子どもを「デキる社会人」に育てるために親ができるすべて
デキる社会人になる子育て術

デキる社会人になる子育て術

著者:鬼木 一直
出版:幻冬舎
価格:1,200円+税

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本書の解説

子育て中の親としては、子どもの学校の成績や、どの学校に進学させるかといった「学歴」に関わる部分は気になるところです。しかし、いい学校に入れて学歴を高めることができれば、親としての教育は成功というわけではありません。

今の社会では、学歴だけで成功は保証されていません。社会に出てからどうやって自立して生きていくか、どうやって才能を発揮するか、どうやって周りの人と協力して物事に取り組むか。こうした能力を子どものうちに育てておくことも、親の仕事なのかもしれません。

”社会人の能力は会社で鍛えられる”は大間違い

「”社会人の能力は会社で鍛えられる”は大間違い」と語るのは『デキる社会人になる子育て術 元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』(幻冬舎刊)の著者で東京富士大学の鬼木一直教授です。

鬼木教授が「社会人の能力」としているのは、経済産業省が提唱している「社会人基礎能力」の「前に踏み出す力(一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力)」「考え抜く力(疑問を持ち、考え抜く力)」「チームで働く力(多様な人々とともに、目標に向けて協力する力)」の3つ。これらは、子どものうちからの家庭教育によって育むことができるものなのです。

例えば、「前に踏み出す力」とは、より具体的に言えば主体性や働きかけ力、実行力などを指します。これらは家庭内のどんな取り組みによって育まれていくのでしょうか?

おもちゃの遊び方は教えない

大人は何かを買った時に、まずは「トリセツ」を見て機能や使い方を確認します。子どもにおもちゃを買った時にも、ついそれをやってしまいがちですが、あえて遊び方を教えないことで、子どもは自分で遊び方を考えるようになります。そうした些細なことが自分で発想したイメージを実行に移す力に繋がります。

おもちゃの目的は「楽しく遊ぶこと」であって「おもちゃ本来の機能を使いこなすこと」ではありません。間違った使い方をしていても、危険でない限りあえて正さずに、好きに遊ぶのを見守るのがいいそうです。

「失敗した時」こそ褒める

「褒めて育てる」ことの大切さは広く知られています。しかし、褒めるのはタイミングが大事。成功した時だけ褒めていると、子どもの心理は「確実にできることを成功させて褒められたい」という方向に向いてしまいます。

勇気を持って物事にチャレンジする力を育むために、何かに成功した時だけでなく、ちょっと難しいことにトライして失敗した時に、そのプロセスを褒めましょう。社会では失敗しないと得られない経験が溢れているのですから。



我が子が自分の力で生き生きと行動できるようになってはじめて、子育ては「成功」といえます。

「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」

これらは、社会人として生きていく力に直結する能力。『デキる社会人になる子育て術 元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』はこれらを育む子育ての知恵を授けてくれます。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■子どもが「デキる社会人」として自立するために親ができること

鬼木 一直(おにき・かずなお)

今回の『デキる社会人になる子育て術』をお書きになったきっかけからお聞かせください。

鬼木: 私は大学で教鞭を取りながら、入試の制度を考えたり、大学教育をよりよいものにしていく仕組みを検討していますが、その中で重視しているのが本学で「実務IQ」と呼んでいる、単純にいい会社に入るだけではなく、社会人になってから活躍できるような能力の育成なんです。

そうした取り組みを進めていく中で、学会などで議論しているうちに、子どもの能力を育むためには大学教育だけでは不十分であり、小学生時代の教育や、もっといえば幼少期の家庭教育が大事だよね、という結論になることがあるんです。

でも、それはわかる気がします。

鬼木: もちろん、大学教育は大切ですが、小さいうちから将来を見据えた教育を考えていった方がいいというのが本書の考え方です。

この本では、経済産業省が掲げている「社会人基礎力」をベースにしています。この社会人基礎力の考え方は現代教育に即しており非常に素晴らしい方針ですが、教育の現場でこの力を育む教育が十分になされているのかといったらまだまだですし、ましてや家庭教育においては、ほとんどの親御さんが認知していないのが現実です。

家庭教育については、親御さんとしてもなんらかの指針がほしいところだと思うのですが、難しい理論書のようなものはあっても、具体的にどうすればいいのかまで踏み込んだ著書はなかなかありません。この本はその部分を噛み砕いて、実例を交えて伝えるようにしています。少しでも方向性を示せればいいと思っています。

本書の特徴としては、実際に教育に携わりながら、子育てもされている人の体験に基づいているというところになるのでしょうか。

鬼木: その通りです。それに加えて、私はソニーで長く働いてきました。教育研究と子育て経験、そして社会人実績の三つの視点から書かれた子育ての本はほとんどなく、今回の本を書いてみようと思い立ったわけです。

大学で教えている中で、最近の学生について感じるところはありますか?

鬼木: 教えてあげればどんどんできるようになる学生が多いのですが、「自分で考えて」というと困ってしまうケースが多々あります。ソニーにいた時にも同じことを感じていました。私が学生だった頃は、自由にしていいと言われると喜んで行動を起こす雰囲気があったのですが、今は指示がないと動けない学生が多いように思います。SNSなどの普及により情報規制が厳しくなってきている影響もあると思います。

社会に出てからは、やはり自発的に動ける人が必要とされますからね。

鬼木: そうですね。今回の本ではそうした「社会に出てから活躍できる資質」を幼少期からいかに育てていくかということを紹介しています。単なるノウハウに終わらず、実例が豊富であることが本書のポイントだと思っています。

どんな人に読んでほしいというターゲットを想定しているわけではありません。もちろん、小さいお子さんを育てている方には読んでいただきたいと思っていますが、必ずしもお母さんということではなく、お父さんにも読んでいただきたい本です。特に今は新型コロナの影響で在宅勤務が増え、お父さんが子育てに携わる時間がたくさんありますから。

タイトルにある「デキる社会人」について、鬼木教授はソニー時代にどんな人を「デキる」と思ってきましたか?

鬼木: 「デキる社会人像」は時代によって変わってきていると思います。かつては「あの人に聞けばわかるよ」といって頼りにされるような、知識を持っている人がデキるとされてきましたが、今は大抵のことはインターネットで調べられますから、知識そのものの価値は相対的に落ちていますよね。

今はインターネットでは解決できないこと、例えば「考える力」「企画する力」「行動に移す力」がある人を「デキる社会人」と呼ぶと思っています。必ずしも教科書通りに行かないのが仕事なので、うまくいかない時にどうするのか、どのように窮地を打開することができるのかという、視野の広さや引き出しの数が勝負になります。この本では「選択肢力」という言葉を使いましたが、アイデアの引き出しの数は一見本筋とは関係のない経験から生み出されることが多いので、子どものうちに、親の目からみて「くだらない」と思うことでもチャレンジさせてあげるべきであるというのが私の思いです。

先ほどのお話にあった「社会人基礎力」とはどのような力ですか?

鬼木: 定義としては、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」であり、その要素として「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力があります。私はこれらを、仕事だけではなく、生活していくうえでも大切な能力であると考えています。

学校の成績は記憶、パターン認識により一時的に向上することができますが、実践では容易に答えが出ないことの方が圧倒的に多いものです。今回の本ではこれらの3つの能力を家庭内の日々の生活の中でどのように高めていくのかを具体的に示しました。

「チームで働く力」一つをとっても、企業で働く時にすごく大事ですよね。会議などでファシリテーションができる能力などは、大人になってからではなかなか身に付かないような気がしています。

鬼木: ファシリテーション能力は会議を円滑に進めるために大切な力ですが、本書の中で取り上げている「コーチング」に近いものがあり、自分で答えを教えるのではなく、質問を重ねることでメンバーから有益な情報を引き出す能力です。

子育てにはこの力がとても必要で、子どもにこうしなさいというのではなく、「どうしたらいいのか」というのを子どもに考えさせることが大切です。例えば、食べ物をこぼしてしまった時、ただ叱るだけだと子どもには叱られた記憶しか残らないので、同じ失敗を繰り返してしまいます。そうではなくて「どうしてこぼしてしまったのかな?」と子どもに問いかけて、「もっとお皿を近くに置いておけばよかったなあ」と自発的に考えさせる。その方が次に繋がるんです。

こうした取り組みを続けることで、子どもにも考える力が身に付いていきます。

そういうことは学校教育ではなかなか身に付かないのでしょうか。

鬼木: そんなことはないと思いますが、学校は多人数教育ですし授業を進めないといけませんからね。学校の授業も「丸暗記」からアクティブラーニングに変わってきてはいますが、個性を活かし、自分で発想させるという点についてはまだ足りないと感じています。

やはり子どもにとっては家で過ごす時間が長いので、家の中での親の教育、というより普段の会話を通じて育んでいくということが大事なんです。

■「公式」の詰め込みはもう役に立たない 「自分の頭で考える子」を育てるには?

鬼木 一直(おにき・かずなお)

本書には子育てにまつわるさまざまな事例が掲載されています。これらは何を元にしているのですか?

鬼木: ほとんどが私の家族の実例です。13歳の長女と、7歳の男女の双子の3人を育てていて、妻もフルタイムで働いていますから、子どもたちと十分な時間を過ごすことはなかなか難しいのですが、そのような状況においても、子どもたちのやる気を引き出すために何ができるかをいつも考えて子育てをしています。この本ではそうした日常での経験やそこから得た気付きについても記載しています。

その年頃のお子さんだと、自分から学ぶのはなかなか難しそうですね。

鬼木: そうですね。だから「勉強」というよりも「遊び」の中に学びを取り入れるようにしています。例えば、食事をしている時に、2つしかないケーキを3人で分けるにはどうすればいいかな、ということを問いかけて、子どもたちに考えさせる、などですね。

ものの量をイメージすることができれば、教科書にある「算術」は自然に理解するようになります。数学でも語学でもイメージ力は大切なので、その部分は重視していますね。

その他、子育てで心がけていることはありますか?

鬼木: 「失敗してもいいからトライさせる」ということですね。やってみないとわからないことはたくさんあるので。私自身、建築デザイナーを目指して大学で建築系の学科に入ったのですが、途中で応用物理学科に転籍した経験があります。それまでやってきたことに捉われずに、新しいことにどんどん挑戦できる人になってほしいという思いはあります。ソニーから大学に移ったのも大きなチャレンジだったと思います。

どうしても人間はそれまでやってきたことの延長線上にあるものをやりたがりますからね。

鬼木: そうなんです。思い切って全然違うことをやれるっていうのは勇気が必要ですけど大切な事だと思います。

親としては子どもの「学力」ばかりが気になってしまうと思います。ここまでのお話を振り返ってみても、それはあまりよくなさそうですね。

鬼木: 学力は高いに越したことはないのですが、「その時点での学力」にこだわり過ぎて、公式やパターンを覚えるような勉強ばかりになってしまうのはよくないと考えています。それだと決まったパターンにはまらない問題は解けないことになりますし、自分で考える力が付きません。

公式に頼るのではなく、自分の頭で考えるというのは、「社会人基礎力」の中の「考え抜く力」にあたると思います。この力を伸ばすために家庭内でできることはありますか?

鬼木: たくさんあります。先ほどのお話のようにケーキを平等に分ける方法を考えさせたり、ビー玉などを使って数の量や重さを身に付ける、ものの違いを探し当てるなど、地味ですがこういう取り組みが大切になります。

分数の計算を教える時も「分母と分子をひっくり返して…」というテクニカルな方法を教えるのではなく、イメージする力を養うことが重要です。理科や社会も「暗記」で乗り切るのではなく、理科は物事を見る観察眼を身に付けたり、社会は国や地域ごとの文化の違い、気候の違いなどに注目して学んだ方が後々身になります。地球儀を手の届くところに置いて世界を感じるのもとてもいいことだと思います。

鬼木教授はソニー在籍時に43件もの特許を出願されたと伺いましたが、どんな特許を出願されたのでしょうか。

鬼木: ハードディスク垂直記録方式の薄膜磁気ヘッドや大型液晶ディスプレイ、レーザーディスプレイデバイス、熱輸送技術、高周波伝送デバイスなどの特許を持っています。あまり知られていませんが、世界で初めて大型の液晶テレビを販売したのはシャープではなくソニーなんですよ。

こうした特許の技術が子育てに直接生かされているかどうかはわかりませんが、特許を生み出すような考え方を育むような子育てを心がけています。100人いて、99人が違うと言っても、自分だけはとことん真実を追求するようなチャレンジ精神や、物事の本質を見極めたりちょっとした違いに気付く力は、これから大切になるのではないかと思っています。

今回の本の使い方について、子育て中の方々にアドバイスがありましたらお願いしたいです。

鬼木: 最初から最後までじっくり読んでいただくのもいいのですが、目次を見て気になる項目をピックアップして読んでいただくという使い方でも大丈夫です。

必ずしも全部実践する必要はないですし、子どもは十人十色ですから「上の子にはうまくいったけど下の子にはうまくいかない」ということも多々あると思います。試してみて、うまくいかなかったらそれは忘れてまた違うやり方を試していただきたいですね。親の発想力も子育てには大切だと思います。

その他、子育てを頑張っているお父さん、お母さんに伝えたいことはありますか?

鬼木: 子どもは皆天才です。他の子と違ったことをしたり、自分と考えが異なっていたとしても、すぐに指摘するのではなく見守ってほしいと思います。子どもを信じ、コーチとしてサポートすることが大切です。そして、「できた時」に結果を褒めるのではなく、「頑張った時」にそのプロセスをたくさん褒めてあげていただきたいと思っています。

また、子育ては義務感や使命感で頑張ると辛くなってしまうので、親も楽しみながら、あまり頑張り過ぎずにできることから地道にやっていくこと、やれなかったことを後悔するのではなく、小さなことでもできたことをプラスに捉えていただきたいですね。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 第1章
    デキる社会人になる素質は家庭での幼児教育で養われる
  3. 第2章
    子どもの能力を伸ばす方法
  4. 第3章
    前に踏み出す力(主体性、働きかけ力、実行力)を育てる
  5. 第4章
    考え抜く力(課題発見力、計画力、創造力)を育てる
  6. 第5章
    チームで働く力(発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律性、ストレスコントロール力)を育てる
  7. 第6章
    自己肯定感を高める
  8. 第7章
    子育てにはコーチングが最適
  9. 第8章
    子育てにおける正解、不正解
  10. おわりに

プロフィール

鬼木 一直(おにき・かずなお)
鬼木 一直(おにき・かずなお)

鬼木 一直(おにき・かずなお)

東京工業大学6類(建築系)に入学、大学2年次に応用物理学科に転籍、理学部同学科卒業。大学院に進学し超低温物性物理の研究を行い、第ゼロ音波の観測に成功、東京工業大学修士課程理工学研究科修了。ソニー株式会社入社1年目に世界初のハードディスク垂直記録方式の薄膜磁気ヘッドの記録再生確認に成功、その後、世界初の大型液晶ディスプレイ、愛知万博出展50m×10mの超巨大レーザーディスプレイデバイス、消費電力ゼロの水循環を利用した厚さ1ミリ以下の薄型ヒートパイプ、超高周波ミリ波伝送による大容量データ伝送デバイスなど数多くの開発に携わる。その間出願した特許件数は43件に及ぶ。
また、開発マネージャとして多くの人材育成を行った後、2014年から、東京富士大学経営学部准教授、2017年に同教授。大学広報室長、メディアセンター部長、図書館長、入試広報部入試部長、IR推進室長などを歴任。大学広報室長を務めていた2015年に、本学は社会人としての実務経験を学生のうちから身に付ける『実務IQ教育』を提唱、社会人基礎力を高める実践教育を積極的に推進している。
現在は、13歳の長女と7歳の男女の双子を子育て中。海外訪問国は100か国以上。

デキる社会人になる子育て術

デキる社会人になる子育て術

著者:鬼木 一直
出版:幻冬舎
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