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BOOK REVIEWこの本の書評

amazonへのリンク「乱高下あり!バブルあり!2026年までの経済予測」

失われた20年、リーマンショックを経て、日本の景気は一時期に比べれば確実に良くなっていると言える。しかし、2019年に控える消費増税や東京オリンピック後の経済動向などを考えると先行きが明るいと感じられない人も多いだろう。

この先、景気はどうなるのか。どのように自分の生活を守ればいいのか。そんな悩みや不安にひとつの指針を示してくれる一冊が 『乱高下あり! バブルあり! 2026年までの経済予測』(渡辺林治著、集英社刊)だ。

本書は長期的な日本経済の予測を行い、それをどのように資産形成と企業経営に結びつけていくかをテーマにしている。
著者は野村総合研究所とシュローダー投信投資顧問を経て、上場企業20社以上へ国際金融の予測提供、投資顧問、経営財務戦略とIR投資家対策の助言を企業に行っている人物で、国内外の経済状況や機関投資家の動きを熟知しており、経済動向を的確に見抜いてきた実績を持つ。
本書から、マクロ的な視点の経済予測と、2020年代に向けた資産形成のポイントを紹介していこう。

2019年以降、デフレ脱却が現実になる?

著者は2019年以降、20年以上続いたデフレ時代が終わり、インフレ時代が始まると述べている。
その理由は、IMFが発表した世界経済全体の実質GDPの成長率からも見て取れる「世界景気の拡大に伴う需要増大」。過剰な生産設備と在庫の解消を進める「中国の政策による影響」。輸送、製造の要となる「原油価格の上昇」などにあるという。

ただし、これは中長期的に見た場合であり、短期的には景気に影響を与えるイベントも多く、日本の経済や金融市場が乱高下する可能性は高いという。
例えば2019年には消費増税が控えているが、2014年の5%から8%への引き上げ時には一年半ほど消費の低迷が続いたという。また2018年には各国の中央銀行のトップ交代などが続く。また、米中経済摩擦もヒートアップしている。こうしたことは機関投資家を大きく動かす可能性がある。

2020年までは世界情勢や政策によって経済動向は揺れ動くものの、中長期の視点で考えれば景気は落ち着きを取り戻すということを念頭に置いておくと、無用な不安に駆られることもないだろう。

2020年代にバブルが再来する?

2020年の東京五輪後に深刻な不景気が訪れることを懸念する声が多い。しかし、著者はむしろ景気拡大とバブルが2020年代に本格化すると予想している。その理由は次の7つにあるという。

  1. 大型減税法案を受け、世界最大の経済大国であるアメリカで景気拡大が進む
  2. アメリカで金融機関規制の緩和が進み、金融市場と実体経済への資金流入が加速する
  3. アメリカ政府のインフラ投資で、景気拡大の勢いが長期化する
  4. 各国政府が金融緩和に再び踏み出す環境が、2020年以降に整う
  5. 続投が決まった黒田日銀総裁が、長期的に金融緩和を続ける
  6. 消費増税と2020年東京オリンピック後の不況に対する景気対策が過剰になる
  7. コーポレートガバナンス改革を受け、日本企業がM&Aや投資を加速する

大型減税・インフラ投資・金融機関の規制緩和などにより、アメリカ経済は拡大する。さらに回復局面に入ってきた原油価格、中国の過剰生産設備の解消に向けた動きは世界的なインフレの兆しと言えるという。

景気拡大とインフレを前提とすれば欧米で金融引き締めが進んでいくが、見方を変えるとリスク対応準備による金融再緩和の余地が生まれることも意味する。こうした世界の動きと、日本の金融政策や企業動向を合わせると、バブルが本格化する可能性は十分に考えられるだろう。

その上で、著者はバブル崩壊が2028年に予定されているロサンゼルス五輪前、2024~2026年頃になるのではないかと予想している。
過去、オリンピック開催国ではオリンピック前に株価が下落局面に入ることが多いという事実がある。オリンピック前の公共投資と民間投資が加速するものの、機関投資家が利益確定の動きに転じるので、実体経済に先んじて金融市場が変調し、株価下落に転じるのだ。また、アメリカのベビーブーマー世代の高齢化も影響を与えよう。
もし、2020年代に好景気が訪れても「バブルはいずれ崩壊する」という原則だけは忘れないようにしておきたいところだ。

長期的な資産形成の適している投資法とは?

大きく揺れ動く経済、金融市場の中で、個人が資産形成をするにはどうすればいいのか?
著者は約30年にわたる経験から、長期の視点で投資や経営をしてきた会社は成功し、短期視点で行動した企業は不本意な結果に終わることが多いと述べている。それは個人の資産形成でも同じだ。

長期的に資産形成を進めていくには、どのような金融商品を選べばよいのか。
多くの人は投資というと個別株を思い浮かべるが、著者が勧めるのは、長期的な資産形成に比較的向いているETF(Exchange Traded Fund=上場投資信託)だ。

ETFには、「上場されているので価格が透明で分かりやすい」「信託報酬など運用コストが安くなっている」「個別株と違ってインサイダー取引とみなされる心配がなく、コンプライアンスの観点からも安心」といった特徴があるという。ETFを選ぶ際のポイントは、次の3つだ。

  • 日経平均株価、TOPIX、米国S&P500など、市場全体に連動している商品を選ぶ
  • 特定な商品に偏らず、自分が管理しやすい銘柄数にする
  • 売りたいときに売りやすいという、流動性の高いものを選ぶ

投資が自己責任であることは言うまでもないが、投資のひとつの選択肢として検討してみる価値はあるかもしれないだろう。

(ライター:大村 佑介)

INTERVIEWインタビュー

第一回:2026年までの経済を予測する国内外の動き

2017年9月から、ゆるやかに上昇を続けてきた日経平均が2018年1月23日をピークに急落。一時は2万円1000円台を割り込んだが、現在(2018年6月)は、2017年末頃の水準まで戻ってきている。

内閣府は日本の景気を「緩やかな回復基調」だと強調しているものの、株価の急落を目の当たりにすると、日本の経済動向に不安を感じることもあるだろう。

野村総合研究所とシュローダー投信投資顧問を経て、上場企業20社以上へ国際金融の予測提供、投資顧問などを務め、経営財務戦略とIR投資家対策の助言などを行う渡辺林治氏は、2026年までの経済を次のように見る。

◇◇◇

著者写真

日本の経済、金融市場に影響を与えることが予想される出来事が2026年までに数多くあります。
大きな流れで言えば、世界経済は2018年から2020年までは乱高下し、その後、2020年代にはバブルが訪れ、崩壊していくことが予想されます。

キーワードは「オリンピック」と「経済イベント」です。

オリンピックが景気や経済に与える影響には傾向があります。
「オリンピックの開催決定~開催1、2年前まで」は、実体経済ではホテル、競技場などの建設といったインフラ開発が進み建設事業が盛り上がります。また、企業がオリンピックにちなんだ宣伝を打ちます。そうした盛り上がりから景気が拡大し、株価が上昇しやすくなります。一方で金融市場でも、経済活性化や企業の業績拡大の期待を反映して、株価が上昇します。

ところが、「オリンピック開催前の1、2年間」になると、金融経済が悪化しやすくなる傾向があります。2008年北京五輪のときは、2006年に上海株式指数がピークを迎えた後、暴落。2012年ロンドン五輪のときは、2010年にギリシャ欧州危機。2016年リオ五輪のときは、2015~16年にブラジルのGDPが、前年比で3.5%減少ということが2年続けて起きました。

このようにオリンピックをキーワードにすると、開催1、2年前までは景気拡大、株価上昇がみられ、開催間近になると期待が剥げてきたり株価が下がったりするという大まかな傾向があります。

経済を重視している安倍政権は、東京五輪のあとに景気が悪くなる可能性については非常に気にしており、2019年秋の消費増税による景気悪化も懸念しています。となると、消費増税や東京五輪後の不況対策を熱烈にやる可能性があり、上がり下がりを繰り返す流れなのではないかと私は見ています。

経済イベントを見ますと、2018年は日本での実質増税、各国中央銀行トップの交代、アメリカの中間選挙など、経済に影響を与えうるイベントがあります。
2019年は、5月に元号改定。これによる国民の祝意の盛り上がりなどによって経済活動が活発化する可能性があります。しかし、10月には消費増税も控えているので上がり下がりが見られるものと思われます。

2020年の東京五輪については先に触れましたが、より重要なのは秋のアメリカ大統領選挙です。
次期大統領がどんな経済政策をやる可能性があるか。それが決まるからです。
選挙の行方はわかりません。ただ、共和党が勝つ可能性もあるのではないかと思っています。
その場合、金融規制緩和はもっと進むでしょう。

リーマンショックが起きたときの原因を、当時の民主党・オバマ政権は銀行や証券会社の過剰な融資姿勢によるものだと考えて、それらの業務をより厳格に管理するドット・フランク法が制定されました。共和党はこの規制を緩和する方向を打ち出しています。FRBも同じような方針を打ち出しています。
2018年の中間選挙、2020年の大統領選で共和党が勝つと緩和の動きはより進んでいくと思われます。
そうなると経済活動、株式市場に資金が流入しやすくなることが予想されます。

さらにインフラ投資の拡大も予想されます。大きな政府を掲げる民主党政権は以前からインフラ投資に積極的です。ところが、最近では小さな政府を掲げる共和党までもがインフラ投資に前向きな姿勢を見せています。2020年の大統領選で民主党政権が勝ったとしても、インフラ拡大を進める可能性は十分にあります。
そういったこともあって、景気拡大がアメリカ要因としても起こるだろうと予想できるわけです。

日本要因としても、増税や五輪不況への対策が本格化して過剰になったり、2021年まで黒田総裁の任期もあるので緩和が継続しやすかったりといったことも重なるので、2020年代前半は景気拡大やバブルが起きやすいのではないかと考えています。

2025年頃になると団塊世代も75歳になり、生産活動が停滞しやすくなるでしょう。あるいは、2028年のアメリカのロサンゼルス五輪の開催前の期間になりますから、景気悪化や株価下落の局面に入る可能性があります。また、アメリカのベビーブーマー世代は、2026年に65歳を迎えるため、その後は投資を切り崩して生活をすることもあり得ます。こうした理由から、2024年から2026年頃は注意をした方が良いと考えられます。

第二回:次の「バブル」はいつ起こり、いつ崩壊するか?

2018年1月、日本とアメリカの株式市場は大幅な上昇を記録した。アメリカでは過去最高値を更新、日本の株価も26年ぶりの高値を更新した。また、昨今タワーマンションなどの建設が過熱しているが、これは果たしてバブルなのだろうか?

1990年以降の不動産バブル、2000年代初頭のITバブル、2008年のリーマンショックなど、バブル到来と崩壊に翻弄された人も少なくないだろう。

一部上場企業20社以上のアドバイザーをつとめ、上場企業3社の社外取締役・監査役を兼任する渡辺林治氏に聞く2026年までの経済予測、シリーズ第二回はバブルの可能性とその見極めについて語って頂いた。

◇◇◇

著者写真

まず、私は現在、バブルに向けてまだ5~6合目だと考えています。
公的データをもとに独自に作成した、日本経済のバブル状況を示す指数(リンジーバブル指数)から分析すると、現在は過去30年において平均的な水準にあると考えられます。

図表(書籍P98~99)画像

本格的なバブルに突入するのは、乱高下期が落ち着いた2020年代だと思っています。
その対象は何かと言うと、そのときにならないとわかりません。しかし、今みんなが思っているものではないものになる、ということが言えるでしょう。
皆がこれだろうと思っているものには、それに見合った価格がすでについています。逆に皆がマークしていないものは価格が安いので急騰していくわけです。

繰り返しますが、その対象が何になるかはわかりません。もしかしたら、エネルギーかもしれませんし、食品かもしれない。はたまた石油産業のようにインフレで儲かるものかもしれません。

今、日本で過熱ぶりが見えるのは、マンション・ホテル・住宅の建設ですが、収益的に合うのかは疑問です。資金回収スキームも楽観的な面があります。収益性が疑問でと資金回収も難しいものは「過熱している」と考えていいでしょう。

ただ、それが景気拡大の範疇なのか、バブルになっているのかを判断していくことは必要だと思います。

景気拡大とバブルの分水嶺となる指標として挙げられるのは、PRB(株価純資産倍率:株価と資産の比率)です。日本の株式市場のPBRは、現在1.7倍くらいになっていますが、過去の歴史を見てみるとPBRが2.2~3.0倍までいくと、バブルになっているということになります。逆に言えば、データから見れば現在はまだ過熱している状態には見えないというふうに思われます。

「これはバブルだ」と気づくためのポイントは、新聞の一面を見ることです。
楽観的なニュースばかりが目立つと危険です。皆が「すべてがよくなる」という陶酔感に浸っている状態ですから。また、それまでの経済合理性から見ても収益が成り立たないものであるにも関わらず、金融機関や学者が新しい理論を持ち出して正当化する説明が出てくると危ないと言えるでしょう。

だから、数十年、数百年に亘って使用されている指標を使うことが大切なんです。
仮想通貨もそうですが、様々な物事を潜り抜けてきたものでなければ信用は出来ません。それはトラックレコード(過去の収益実績や運用成績)がないからです。
分析には少なくとも100以上のデータがなければいけません。それに満たないデータしか集まらない対象は「確からしさ」も低い。こうしたことは統計学や数学などを勉強すればわかることです。なので、基本的なことを勉強するということは非情に重要です。

バブルを引き起こさないために、政府や中央銀行にはゆるやかで微調整を繰り返すような政策が求められますが、人間が動いていることなので非常に難しい。また、選挙もあるので過熱を抑えることは難しいでしょう。
機関投資家は、フィデューシャリー・デューティー(資産を預けた人の利益を最大化する事に務めるのが義務で、利益に反するような行動は取ってはならないという考え)の原則で動き、どうやって儲けるかを追求することが責務なので、一言で言えばバブルが好きなんです。なので、「バブルは起こるもの」と考えておくことが大切です。

第三回:経済成長のカギを握る「企業強化推進策」

近年、「コーポレートガバナンス」という言葉を新聞やメディアで見聞きするようになった。第二次安倍政権はコーポレートガバナンス改革を推進し、2015年3月に金融庁と東京証券取引所によってコーポレートガバナンス・コードが取りまとめられ、同年6月から上場会社への適用が開始された。

コーポレートガバナンスは日本経済の未来予測において非常に重要な意味を持つ。
上場企業3社の社外取締役・監査役を兼任する渡辺林治氏に聞く2026年までの経済予測、シリーズ第三回は、コーポレートガバナンスの重要性とその意味について語って頂いた。

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会社から何か指示が出たときに、その背景にあるのはどんなことで、自分が何を求められているのか、また、お取引先様のリクエストは何を求められていることなのか。その背景がわかると動きやすいですよね。その背景にあるのが「コーポレートガバナンス」なんです。

コーポレートガバナンスというのは、会社をどのように経営していくのかについての指針です。
第二次安倍政権でコーポレートガバナンス改革というものが打ち出されてから、会社法の改正とか証券取引所に株式を上場している会社への指導が行われました。
つまり、「コンプライ・オア・エクスプレイン(コーポレートガバナンス・コードを遵守するか、遵守しないのであれば、その理由を説明することを求めるもの)が導入されたわけです。

上場企業はそういう論理の下で動いているので、それを知っておかないと自分たちも仕事で失敗することもあり得るわけです。つまり、企業経営者、もしくは働いている方々が、会社の中で活躍したいと思ったときに、ビジネスチャンスを掴むためにはコーポレートガバナンスが持つ意味を知っておく必要があるのです。

コーポレートガバナンスで言われていることは、長年停滞していた経済を活性化させるために、企業も売上を伸ばして利益を積み上げ、「伸びて儲ける会社を目指そう」という話です。「成長性」と「収益性」を引き上げようということですね。

それは一般消費者の目線から見ても大きな意味を持ちます。「伸びて儲かる」ということは業績が改善するということです。そうすれば雇用が拡大して、働く人たちにとっても仕事が増える。また、株式を持っている人に対しては、配当が増えたり株価が上昇したりすることになります。

結果として、リーマンショック後の就職氷河期から比べれば、就職はしやすくなりましたし、若い世代が10年前より明るい未来を考えやすくなりました。
また、株価も上昇したので、年金のリターンも改善しました。以前は「私たちが払った年金は戻ってくるのだろうか」という議論がありましたが、最近は少なくなりましたよね。年金管理の問題は別にしても、年金リターンが良くなったということはあまり報道されませんが、これはリターンについては改善しているからなんです。

国民の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2011年度からのリターンが年率3.39%です。1.7%位を目標にしていたのに対して3.39%の実績が出たということは、考えていたよりも良かったということですよね。
もし、株価が下がり続けたままだったら「年金が支払えないので、皆さんもっと払ってください」となっていたはずです。それがなくなったということ自体、大きな意味があるということです。

ただ、コーポレートガバナンスには、まだまだ課題があります。
企業からすると、急に政府から要求されたので自分たちがどう対応したらいいのか困惑している面があります。
今回は特に、ROE(自己資本利益率)の重視や株主の視点での企業経営を強化するということが狙いだったわけですが、そうするとこれまでCSR(企業の社会的責任)を重視していた企業としては「自分たちはどうしたらいいのだろうか」となってしまうわけです。

また、一方で、この取り組みを推し進めた政府や学識経験者の中には、実際に企業経営をしたことのない方もいらっしゃるので、実際の経営がどれだけ大変かを知らず机上の空論になりがちなのは否めません。

ということで、企業側にとっても、政府や学識者側にとっても課題はあります。
でも、課題をどう解決していくかが大事で、そういう意味では、政府は新たにESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンスの頭文字を取ったもの)のように、幅広い考え方を持って企業を経営した方がよいと示すようになっています。

ガバナンス強化が不足している企業に共通することは、企業規模が小さく、ネットワーク力が弱いことです。「うちではガバナンスの強化なんてできない」と考える企業も少なくないでしょうが、そこに対応できないと淘汰されやすい。
規模が小さくても情報やネットワークに強ければ生き残っていけます。そこで一番重要なのは、経営者の人柄と能力です。会社は経営者で決まりますから。

団塊世代の経営者から社長を引き継いだ若い二代目経営者は、情報やネットワークに触れてきた世代ですから、競争に勝っていける可能性は大いにあります。日本にはまだまだ希望があります。

特に今は時代の転換期なので変化が著しい時代です。変化への対応力は大企業よりも中小企業のほうが勝っています。その意味で、中小企業経営者は激動期においてはビジネスチャンスを機敏に見つけていくことが大切です。

第四回:「乱高下」と「バブル」を乗り切る資産形成

大手銀行の普通預金の利率は年0.001%という非常に低い水準だ。比較的金利が高いと言われていたインターネット銀行も近年ではその水準に足並みを揃える傾向にある。

銀行に預けているだけでは資産形成にはつながりにくい。そこで投資を考える人は多いが、激動の時代にどのような投資をしていくのがよいのだろうか?
国内外の経済状況や機関投資家の動きを熟知し、経済動向を的確に見抜いてきた実績を持つリンジーアドバイス株式会社代表取締役社長、渡辺林治氏に2020年代の個人の資産形成について語って頂いた。

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著者写真

個人の資産形成で一番大切なことは、長期で取り組む姿勢です。
そこで知っておくべき手法が、ポートフォリオ構築と管理です。ポートフォリオとは、株式や債券などいくつかの資産を組み合わせて保有するものです。

自分に合った資産形成のポイントは、それぞれの方が、どれだけ時間的にも価格の変動幅としてもリスクが取れるかどうか。これを一度考えてみる必要があります。

20代30代の方であれば、リターンがマイナスの時期があったとしても、後で取り戻すことができやすいです。そう考えると比較的リスクをとった資産形成のポートフォリオを組むことができます。

一方で、定年退職が近づいてきている方であれば、あまりリスクを取らず、期待リターンが少なくとも安全なポートフォリオに組み替えていく必要があります。こうしたことをご自身で考えつつ、家族や周りの人とも相談してほしいと思います。

具体的なポートフォリオのひとつの例として、国民の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は参考になります。GPIF は1.7%のリターンを目標にしていて、国内債券28%、日本株25%、外国株25%、外国債券14%という構成になっています。

このポートフォリオは、年率1.7%を目標にしながら3.39%という実績を出したものです。個人の資産形成で年率2~3%のリターンを狙うのであれば、これは非常に参考になります。
つまり、日本株と外国株で4~5割、外国債券1~2割でポートフォリオを構築するわけです。

そして、いざという時のため待機現金も3割ほど持っておくことです。

世の中には「必ずこうなる」ということはありません。想定外のことがよくあります。「上り坂、下り坂、まさか」なんて言いますが、「まさか」という思わぬ事態は次々と起こるものです。そういうときに対応する体力を持っておく。だから、無理せず余裕を持ったポートフォリオを組んでおくことが大切だと私は思っています。

もう少しリターンを高めに3~5%を狙うのであれば、日本株と外国株で6~7割、外国債券1~2割。残りを待機現金にしておくというのも一つの考え方です。
ただし、乱高下が見込まれる時期なので、今はあまりリスクを取らず、できるだけ下がった時に、日本株や海外株のウェイトを増やせる準備はしておいたほうがよいでしょう。

乱高下とバブルが見込まれる今、個人の資産形成をする上でまずやっておくべきことは「方針」を決めることです。自分がどれだけのリターンを、どれくらいの年月で実現していきたいか、ということを持っておくということです。
次に、その方針に基づいて、具体的な「作戦」を立てていくこと。そして、それを「練習」することが大切です。

練習というのは、予算のうち5%くらいの少ない資金で買ったり売ったりをやってみる、ということです。
今は小額からでも資産形成ができます。いきなり大きなお金を動かすのではなく、小さくやってトライ&エラーを繰り返し、小さな失敗から色々なことを勉強する。そうやって練習して慣れていくうちにわかることも多くなり、「これも知っておかないといけない」「このことについてもっと知ろう」ということがたくさん出てきます。

安心した老後を迎えるためにはどうするべきか。それには練習と勉強しかありません。そうやって積み上げた知識水準や経験を、次の世代にもつなぎ、親の世代にも伝える。そうやって、激動する時代を皆で手を携えて乗り越えていくことが大切だ、と思っています。

BOOK DATA 書籍情報

プロフィール

渡辺 林治 (ワタナベ・リンジ)

リンジーアドバイス株式会社 代表取締役。慶應義塾大学経済学部卒。UCLAアンダーソン経営大学院およびエグゼクティブ・コーポレートガバナンス・プログラム修了。慶應義塾大学博士( 商学)。コーネル大R M PJ 講師歴任。野村総合研究所とシュローダー投信投資顧問を経て、為替・株価指数・金利・金融危機など国際金融を予測し、企業の業績改善と資産形成に活用する手法を開発。リンジーアドバイスでは、企業の長期的な維持発展と資産形成につながる、国際金融の予測提供、投資顧問、経営財務戦略とIR投資家対策の助言を行っている。 上場企業のアスクルで社外監査役を、自重堂とカワチ薬品では社外取締役を現在務めている。

目次

  1. 序 章 ニューヨークで見た株価急落

  2. 第1章 2020東京オリンピックまでの日本経済はどうなるのか?

  3. 第2章 激動の世界情勢と地政学リスクの行方は?

  4. 第3章 バブルはなぜ生まれ崩壊するのか?

  5. 第4章 2020年東京オリンピックの後、バブルが本格化する

  6. 第5章 政策は景気をどのように動かすのだろうか?

  7. 第6章 企業価値向上につながるコーポレートガバナンスとIRとは?

  8. 第7章 未来予測を資産形成にどう活かすか?

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