すべての歯科医と歯学部受験者に捧ぐ
やっぱり、歯科医って素晴らしい!!

やっぱり、歯科医って素晴らしい!!

著者:奥原 利樹
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,518円(税込)

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本書の解説

風邪をひいた時にかかる内科医院も、歯が痛い時に行く歯科医院も、生きていくうえでは欠かせない存在だ。生まれてから一度も医師や歯科医のお世話になったことがないという人はほとんどいないのではないか。

一般の人々からすると、医師も歯科医も尊敬の対象だが、医療の世界ではそうでもないらしい。『やっぱり、歯科医って素晴らしい!!』(奥原利樹著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)によると、両者には明らかに上下関係が存在していて、「医学部合格は優秀、歯学部は二番手、もしくは都落ち」、「歯学部は医学部の滑り止め」という構図が長年はびこっているのだという。

歯学部生がコンプレックスを抱えやすい理由

この偏見のために、もともと歯科医を目指して、晴れて歯学部に合格した人までが、医学部へのコンプレックスにとらわれやすい現状が本書では指摘されている。
歯科医は医学部に合格できなかったから就く職業ではないし、ましてや医師になれなかった落ちこぼれでもない。両者は共に社会に必要な存在で、しかもその仕事内容はまったく別物だ。上下をつけることはナンセンスである。

では、なぜこんな偏見がはびこるようになったのか。そこには日本の偏差値偏重教育や、医学部への過度なエリート視の弊害が垣間見える。

日本にはいまだに「医学部に行く人は一番頭がいい」という考えが根強く残っている。実際、大学受験において医学部の偏差値は高く、進学校でトップクラスの成績の生徒には、進路指導で「医学部を目指してはどうか」と提案される。メディアでは「医学部合格高校ランキング」などと銘打って、ひたすらに医学部を持ち上げる。そこには決して「歯学部」は出てこない。歯学部も医学部と同様に優秀な生徒が集まる学部にもかかわらず、である。

アメリカでは医師より歯科医の方が人気

医師に負けず劣らず、歯科医も学生が目指すに値する魅力的な職業だ。高度な知識と技術を必要とし、患者の人生への貢献度も高い。

実際、アメリカでは歯科医の社会的地位は高い。職業ランキングや年収ランキングでは、矯正歯科医や一般歯科医が医師よりも上に位置している。受験でも歯学部は小学校から高校まで全教科においてトップレベルでないと入学できない超難関である。本書によると、これは台湾でも同様なのだとか。「医学部偏重」は日本特有の価値観であり、海外に目をやると事情はまったく異なる。

また、収入も決して医師に劣っているわけではない。歯学部卒業後、1年間の研修を終えて勤務医として勤めた場合の月給は25万円前後。その後はその人の成長度にもよるが、概ね25万円に加えて、勤務年数×10万円ほどが月給の目安となるそう。実力があるベテランの勤務医であれば年収1000万円以上稼ぐ人もいる。

そして、開業した方がお金を稼げるのは医師も歯科医も同じ。開業医となると歯科医としての技術だけでなく経営能力やコミュニケーション能力も収入に直結するが、経営が軌道に乗った歯科医師であれば年収3000万円以上になる可能性もある。

患者の生活への貢献度も社会的地位も、そして収入も、歯科医師は医師に何かが劣っているわけではないのだ。



本書は歯科医という職業の素晴らしさを発信することで、歯科医を志す人を勇気づけていく一方で、「『医者になれないから歯医者』程度の志であれば、歯科医になるのはやめたほうがいい」とも説いている。患者と真摯に向き合うことの大切さは、医師も歯科医も同じ。劣等感を持ったまま歯科医になったのでは、歯科医という仕事のすばらしさに気づくことができず、仕事上の困難に対して言い訳ばかり出てくるようになってしまう。

「これが自分の天職」と誇りを持って歯科医を続けている著者の言葉は、歯学部を目指している人や、医学部進学に挫折して歯学部に入った人、そして現役歯科医の心を揺さぶるはずだ。

インタビュー

■「歯学部は医学部より下」というヒエラルキーを壊したい

『やっぱり、歯科医って素晴らしい!!』について、まずは本書をお書きになった動機について教えていただければと思います。

奥原: まず、自分の仕事に誇りを持てていない方が、この業界には意外と多いと感じています。歯科医という仕事のすばらしさややりがいに気づいていただき、この仕事を好きになってもらうために、この本を書きました。

歯科業界ということですか?

奥原: それもありますが、歯科医を目指す過程でもそうです。一般の方は「医学部も歯学部も同じ医療でしょ」と考えると思いますが、医療の業界の中には「歯学部は医学部より下」という明確なヒエラルキーがあるんです。

私の子の大学受験の際に実際にあった話なのですが、高校で三者面談があるじゃないですか。うちの子は歯学部を目指していましたから、それを先生に伝えると「歯学部なら医学部とレベルが違うからそんなに勉強しないでも入れます!」みたいなことを言われたんですよ。何だか自分の職業を否定されたようで、とても悲しくなりました。少なくとも進路指導の際の学部選択の基準は、偏差値一択で学部の中身まで理解している先生はほとんどいないと感じました。少しでも偏差値の高い大学、学部に入れて高校の進学実績を上げる事のみに目がいっている気がします。
偏差値の高い医学部医学科に何人合格したのか?が高校の格付けになっているのです。
だって、高校別の「医学部合格者数ランキング」はよく見ますけど、「歯学部合格者ランキング」なんて見たことがないでしょう?

確かにそうですね。「理系の最高峰は医学部」とされているのはわかります。

奥原: 歯科医もこのヒエラルキーを知っていますから、自分の子どもを歯科医ではなく医師にしようとする。その根源は「自分の果たせなかった夢を子どもに託す」といった心理だったりするわけです。それはちょっと悲しいじゃないですか。

自分の仕事に誇りを持てていないという話とリンクするところがあります。

奥原: 実際「医師になりたかったけど、医学部に行くには学力が足らず、歯学部に進んで歯科医になった」という人は少なくありません。そういう人は、歯科医になっても「本当にやりたかったことじゃない」という気持ちを抱えながら仕事をすることになりやすいんです。歯科医という仕事にやりがいを感じにくい。こういった現状は変えないといけないと思っています。

海外に目を向けると歯科医の地位は医師に劣るものではないというお話が本の中にありましたね。

奥原: そうです。世界的に見れば、歯科医の社会的地位は相当高いです。それに社会的な地位は別として必要な仕事じゃないですか。これから高齢者が増えてきて活躍の場はもっと広がるはずですし、単に虫歯に詰め物をするだけではなくて、多様な仕事ができる、本当に面白い職業だと思うんですよね。そういうことを、歯学部の学生の方や若い歯科医の先生方、そして大学受験を控えている高校生やその親御さんに知っていただきたいのです。

歯科医より医師が上位というヒエラルキーは奥原さんが歯科医になられたころからあったのでしょうか?

奥原: 僕の世代はまだ歯学部のレベルは今よりは高かったですから、そこまで顕著ではなかったように思います。それこそ全国トップレベルの中高一貫校や公立トップ高から歯学部に進む学生もかなりいました。

本書では歯科医を取り巻く環境についても書かれていましたね。勤務医でいるには働き口が限られているというお話にはハッとさせられました。

奥原: 医師であれば、内科や外科、耳鼻科、眼科というふうに各専門に分かれているので、総合病院であれば勤務医としてのポストはたくさんあります。ただ、歯科は口腔外科だけですから、一つしかないことになります。なので総合病院に就職できる勤務医はほんの一握り。本当は歯科も小児歯科、矯正歯科、障がい者歯科など専門によって枝分かれしているのですが、病院では「歯科は一つ」と捉えられたまま現在に至っています。

個人病院の勤務医でいつづけるのが難しく、「開業せざるをえない」というのが歯科医の世界だと指摘されていましたが、歯科医院も飽和状態だと指摘されることがあります。この指摘は実際に開業している奥原さんから見てどのように感じられますか?

奥原: これはどこを目指すか次第なんですよ。20代から50代の健康な患者さんをターゲットにしていたらそれはレッドオーシャンだと思います。どの職業でも一緒だと思うのですが、今の時代、世の中のニーズをきちんと把握して発想の転換、柔軟な考え方をしなければ生き残っていく事は難しいのではないでしょうか?

例えば体が不自由で歯科医院に通ってこれない高齢者のために訪問歯科(往診)を始めてみる。院内だけで患者様を待つだけではなく、思い切って医院の外に出てみるとまだまだ歯科医のブルーオーシャンは存在しています。特養や老健に週に1回口腔ケアに出かけても一日に診れる患者さんは100人中せいぜい10人くらいが限界です。だとすると、他の90人の患者さんはどうなっているのかという話なんですよ。高齢者施設では誤嚥性肺炎で亡くなる人がたくさんいるわけじゃないですか。誤嚥性肺炎は不潔な口の中の唾液の中の菌を飲み込んでしまうことで起こるので、口腔ケアは歯科医の大切な仕事なんです。

そういったところに目をつける歯科医の方は少ないのでしょうか?

奥原: 今は偏った方向に人が流れているといいますか、たとえばインプラントや審美歯科の方にみんな行きがちですね

高齢化社会ならではの活躍の場と言うと、今おっしゃったような高齢者施設や居宅への往診などになるのでしょうか?

奥原: そうですね。ただ、訪問にいくとなると院内と違い、沢山の病気を抱えている方のところに行くわけで、全身疾患や服用している薬の知識も必須になります。そこに不安を持つ歯科医も多いのではないでしょうか?

自分の歯科医院でやっている分には、おおむね健康で自分の意思でやってくる患者さんが相手なのですが、訪問だと認知症で意思確認ができない方もいますし、中にはじっとしていられずに暴れてしまう方もいます。そうした環境で、もし誤嚥などで患者様が急変してしまったら責任を取れるのか?という不安心理も働くのだと思います。
そして、志があっても、自分の医院の休診日に訪問をしていたら体力的にも精神的にも過労で潰れてしまいますから、新たに訪問用に人を雇わないといけません。初期投資や人件費もかかります。前述した心理的要因と経営的不安が重なって、訪問歯科を行っている医院の数はこの10年ほどほとんど増えていないんです。

ただ、奥原さんはそれをやっていらっしゃる。

奥原: やってみるとすごくおもしろいです。やりがいを感じますし、すごく感謝もされます。また一人の患者様を様々な医療、介護職がサポートしていますので本当の意味での「チーム医療」が実感できます。お医者様からもリスペクトされます。

■レッドオーシャン?歯科医での開業で成功するために必要なこと

開業医としてやっていくうえで、地域に愛される歯科医院をいかにつくるかといったところでご意見はありますか?

奥原: よく言われるように開業医には「接客業」の要素もあって、患者さんに寄り添う気持ちはとても大事なのですが、いくら「痛かったですね」「辛かったですね」と言葉で寄り添い共感しても、実際に痛みが取れなかったとしたら、はたしてその歯科医院医に通い続けるでしょうか?その意味では信頼される歯科医師になるには技術と気持ちの両輪が揃っていないとダメだと思います。

基本的には技術があってなんぼの世界です。とびぬけた技術は必要ないですが、基本となる平均的な技術は持っていないとやはり患者さんから信頼されません。あそこに行ったら痛みがなくなったとか、あそこに通ったら歯がきれいになったという安心感と信頼の積み重ねでファンが増えていく。結局のところ、それをコツコツ積み重ねていくしかないんだと思います。

奥原さんの歯科医としての誇りを感じられる本でした。この仕事をしていて一番うれしい瞬間について教えてください。

奥原: やはり自分の存在価値を認めてもらった時です。抱えていた悩みを解決し、目の前の患者さんが笑顔を取り戻し、自分のしたことに感謝し、評価してくれた時は、この仕事をやっていて本当によかったと思います。

私たちが思っている以上に歯にコンプレックスを抱えている方はたくさんいらっしゃいます。それを治し、きれいにしてあげることでコンプレックスが少しでも解消する手助けができたらと思ってやっています。

今回の本は歯科医の方だけでなく、歯学部生の方や、医学系の学部への進学を考えている高校生に向けて書かれています。また、高校生の親御様にも向けられているように思いましたが、この本を通じてどんなことを伝えたいですか?

奥原: 学部を選ぶ際に、偏差値の上下だけで見ないであげてほしいということですね。受験するときに「医学部もいいけど、歯学部もいいところがたくさんあるよ」と親が言ってあげれば、もし医学部に落ちて歯学部にいくことになっても、自己肯定感が下がらずに学生生活を送れると思うんです。

学生時代の親のひと言は影響力が大きいじゃないですか。「医学部も歯学部もいいところがある、医師も歯科医もどちらも素晴らしい仕事だよ!」と言ってあげるだけで受験生の気持ちはすごく楽になるはずです。

この本を受験生の親御さんに読んでほしいと思うのは、この本を通じて歯科医の仕事や、歯科医の社会との関わり方について知っていただき、「頭がいいから医学部へ」という偏差値という固定観念から一歩踏み出していただきたかったからです。

最後に読者の方々にメッセージをお願いいたします。

奥原: この仕事を30年以上やっていますけど、一度も飽きたことがありません。医師の世界のように専門が細分化されているわけではないので、いろいろなことにチャレンジができるという良さがあります。だから好奇心が旺盛で、広くいろんなことを学び、チャレンジしてみたいという人は医学部より歯学部の方が向いているかもしれません。

「医学部が最高峰」ということで医学部を目指すのではなく、生まれ持った自分の適性にきちんと向き合って進路を決めていただきたい。この本がその助けになればうれしいです。

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1月7日よりaudiobook.jpにて配信スタート!
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書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 1章
    歯科医の誤解を解いていきたい
  3. 2章
    これから歯科医を目指す君へ
  4. 3章
    真の「かかりつけ医」とはなんだろう
  5. 4章
    私が「街の歯医者さん」になるまで
  6. 5章
    「街の歯医者さん」は私の天職
  7. エピローグ
  8. おわりに

プロフィール

奥原 利樹(おくはら・としき)
奥原 利樹(おくはら・としき)

奥原 利樹(おくはら・としき)

1963年長野県松本市生まれ。1989年、広島大学歯学部卒業。1996年、埼玉県小手指に奥原歯科医院を開業。2007年に現在の自社ビルに移転し開業28年目。一般診療のみならず、20年前から居宅、施設への訪問歯科治療(診療)も積極的に行っている。
「一人ひとりの患者さんの気持ちに徹底的に寄り添う」姿勢を守り続け、現在はチェアー(診察台)12台、歯科医師6名を含む総スタッフ50名の医療法人 光志会理事長として、また現役歯科医師として、現場で若いドクターの教育に奮闘中。長女(歯科医師)、長男(歯学部)の二児の父でもある。2021年よりSDGs、CSRを実践するため、障害を持つ方の就労継続支援や「福祉マーケット」の定期的な開催、運営にも力を入れている。

やっぱり、歯科医って素晴らしい!!

やっぱり、歯科医って素晴らしい!!

著者:奥原 利樹
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
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