「売上」ではない「粗利」にこだわれ
赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則

赤字続きの会社がみるみる蘇る
建設業経営「利益最大化」の法則

著者:中西 宏一
出版:パノラボ
価格:1,650円(税込)

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本書の解説

どんな仕事、業界、業種であれ、継続して利益を出し続けるのは大変なこと。利益が出ない、あるいは赤字続き、という企業は特にこのご時世数知れずあるはずだ。

そんな中でも苦しむ会社が多いのが建設業界である。この業界専門のコンサルタントとして長く活動してきた中西宏一氏は、著書『赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則』(パノラボ刊)で、建設業界の企業特有の体質と見込みの甘さを原因として挙げている。

建設業界を蝕む「売上への固執」

中西氏によると、業界的に税引き前利益率は最低でも2%は欲しいところだが、それをクリアしている会社は全体の5社に1社程度だとしている。残りは赤字か、どうにか黒字を出している状態。あえて赤字にしている会社もあれば、無理やり黒字にしている会社もあるという。

なぜ建設業界の企業は利益が出にくいのか。
もちろん外的要因はあっても、それはどの業界も同じ。建設業界の問題として中西氏は「過度な売上高への固執」を挙げる。

建設業の売上は、一般的にその年度に行われた工事の受注金額の合計である。通常であれば、ある工事の受注を目指す時、そこからどの程度の利益が得られるかを計算したうえで受注に動く。ただ、建設業界はそうでないこともあるという。

年間の売上高が10億円の会社であれば、その大型現場の受注金額が5億円の場合、年間の売上高の半分を確保できることになる。
「この工事は何としても受注しなければならない。利益?工期は1年もあるから何とかなるだろう」と簡単に言えば、ほぼほぼそんな思考ではないだろうか。(P53より)

建設工事や土木工事などは施工業者の名前を地域の人が目にしやすい。そこで経営者の虚栄心と名誉欲が刺激される。こんな理由で、建設会社の経営者は赤字か超薄利にしかならない大型案件の受注に走るのである。これでは売上ができても利益が出ないのは当然だ。

会社として現場を優先しているわけでもなく、工期や品質について考慮するわけでもない。売上だけを見て受注を決めたら、現場にも経営にも不安要素や無理が生じる。経営者はそれにふたをして、見て見ぬふりを決め込む。これが、建設業界が「どんぶり勘定」と評される理由になっている。

こうした経営を何年も続ければ、資金繰りが悪化し、借り入れが必要になる。銀行を納得させるために形だけの経営計画を立てるが、その場しのぎのものなのですぐ頓挫する。そして当座の売上をたてるために、利益の出ない案件を受注する。建設業界で横行するマイナスのスパイラルである。



「利益が出ないのは経営者のやり方が悪い」
「同族経営でうまくいっている会社は見たことがない」
「利益を出せない企業に価値などない」
本書には建設業界の企業の経営層に向けた厳しい言葉が並ぶ。
利益が出ないのは、利益を出すために何をすべきかを考えず、そもそも利益を追求しようともしていない経営者に問題がある。

一方で、中西氏は「建設業界は利益改善がしやすい」とも説く。本書では、建設業の企業が陥る負のスパイラルを抜け出し、利益を出していくための手法が解説されており、利益確保に苦しむこの業界の経営者にとって光明となる一冊だ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■業界専門コンサルタントが指摘する建設業界の病理

『赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則』についてお話をうかがえればと思います。前著が出た当時と比べて中西さんのコンサルティング手法が変わり、よりシンプルになったとされていました。どのあたりが削ぎ落されたのでしょうか。

中西: 今までは、その会社の社員の方全員と面談し、会社の現状を聞き、毎月訪問し会議に出て、自分が司会をして皆の意識を変えていく、という流れでコンサルティングしていました。

しかし結局、社員が思っていること、会社の問題点というのはどの会社も似通っていることが分かりました。よって、今は会社に行くこと、社員と会うこと、会議に出ることはほとんどしていません。そのぶん経営者の方に、その各社共通の問題点であり改善策を最初から伝えることに特化しています。そもそも将来のためにも、会社は経営者自身で動かした方がいいわけですから。

「建設業の会社の利益をできるだけ簡単なやり方で改善する」が本書のテーマです。それだけこの業界が利益を出すのに苦しんでいるということで、本書の内容との重複になりますが、建設業の現状を教えていただきたいです。

中西: 建設業界のありようはもう何十年も変わっていません。私の新卒時と比べても、30年以上経っていますが、そのありようはほとんど変わっていません。

世の中は進歩し、システムなども劇的に進化しましたが、建設業界においては、それを動かす「人」が変わっていないと感じています。業務の多くが「人」が中心になっているため、良くも悪くも変わらないままになっていたのです。

オリンピックが終わり、コロナもまだ続き、他業種が少なからず変わっていく中で、その「人」が変わっていない建設業界は非常に厳しい流れに突入してきています。2022年も楽ではない年でしたが、2023年以降はさらに厳しくなっていくのではないでしょうか。

本書で指摘されている「どんぶり勘定」という建設業界の体質はなぜ変わらないのでしょうか。

中西: 建設業界の会社の売上は、受注した各現場の完工高の合計です。各現場には「工期」があり、短いものでも1ヶ月、長いものだと2~3年の現場もある。その期間に「何とかなるだろう」という意識がどうしても出てくることが問題だと感じています。

つまりその期間がある限り、人は精神的な「猶予」を感じてしまう。工期があり、そこに猶予を感じる以上、建設業界の体質、そこにいる人達の意識は簡単には変わらないのではないでしょうか。

また建設業界の利益率の低さの原因として多重下請構造のような構造問題が指摘されることがあります。この構造の下の方にいる会社ほど利益を出すのが難しいかと思いますが、本書で提唱されている手法で利益を改善することは可能なのでしょうか。

中西: 建設業界の下請構造は、感覚的には少なくとも4層、多ければ7層ほどはあるはずです。普通に考えれば、下にいくほど利益は圧迫されるということになります。

よって本書では、その中でも「低利益の層」に入ることそのものを避けることを勧めています。仕事が欲しい、売上を上げたい、という意識だけではどうしてもその「低利益の層」に加わってしまう。そこで利益というものを得られないのであれば、その層などに入らず、他の層を探さなければなりません。

ただ、つけ加えるなら、かならずしも下の層に行くほどに利益が圧迫されるわけではありません。中間層であっても最下層であっても、自社の利益を確保する意識さえあれば、利益確保は十分にできます。層の最上部のみが赤字という構図も十分にあり得ますし、下層にいくほど利益が上がっているケースも数多くあります。極論言えば、どの層にいても本書の中に書いてある、「利益を上げる」という自社のスタンスを守りさえすればいいだけのことなのです。

■AI・ロボットによる代替は可能か? 建設業界の未来

中西さんは、建設業界を「利益改善がしやすい業界」だと書かれていました。これはこの業界が売上至上主義でそもそも利益を重視しない傾向があることが理由ですか?

中西: 建設業界に限らず、利益を重視していない会社は世の中には多くあります。売上至上主義そのものも建設業界に限ったことではありません。実際は他の業界でも同様です。世の中の多くの会社は売上を目指しています。その中での建設業界の特性としては、先ほどお話したように、ある一定の工期という期間があることがあげられます。その期間で「どうにかなる」と思っていた当初の目論見あるいは願いが外れて、結果的に赤字や低利益になっている現場が多いのです。

その部分のやり方であり意識を変えることさえ出来れば、赤字工事・低利益工事という決定的な損失を避けることができますし、結果、利益は大きく上がります。そういった現状の利益感覚の低さとのギャップが、建設業界は他業界に比べて大きい分、利益改善しやすい業界だと感じています。

建設業界の未来についての章が興味深かったです。AIやロボットに代替される仕事がよく話題になりますが、建設業が人の手を必要とするのは確かです。この業界の中でもAI・ロボットに代替されにくい仕事・されやすい仕事がありましたら教えていただきたいです。

中西: 住宅や建築物などでは、その構造体自体を工場で作ってきて、現場では組み立てるだけというやり方も出てきてはいますが、それはほんの一部に過ぎません。分かりやすいところでは、大工工事などは余程緻密な作業が出来るロボットでも持ってこない限り、人間の職人に取って代わることはできないでしょう。

また、屋根工事・設備工事・電気工事・道路工事・橋梁工事など、ほとんど全ての工事において、AIやロボットが代替することは不可能だと思います。今後も技術的な進歩はあるのでしょうが、少なくとも向こう数十年の間でその代替が可能になるとはとても思えません。よって、建設業界の中で代替されにくい業種としては、建設業界の概ね全業種と言えるのではないでしょうか。

利益改善の手法として、他の利益ではなく「粗利」に注目される理由はどんな点にありますか?

中西: 利益というものは経理上何種類も存在します。粗利益・営業利益・経常利益・税引き前利益・純利益と、その5種類が決算書上には明記されています。

粗利に注目する理由はただ一つ。一般社員が関与できコントロールできる唯一の利益だからです。営業利益をいくらにしよう、税引き前利益をいくらにしょうという会社もありますが、その数字を意識するには、全社の経費である一般管理費や営業外の損益の数字も把握しないといけません。そういった数字を一般社員に理解させるのは不可能です。一般社員には難しすぎますし、経営者も公開したがりません。

社員全員が関与できる数字、理解できる数字、身近な数字こそが粗利益です。よって粗利益こそが、利益改善において最も重要な利益となると言えるのです。

また建設業界の傾向として粉飾決算の多さも指摘されていました。粉飾が横行する背景についてお聞きしたいです。

中西: 先程お話しした、建設業界の工期がカギを握っています。工期は長く、現場によっては、期を跨ぐこともあります。よって建設業界においては、その期の損失を次の期に「送る」ことが比較的安易にできる点が、粉飾が多い背景として挙げられます。

この期の損失は次の期に返せばいい、皆そう思って次の期に送る「粉飾」を行っているようです。結果、その数字が雪だるま式に増えていく、という構図になっています。

本書で指摘されていたように、会社の問題は経営者の問題です。本書を通じて彼らにどんなことを伝えたいですか?

中西: 経営の軸を売上から粗利益に変えること。そこに尽きます。売上を上げることには意味も価値もありません。売上の数字はただの表面的な幻想にすぎないとも言えます。

企業は利益を上げてこそ価値があり、存続できます。そのことにのみ本気で向かってもらいたいです。その意識を持つだけでも各社の利益は確実に上がると確信しています。粗利益だけを経営数字の軸にしろ、私は建設業界の全経営者の方にそう強く言いたいです。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. なぜ、あなたの会社は利益が出ないのか?
  3. 建設業界の未来は一体どうなるのか?
  4. 不可欠である考え方の切替え
  5. 超即効性のある利益アップの対処法6選
  6. たった一日でできる「利益改善の全手順」
  7. 押さえるべき細かなポイント
  8. おわりに

プロフィール

中西 宏一(なかにし・こういち)
中西 宏一(なかにし・こういち)

中西 宏一(なかにし・こういち)

株式会社KCO代表取締役。昭和42年石川県金沢市生まれ。
法政大学文学部卒業後、地元総合商社と大手コンサルティングファームを経て経営コンサルタントとして独立。建設業界における利益改善を圧倒的な強みとして、顧問企業の90%以上をわずか2年以内に劇的な改善へと導いてきた。「必ず利益を上げる」と言い切るコンサルティングが顧客に高く評価され依頼が殺到。現在は企業コンサルティングに留まらず、経営者コンサルティング、幹部育成コンサルティング、コンサルタント育成も手掛けており、全国に数多くの建設業界の顧問先を抱えている。

赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則

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著者:中西 宏一
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