忙殺されない!疲弊しない!だからうまくいく!
がんばらない小さなクリニックの経営戦略

がんばらない小さなクリニックの経営戦略

著者:來村 昌紀
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)

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本書の解説

忙しすぎて休む時間や最新の医学知識をインプットする時間がない。
スタッフも自分も常に疲弊している。
従業員が負担の大きさから辞めてしまう。

日本全国にクリニックは数あれど、その悩みは似通っている。
患者はそれぞれに健康上の悩みを抱えて、自分のクリニックを頼ってくる。こちらも全力で彼らに寄り添おうとする。しかし、それゆえに医師もスタッフも疲弊してしまう。現場スタッフの犠牲の上に成り立つ医療は、長続きしない。

勤務医よりきつい?開業医のリアル

『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』(クロスメディア・パブリッシング刊)の著者で、千葉市内で「らいむらクリニック」を運営する來村昌紀さんは、こうした小規模クリニックの現状に苦しんだ末に、「80%の力で仕事をして、ある程度患者さんに満足していただける医療の提供を継続することが重要」という考えにシフトした一人。本書では、医師をはじめとした現場スタッフが疲弊せず、患者も納得のいく医療を提供するためのクリニック経営に行き着くまでの試行錯誤と手に入れたノウハウについて明かしていく。

來村さんは開業した当初、毎日の仕事についてこんなことを考えていたという。

外来診療はあるものの、大学病院や大病院の医師とは違い当直や会議はなく、スケジュールの融通もきくから楽だろう。

しかし、現実は違った。診察が終わってもやることがたくさんあるのに加えて、自分が体調を崩した時に代わって診察をしてくれる医師がいないというプレッシャーもある。相談できる相手がいないため孤独を感じることも多く、診療だけをやっていると最先端の医学的知識から置いていかれるのではないかという不安もあった。

それでもクリニックは軌道に乗り、徐々に経営も安定してきたのだが、今度は別の問題が表面化した。「人材」である。

開業当初、クリニックは受付事務2人、看護師1人、看護助手1人、看護師免許を持っていた來村さんの妻と医師である來村さんの6人で運営していたのだが、看護師と看護助手が退職し4人体制に。どうにか回していたものの今度は受付事務の1人も辞めてしまった。人材派遣会社を通じて人員の補充を図ったものの、クリニックとの相性もあり、「雇っては辞める」の繰り返しに。いつしか來村さんは人を採用することに疲れてしまったという。

儲かっているのに誰もが不機嫌で疲れていた

スタッフが居着かないのには当時のクリニックの状況にも問題があった。
開業して間もない頃、近くの特養(特別養護老人ホーム)からの依頼で、通常の外来に加えて入所者の予防接種や往診を引き受けていたという。

徐々にクリニックの患者数が増え、忙しくなっている状況で、特養からの問い合わせへの応対もある。特養からの収入が増えクリニックの経営は右肩上がりだったが、楽しそうに仕事をしているスタッフは誰もいなかったという。儲かっているのに、誰も彼もが不機嫌で疲れた顔をしていた。

スタッフも自分も目の前の仕事に忙殺される状況で人を雇っても、丁寧に教える余裕はない。これでは新しく採用しても、またすぐに辞めてしまう。

だから、來村さんは「まずは自分たちがご機嫌で働けるシステムを作る」ことにした。そのための取り組みが「売上を追わないこと」、そして「患者満足度の前に、スタッフの満足度を考えること」だった。

これは簡単なようでいて大きな挑戦だ。経営者である以上売上は気になり、医師である以上患者を最優先させたくなる。しかし、それでも來村さんはクリニック運営の手法を根本的に変えた。

外来を完全予約制にし、1日の受診者数を限定することでそれ以上の売上を追うのをやめた。そして「患者最優先」から「まずは自分達自身の満足度を優先」にした。

これは「患者に真剣に向き合わない」ということではない。「今自分達にできることとできないことを把握し、できないことを無理にやらない」ということだ。

休日なく、救急なども受け付ければ、患者さんには喜ばれますが、それで現場のスタッフたちが疲弊して倒れてしまったら医療が継続できなくなり、結局は患者さんにも迷惑がかかり不利益になるのではという考え方です。つまり、自分達のできる範囲で責任を持って医療を提供し続けることが大切であると言い換えることができるかもしれません。(P45より)



「80%で働く」を実現し、余裕のある運営体制に変えたことで、無理せず疲弊せずに医療提供を続けられることができるようになったという來村さん。クリニックの休診日には他の病院に出向いて外来患者を診ることで、他の医師と交流したり最先端の医療情報に触れることもできているという。

自分やスタッフが心身をすり減らし、毎日の診療に忙殺されている。そんな状況をどうにかしたいが、どうしていいのかわからない。そんなクリニックは來村さんのやり方から得られるものは多いはずだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■自分の代わりはいない 開業医が感じる「孤独」とは

『がんばらない小さなクリニックの経営戦略』は開業医ならではの苦労が伝わってきます。一般的に勤務医よりも開業医の方が楽なイメージがありますが、決してそんなことはなさそうです。來村さんが開業当時一番きつかったことについて教えていただければと思います。

來村: 一番と言われると難しいのですが、ひとことで言うと「孤独」ということかもしれません。体調不良などで自分が倒れたらクリニックを閉めるしかないというプレッシャーがありますし、クリニックのトラブルが全部自分の責任として降りかかってきます。

代わりに診察をしてくれる医師がいないというのは勤務医とは違う部分ですね。

來村: クリニックでも規模の大きいところなら代診の先生を頼めるのですが、医師一人でやっているクリニックは代わりがいません。そして、そういうクリニックが多数派だと思います。

たとえば大学病院なら、自分が休んでも1日とか2日なら代わりの先生がやっておいてくれます。だから夏休みも計画的に取れるんですけど、開業医がそれをやろうと思ったらクリニックを休みにするしかありません。

日々進歩する医学の知識から遅れないように勉強をする時間も必要だと思いますが、開業医だとなかなかその時間が取れないという点も指摘されていました。

來村: 診療が終わった後や休みの日に勉強する先生もいるとは思いますが、毎日の仕事に忙殺されて、新しいことを勉強する時間が取れなかったりするんですよね。よほど向上心のある先生じゃないと、最新の知識から取り残されてしまいやすいと思います。

また、「いちプレーヤー」ではいられないことも勤務医と開業医の違いです。勤務医は職人というかプレーヤーとしての仕事だけでいいのですが、開業医だとマネジメントや経営についても考えないといけません。でも、そういうのは大学の医学部では教わらないんです。

いつか開業した時のための授業などはないのでしょうか。

來村: 基本的にはないです。たまにそういうセミナーがあった時に参加したり、本を読んだり、先輩に聞いたりはできますが、系統立てて教わることはありません。だから開業してみてはじめて苦労がわかるという。

私も3年くらい前から月に1回、医療経営大学というところで勉強していますが、それまでは独学でした。試行錯誤しながら行き当たりばったりでしたね。

本書はクリニックの経営がテーマになっていますが、本でも書かれていたようにさまざまな理由から開業したクリニックを閉めなければならないケースもあります。閉院する理由としてはどういったものが多いのでしょうか?

來村: 今だとコロナからくる患者さんの受診控えでしょうね。毎月かかる固定費は同じなのに患者さんが減って入ってくるお金が減ってしまうという。

あとは高齢の先生がやっているクリニックで多いのですが、引退する時期をうかがいながら細々とやっていたところにコロナ禍がきて、「もう少しやろうと思えばやれるんだけど、コロナで色々なことが大変で、閉めることにした」というケースは何人かから聞きました。これは資金繰りが大変というよりは仕事面でしょうね。

コロナ禍での仕事の大変さはどんな点にあるのでしょうか。

來村: まず問い合わせの対応です。感染拡大期は問い合わせがものすごく増えるんです。電話が鳴り止まない状態と言っていいかもしれません。でも、小さなクリニックは人手に余裕がないので対応しきれないんです。

あとはワクチン接種でも需要と供給が合ってなくて、そんなに割り当てがないところに接種規模者が殺到してしまう。そこで打てる人と打てなかった人が出てしまうと「どうして私の友達は打てたのに私は打てないのか」となりやすいんです。電話対応にしてもワクチンにしても、クレームになってしまうんですよね。

來村さんが指摘されていた、毎日の業務に忙殺されてスタッフも医師も疲弊してしまう、という問題はどのクリニックでも起こりうる問題なのでしょうか?

來村: すでに起こっていると思います。特にうちのクリニックがある千葉県は人口あたりの医師の数が全国ワースト5に入りますからね。今コロナで医師や看護師が感染してしまって仕事に来れないとか、看護師が例年の3倍以上辞めているというニュースをよく見ますけど、コロナの前から医師がいないから大忙しだったんです。ちなみに埼玉と神奈川も人口あたりの医師が少ないんですよ。

■「目の前の患者を最優先」をやめたクリニックで起きたこと

本書では來村さんがクリニックで行った「働き方改革」について書かれています。なぜ働き方を変えたのかというところで、医師の本能として「目の前の患者を最優先」になってしまいやすく、それが原因で医療現場が疲弊してしまうことに問題意識を持っていたそうですね。

來村: 医師も看護師もそうですけど、医療を志す人というのは自己犠牲の精神が強いというか、自分は大変でも患者さんのために何かをしたいという使命感を持った人が多いのですが、その使命感ゆえに体調を崩すまで働いてしまうと、結局クリニックを休んだり、閉めざるをえないことになってしまいます。それで最終的に迷惑がかかるのは患者さんなんですよね。

それなら自分達が元気で継続できる働き方をすることを優先すべきだと思ったんです。目の前の患者さんに全力投球したい気持ちもわかるのですが、全力疾走で1キロは走れません。

自分達が健康的に継続できる範囲で、最大限の力で医療にあたるということですね。

來村: そうです。ただこれには患者さんの協力も必要になります。コロナもあってクリニックが混み合いやすい状況で、待つのが嫌だからということでわざと診療時間外に救急車を呼んでクリニックに来られる方もいるんですよね。患者さんがルールを守らないことで現場が疲弊するという面もあるということは知っておいていただきたいです。

「まずは自分や他のスタッフが元気で機嫌よく働けるように」という働き方の変革によって、具体的な業務としてはどのような点が変わったのでしょうか。

來村: 一つは完全予約制にして、当日に「今すぐ診てほしい」という、いわゆる「飛び込み」の患者さんを診るのをやめたことです。

長くうちに通っている患者さんについては、緊急で何かあった時は当日急に来ても診ることはあるのですが、基本的には予約していただいています。

完全予約制にして楽になりましたか?

來村: こちらとしては楽です。その日に来る患者さんの数も、どういう理由で来るのかもわかっているので、準備ができるんですよ。

たとえば今だと、熱や咳などコロナが疑われる患者さんが事前にわかっていたら、その方はその日の一番最後に、他の患者さんがいなくなってから来ていただいて、こっちも防護服を着て診察するということができますよね。そうすることでこちらも楽ですし、他の患者さんにも迷惑がかかりません。

本当に急を要する方などはどうしているんですか?

來村: こちらで対応できる範囲であれば「予備枠」で診ることはあります。対応できない時は、大きな病院で救急対応をしているところを紹介するという流れですね。

現在は奥様と二人でクリニックを運営されているそうですが、少ない人員でクリニックを切り盛りするために心がけていることがありましたら教えていただければと思います。

來村: 機械に任せられるところは機械に任せていますが、たとえ機械化できるところでも、患者さんとのコミュニケーションが生じるところはなるべく人がやるようにしています。

今は自動血圧計を置いて、来院した患者さんがそれぞれに血圧を測るクリニックが多いと思いますが、うちはあえて置かないで私が測っています。そういうところ以外はできるだけ機械化しようという考えでやっています。

どんなところを機械化していますか?

來村: 予約はWEB予約にしています。電話予約もできるのですが、最初は機械の自動応答です。患者さんに聞かれることは大体決まっているので、そういうところは機械がカバーして、人が応対しないといけない電話だけこちらに繋がるようにしています。

もう一つはお会計のところで、ポスレジと自動釣銭機を入れています。クリニックは一日の最後に診療点数とお金が合っているか計算するのが大変なんですけど、ポスレジはそこを自動でやってくれるので楽ですね。

あとはYouTubeを活用しているのも一種の機械化だと思います。うちは頭痛専門のクリニックなので、頭痛薬の種類とか、飲む時の注意などをよく患者さんから質問されるんです。だからそういったよく聞かれることについてのアドバイスは動画を作ってYouTubeに上げて、QRコードからいつでもアクセスできるようにしてあります。クリニックで聞いたことを忘れてしまうこともあると思うので。

高齢の患者さんも多いかと思いますが、Web予約やYouTube動画などを使いこなせるのでしょうか?

來村: 最初は難しいかなと思っていたのですが、意外とみなさん大丈夫なようです。自分ではできなくても息子さんやお孫さんにやってもらったりしていますし、70代後半でも自分でスマホから予約できる方もいます。YouTubeについては高齢の方でも見ている方は多いので、慣れているのではないでしょうか。今はテレビでYouTubeが見られることもあって「先生はテレビに出るほど偉い先生なんですね」と言われることもありますが(笑)。

クリニックとして、あるいは医師として世の中に発信したり、開発したいものがある場合、企業とのジョイントベンチャーも一つの手だとされています。來村さんがこれまでに手がけてきたジョイントベンチャーの実例についてその狙いと結果について教えていただければと思います。

來村: 私は標準治療に加えて漢方も治療に取り入れているのですが、こういうスタイルの治療を広めていきたいという気持ちがあって、漢方薬メーカーのツムラさんと一緒に全国でセミナーを開いて、講演をしています。

あとは岩渕薬品という千葉県内の医薬品販売の会社と組んで、医療情報担当者(MR)の方々に漢方の知識をつけていただいて、医師の方々に情報提供するということもやっています。ゆくゆくは「漢方MR」を育成したいと思っています。あとはサプリメントメーカーのメイフラワーさんと一緒にやっている頭痛のサプリメント開発などですね。

最後になりますが、「がんばりすぎる」ことで苦しんでいる開業医やスタッフの方々にメッセージをいただければと思います。

來村: 患者さんのことを第一に考えることは医療者として当然で、とてもいいことなのですが、その結果医師の先生方やスタッフの方々が疲弊して医療が継続できないということになると、患者さんにとっても地域にとっても大きな損失です。

まずは医療現場の方々が元気で医療を継続できることを重視するという考え方にシフトすることは、医師や看護師だけでなく患者さんにとってもメリットが大きいということがこの本を通して伝えられたらと思っています。

また、小規模なクリニックだからといって医師としてチャレンジしたいことを諦めるのではなく、やりたいことをどんどん発信していけば、手助けしてくれる人が集まってくるということも伝えたいですね。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 2人だけのクリニック経営
  3. 開業から学んだ多くのこと
  4. 完全予約制とSNS導入で省力化を加速
  5. マネジメントの学びとジョイントベンチャー
  6. らいむらクリニックのミッションとビジョン
  7. さいごに

プロフィール

來村 昌紀(らいむら・まさき)
來村 昌紀(らいむら・まさき)

來村 昌紀(らいむら・まさき)

らいむらクリニック院長。
和歌山県立医学大学卒業後、和歌山県立医科大学附属病院にて一般内科、脳神経外科などを研修後、日本赤十字社和歌山医療センターを経て和歌山県立医科大学付属紀北分院脳神経外科助教に。漢方を学ぶために千葉大学先端和漢診療学講座で漢方専門医を取得後、あきば伝統医学クリニック、証クリニック東京、千葉中央メディカルセンター脳神経外科を経て、2014年12月にらいむらクリニックを開設。「東洋医学と西洋医学を融合し、みんなを美しく、元気で、笑顔に!!」 を理念にクリニックの診療以外にもYouTube、Instagram、stand.fm、17LIVEなどでも情報を発信中。医薬学博士、日本脳神経外科学会脳神経外科専門医、国立病院機構認定臨床研修指導医、日本頭痛学会頭痛専門医・指導医、国際頭痛学会認定 Headache Master、日本東洋医学会漢方専門医・指導医、千葉大学臨床教授。

がんばらない小さなクリニックの経営戦略

がんばらない小さなクリニックの経営戦略

著者:來村 昌紀
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