だれかに話したくなる本の話

舞台は「神社のお祭り」 ショートショートの旗手が生み出す珠玉の20編

短編小説よりもさらに短く、1話10ページ前後で完結する「ショートショート」という小説のジャンルがある。ごく短い文章の中で、話を展開させてオチをつけるため、小説家の力量が試される。 この「ショートショート」で現在注目を集めているのが田丸雅智氏だ。

「海酒」が吉岡建監督、ピースの又吉直樹主演で映画化され、今年5月のカンヌ国際映画祭で初公開されるなど、気鋭の作家として名を広めている田丸氏。その新作『ショートショート千夜一夜』(小学館刊)が出版された。
 

■妖刀「バベルの刀」で口の悪い上司を一刀。しかし…?

 
本書では、欲しいと思ったものが出てくる「ヒモくじ屋」、人魚の稚魚をすくうことができる「人魚すくい」、人間の肌の手入れのように革を育てる「皮財布」など、多魔坂神社の祭りを舞台に、全20編の珠玉のショートストーリーを掲載している。
では、20話の短編の中から「バベルの刀」のあらすじを紹介しよう。

「バベルの刀」は、多魔坂神社の蚤の市を訪れた「おれ」が不思議な刀を揃えている骨董屋で妖刀と出会う物語だ。
物珍しさに惹かれて店を訪れた「おれ」は、いかにも古そうで漂う妖気が見えてきそうな刀に釘づけに。それは妖刀、バベルの刀。絵画でよく見るバベルの塔を縦に伸ばしたような形をしていて、螺旋になった刃はまるで煉瓦でできているみたいに赤茶けていた。

この刀で斬られた者は、他者との意思疎通が困難になってしまう。何をしゃべっているのかよくわからない人間は、この妖刀の手にかかっている可能性が高いという。
つまり、その力を逆手に取り、口が悪く嫌味なことばかり言う人間を斬れば、何を言われても雑音を聞いているのと同じになる。嫌味がまったく気にならなくなるのだ。

職場の嫌味で口の悪い部長の顔が頭に浮かんだ「おれ」は、給料半年分ほどの金額を払い、バベルの刀を購入する。そして、会社からの帰り道を狙って部長の背中を一刀。部長からの嫌味によるストレスは解消するも、別の問題が起きてしまうのだった…。
 

■ショートショートならでは味わいを

 
「おれ」に一体どんな問題が起きてしまったのか? このオチは実際に本を開いて読んでほしい。もちろん、他の掌編も読みごたえがあり、ショートショートならではテンポの良さから、「小説は長くて読み切れない」という人でもあっという間に読めてしまえるだろう。

多魔坂神社の祭りや蚤の市を舞台に、そこで起こる物語を描いた本書。短い物語の中で、どんな話の落とし方をしてくるのか。たった5分で読める物語で、幻想的で不思議な世界を楽しむことができる。

新たな物語の楽しみ方と味わい方を教えてくれる一冊だ。

(新刊JP編集部)

ショートショート千夜一夜

ショートショート千夜一夜

今話題のショートショート作家・田丸雅智が紡ぐ、幻想的なショートストーリー集。

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