だれかに話したくなる本の話

原価率50%の「288円ランチ」 ある辣腕経営者の型破りすぎる繁盛法

値段はウソをつかない。

思わずSNSに投稿したくなるほど絶品な高級料理を口にするたび、あるいは激安チェーンで「安かろう悪かろう」なメニューを目の当たりにするたび、この言葉を痛感することはないだろうか。

だが、なかには「値段がウソをつく」ケースもある。 そう思わされるのが、『ゼロポイント』(秀和システム刊)の著者、天野雅博さんが経営する定食酒場食堂による「288円ランチ」だ。

原価率30%が常識とされる飲食業界にあって、原材料にこだわり、原価率50%で提供しているというこのランチ。天野さんはなぜこのようなスタイルでの運営を続けているのか、お話をうかがった。

■飲食業界の常識に挑戦 「288円」なのに「安かろう悪かろう」に陥らない理由

――今回、『ゼロポイント』を読ませていただき、最も衝撃的だったのは、「288円ランチ」のくだりでした。この商売を立ち上げる前は、周囲からかなり反対の声があったようですね。

天野:ほとんどの人が反対しました。でも、まったく揺るがなかった。なぜなら、僕にはしっかりとした自分の軸があるからです。

――自分の軸。本書のキーワード、「ゼロポイント」につながるお話ですね。

天野:そのとおりです。自分の行動に自分で責任をもつ。この覚悟さえできていれば、「失敗したらどうしよう」なんて弱気な考えは浮かばなくなります。

この本に何度も出てくる「ゼロポイント」とは、いわば出発点のこと。「どうありたいか」を真摯に突きつめていけば、自分に合った生き方や、大切にしたい軸が見えてくる。

それらのものが見えてくれば、「自分の生き方を貫くには、どんな立ち位置で、どんな行動を起こせばいいのか」を自然と考えられるようになる。結果、他人に振り回されることがなくなるんです。

これらの思考プロセスを全部ひっくるめて、「ゼロポイント」という言い方をしています。誰でも意識しさえすれば習慣化できるものなので、自分の決断になかなか自信を持てなかったり、迷いがちな人には、ぜひこの言葉を意識してもらいたいですね。

――いま「覚悟」という言葉が出ましたが、ホームページもパンフレットも一切用意していない、お昼のメニュー日替わりのみ等といった潔さは、覚悟のあらわれなのかなと感じます。

天野:うちのお店は、「過剰サービス一切おことわり」。お昼どきに来たお客さんから「日替わり以外のメニューはないの?」といわれても、「日替わりしかないよ。それが不満なら出ていって」と平気でいう。

夜なんて従業員の人手が足りないことがほとんどだから、「ビールのグラスはここで、サーバーはあそこに置いてあるから、場所おぼえておいて。お替り欲しくなったら、自分でついで」ともいったりする。

数えるほどですが、うちのお店のルールに従ってくれないお客さんには「もう来ないで」と追い出したこともあります。そういうお客さんほど、数日後にやってきて、「あのときはすみませんでした、入れてください」というのですが(笑)。

飲食業界の常識からすれば、かなり非常識なことをやっているのかもしれません。でも、リピーター率9割で、連日大繁盛しています。

――実際のメニューを見てみると、お金をかけるべきところには惜しみなくかけていることも伝わってきます。288円ランチの話を聞いて、「安かろう悪かろう」なメニューを思い浮かべる人は少なくないと思うのですが。

天野:ランチのメニューは原価率50%でやっています。これは業界平均からいって、かなり高く、運営しているほうとしてはかなりギリギリな状態です。

原価率がこんなにも高くなるのは、素材にこだわっているから。たとえば調味料なんて、醤油はノンアルコールのもので1リットル800円、塩もヒマラヤ岩塩で750グラム1000円という、かなり高価な銘柄を使っています。

――なぜ、材料にこだわろうと思ったのですか。

天野:まず、自分の子どもに食べさせられないものは、お客さんにも食べさせられないと思ったからです。「安心安全なものを」と思ったら、こういう素材を使わざるをえない。

もっといえば、なぜ食堂を始めたのかという話にもかかわってきますね。「あと50年は続く商売って何だろう?」というところから考えていったら、食堂、それも半径1~2km圏内に住んでいる人たちから愛されるような食堂をつくりたいと思った。となると、「安心安全」は避けて通れないキーワードだったんです。

ちなみに、なぜ50年かといえば、息子のことを考えて。僕は今年で50歳。なので、「自分が生きているうちに叶う夢」には、もうさほど興味がありません。でも一方で、「自分が死んでから叶う夢」はまだ追いかけていたいなという思いがあります。

その意味で、いま小学生である息子に、「生涯をかけてできる仕事」を遺したいなと思った。僕がこの食堂で目指しているのは「昭和の台所」なのですが、息子の代でその夢を実現させてくれればうれしいなと。

――そうした息子さんへの思いこそが、この商売における天野さんの軸になっていったわけですね。

天野:逆にいえば、自分なりの哲学さえはっきりすれば、自分の仕事への責任感が生まれるし、覚悟も決まる。そうなると、失敗がこわくなくなるんです。

ところで、トランプは4回もの破産経験があるのに大統領になりましたよね。そう考えると、アメリカに比べれば、日本はまだまだ失敗というものに対する考え方が遅れているなと感じます。世間から「あの人は失敗者だ」と烙印を押されたら、その人が立ち直るにはかなりのパワーが要るので。

人一倍、こういうことを強く思うようになった背景には、僕自身、両親の顔を知らないまま養護施設で育ったし、三度の少年院行きを経験しているし……と、世間が色眼鏡で見たくなる経歴も大きく影響しているかもしれません。
(後編へ続く)

『ゼロポイント』

ゼロポイント

三度の少年院行きを経験した著者が語る人生訓とは。

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