「個」を活かして「業績向上」させる
human resource profiling
戦略人事を名乗る人のバイブル
HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」

HRプロファイリング
本当の適性を見極める
「人事の科学」

著者:須古 勝志、田路 和也
出版:日本経済新聞出版
価格:1,900円+税

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本書の解説

「せっかくいい人財を採用できたのに、現場のマネジメントに潰されてしまった」
「プレイヤーとして優秀だった人にマネジメントを任せたら、そのチームの成績が落ちてしまった」

会社にとって「人」は財産そのもの。しかしこれまで私たちは、人の真のポテンシャルを見抜いて採用、配置、抜擢ができていただろうか? 個にフォーカスし、個々の勝ちパターンを尊重し、個を活かす育成体系が設計されていただろうか?

一般的優秀人財が、自社にとっても優秀人財とは限らない。採用する時には、自社にとっての優秀人財かどうかを見極めなければならないのだが、それが出来ずに「不適合人財」を抱えて苦しむ企業は多い。社員個々の特性や勝ちパターン、躓くポイントを把握することができずに、配置や抜擢がうまくいかないケースも多い。これらの根本的な原因は、経験と勘に頼り、科学を用いる姿勢がないことにあるのだ。

経験と勘に頼った人事から脱却し、科学的視点と人的経験値を融合すべき

今や、「経験と勘」に頼った人事は限界を迎えている。多くの企業で、人事課題が一向に解決していないのは、科学を用いないからである。かといって、科学的ツールを導入すれば全て解決するという単純なものでもない。科学は万能ではないからだ。
人の判断、つまり定性・主観的な判断は、間違いではないのだが、それだけでは足りないために、定量・客観的な科学的分析データによって人的判断を補うべきなのだ。

例えば採用シーンでは、多くのアセスメントが、単なるネガティブチェックとして用いられている。ではネガティブチェックをパスした人財は活躍できるのか?不明なはずだ。科学によって、活躍可能性を予測していないからだ。企業が費用と労力をかけてアセスメントを用いる目的は、自社における活躍可能性を一定の確率で見極めるためである。

さて、そもそも人の内面を測定することは難しい。測定できたとしても、企業側の「求める人財要件」が明確でなければ、組織にフィットするのかどうか、活躍できるのかどうか、将来幹部になれる可能性はどれほどかが、全く解らないということになる。
「人の内面の測定」と「求める人財要件の明確化」は車の両輪なのだ。

『HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」』(須古勝志・田路和也著、日本経済新聞出版刊)は、この難しいテーマに切り込んでいく。

「人の内面の測定」について、本書では「ヒューマンコア」という考え方を提示している。ヒューマンコアとは「性格特性・動機」 のこと。外向性、知的好奇心、変革創造性などを指す言葉であり、人の行動や意思決定の根源的な土台になるものだ。

注意すべきは「ヒューマンコア」は「マインド」とは別のものだという点。マインドは意識や意欲・心構えといったもので、これは時と共に変わりやすい。これに対して「ヒューマンコア」は、その人の本性とも言えるもので、一生を通して容易には変わりにくい。人事の場面では「あの人のマインドは・・・」と、マインドという言葉が飛び交うが、相手の人となりをより正確に把握するために注目すべきはヒューマンコアの方なのだ。

ただ、本書ではこのヒューマンコアを把握するだけでは、人事はうまく行かないとしている。受け入れる企業側に「こんな人財がフィットする」「こんな人財が活躍する」という自社の基準がないからである。

一人のリーダーが多くの兵隊を率いてうまくいっていた時代はもう終わった。今は、変化が激しく、人も組織も多様化が加速している時代だ。その組織に「フィットする人財要件」も会社や組織分野それぞれで振れ幅が大きくなっているのだ。「ヒューマンコア」は、企業側が自社ならではの「将来活躍する人財像」を把握してはじめて意味を持つものだ。



「ヒューマンコアをつかむこと」と「自社で将来活躍する人財要件を設計すること」。
共に簡単なことではないが、この二つを明らかにすることで組織変革を促し、強い組織を作ることができる。
本書ではヒューマンコアを定量的に把握する手法や、求める人財要件の設計手法について詳しく解説されている。
経営者や人事担当者など、組織の中で「人」を扱う仕事をしている人であればどんな人でも多くの学びを得られるはずだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■人事のプロが語る「人事の真の問題点」

須古さんと田路さんが、今回共著で本を書くことになったのはどのような経緯だったのでしょうか?

田路: 私は、新卒で、当時、人材派遣最大手だったパソナに入社後、アセスメント(S P I)、社員教育、人事コンサルティングという3つのH R領域で最大手のリクルートマネジメントソリューションズで10年近くソリューション・プランナーとして、人事部門のコンサルティングを行ってきました。

つまり、私の営業人生におけるお客様は、ずっとH R領域の方だったんです。大手企業の採用にも多く関わりましたが、大手の場合、応募者が多いために「ストレス耐性や意欲などの画一的な尺度による過度なネガティブチェック」 や「必要以上に高いレベルによる能力検査でのスクリーニング」を行わざるを得ない状況があったんです。そもそもSPIは、科学的根拠のない性別や学歴による採用選考を否定し、個人差を重視した採用選考を実現するために開発された素晴らしいアセスメントなのに、現場では一般的な指標による過度なネガティブチェックにしか使われていないという現実に葛藤を感じていたんです。

それから2007年に、営業部門の時間生産性向上に特化した営業コンサルティング会社を立ち上げたのですが、人財育成にしても営業研修にしても、やはり同様に、科学的な根拠に基づいて実施していかないと、本当の価値を提供できないと悩んでいたのです。

そんな時に、パソナ時代の上司が、「未来検査研究所」を設立して次世代の特性アセスメントを研究・開発している社長がいると言って、須古さんを紹介してくれたんです。お会いしてみたら、私がリクルート時代に感じていた葛藤を解決しようとしている方だった。これは凄いということで、須古さんが開発されていた「マルコポーロ」というアセスメントツールのアドバイザーの一員として関わらせていただくことにし、私の営業研修にも積極的に組み込んでいくことにしたんです。

須古: 私は私で、人事の分野では学者が提唱する理論が安易に崇拝され、自社にとっても有効であるのか、自社にとってどのような効果と限界があるのかを検証するといった「科学的視点」を持とうとされない人事の方が多いことに懸念を抱いていました。
もちろん、理論は大事ですし、押さえないといけないのですが、学術理論を安易に受け入れるだけの姿勢では、どうしても現場での実践との間に狭間が生まれてしまうんです。「何故かうまくいかない???」と。
それから数年後、学術一辺倒でなくて、私が人事の現場で得てきた「狭間の実践知」をもっと世に出して役立てるべきだと田路さんが言ってくださって、それが今回一緒に本を書いたきっかけです。

理論と現場の間に狭間があるというのはどんな分野でも言われますが、人事でもやはりそうなんですね。

須古: これは理論の受け手側に問題があると思います。たとえばハーズバーグの2要因論というのがあるんですけど、これは人間が満足を生む要因として「動機付け要因」があり、それと「衛生要因」とを整理したものなんです。

「動機付け要因」には、達成感、他者からの評価、仕事内容への満足感などがあり、「衛生要因」には、企業の方針や職場環境、給与や地位、雇用の保証などがあるとされます。
そして、「動機付け要因」が満たされると満足が生まれ、満たされないと不満足が生まれる。一方、「衛生要因」は満たされても満足は生まれませんが、満たされないと不満足が生まれるとする、満足と不満足に関する理論です。

一見、全ての企業の全ての職務に当てはまる理論のように感じますが、これは1959年に米国で、エンジニアと経理担当者200名をサンプルとして行われた研究(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2003)なのです。現代の知識基盤社会の中で、これがどれほど自社に当てはまるのかとても疑問です。自社の様々な職務におけるハイパフォーマーに当てはまるかどうか、じっくりと考えていただくと見えてくると思います。

このように、理論と現場の間には狭間があるんです。

本書の冒頭で、須古さんが「誰かが不幸になる採用はもうやめよう」と書かれていました。こういう人事が生まれる背景として何があるのでしょうか?

田路: 一つは経営者側の意識の問題で、人事を「利益をもたらさないコストセンター」として捉えている経営者が多いということです。戦略人事こそ優秀な人財を配属するっていう発想がないどころか、営業で通用しなかった人をとりあえず人事に異動させるとか、メンタル不調を起こして休職していた人をひとまず配属させるといったことをされているケースもあるんです。

更に、数年で容易に別の部署に異動させたりするので、せっかく蓄積されてきた経験知が誰にも受け継がれずリセットされたり、また業者の選定からリセットされることも多々あるんです。企業によっては社内政治的なものが絡んで、前任者と後任者の折り合いが悪ければ、前の人がやっていた施策は全て白紙撤回されたりもします。

こういう背景があって、人事が科学的とはとても言えない方向に行ってしまいやすいという事情もあるんです。

本来、人事部門は経営戦略に直結する部署のはずですが、そう捉えていなかったり、実践が伴っていない企業が多い、ということですね。

田路: 大企業の場合、新卒一括採用の弊害もあって、どうしても一人ひとりの内面の本質的なところまでは見られないんですよね。大手企業の新卒採用では、大半が採用検査を実施しているのですが、性格特性の方はあまり重視されていなくて、主に使われているのは能力検査の方なんです。

要は言語とか非言語とかの能力が高いと点数が高くなって、入社試験に受かりやすくなるということです。でもこれでは、本人の内面もわからないし、その会社での適性もわからないですよね。そのあたりのことを企業側が突き詰めて考えていないのが、今の実情だと言えると思います。

須古: 田路さんがおっしゃる通りで、新卒採用の場合、そのまま勤めれば生涯賃金は2億円とも3億円ともいわれる、ある意味「高額な人財」を見極める非常に重要な局面なんですけど、なぜか採用を重視しておられない企業が多いんです。企業が費用と労力をかけて採用時に見極めるべきは、一般的優秀人財がどうかではなくて、自社にとっての優秀人財かどうかです。これを高精度に見極められる科学を用いるべきなのですが、それを用いず、不適合人財を多く抱えて後で苦しむという現象があまりに多すぎます。

経営者も採用は大事だと、心では思っておられるんでしょうけど、応募者個々の将来の自社における活躍可能性なんて、結局のところわかりっこないと思っているのかもしれませんね。

でも今、科学は進化しているんです。20分ほどの特性アセスメントで、この本で「ヒューマン・コア」と呼んでいる、人の本性とも言える性格特性や動機を測定して、そこから自社における活躍可能性を高い精度で判定できるようになっているんです。そのことをこの本を通じてぜひ知っていただきたいです。

企業内で、人事を経験と勘に頼らず科学的に行う取り組みが推進されにくい背景には、人事という仕事をプロフェッショナルが担うべき仕事だと認識できていない経営者の存在があるとされています。なぜ経営者たちはこういう思考になってしまうのでしょうか。

須古: 一つは、今お話ししたように、高精度のアセスメントが開発され多くの実績が出ているということをご存じないのだと思います。従来型の特性アセスメントでは確かに高スコア者が入社後活躍しないというジレンマをお持ちの企業さんが多いんです。この原因も本書には書かせていただきました。

検査の精度が星占いレベルであれば使えませんので、当然、特に創業社長さんに多いのですが、「人を見るのはワシの目や」って。私はそういう社長さんが大好きですし、私もそうだったんですけどね(笑)。

でも、面白いんですけど、その社長が望む通りの人財要件モデルを設計して、その方を科学的に見極めて採用します。しかしその後、「ナマイキだ」って言ってその方を解雇しているのがその社長さんであるケースはメチャクチャ多いんです。自分ならこう行動するという観点を、採用する人財要件にしたい気持ちは解るのですが、若手活躍人財の要件、幹部として活躍できる人財要件、次世代経営陣として活躍できる人財要件を科学的に検証して設計すべきです。昭和の突破型創業社長が、自分と似たような人を採用したら、ハレーションが起こる可能性が高いということです。

あと、今はダイバーシティの時代ですし変化が速い。つまり、右肩上がりの経済成長のなか、一定の正解を追い求めて、画一的に、一部の頭脳明晰な人に従って大多数の兵隊が指示通りに動けばよい時代は、完全に終わったんです。答えのないものを、画一的な基準なしで、多様な人たちが手に手を取り合って、ハイスピードに、問題の発見と解決をしていかなければ市場競争に勝てない時代なんです。

自分と異なる勝ちパターンを有する人財を、「自分とは違う人」と線引きするのではなく、自分にはできないことを簡単にやってのける人がいるということを、経営者は知らなければなりません。自分と違う人を活かせば自分が凄く楽ができるんですよ。

「ヒューマン・コア」と「マインド」のお話が興味深かったです。人の行動における両者の関係について、詳しくお聞きできればと思います。

須古: まず人には内面と外面がありますよね。外面は他人から見えるもので、行動とか知識とかスキルとかです。内面は、他人から見えないもので、性格特性と動機、そして意識・意欲心構えなどのマインドです。本書では、この性格特性と動機を特に「ヒューマン・コア」と呼び、行動の根源的な土台であるとしています。

「ヒューマン・コア」は若年期に形成され、一生涯を通して容易には変容しません。言い換えるならその人の「本性」と言えるものです。もちろん人の本性に優劣はなくて、すべて尊重されるべきものですが、ただ、企業の求める人財要件に対する適合性は確認しなければならないんです。

これに対して「マインド」はどのようなものなのでしょうか。

須古: たとえば「ヒューマン・コア」がせっかちだという人がいたとして、そういう人だから仕事で「うっかりミス」が多いと。こうしたミスを減らすために本人が考えて、上長に確認してもらう回数を増やしたり、落ち着いて行動しようと心がける。つまり、心がけによって行動をコントロールしようとするわけです。この心がけの部分が「マインド」です。

「ヒューマン・コア」が変わりにくいのに対して、「マインド」は心構えや心がけですから、変わりやすい。言い換えるなら、継続しにくいんです。

では、どういうことが起きるかというと、その人の本性である「ヒューマン・コア」と、職場で求められる行動との間にギャップがあればあるほど、「マインド」で埋めないといけない部分が大きくなりますから、本人は無理をすることになる。だから、「もう続けられない」ということで辞めてしまったりします。つまり、企業が見るべきは人の「マインド」ではなく「ヒューマン・コア」の方なんです。

「ヒューマン・コア」のところで自社が求めている人財像との適合性があれば、こうしたミスマッチは起こりにくくなるわけですね。

須古: そうです。もちろん100%適合する人はいませんし、どんな人も得意なこと苦手なことがあります。個にフォーカスして、それぞれが持っている「ヒューマン・コア」を尊重し、相補的に生かすのがダイバーシティ時代の勝ち方なんです。

人の内面を「ヒューマン・コア」と「マインド」に分ける考え方はすごく納得できます。内面のことって、結構「マインド」の一言で括られてしまったりするので。

田路: よく「モチベーションを高めれば行動を変えられる」と言われますよね。私はそれにすごく違和感を持っていたのですが、須古さんが整理して下さった考え方はとても共感できました。

ただ、皆さんには「人間の本質、つまりヒューマン・コアは絶対に変わらないもの」と固定的に考えていただきたくはなくて、マインドセットを変えることによって行動を変えることができる。そしてその行動が習慣化すれば、実は緩やかにヒューマン・コアにも影響してくるんです。つまり、習慣化によってヒューマン・コアは、なりたい自分に向かって変えることができるものでもあるんです。須古さんが「ヒューマン・コアを見抜くプロ」だとしたら、僕は「なりたい自分になっていただくプロ」なんです。

須古: この本の中で「ヒューマン・コア」と「マインド」の関係を書いた背景には、「コンピテンシー」の課題が顕在化されてきたということもあるんです。コンピテンシーは本来「頭の良さよりも行動の方が、さらに表層的な行動よりも行動の根源的な土台であるヒューマン・コアの方が、より業績との間の相関・因果関係が高かった」という概念だと整理できるのですが、時代と共に、学者によって様々な考え方が示され、コンピテンシーの定義がグチャグチャになってしまったんです。ある学者はコンピテンシーとは行動傾向(発揮される行動自体の癖)のことであると定義し、ある学者は行動の構成概念である性格特性や動機から行動傾向までを全て含むと定義し(この場合、行動特性と言われることが多い)、ある学者は個人の特性であると定義し、といった具合です。この混乱は、コンサルティングによっても言うことが違うということになり、人事の現場にも混乱を招いてしまいました。

今、コンピテンシーの概念そのものが揺らいでいると言える訳で、新たに整理すべき段階に来ていると感じています。コンピテンシーではあやふやな領域であった内面、特にその深層部のヒューマン・コアにフォーカスし、もう一度整理してみる必要があると考えているんです。

■「自分には人を見る目がある」と疑わない経営者たち

「ヒューマン・コア」とは、容易には変わらない、人の本性。「マインド」は変わりやすい心構えの部分だというお話がありましたが、企業側は社員や採用候補者のヒューマン・コアやマインドをどう把握していけばいいのでしょうか。

須古: その前に、まずは「自社で必要としているのはこういう人財」という、自社基準での人材要件モデルを作ることです。これがないことには、どんなに正確にヒューマン・コアを測定しても、自社における活躍可能性が全く解らないということになってしまいます。

私の会社で開発した「マルコポーロ」というアセスメントツールは、会社ごと、その中の組織分野や職位ごとに必要とされる人財要件を分析して、個々のヒューマン・コアと、どの程度の適合性があるか、その会社に入った後、活躍する可能性がどれくらいあるのかということがひと目でわかるようになっています。

ツールを使わずに、面接などでヒューマン・コアを把握し、自社との相性を判断することはできないのですか?

須古: これまで何年も働いてきた社員の中から幹部候補を選ぶというのならまだしも、新卒採用ではまず無理でしょうね。もちろん科学は万能ではないのですが、それでも人間よりは精度が高いということは間違いなく言えます。

田路: 面接では相手が嘘を言っているかどうかくらいは見抜けるかもしれませんが、限られた時間の中で、その人の内面の本質を見抜いて、どれほど自社で活躍できるのかを判定するのは至難の業でしょう。

特に中小企業で起こりがちなのですが、自分の人を見る目に自信を持っている経営者が、一方では「あいつがあんな奴だとは思わなかった」とよく言われています。人間が人間を見る目ってそんなものなんですよ。

経営者が人を見る目に絶対的な自信を持っていると、なかなか人事や採用は変わらないかもしれませんね。

田路: 何回も失敗しているのにね(笑)。小さな会社の場合、経営者は人の内面だけではなくて、その人に合った仕事の特性も見極めないといけません。両方見極められる人はあまりいないということでしょう。

須古: 人は、自分と似たタイプの人を良しとする傾向もあるんです。だから社長が優秀だと感じた人を入れてみたら、同じタイプ同士でハレーションを起こしてしまってうまくいかないというケースはよくあります。「あいつは生意気だ」と(笑)。

人事の現場で起きていることについても書かれていました。「学力と入社後の業績との間の相関・因果関係は低い」ということが明らかになっているのに、今また人を見極める方法として「学力系テスト」に回帰しているというのはおもしろい現象です。なぜこんなことになっているのでしょうか。

須古: 先程お話ししたように、どんなに正確にヒューマン・コアを測定しても、会社側に「求める人材要件モデル」がなければ、単に「あの人はこういうパーソナリティの人」というのがわかるだけで終わってしまいます。このパターンがすごく多いんです。

会社側に人材要件モデルがないから、特性検査をして人の内面を測定しても、そこから先がない。そうするとどうなるかというと、特性検査の結果を見る時に、「ストレス耐性」でも「変革創造性」でも、「なんでも数値が高い方がいい」という考えになりがちなんです。

でも、たとえば「ストレス耐性」は、高ければ高いほどいいというものではありません。
ストレス耐性が高くなるほどタフで打たれ強い傾向が高まりますが、同時に人への配慮が欠けていき、「鈍感さ」が高まり、「事の重大さを認識できない傾向」も高まります。

逆にストレス耐性が低くなるほど、打たれ弱くなりますが、同時に繊細さが増していき、人の心の痛みを肌感覚で察知できる傾向や、気の利いた提案やクリエイティブな仕事に向く傾向が高まります。大勢の部下のやる気を引き出し、チームとしての成果創出を最大化できているマネージャーの多くはストレス耐性が高くはないという結果もレイル社では確認しています。

実際に自社において優秀な人財はどのような人財要件なのかを分析せずに、ストレス耐性は高い方が良いのだろうと根拠なく決めつけて特性検査の結果を見るという使い方は大きな間違いなのです。そして「点数が高い人を」という会社が、結果的にいい採用ができずに「特性検査なんて当たらない」と言い出してしまった。「それなら単なる学力テストの方が最低限のスクリーニングに使える」ということで学力系のテストに回帰しているのが現状です。

ここまでのお話を踏まえると、今回の本を読むべきは、まず経営者ということになるのでしょうか。

須古: 経営者もそうですし、戦略人事を名乗る人すべてに読んでいただきたいですね。「人事をコストセンターだと考えている経営者が多い」というお話がありましたが、本来、人事は「経営陣が立てた経営戦略を実現するために必要な人財を供給し続けること」がミッションで、経営を支える重要な部門です。このミッションに関わっていると思う人はぜひ読んでいただきたいですね。

最後になりますが、人事や人財に悩む企業の経営者や人事担当者に向けてメッセージをお願いいたします。

須古: この本のメッセージはシンプルです。人には内面があって容易に変容はしない。しかしこれこそが人の行動の根源的な土台であるということです。

そして今は、これを正確に測定して自社の求める要件との適合性を判定できるようになった。つまり、採用厳選、配置、抜擢、育成に活用できるほどコントローラブルになったということ。だからこそ個にフォーカスし、個を活かす組織変革に向かって活用していただきたいということです。

組織の人財の真のポテンシャルを可視化し、経営陣の視界をクリアにする役割が戦略人事にはあります。経営陣の方は、戦略人事が科学という武器を使えるよう応援してあげていただきたいと思います。

田路: おそらく、「アフター・コロナ」の世の中では、採用も人財育成もそのあり方がこれまでとは大きく変わるはずです。新卒大量一括採用の形は崩れていくでしょうし、正社員・契約社員・派遣社員などの社内スタッフだけで業務を完結させるワークスタイルは確実に終焉するでしょう。それによって育成にも必ず影響が出てきます。従来の集合研修やO J Tのように、育成をシステム化していくことは難しくなり、個にフォーカスした育成がより必要になってくると思います。

その時に、部下のヒューマン・コアを上司や経営陣が把握せずに個別指導したところで、それは集合研修を個別にやっているだけなので、効果は見込めませんし、効率も悪いですよね。この本が個人の持ち味を生かすマネジメントや教育のあり方を考えるきっかけになってくれたらいいなと思っています。この本は、企業と従業員の双方がハッピーになる唯一の方法がまとめられている本だと自負していますので、多くの経営者、事業責任者、人事の方のお手元に届くことを願っています。

(新刊J P編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに

    1. 序 誰かが不幸になる「採用」はもうやめよう
  2. 第1部 HRプロファイリングとは

    1. 第1章 人の「ヒューマンコア」 にフオーカスすべき理由
    2. 第2章 HRプロファイリングとは
    3. 第3章 何故「自社基準」でなければならないのか
  3. 第2部 HRプロファイリングを活用する

    1. 第4章 HRプロファイリング事例
    2. 第5章 「自社基準」の設計手順
    3. 第6章 「採用厳選」への活用
    4. 第7章 「適正配置・抜擢」への活用
    5. 第8章 「育成」体系設計への活用

プロフィール

須古 勝志(すこ・かつし)
須古 勝志(すこ・かつし)

須古 勝志(すこ・かつし)

株式会社レイル 代表取締役社長
1961 年生まれ。1992 年レイルを創業。テスト理論、心理統計学、CBT(ComputerBased Testing)やe-Learning 開発、各種検定試験の設計に精通。また、人事系組織分析コンサル等の経験も豊富。「人と組織の適合性」を数値化するアセスメントツール「MARCO POLO」設計者。個人と企業との適切なマッチングをすることで、企業業績アップの手助けをしている。コンサル先・関与先は多数。

田路 和也(とうじ・かずや)
田路 和也(とうじ・かずや)

田路 和也(とうじ・かずや)

株式会社プレゼンス 代表取締役社長
1974 年生まれ。1998 年、早稲田大学商学部卒業後、パソナ入社。2000 年、リクルートマネジメントソリューションズ入社。採用・教育・人事制度設計に関するコンサルティング営業を担当。2007 年5月、営業部門の時間生産性向上に特化した営業コンサルティング会社プレゼンスを設立。講演・研修登壇実績は年間200 回以上、累計300社1万人におよぶ。著書に『仕事ができる人の最高の時間術』(2017年、明日香出版)。

HRプロファイリング 本当の適性を見極める「人事の科学」

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著者:須古 勝志、田路 和也
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