BOOKREVIEW この本の書評

ここ数年で「ADHD(注意欠如・多動性障害)」という言葉は広く知られるようになりました。
ADHDは、

  • 待ち合わせや締め切りが守れない
  • 部屋を片付けられない
  • 忘れ物やミスが多い

といった、仕事や学業に直結してくる症状が特徴的で、だからこそ当てはまる人には「社会人失格」「ダメ学生」といった評価が下されやすくなってしまいます。

もちろん人によって程度の差はありますが、もしあなたがこうした症状に心当たりがあるなら、そしてもし身近に心当たりのある人がいるなら、ADHDを「障害」ではなく「脳のクセ」だと考えてみると、気が楽になるばかりか、仕事やプライベートで抱えている問題についても解決の方法がみつかるかもしれません。

「やるべきこと」より「やりたいこと」をやってしまう

本書は、ADHDを「障害」ではなく「脳のクセ」だと捉え、そのクセを知ることでADHDと上手に付き合っていくことができるとしています。

たとえば、「その時やりたいこと」を優先してしまい、「本来やるべきこと」を後回しにしてしまうというのはADHDの傾向がある人によくある行動です。

これによって、優先順位の高い仕事を把握しつつも後回しにして、「自分のやりたい仕事」を先にやってしまうということが起こります。今やりたいことを衝動的にやってしまうというのがADHD脳の人のクセとしてあるようです。

この行動を改善するために有効なのが、「途中で放り出してもいい」と楽な気持ちで、優先順位の高い仕事の方に5分だけ手をつけてみること。これだけでもやるべき仕事がそのまま後回しにされ、気づいた時には挽回不能になっている、というリスクは減るはずです。

仕事の締め切りを守れない への効果的な対策は…

また、仕事を締め切りまでに仕上げられないことがよくあるという人も、ADHD傾向のある人かもしれません。

ADHD脳の特徴として「完璧主義」な一面が挙げられます。どんな仕事するにせよ、最初からきっちりやらないと気が済まないのです。

これは必ずしも悪いことではありません。ただ、作業工程の全体を見ないままこれをやってしまうと、どうしても効率が悪くなってしまいます。

作業の全体像を見極めて、きっちりやるべきところとそうでないところを判断するのは、慣れないと難しいこと。しかし、「一生懸命取り組んでいるのに、いつも締め切りに間に合わない」という人は、この点を意識してみると現状を改善するきっかけになるかもしれません。

本書の著者で精神科医の司馬理英子さんは、ADHDについて「一番の問題は自信を失ってしまうこと」だとしています。

ADHDの傾向がある人は、ベストを尽くしているのに周りから怒られたり、悪気はないの相手を怒らせてしまったりといってことがままあり。落ち込むこともあるかもしれません。

でもそれは、あなたがダメな人だからではなく、自分の脳のクセの扱い方がわかっていないからです。本書ではその扱い方につい、細かく解説されていますので、ADHDと診断されたことがある人も、診断されてはいないもののその傾向がある人も、参考にしてみてはいかがでしょうか。

(新刊JP編集部)

BOOKINFO この本の情報

書籍情報

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マンガでわかる 私って、ADHD脳!?

定価 :
1,300円+税
著者 :
司馬理英子
イラスト :
しおざき忍
出版社:
大和出版
ISBN :
4804762728
ISBN :
978-4804762722

著者プロフィール

司馬Shiba理英子Rieko
司馬クリニック院長。精神科医。医学博士。
岡山大学医学部、同大学院卒業。1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てるなか、ADHDについての研鑽を積む。1997年、『のび太、ジャイアン症候群』(主婦の友社)を刊行。ADHDをはじめて日本に本格的に紹介した同書は、大きな反響を呼び、ベストセラーとなる。同年帰国し、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニックである「司馬クリニック」を開院。子どもと大人の女性の治療を行なっている。
著書に『新版 ADHDのび太、ジャイアン症候群シリーズ1〜3』『のび太、ジャイアン症候群シリーズ4〜5』『シーン別アスペルガー会話メソッド』(主婦の友社)、『クズと上手につきあうコツ』(すばる舍)、『「片付けられない!」「間に合わない!」がなくなる本』『どうして、他人とうまくやれないの?』『「発達障害のわが子」と向き合う本』『「ADHD脳」と上手につき合う本』(大和出版)などがある。

この本の目次

  1. - 第1章 -
    「ADHD脳」って何?
  2. - 第2章 -
    仕事の「困った!」をなんとかしたい
  3. - 第3章 -
    片付けの「困った!」をなんとかしたい
  4. - 第4章 -
    感情・体調の「困った!」をなんとかしたい
  5. - 第5章 -
    「ADHD脳」と仲良くしながらラクになる!

INTERVIEW 著者インタビュー

「ADHDは天才肌が多い」は本当か

―― まず「ADHD」という言葉なのですが、ここ数年で急速に広まった印象がありますね。

司馬:ADHDはもともと子どもの領域でよく知られていました。大人にもADHDの傾向がある人がいるということが知られてきたのは、この10年ほどの間だと思います。

―― よく耳にする言葉だけに、正確に理解することなくわかった気になってしまいやすいのもADHDの特徴です。あらためて、ADHDとはどのようなものなのか教えていただきたいです。

司馬:ADHDの傾向がある人の特徴は大きく分けて3つあります。

一つは、集中力の持続が困難で、不注意やケアレスミス、忘れ物や落し物が多かったり、やらなければいけないことを忘れてしまったりします。

二つ目は「多動性」といって、動きが多くて、落ち着きがないこと。子どもの場合はいつもはしゃいでいる感じなのですが、大人は細かい動きが多くなる傾向があります。

もう一つは「衝動性」といって、考えずに物事に反応してしまうという点が挙げられます。たとえば、欲しいと思ったら反射的に買ってしまったりというようなことですね。

普通は、欲しいものがあっても、「待てよ、今は我慢しようかな」というように抑制が働くのですが、その抑制が効きにくいのが特徴です。思ったらそのまま行動してしまう。

―― ADHDについて、子どもについては昔から知られていたというお話がありましたが、子どもの頃は今お話しいただいたような特徴がなかったにもかかわらず、大人になってからADHD傾向の特徴が出始めることもあるのでしょうか。

著者・司馬理英子氏の写真 著者・司馬理英子氏

司馬:そういう方もいるのですが、環境面の変化に要因があるケースが多いです。

どういうことかというと、子どもは基本的に学校にいって家に帰ってという生活で、何かあったら親がフォローしてくれたりもします。でも社会人になると、仕事があって家庭生活があって、人によってはそこに子育ても重なる。

学校生活くらいのシンプルさであれば何とかやれていたものが、大人になると処理しなければいけないことが急に増えますし、これまで家で親にサポートされていたものが、自分が親になったら今度はサポートする側になるわけです。

そういうところで処理が追いつかなくなって、トラブルが起きた後で、もしかしたら私はADHDなんじゃないかと気づくケースは多いかもしれませんね。

―― 司馬さんの著書『仕事&生活の「困った!」がなくなる マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』(しおざき忍画、大和出版刊)を読むと、ADHDは「ADHDかそうじゃないか」という白か黒かの話ではないことがわかります。

司馬:血圧が高い低いというのと同じであくまで相対的な話で、この数値に達していないから大丈夫という問題ではありません。

先程お話しした症状が生活のなかにたくさんあって、なんとなく困っていたり、周囲の人との間でトラブルが起こっているようでしたらケアが必要ですし、診断を受けた方がいいかもしれません。

―― この本では、ADHDを「障がい」ではなく「脳のクセ」と捉えています。この理由について教えていただきたいです。

司馬:「障がい」という言葉自体、生活の中に馴染みにくいというのがひとつあります。それであれば「脳のクセ」と捉えたほうが、本人も周りの人も「そのクセを理解したうえで、どう取り組んでいくか」という前向きな行動につながりやすいのではないでしょうか。

―― ADHDだと診断された場合、医師の方からはどのような指示やアドバイスが考えられますか?

司馬:ケースにもよりますが、たとえば忘れ物があまりにも多いということであれば、どうすれば忘れ物を減らせるのか、というアドバイスはできますし、どうすれば周囲の人のサポートをより集められるかといったところについてもお話できます。

ただ、それだけではなかなか改善しない方もいて、そういった方には薬を使った治療をすることもあります。

―― 日常生活に困難を覚えることが多い一方で、ADHDの人にはいわゆる「天才肌」の人も多いと聞きます。これは本当なのでしょうか。

司馬:ありえるお話だと思います。通常、人はそれまでの自分の経験にしたがって未来を予想します。いわば、「経験を通して考える」という、ある種の抑制にもとづいているわけです。

ADHDの場合、そういった抑制ですとかリミッターがない方が多いので、それが正しいかどうかはともかく、他の人が考えもしない発想が出てくることはあるのではないかと思います。

全体の5% どの職場にもいるADHDの同僚との付き合い方

―― 司馬さんが院長をつとめる「司馬クリニック」には、ADHDの傾向がある方がいらっしゃるかと思います。相談事として多いものがありましたら教えていただきたいです。

司馬:「忘れ物」や「集中力が続かないこと」に比べると目に見えやすい症状だからだと思いますが、「片付けられない」という方が圧倒的に多いです。

片付け方がわからないという方も、片付けた状態をキープできないという方もいるのですが、どちらにしても家族にうんざりされていたり、必要なものが見つからなくて探すのに余計な時間を使ってしまったりといった問題を抱えがちです。そして、そんな自分に自分でうんざりしてしまう。

その状態が続けば、余計に周囲の人とのトラブルが増えます。悪循環ができてしまうんです。

―― ADHDは特別なものではなく、学校や職場など様々な場所にその傾向がある人はいます。たとえば、職場にADHD傾向のある人がいる場合、同僚としてはどんなケアをしていけばいいでしょうか。

司馬:ADHDは全体の5%ほどなので、30人の部署だとしたら1人か2人はその傾向がある人がいるということは知っておいていただきたいです。

同僚の場合、相手も大人ということで「このくらいのことはわかっているよね」と、あまり細かいことまで言いにくいところがあるのですが、明日が締め切りの企画書や報告書など「普通わかっているよね」と思うようなことも、ADHD傾向のある人は忘れてしまうことが珍しくありません。

なので、普通の大人に対するよりはこまめに、「どうなってる?」とか「ちょっと見せて」とか声かけをしていくのがいいと思いますね。

ADHD傾向のない人からすると「それをこっちに言わせるの?」というところもあるでしょうが、ADHD傾向のある人は、たとえば忘れ物が多かったとしても能力自体が低いわけではないので、相手の能力を生かす意味でも、ケアをしていただきたいと思います。

―― 同僚としてはADHDであることを自覚させた方がいいのかどうかという問題もあります。

司馬:本人は問題を認識していなくても周りの人が迷惑をかけられている場合もあるので、あまり困るようなら、自覚してもらった方がいいのではないでしょうか。

「君にはこういうところがあって、こういうことで周りの人が困っている」ということをわかってもらうことが必要ですが、それだけで終わるのではなくサポートもしていっていただきたいですね。

―― また、自分の息子や娘がADHDだという時にすべきことも教えていただきたいです。

司馬:忘れ物が多かったり、落ち着きがなかったりしても「何回言ったらわかるんだ」というような𠮟り方はせずに、何度も根気強くやるべきことを伝えることです。脳の持つクセのお話ですから、叱ったり叩いたりすることで良くなりはしません。

それよりも、繰り返し忘れ物がないかリマインドしてあげたり、今日は何が必要なのか聞いてみたり、自分でチェックするスキルが伸びていくような育て方をする方が改善の可能性があります。

ADHDの場合、改善したと思ってもまた元に戻ってしまったり、一度獲得したスキルをキープできないこともあるのですが、根気よく取り組んでいただきたいです。

―― ADHDという言葉は数年間で急に広く知られるようになりましたが、まちがった情報が伝わってしまっている例はありますか?

司馬:まちがった情報というほどでもないのですが、「多動」や「注意力散漫」といった症状に対して、何でもかんでもADHDが原因にされがちなのは気になります。

虐待を受けて育ってきた子どもにADHD症状が出ることがあるということが最近知られはじめたのですが、同じ症状でもADHDなのか虐待なのかで対処は変わってきます。

ただ、もともとADHDが先にあって、その症状が原因で虐待を受けやすいということもあるので、問題は単純ではないのですが。

―― 最後になりますが、ADHDの方と、そのご家族、同僚など周りにいらっしゃる方々にメッセージをお願いできればと思います。

著者・司馬理英子氏の写真 著者・司馬理英子氏

司馬:もしかしたら自分はADHDかもしれないと思っている方は、医師の診断を受けるのもいいのですが、本を読んだりして、ADHDについて情報を得ることも大切です。

そして、もし診断の結果ADHDだったとしても、日常の困り事についての対処法はいろいろなものがありますし、症状をするために必ずしも病院に通う必要もありません。

知識を得ることで、気持ち的に楽になる部分はあるかと思いますので、まずはADHDを知る取り組みをしていただきたいなと思います。

(新刊JP編集部)
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マンガでわかる 私って、ADHD脳!?

定価 :
1,300円+税
著者 :
司馬理英子
イラスト :
しおざき忍
出版社:
大和出版
ISBN :
4804762728
ISBN :
978-4804762722

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