその役割はなく、メディアでは一切この曲を歌わなかったためにどんどんと神格化されていき、結果May J.には、「テレビにしゃしゃり出て“レリゴー”を歌いまくっている」という悪いイメージがついてしまったのだ。

その背景には、当時May J.がカバー作品を多くリリースしていたことも関係している。「May J.、またカバー?」「カバーばっかでムカつく」といった批判がネット上を中心に一気に沸き、さらに出演したテレビ番組での発言が切り取られて広く伝わったことなども手伝って、彼女はすっかり世間のバッシング対象となってしまったのである。

彼女は本書のなかで、当時を振り返ってこう話している。

====(以下、『私のものじゃない、私の歌』220ページより引用)
まさかディズニーソングで批判が出るとは思ってもいなかった。ディズニーって子どもも大人も大好きなもので、作品自体も誰か個人のものではなくて、“みんなのもの”っていう感覚があるじゃないですか。なのに「便乗している」「調子に乗っている」って、私がピンポイントで批判されていたので「え、そこなの?」って。みんなが気に入らないのは自分なのかって、予想もしていなかった反応だったので…うーん…やっぱり、びっくりしたしショックでした。
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さらに、このようにも吐露している。

====(以下、同221ページより引用)
バッシングしている人たちも私も、みんな“アナ雪”と「Let It Go」が好きで、同じものを愛しているのに、なんでそこで私だけ嫌われてしまうんだろうって、ツラかったのはやっぱりそこですね。好きなことで叩かれてしまうってことが一番、ツラかった。
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このような思いのなか、当時のMay J.は自身の性格上、周囲に弱音を吐くことができず、また何か言えばすぐにバッシングの火をつけてしまうために“優等生”な発言をするしかなく、八方ふさがりだったという。ついには、テレビで歌う際、歌うことで投稿されるであろう批判のツイートが吹き出しのように頭に浮かぶほどになってしまったそうだ。

◆社会現象の副作用だったのか?

いったい、あの当時のMay J.へのバッシングの風潮は何だったのだろうか?

本人も本書のなかで、“アナ雪”のブームが終わるとともにバッシングも過ぎ去ったと語っているが、社会現象の副作用のひとつとみても、ただ主題歌を歌っていただけのMay J.ひとりが大きなバッシングの矛先となってしまったことの異常性は、客観的に振り返られる現在になってなおさら不可解である。

そんなバッシングを経て、いまMay J.は『Let It Go』に対しどんな思いを抱いているのか。そして、カバーをする際にどんな気持ちや態度で臨んでいるのか。『私のものじゃない、私の歌』には、その答えが詰まっている。

彼女がいま、演歌歌手に憧憬している理由。これも非常に興味深い。

(新刊JP編集部)