だれかに話したくなる本の話

矢部太郎が絶賛する「コロッケ」から生まれた心温まる物語とは?

『ひと』(小野寺史宜著、祥伝社刊)

あなたには本当に困った時に助けてくれる人がいるだろうか。
親や兄弟、親族、あるいは恋人。おそらく、大抵の人には誰かしらいるはずだ。

では、家族を失い孤独の身になった人はどうか。誰にも頼らずに生きていくしかないのか。
決してそんなことはない。社会は決して甘くはないが、苛烈な運命に立ち向かおうと懸命に生きる者を見捨てるほど冷たくはない。すくなくとも、『ひと』(小野寺史宜著、祥伝社刊)はそう思わせられる物語である。

ひと

ひと

たった一人になった。でも、ひとりきりじゃなかった。

両親を亡くし、大学をやめた二十歳の秋。
見えなくなった未来に光が射したのは、
コロッケを一個、譲った時だった――。

激しく胸を打つ、青さ弾ける傑作青春小説!


母の故郷の鳥取で店を開くも失敗、交通事故死した調理師の父。女手ひとつ、学食で働きながら一人っ子の
僕を東京の大学に進ませてくれた母。――その母が急死した。柏木聖輔は二十歳の秋、たった一人になった。
全財産は百五十万円、奨学金を返せる自信はなく、大学は中退。仕事を探さなければと思いつつ、動き出せ
ない日々が続いた。そんなある日の午後、空腹に負けて吸い寄せられた商店街の総菜屋で、買おうとしていた
最後に残った五十円コロッケを見知らぬお婆さんに譲った。それが運命を変えるとも知らずに……。

そんな君を見ている人が、きっといる――。