書評

■男子ラグビーにアメフト スポーツ界で女性コーチが活躍する理由

ラグビー日本代表の五郎丸歩選手がキックをする前に必ずとる「五郎丸ポーズ」は、2015年のラグビーワールドカップですっかり有名になった。

だが、このルーティンは五郎丸選手が一人で編み出したものではない。その誕生に一役買ったと言われているのが、ラグビー日本代表でメンタルコーチを務めた荒木香織さんである。また2015年、アメフトでもNFLで史上初の女性コーチが生まれたことも見逃せない。

コーチング・ビジネスのすすめ:女性に最適!ゼロから始める夢資格』(五十嵐久著、合同出版刊)によると、荒木さんやNFLの例にかぎらず、昨今のコーチングの世界での女性の活躍はめざましく、この仕事への女性の適性には注目が集まっているようだ。

■コンサルティングとは違う「コーチング」という仕事

しかし、そもそもコーチングとはどんな仕事なのか。
コンサルティングやカウンセリングと混同されがちだが、実はこんな違いがある。

コンサルティングの場合、クライアントにヒアリングをした上で、コンサルタント自身が持っている知識、情報、ノウハウを駆使してアドバイスをする。

これに対しコーチングの場合、根底にあるのは「答えはクライアント自身がもっている」という考え方だ。そのためコーチはアドバイスをするのではなく、クライアントの中にある思いや考えを引き出すことに注力する。

つまり、コーチングはコンサルティングに比べ、より高い水準の「聴く力」が求められるというわけだ。

また、カウンセリングとの違いは「相手にする対象」にある。
カウンセリングの場合、その対象は精神的に悩んでいる人や、何か問題を抱えている人だが、コーチングは目標達成に向けて取り組んでいる人が主な対象になる。

相手が異なれば、当然扱う話題も異なってくる。カウンセリングではクライアントの気持ちを整理することに重きが置かれるため、「過去」の話を傾聴することがメインになる一方、コーチングでは「こうありたい」という未来志向的な話題が中心になるのだ。

■女性がコーチングに向いている三つの理由

では、なぜ女性の方がこの仕事に適性があるのだろうか。
著者の五十嵐さんによると、そこには三つの理由がある。

(1) 女性は観察力に長けている
女性は男性よりも観察力に長けていることが多く、さりげなく相手をほめたり、話題を作るのが得意。それゆえ相手は心を開きやすく、その後のセッションもスムーズに進むのだという。
(2)男性に比べ、女性は答えを急がない
とかく競争意識が高い傾向がある男性は、物事の回答にできるだけ早く辿り着こうとする一方、女性は話題が多少それてもイライラせず、あちこち寄り道をしながら答えに辿り着くことも厭わない。

そのため、じっくりと会話の寄り道を楽しみつつ相手の話に共感したり、相手の心に寄り添ったりといったことがしやすいのだ。
(3)男性は、同性よりも女性の言うことを聞き入れやすい
クライアントが男性の場合、同性のコーチから言われることは素直に受け入れにくいが、女性の言うことは素直に聞く傾向が強い。五十嵐さんの経験上、この傾向は、経営者のような人の上に立つ男性ほど顕著なのだという。

本書には、実際にコーチとして活躍している12人の女性たちの声も紹介され、コーチングのアプローチや考え方を垣間見ることができる。

人が目標に向かうことをサポートし、伴走するコーチングは、大きなやりがいを伴う仕事のはず。今後どんなキャリアを歩んでいくか決めかねているなら、女性が本来的に持っている性質を生かせるこの仕事を選択肢に加えてみてはいかがだろうか。

(新刊JP編集部)

書籍情報

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コーチング・ビジネスのすすめ: 女性に最適! ゼロから始める夢資格

定価 :

1,400円+税

著者 :

五十嵐 久

出版社:

合同フォレスト

ISBN :

4772660747

ISBN :

978-4772660747

五十嵐 久

株式会社コーチビジネス研究所代表取締役
淑徳大学「プロコーチ入門講座」講師
大学卒業後、中小企業支援機関に勤務。中小企業診断士として1万社以上の資金調達支援のほか、起業支援、再生支援、経営相談業務等に携わる。1992年人材育成コンサルタント養成アカデミー、産業カウンセラー協会等で人材育成手法やカウンセリングについて学ぶ。その後、多くの機関でコーチングを学びコーチとして活動を開始。2015年、コーチングの普及と発展を目指して、有志と一般社団法人東京コーチング協会を設立し共同代表に就任。
現在は、淑徳大学講師としてコーチングを教える傍ら、プロコーチの養成、研修講師や中小企業診断士として活動する。

インタビュー

■妻が「夫を教育するため」に学びたくなるスキル

著者写真

休みの日は寝てばかりいる、靴下をリビングに脱ぎっぱなしにする、晩御飯がいるかどうかの連絡をよこさない……夫のちょっとした言動にイライラし、「夫を教育せねば」と思ってしまったことはありませんか。

『コーチング・ビジネスのすすめ』(合同フォレスト刊)の著者、五十嵐久さんによれば、まさにこうした状況で威力を発揮するのが「コーチング」という手法だといいます。

コーチングとは、対話によって相手の自己実現や目標達成を図る技術。元々はビジネス目的で使われることも多い技術ですが、コーチングを学び、夫婦関係の改善にいかす女性は少なくないそうです。

「ここ2、3年でコーチングを学ぶ女性が増えている」とも語る五十嵐さん。コーチングという仕事がどのようなものなのか、そして、なぜ女性が今、コーチングを学びはじめているのか等を中心にお話をうかがいました。

■コーチングを学んだ人に共通して起こる、ある変化

――まず、そもそもコーチングとは、どのような仕事なのかを教えていただけますか。

五十嵐:クライアント(相談者)と1対1で対話し、クライアントが抱える課題、達成したい目標などに対して、どのような行動をとっていけばいいのか、クライアント自身に気づきを促すこと。これがコーチングの提供すべき価値のなかで重要な部分です。

そのような対話を実現するためにコーチに求められるのは、相手の話をきく力。相手のことを認めた上で、しっかりと話をきいていく。相手にとって文字どおり鏡のような存在になる必要があります。

逆に、コーチとしてやってはいけないのが、コーチ自らが課題を解決してしまおうとすることです。コーチングの世界における大前提は「答えはクライアント自身が持っている」ですから。

――今回の書籍では、「コーチングという仕事は女性に向いている」というメッセージが一貫して書かれています。なぜコーチングは女性に向いているのでしょうか。

五十嵐:その理由のひとつに、女性の観察眼の鋭さがあります。相手の髪型や洋服、持ちものの変化に敏感なため、「今日のネクタイの色、とてもお似合いですね」といったように、さりげなく相手をほめたり話題をつくることに長けている女性は少なくありません。

コーチングは基本的に、1回のセッション(対話)あたり30分から1時間、頻度が月2回、期間は最低でも3ヶ月といった形で進めていきます。ある程度、長期戦になるからこそ、今お話したような些細なやりとりの積み重ねが信頼構築に欠かせません。

――ちなみに女性たちは、どのような動機でコーチングを学びはじめるものなのでしょうか?

五十嵐:それは人によって本当に様々です。ただひとつ傾向としていえるのは、「なにがなんでもプロのコーチとして稼げるようになりたい!」という方だけではないことですね。子育て、あるいは夫の教育など(笑)、家族生活をより充実させるために学びはじめる方も少なくありません。

それと仕事に関連していえば、「マネージャーになったけれど、部下の扱いに困っている」ということで、コーチングのノウハウを仕事に活かそうとするようなケースもあります。

――女性にかぎらず、ということで構わないのですが、コーチングを学ぶことで、どのような変化が期待できるのでしょうか。

五十嵐:これは自分自身、コーチングの仕事をするようになってから感じたことなのですが、クライアントに対して、色々な問いかけをしていくなかで、「自分はどうなんだ?」と自問自答する機会がかなり増えました。これは大きな変化でしたね。

そして自問自答の機会が増えたことによって、自分自身の考え方や生き方の指針に気づかされることが多くなりました。

――クライアントの変化を促すなかで、コーチ自身も変化を促されるというわけですね。

五十嵐:そのとおりです。それに、クライアントの方がお話される内容そのものも学びが多いですし、そこから刺激を受けてコーチ自身も「もっと勉強しなきゃ」と自然に思うようになっていく。この点は、コーチングという仕事ならではのやりがいでしょうね。

――今のようなお話をうかがっていると、コーチングは、相談する側もされる側も前向きになれるものなのだなと感じます。最近、増えつつある「社内にカウンセラーを常駐させる」動きのように、「社内コーチ」がいてくれたらいいのにと思いました。すでに、そういう動きは見られるのでしょうか。

五十嵐:数としてはまだ少ないですが、社内に専属のコーチを設置する動きはあります。

カウンセリングの場合、すでに心を病んでしまっている人を対象とし、いわばマイナスの心をゼロに戻すための悩み相談に終始せざるを得ません。

ですが、コーチングではその一歩手前で、心は病んでいないけれども、自分の将来について悩んでいる人が対象になります。

「まだハッキリと方向を定めることはできていないけれども、目標さえ決まれれば頑張れる!」という人が悩みを打ち明けられる場をつくる上で、コーチングという手法は有効だと私は考えます。

同様に、小中学校において、スクールカウンセラーだけでなくスクールコーチも常駐させることで、「意欲はあるのに、うまく自分を方向づけられない」子どもが自分の目標を見つけ、実現に向けて成長していくためのサポートが充実していけばいいなとも思っています。

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■「経験がない」ことがプラスに働く コーチングという仕事の面白み

――インタビューの前半で、マネージャー職に就いたばかりの人がコーチングを学ぶケースがあるとお話されていました。その意味では、「人の上に立つ」人こそ、コーチングを学ぶことの意義は大きいともいえるのでしょうか。

五十嵐:それはいえますね。ある企業では、経営者がコーチングを学び、「これはいい」と思ったことがきっかけで、全社的に学びの機会をつくった結果、社内の雰囲気がとても良くなったという例があります。

さらに、「人の上に立つ人こそ……」という意味でいえば、最近、本業に活かそうと看護師の方でコーチングを学ばれる方がすごく増えているのですが、医師の方はまだまだという印象です。もっと多くの医師にコーチングを学んでいただきたいと思っているのですが。

――なぜ医師の方にコーチングが必要だと思われるのですか。

五十嵐:患者さんの話をほとんど聞かず、ほんの少しのやりとりだけして薬を出せば終わり、というような医師がまだまだ多いように感じるからです。

でも、これからますます、患者さんの話をしっかり聞き、体全体を見て……ということが医師側に強く求められるようになっていくのではと思います。その意味で、患者さんの話にしっかりと耳を傾けられる医師がもっと増えるといいなと思っているんです。

――話は少し変わりますが、五十嵐さんは"後輩"コーチから相談を持ちかけられることも少なくないかと思います。どのような悩みを持っている人が多いですか。

五十嵐:よく持ちかけられるのは「自信が持てない」という悩みです。「クライアントと関わっていく上で自信が持てない。どうすればいいか?」と。

ただ、こればかりは即効薬はないので、メンター・コーチとのセッションを重ね、コーチとしてのスキルを磨き、少しずつ自信を高めていくしかありません。

この話に関連して、コーチングを生業にしていく上で重要な点がもうひとつあります。それは、「自信はあったほうがいいが、ありすぎてもダメ」だということです。

――インタビュー前半で話に出た、「コーチ自ら課題や問題を解決してはいけない」ということと繋がりますか。

五十嵐:繋がりますね。自信を「経験」と言いかえてもいいのですが、それらのものが邪魔して、コーチとして機能できなくなるケースは少なくありません。

知識や経験があるために、ついコーチがクライアントに「こうしたほうがいい」とアドバイスしてしまったり、クライアントの行動を、ある方向へ持っていきたいがために誘導尋問のような聞き方をしてしまうといった具合です。

――では、極端な言い方をすれば、経験がないことがプラスに働いてコーチングがうまくいったこともあるのですか。

五十嵐:GE(ゼネラル・エレクトリック)のCEOを務めたジャック・ウェルチが、以前、自分よりもかなり年下の20代女性をコーチにつけてうまくいったのは、まさにそういうケースだと思います。

彼女は業界知識をまったく持っていませんでした。でも、だからこそ素朴に「これはどうなってるんですか?」とウェルチに質問できた可能性は高いわけです。そして、そのように素朴な質問を受けるなかで、ウェルチも自分の頭のなかを整理でき、結果を出せた。

コーチングの世界には、「相手を穢さない質問」という言葉があります。これは、質問する側が意図を持たず、あくまでニュートラルな気持ちで、「聞きたいから聞く」質問を指します。これができると、いいセッションになることが多いのです。

――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。

五十嵐:コーチングは、プロのコーチを目指す人にはもちろん、そうでない人にも役立つ内容が多く含まれています。というのも、人が生きていく上で大切な要素が詰まっているからです。

インタビューの序盤でも少し話しましたが、コーチングの世界では「相手を認める」スキルをとても重要視しています。

誰でも「人から認められたい」という欲求は持っているもの。その意味で、コーチングを学ぶことにより「人の認め方」に関するスキルを身につければ、人間関係はかなり良好になるはずです。

一人でも多くの方にコーチングを学んでいただき、社会のなかのわだかまりや争いごとが少しでも減っていけば、と思っています。

(新刊JP編集部)

目次

  1. 第1章だから女性はコーチに向いている
  2. 第2章コーチングで夢をかたちに!―女性コーチの実例12
  3. 第3章ありのままの自分を認める
  4. 第4章「フォー・ミー」ではなく「フォー・ユー」
  5. 第5章コーチは鏡のような存在になる
  6. 第6章コーチングは単なるスキルではない
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