だれかに話したくなる本の話

【コラム】「社会学」を学ぶ意味について考えてみる

情報化社会、ネット社会、社会不適合者、日本社会・・・。
 まるで氾濫しているかのように「社会」という言葉が横行しています。

 ですが、そもそも「社会とは何ぞや」と問いを立てたとき、実は一言で定義を言い切れる人はなかなかいないのではないでしょうか。
 社会について考える学問として「社会学」があります。そこでは「社会」というのは明確に定義されません。その場に応じて様々な意味に変化します。少なくとも、私はそう思います。ですが、あえてひねり出してみるとすれば、社会は「人間関係の総体」とでも言いましょうか。おそらくそういうものだと考えています。

 「人間」という言葉自体が示すように、人は人の間で生きています。私は両親がいたからこそ生まれてきたわけであり、既にそこに社会が生まれているのです。つまり、それは「家族」という社会です。

◆「生きる意味がない」人間なんてはいない

 よく「社会からつまはじきにされている」とか「社会から逃げる」という言葉がありますが、人間が社会から外れるということはまず出来ません。『社会学的想像力』(紀伊國屋書店/鈴木広・訳)を書いたアメリカの社会学者、C・W・ミルズ先生は次のように言っています。

 人間というものは社会によって、また歴史の力と衝撃によって形成されるとはいえ、かれが生きているという事実は、この社会の形成と歴史の進行に対して、たとえどんなに些細であれ貢献していることを意味する。(『社会学的想像力』7pより引用)

 簡単に言えば、生きている限り(もちろん死後も)人間はどんな形であれ社会に貢献しているということです。となると、その人間の存在が社会にとって良いか悪いかは実は問題ではなく、「社会を保たせる」存在であるかが重要となります。
 社会があって人間が成り立ち、人間があって社会が成り立つということです。

 人間は、意志を持って生きています。欲や感情があり、自らが所属している社会を自分たちにとって生きやすいものにしようとします。「悪い社会」「良い社会」という概念はそこから生まれます。自分が苦痛を覚えているならそれは自分にとって悪い社会ですし、恵まれていると思えば自分にとって良い社会です。

◆「どうしてそうなるのか」をつきつめて考える

 どうして自分は生きづらさを感じるんだろう、と思ったときに、自分と社会の関係を探る思考がはじまります。
 そして、自分が社会といかに結びついているかを知ると思います。

 例えば、「自己責任」という言葉がありますが、私自身はその言葉はあまり好きではありません。そもそも人間は一人の力では何も決断できないはずです。なぜなら、人間の価値観とは千差万別であれ、これまでの伝統や歴史、様々な人の価値観の上に立って成立しているからです。
 つまり自分自身が人間の歴史を構成する1人であると考えた場合、自分が今、思考している事柄というのは社会そのものの影響を多分に受けているということになります。

 「自分が決断したこと」は、実は「決断させられている」からなのかも知れないのです。人間は社会の中で形成されていくもの。だからこそ、「自己責任」として済ませるのではなく、そう「決断させてしまった」社会について考えることも重要だと思うのです。

 これまでつらつらと書き連ねてきたことも、正しいかどうかは実は分かりません。自分にとっては正しいけれど、他の人にとってはそうでないのかも知れない。
 人間関係によって生まれる「社会」の中で正しさを見出すのはとても難しいことです。そもそも正しさなんてないのかも知れないのですから。しかし、社会学を学ぶことによって、自分が生きている現代の仕組みを知ること、自分たちにとっての正しさを見出していくためのヒントを得ることができるのではないでしょうか。

 最後に、「社会学する」感覚をつかむためにとっておきの3冊をご紹介します。

『考える力が身につく社会学入門』浅野智彦・編著/中経出版
 『検証・若者の変貌―失われた10年の後に』などの著者である社会学者・浅野智彦氏の編集のもと、若手社会学者たちが執筆した入門書です。現代のトピックである「婚活」や「ニート」などを題材にしており、世の中の流れをつかむことができます。

『社会学入門一歩前』若林幹夫・著/NTT出版
 『郊外の社会学』の著者として知られる若林幹夫氏が執筆した本書には、まさしく「一歩前」という名の通り、社会学する感覚をつかむための考え方が書かれています。本書を読んだあとは門の一歩先へ進んでいることでしょう。

『社会学入門―人間と社会の未来』見田宗介・著/岩波書店
 入門というと名前がつけられていますが、実は入門書という体ではなく、社会学者・見田宗介氏による社会論が生き生きとあますことなく語られている名著です。見田先生の目からみた世界を体験をするだけで、あなたは社会学の深さにのめりこんでいくでしょう。
(新刊JP編集部/金井元貴)