そろそろ投資をはじめたい。
著者:渡部 清二
出版:サンマーク出版
価格:1,650円(税込)
著者:渡部 清二
出版:サンマーク出版
価格:1,650円(税込)
「貯蓄から投資へ」
こんな言葉がメディアを賑わせるようになって久しい。
新NISAが始まり、友達や家族、同僚との話の中で投資が話題になることが増えたと感じる人は多いはず。日経平均株価がバブル期以来の高値をつけたと聞けば、「自分も投資をやってみたい」と興味を持つこともあるだろう。
給料は思うように上がらず、銀行にお金を預けておけば金利がついて増えていった時代はもうとっくに終わっている。それでも物価は上がっていく。投資の必要性自体は大多数の人が感じているのではないか。
でも、投資についての知識を得ようとネット検索をしても、そこにあるのは本当に欲しい情報ではなかったりする。つまり、どんな手法で、どんな観点で投資をすればお金は増えていくのか、についての情報は手に入らない。だから、結局投資を始めるのをためらってしまう。
『そろそろ投資をはじめたい。』(渡部清二著、サンマーク出版刊)は「今が投資を始めるのにぴったりのタイミング」と語る著者が、初心者向けに株式投資のポイントを教えてくれる。
著者の渡部氏が「今が投資を始めるチャンス」と語る理由は3つ。
・政府の資産倍増計画発表と投資の新制度「新NISA」が発足
・デフレからインフレへの転換
・過去にこの2つの条件が揃った1952年に日経平均株価はもっとも値を上げた
新NISAは政府が旗振りをして国民の余剰資産を投資に振り向け、個人資産を増やそうという試みだが、実は政府は過去にも一度、似たような取り組みをしている。1951年の投資信託制度発足がそれである。戦後の財閥解体で放出された大量の株を買う仕組みとして発足した投資信託だが、これもまた「国民に投資を促す」という政府の取り組みだった。
おりしもこの時期は朝鮮戦争がはじまり、デフレからインフレに転換した時期である。国民が投資に向かい、経済はインフレ。この2つが揃った結果、日経平均株価は1950年6月に戦後最安値をつけたあと、1953年の高値まで2年8カ月で約5.5倍になった。
ただし、これらはあくまで「投資を始める環境条件が揃っている」という話。手持ちの資金を株に突っ込めば誰でも利益が出るわけではない。今年8月には株価が大きく下げ、こわくなって株を手放してしまった入門者も少なくない。インデックス投資はともかく、個別銘柄を買うのであれば、そこにはやはり、銘柄を見極める目が必要だ。
本書では株式投資で利益をあげるために、マインドセットをデフレ時代の「節約脳」から「投資脳」への切り替えることの重要性について解説している。これから伸びる銘柄に気づくヒントは、日常の中に転がっている。それに気づけるかどうかが、株式投資で利益を出すことができるかどうかを分けるのである。
たとえば、現在はインフレで物価が上がっている。スーパーに置かれている食材の価格のあまりの高騰に、品物を買うのをためらったことがある人は多いだろう。でも、中にはどんどん値上げしても客足が落ちないばかりかどんどん客が増えていくモノやサービスもある。こういうモノやサービスは今後も成長が続くと考えられる。
また、「どこに行っても見かけるもの」に注目するのも、優良銘柄を見つける秘訣だ。たとえば、案内板、自動ドア、居酒屋の鍋料理で使われる固形燃料。今まで関心を払ってこなかったが、よく見るとどこにでもあるものを調べてみると、特定の会社がシェアを独占していることがある。こうした企業の企業価値は当然下がりにくい。このように「独占」を探すクセをつけておくと、投資にはプラスとなる。
◇
本書では、株式投資についての基礎知識だけでなく、株式投資をする際に必要な眼力を養う方法が多く解説されている。
投資を始めたいけど、怖い。何から始めていいのかはわからない。損はしたくない。こんな心理から投資をためらっている人は、本書がその恐怖心や不安を和らげてくれるはず。
投資について知り、そして成果を出すために。本書はもっともすぐれた入門書だといえる。
■投資で利益を出すために日本人が捨てるべき「デフレ脳」とは?
渡部: まず、つみたてNISA、新NISAなどが国に制度としてできたというのは、かなり大きな動きといえます。その前に国が旗を振って国民に投資をさせるように制度を作ったのは1951年の投資信託制度発足までさかのぼらないといけません。国民の資産を投資に向ける制度ができたという意味では、当時と同じような大きな転換点にあるというのが、今投資を始めるべきと考える理由の一つです。
渡部: これは日本の金融教育が足りないことに起因している現象だと思います。こういう意見に動揺してしまうのだとしたら、それは株価が下がるという発想がなかったということの裏返しでしょう。
私は日経平均が3000円になるというのはありえないと思います。また「3000円になるからやめておきなさい」というのは、私に言わせると自分の国がダメになるのを助長するような話です。もし本当に日経平均が3000円になったらどんな人の生活レベルも下がりますよ。それならばこそ、尚更投資が必要でしょう。
渡部: これまでは経済がデフレでしたから、理屈上は個人が資産を現金で持っておくのは正しかったんですよ。しかし、今は30年間続いたデフレが終わりつつあって、インフレに転換する局面です。この世の中の変化を肌で感じてほしいというのはありますね。
わかりやすい話をすると、私は今の日本は大不況だと思っています。なぜかというとあらゆるものの物価が上がっているからです。モノが値上がりしているのは誰しもが感じていることですよね。でも、この現象ってこれまでもあったかというと、少なくともこの30年間はなかったんです。
これまでなかったことが今起きている、ということは世の中が変わっているんだと捉えるべきで、物価が上がっているけど給料はどうなのか、給料も上がっているならいいけれど、これをインフレと呼ぶなら、どんな行動を取ればいいのか、と突き詰めて考えていくことが必要だと思っています。
渡部: そう思います。というのも、私は30年くらい先をイメージして行動しているのですが、日経平均株価はこの先100万円くらいになってもおかしくないと考えています。長いスパン見れば今4万円が3万円に下がったといっても誤差に過ぎません。
渡部: これは歴史を紐解くと見えてきます。バブルが崩壊する直前の1989年は、日本企業の時価総額は世界一でした。その後時価総額でいうと8割下がりました。アメリカはどうかというと1989年と比べると時価総額は10倍以上になっています。
この時と今はすごく似ています。1989年の時価総額トップ10のうち9社は日本企業でした。今は逆に9社がアメリカ企業です。そして今日本がデフレからインフレに転換したということで、また世界経済の流れが逆転する時期なのだと考えています。
渡部: 長期的な視点は絶対に必要です。ただ、こと株式投資の話になると、ほとんどの人は短期的な視点しか持ち合わせていないように思います。今の世界経済の中での日本の立ち位置はおかしいですよ。それが正しい位置に戻るタイミングが今なんだと思います。
■投資家は日常生活の風景から投資銘柄を察知する
渡部: 当然、個別株を買うのであれば、その企業について知らないといけませんよね。その時に『会社四季報』を見るのはいいと思います。全上場企業の情報をまとめて一冊の本にした『会社四季報』みたいなものって日本しかないんですよ。だから、とことん活用した方がいい。
あとは生活の中で関心を持つことですね。流行っているもの、人だかりができているものを見つけたら、それが何のお店で、誰が運営しているのかを調べてみる。日々好きで使っている商品があったら、その商品を作っている会社について調べてみる。そのように、できるだけ身近なところから入っていくのがいいと思います。
渡部: 実は12月に『プロも見逃す!10倍成長する株を探す「日経新聞」読み解き術』という本が出るので、そちらをぜひ読んでいただきたいところです。日経新聞の読み方として、投資の初心者の方に一つおすすめするとしたら「キーワード」に注目する読み方でしょうね。たとえば「新〇〇」「最高値」「〇年ぶり」といった目を引くキーワードがあったら、それは何か新しい動きが起きているということだと読み取れます。それがどんな動きなのかを調べてみるというのが最初の取り組みとしてはいいのではないかと思います。
あとは、大きく掲載されている「本流」の記事をきちんとチェックすること。投資をしようとなると、どうしても小さな「ベタ記事」に儲けるヒントが隠れているんじゃないかと考えたくなるんですよ(笑)。でも、やはりメインの記事をしっかり追うこと。といっても全部追うのは時間がかかるので毎日3つくらい選んで、キーワードに注意しながら読んでいくのがおすすめです。
渡部: 株価指数というのは相場の全体像を表すもので、言ってみれば「全国のお天気」のようなものです。実際は場所によって天気はさまざまなわけで、だから「株価指数=株」ではありません。参考程度に見る必要はあるよね、という程度です。チャートも同じで、いずれは理解した方がいいですけど、あくまでも「いずれは」です。
渡部: そうです。『ピーター・リンチの株で勝つ: アマの知恵でプロを出し抜け』という有名な投資の本があるのですが、その中で著者のピーター・リンチさんは株価が10倍になる銘柄を見つける方法の話をしているんですけど、「株価は見なくていい」と明確に書いています。
彼が何を言いたいかというと、株価指数やチャートの指標も必要かどうかといえば必要なんですけど、「一番」ではなくて、まずはその企業を見なさいということです。これは私もまったく同感です。その会社はいいのか悪いのか、どんな事業をやっているのかをまずは知ることが大切で、もしかしたらまず株を買ってみることでより調べる気が起きるかもしれません。
買ったら次は株主総会に出て、決算という「定量」だけでなく経営者の人柄など「定性面」もチェックしたり、その経営者の視点で、自分ならこうするだろう、と想像を巡らせてみる。これだけでも脳が投資の脳になってきます。株価指数やチャートの指標はその後でいい。
渡部: 未来を想像する時に大事なのは、まず過去を振り返ることです。今はあたりまえにみんなが持っているスマートフォンも20年前は当たり前ではなかったですし、タッチパネルだってそうですよね。未来に起きることはこの延長線上にあるんです。
「ドラえもん」を思い出していただきたいのですが、ドラえもんの道具がどのくらい現実になっているのかを以前調べてみたことがあるのですが、3%でした(*1)。つまり、9割以上は実現していなかったんです。でも、この9割の中にこそ、これから「あたりまえ」になる技術や製品があると考えられる。「ドラえもん」を思い出して、理屈にとらわれずに「こうなったらいいな」というところから想像を巡らせてみるのがいいのではないでしょうか。
渡部: まずは投資の世界に一歩踏み出してほしいというのが願いです。その一歩が巡り巡って人生を豊かにするということを、今回の本を通して知っていただきたいと思っています。
そして、ぜひ日本の企業に投資しましょう。NISAのよくないところは、制度を作ったまではいいのですが、投資したお金の向かう先はほとんどアメリカの株だというところです。これがおかしい。というのも、これだと円安になるほど株の資産価値が上がるわけですから、日本人が日本円の価値が下がるのを喜ぶようになってしまう。『そろそろ投資をはじめたい。』というのは、「そろそろ日本株投資をはじめましょう」というメッセージでもあるんです。
選挙と一緒で、このおかしな状況を変えるのは、一人一人の行動だけです。お金は経済の血液ですが、今はその流れが止まって、必要なところに行き渡っていない状況です。それを打破するために、一人一人が日本の会社に投資をすることが大切です。それによって国内にお金が回り、巡り巡ってみんなの会社の業績が上がり、給料が上がってインフレにも耐えられるようになっていく。そういう健全な状態を作るためには、個人の投資が第一歩だということを知っていただきたいですね。
*1…最新テクノロジーはなぜドラえもんを超えられないのか(会社四季報ONLINE、2016年渡部清二さん執筆)
https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/111432
渡部 清二(わたなべ・せいじ)
複眼経済塾 代表取締役・塾長。
1967年生まれ。1990年筑波大学第三学群基礎工学類変換工学卒業後、野村證券入社。個人投資家向け資産コンサルティングに10年、機関投資家向け日本株セールスに12年携わる。
野村證券在籍時より、『会社四季報』を1ページ目から最終ページまで読む「四季報と日本経済新聞読破」を開始。25年以上継続しており、2024年秋号の『会社四季報』をもって、計108冊を完全読破。2025年5月には、『日経新聞』も10,000日読破を達成する見通し。
2013年野村證券退社。1年の空白期間を経て複眼経済塾の前身にあたる四季リサーチ創立。2018年に複眼経済塾に社名変更し代表取締役・塾長。複眼経済塾(https://www.millioneyes.jp/)では、「自律した経済人を育てる」をモットーに、投資の考え方や方法を伝え、塾生が習得し自立していくためのサポートを行っている。
テレビ・ラジオなどの投資番組に出演多数。「会社四季報オンライン」でコラム「四季報読破邁進中」を連載。『インベスターZ』の作者、三田紀房氏の公式サイトでは「世界一『四季報』を愛する男」と紹介された。清泉女子大学にて就職講座を6年担当するなど、投資家以外への教育にも熱心に取り組んでいる。
『会社四季報の達人が教える10倍株・100倍株の探し方』(東洋経済新報社)がベストセラーになり、その後著書多数。
〈所属団体・資格〉
公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員、日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定AFP、国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト、神社検定1級、日本酒検定1級、唎酒師、西洋占星術士、大型自動車免許、趣味は日本酒と神社仏閣巡り。趣味で資格をとり特技にしていくのが得意。
●リンク
複眼経済塾
https://www.millioneyes.jp/
著者:渡部 清二
出版:サンマーク出版
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