だれかに話したくなる本の話

【ツキイチ“田中の本まみれ”】第3回・もっと“おいしい”本を探せ!料理が出てくる小説をランク付けしてみた。

小説を読んでいると料理や食事の場面がよく目にするし、料理をテーマにした小説も多く出版されている。さすが小説家というべきか、どの小説も表現豊かにおいしそうな料理が登場し、読みながらお腹が空いてくるほど。
 おいしい料理が出てくる小説は、面白い小説に違いない。食事は人間の基本ですからね。ということで、今月は「小説に登場する美味しそうな料理」をランキング付けしていく。
 料理が主として登場する小説から、1つのシーンとして料理が出てくる小説まで様々なジャンルの小説を選んだ。食事の状況も踏まえてリストアップしてみたので、情景を思い浮かべながら読んでみてほしい。
 今月の5冊(5品?)はコチラ!

『チッチと子』(石田衣良/毎日新聞社)
(写真)
料理 銀座のホステスさんお手製のお弁当
 本作の主人公である、万年初版作家の青田耕平が、唯一の家族である息子のカケル(耕平は奥さんを亡くし、カケルと二人暮らし)、ちょっと気になっている銀座のホステス・椿とドライブした先の房総半島で食べたお弁当(椿のお手製)。カリフラワーとブロッコリーのサラダ。チキンのから揚げに玉子焼き。ナポリタンのパスタと俵型のおにぎり。おにぎりの中身は、ソーセージの醤油炒め。酢飯にラードと醤油が染みている。(あらすじを読む→)

『キッチン』(よしもとばなな/新潮社)
(写真)
料理 かつ丼
 取材先で、空腹に耐えかねた主人公が、偶然見つけたお店で食べたかつ丼。「外観も異様においしそうだったが、食べてみると、これはすごい。すごいおいしさだった。」「カツの肉の質といい、玉子と玉ねぎの煮えぐあいといい、固めにたいたごはんの米といい、非のうちどころがない」(本文引用)読むだけでよだれが出てきそうだ。(あらすじを読む→)

『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』(村上龍/集英社)
(写真)
料理 多久牛のポワレ 粒マスタード入りの香草風味
 東京で活躍する作家・ヤザキが、約20年ぶりに再会した中学の同級生である初恋の女性と共にした食事。
料理の名前は「多久牛のポワレ 粒マスタード入りの香草風味」。佐賀県の多久牛を使用したポワレ。肉を一度、オーブンで蒸し焼きしてから、フランス産の粒マスタード、あさつき、セルフィュ、パセリ、タイム少々まぶし、オーブンで再び蒸し焼きする。上等な肉に香草風味が加わり、まろやかに仕上がる。
他にも作中では実に18種類ものディナーが登場する。(あらすじを読む→)

『初ものがたり』(宮部みゆき/新潮社)
(写真)
料理 江戸情緒たっぷりの屋台料理
 板葺きの屋根つきで、長い腰掛けが2つ並んでいて、謎多き親父が切り盛りする屋台。作中には、稲荷寿司、蕪汁、すいとん汁、蜆汁、柿羊羹、桜餅など季節の料理が登場する。稲荷寿司は、ほんのり甘みのある味付け、固めに炊いた飯の酢がつんときいている。蕪汁は、小さい蕪を丸ごと使い、蕪の葉を少し散らしてあるだけで、ほかには具が入っていない。味噌は味も濃い色も濃い赤だしで、独特の、ちょっと焦げ臭いような風味があったが、淡白な蕪の味に、それがよく合っている。(あらすじを読む→)

『風が強く吹いている』(三浦しをん/新潮社)
(写真)
料理 寮のカレー
 主人公たちが所属する大学の陸上部の寮で食べるカレー。練習前にとろとろになるまでタマネギを煮込んでおき、買ってきた数種類の市販のルーを独自にブレンドして味を調え、ルーに深みのある豚ばら肉をたくさん入れる。(あらすじを読む→)


 高級料理もあれば寮のごはんもあるなど多彩な顔ぶれだが、作家たちはどの料理も本当においしそうに描いている。例のごとく順位付けは悩みに悩んだが、結果は以下のようになった。

1位
銀座のホステスさんお手製のお弁当(『チッチと子』/石田衣良/毎日新聞社)


2位
江戸情緒たっぷりの屋台料理(『初ものがたり』/宮部みゆき/新潮社)


3位
多久牛のポワレ 粒マスタード入りの香草風味(『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』/村上龍/集英社)


4位
寮のカレー(『風が強く吹いている』/三浦しをん/新潮社)


5位
かつ丼(『キッチン』/よしもとばなな/新潮社)




総評
 5位は『キッチン』のかつ丼。作中の表現もおいしそうなのはもちろんだが、猛烈にお腹を空かせて、たまらず入ったお店のかつ丼、という状況がいい。しかし、作中で主人公が、彼のための持ち帰りのかつ丼を1つ頼んでいるように、やはりおいしい料理は誰かと一緒に食べたい。

 4位は『風が強く吹いている』のカレー。私自身も学生時代に部活動の合宿でカレーを食べた経験がある。つらい練習をした後、みんなで食べるカレーのおいしさは誰よりも知っている。しかし、最近カレーを食べる機会が多く、若干食べ飽きているので、カレーが出てきてもあまりそそられなかったという個人的すぎる理由から4位。

 3位は、『はじめての夜 二度目の夜 最後の夜』のディナー。今回エントリーした作品のなかで一番料理を扱っている作品がこれだ。作中には章ごとに、18種類ものディナーが登場する。どれも手間ひまをかけた豪華なディナーだ。特に「多久牛のポワレ 粒マスタード入りの香草風味」が僕のお気に入り。「肉には粒マスタードとハーブの刺激的な味と香りが添えられているが、口に運び歯と舌で触れた瞬間に本来的な肉の味が残って、あとはすべて消えてしまう」(本文引用)読んでいて思わずよだれが垂れた。30歳を過ぎてから初恋の女性に再会して初めて二人きりで食事をするなんて、よだれ以外に鼻血も出そうだ。
故郷から上京して作家として金と名声を手に入れた後、中学時代の初恋の女性と食べる「多久牛のポワレ 粒マスタード入りの香草風味」…。あ、なんか腹立ってきた(笑)

 2位は『初ものがたり』の屋台料理。稲荷寿司、蕪汁、すいとんなど江戸時代にタイムスリップして江戸の雰囲気を味わいながら食べたい。主人公がおかわりで食べた、蕪汁の味噌汁にやわらかいすいとんを落として食べるのがとてもおいしそうだった。作中世界に入り込んで江戸情緒を感じながら食べたらたまらないだろう。

 そして、1位は『チッチと子』のお弁当。凝った料理もおいしいが、から揚げ、玉子焼き、おにぎりというお弁当の王道メニューがいかにも食欲をそそるように描かれている。そしてなにより大事なのはそのお弁当が銀座の美人ホステスさんのお手製だということだ。もちろん同伴などではなく完全プライベート、しかも自分にちょっと気がある様子だ。う、羨ましすぎる…!土手にレジャーシートとブランケットを広げ、籐のバスケットを開き、にぎやかに料理と皿を広げていく。考えるだにワクワクしてしまいます。個人的な感想としては「完璧」。しかしその場に子供がいなくて二人きりならなお完璧だった。(主人公の青田耕平は奥さんを亡くし、息子と二人暮らし)



 誰と、どこで、どんな気分で食べるかによって違った味を感じられるのが食事というもの。高級レストランで食べるのにも、ピクニックでお弁当を広げて食べるのにも、それぞれ違った良さと楽しみがあり、家族、恋人、友達、同僚、部活の仲間など一緒に食べる相手でもそれぞれ楽しみがある。
 物語を追うだけでなく、作中の食事や料理に注目して本を読んでみると新しい読書の楽しみが見るつかるかも…!?

 最後に、今回読んだ5冊の中で小説作品として一番面白く読めたのは映画化されたのが記憶に新しい『風が強く吹いている』だった。素人ばかりの10人がイチから箱根駅伝を目指すという無謀な設定でありながら、登場人物のキャラクター設定がしっかりしていて、それぞれの気持ちを追いやすい。
 毎年テレビで見る箱根駅伝だが、ただ走るだけのこの競技のどこに魅力があるのか理解できずにいた。しかし本作を読むと、なぜ走るのか?どういう思いや決意で走っているのか?襷をつなぎゴールした先には何があるのか?など駅伝選手たちの思いを垣間見ることができる。
(新刊JPニュース・田中規裕)