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食べて、詠んで、また食べる。 ごー・しち・ごはん! 文芸部 食後に一句 いとおかし

本書の解説

「五・七・五」のリズムで詠われる俳句は、古くから日本人の生活に根差したものとして受け継がれてきた。

となると、春は「桜餅」や「わさび漬け」、夏は「鯵」や「鯖」、「ソラマメ」などなど、俳句の季語には、普段食卓で目にする食べ物が多く含まれるのもうなずけるところだろう。「料理」や「食べ物」と「俳句」は、とても相性がいい。

「正岡子規の俳句×女子高生三人組」異色の料理コミック

ごー・しち・ごはん!』(佐倉海桜原案、黒丸恭介画、幻冬舎刊)は、岡山の女子高で青春を謳歌する女子高生たちの日常と正岡子規の俳句をお伴に、料理を通じて季節を実感することの滋味深さをあらためて教えてくれるコミックだ。

佐野桜、倉田うみ、松山みおは、文芸部に所属する仲良し三人組。文芸部といっても、頭の中は食べ物の割合が多いようで…

春であれば、調理実習で作ったちらし寿司を囲んでワイワイ。ただ食べるだけではなく、すかさず

われに法あり君をもてなすもぶり鮓

と俳句を口ずさむあたりは、さすが文芸部(?)。
そんな三人は、旺盛な食欲を文芸部の活動に生かすべく「俳句レシピ」なる取り組みを考案する。このレシピを文化祭で発表することを目標に、季節の料理と季節の俳句をまとめていく。

夏の蒜山高原では、

夏山の雲むらむらと起こりけり

と子規の句をくちずさみながら、飯盒炊爨(はんごうすいさん)で作ったカレーをぱくり。冬は瀬戸内海の寒風に震えながら苺タルトをほおばり、

ほろほろと手をこぼれたるいちご哉

と、いちごにちなんだ句を引いてみせる。

普段は何も考えずに食べている食事も、一句口ずさんでみると、季節が急に色鮮やかに見えてくるものかもしれない。瀬戸内の自然に囲まれ、連れだって観光名所に出かける桜・うみ・みおの岡山弁丸出しの会話もどこか長閑な味わいがあってかわいらしい。

冬が終わり、もうすぐ春がやってくる。本書の女子高生三人組のように、ふとした時に口にできる俳句を心に持っていると、単調な毎日に彩りが生まれるはずだ。

(新刊JP編集部)

佐倉海桜さんインタビュー

食事と俳句の絶妙な組み合わせ『ごー・しち・ごはん!』で伝えたかったこと

――ごー・しち・ごはん!』につきましてお話をうかがえればと思います。まず、この作品を通して表現したかったことについてお聞きしたいです。

佐倉:闊達な年頃のきらめきを、漫画を通してリアルに描きたいと考えました。1話ごとに俳句を添え、登場人物の心の機微を情緒豊かに表現しました。

外国で高い評価と人気を得ているmangaにシンボリックな五・七・五の一七音を合わせ新しいカタチの漫画にしました。

―― この作品で「俳句」と「食事」を組み合わせた理由はどんな点にあるのでしょうか。

佐倉:日常のメニューに俳句を添えれば、家族団らんに花が咲き、印象深い想い出になります。「食事」主体で俳句を合わせても、「俳句」主体で食事を合わせても、その味わいが心と五感に染み込むと考えました。そして、その一時が、趣深い記憶となって留まります。私自身の経験から豊かな想い出作りの手立てとなりました。

―― 女子高生たちの方言や登場する場所から舞台は岡山県だと思われますが、佐倉さんにとってどのような思い入れがある土地なのでしょうか。

佐倉:2019月5月から半年間、「テレビせとうち」で料理番組「一食一句」を放送することになり、そのご縁で晴れの国、岡山を舞台にこの作品の制作開始しました。

瀬戸内海の美しい景色と岡山の雄大な自然を背景に青春真っ只中の高校生三人組の織り成す学園ストーリーになりました。何事にも熱心に取り組む高校生の姿が微笑ましくフィクションでありながら応援したくなる内容になったのではないかと思っています。

桜の季節に口ずさみたい正岡子規の俳句

―― 作中に出てくる俳句はいずれも正岡子規の句です。なぜ子規の句を選んだのかについて教えていただきたいです。

佐倉:正岡子規さんの俳句は、二万五千有余あります。あれこれ思いを巡らせ一句一句見ていくと、時間が経つのも忘れ没頭してしまいます。それほどまでに、子規さんの俳句に魅せられた理由は、今は亡き母かもしれません。母も子規さんの俳句が好きでした。

柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺(正岡子規)

という有名な句がありますが、毎年、母は庭の柿を見ながら、この俳句を口に出していました。母の隣で採れ立ての柿を食べながら俳句を聞くと、熟れた柿の甘味が心と五感に染み込み、今もその記憶が鮮明に蘇ります。それが発端で、私も子規さんの俳句が好きになりました。

―― 俳句の季語の中には食べ物にまつわるものが多くありますが、普段食事をしていて季節に思いを馳せることは年々減っている気がしますし、「旬」を意識して食材を選ぶ感覚もなくなっています。佐倉さんもこうした変化を感じることはありますか?

佐倉:たとえば野菜の旬。それぞれの野菜が、本来収穫できる時期に美味しくいただける頃を言います。

春を感じるそら豆レシピ。夏バテ防止のトマトレシピ。実りの秋に感謝、さつまいもレシピ。寒い夜に作りたい白菜鍋レシピ、などなど。積極的に旬の野菜を取り入れれば、季節感溢れるレシピが食卓に並び、会話が弾みます。

旬の野菜を食べると健康にも良いです。春夏秋冬、四季折々の季節を感じるレシピをチョイスして作れば料理のレパートリーが増えるかもしれません。

―― 佐倉さんが俳句に興味をもったきっかけについてお聞きしたいです。

佐倉:私は、母から俳句の楽しみ方を教わりました。母は、正岡子規さんの俳句を覚えては、私に聞かせてくれました。振り返ると、日常の1コマにはいつも俳句がありました。

母と料理を作り何気に一句。平穏無事な毎日に感謝して過ごせる日々。そこには、いつも子規さんの俳句がありました。母から俳句の親しみ方を教わり、人生に楽しみが増えたと思います。

―― もうすぐ春がやってきます。最後にこの時期にぴったりの句を一句ご紹介いただきたいです。

佐倉: 夜桜や 上野を通る 戻り道 (正岡子規)

これは100年以上も前に詠まれた春の句です。上野と言えば、江戸時代から続く桜の名所、上野恩賜公園が有名ですが、当時の子規さんも上野の桜に魅了され、数百もの見事な桜並木の桜を見ながら、花見客を余所目に夜道を歩いたのではないでしょうか。

咲き誇る桜に見とれて歩くうち、いつの間にか桜並木が途切れ、もと来た道を引き返すことになった上野の戻り道。上野の桜は「いま」も「むかし」も変わりなく美しく、子規さんの一句も「いま」も心に響きます。この本を機に、俳句に親しむきっかけになれば幸いです。

(新刊JP編集部)

プロフィール

原案

佐倉 海桜(さくら みお)

愛媛県と京都をこよなく愛する二児の母。
趣味は神社巡りと聞香。
著書に『五・七・五で伝わる母の味 一食一句』(幻冬舎刊)がある。

漫画

黒丸 恭介(くろまる きょうすけ)

漫画家、イラストレーター。
システムエンジニアとして働いた後、現在は広告、ビジネス書、エンタメ等の漫画、イラストを幅広く手がけている。