「失敗」と「敗北」こそ学べ!
未来を作るための歴史の授業
Lockon!近代史

Lockon!近代史

著者:坂木 耕平
出版:幻冬舎
価格:1,430円(税込)

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本書の解説

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という言葉があるが、未来の自分の行動のガイドラインとなる智恵を歴史から学びとるのは、簡単なことではない。現在まで語り継がれている歴史の大部分は「勝者の歴史」であり「成功体験」だからである。

しかし、何かを学ぶことができるとしたら、それは成功からでなく失敗からだろう。特に日本の近代史を紐解くと、現在まで尾を引く失敗を目の当たりにすることになる。

「日本すごい」的歴史観が幅を利かす今だからこそ知るべき日本の近代史

「日本の近代史」には「成功の歴史」と「失敗の歴史」があるが、最近きくのは前者の話ばかり。近頃日本が元気がないから「過去の栄光」を振り返り、カタルシスにひたりたいのだろう。でも、本当に大事なのは「失敗の歴史」だ。

『Lock on!近代史』(坂木耕平著、幻冬舎刊)は、こんな書き出しではじまっている。そして、日本の教育では近代史がしっかりと教えられていない、とも。

たとえば、今の日本が抱える問題のうち、その根を近代史に見ることができるものの一つとして、中国・韓国との関係がある。特に今でも日本の国際関係に暗い影を落としているのが、朝鮮半島とのこじれた関係である。

北朝鮮や韓国との関係には複雑な経緯があること、またはかつて日本が朝鮮半島を侵略したことをぼんやりとは知っていても、どんな経緯があったのかを具体的に話せる人は、実は案外少ないのかもしれない。この問題の発端は1894年に起きた日清戦争までさかのぼる。この戦争の意味合いは、「中国を相手とした、朝鮮半島の争奪戦」である。

本書によると、当時の日本には「中国(清国)の支配下にある朝鮮の独立・近代化を助けたい」という気持ちと、「朝鮮の近代化の指導のために、朝鮮を日本の支配下におく」という二つの思惑があったという。そこに加えて、南に向かって影響力を伸ばしていたロシアへの「防波堤」とするためにも、朝鮮は日本にとって極めて重要な場所だった。

当時の日本の指導層には、日本の初代総理大臣として知られる伊藤博文をはじめ、大国である清と戦争をしても勝てないと考える人は少なくなかったが、予想に反して日本は清を破り、勝利。朝鮮から清の影響力を排除することには成功したが、今度は同じく朝鮮での権益をめぐってロシアと対立し、それが1904年の日露戦争へと結びつく。ここでもかろうじて勝利した日本は完全に勢いづき、その後の数十年にわたる戦争と海外での権益獲得の道を突き進むことになる。

当時、清や朝鮮の資源や権益を食い荒らしていたのは、日本やロシアだけではない。イギリス、フランス、ドイツも同様に、相手国の主権など考えず、自国の利益のみを追求していた。そういう時代だったのだ。

ただ、朝鮮国内には、日本が清から自国を解放し、独立を支援してくれる、と期待する人もいた(実際に日本は独立を約束していた)。こうした期待をその後の日本は韓国併合によって手ひどく裏切ってしまった。現在の韓国や北朝鮮の日本への不信感は、このあたりから発しているのである。



出来事と年号を記憶しても歴史を理解することはできない。なぜ、どのように、出来事が発生したのかを丁寧に追うことで、はじめて理解できるものだ。

「日本はすごかった」的な歴史観が幅を利かす今だからこそ、正確な歴史認識が必要であり、また価値がある。本書は近代という激動の時代を理解するための格好の参考書になるはずだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■ここがまずいよ!日本の歴史教育

『Lock on!近代史』を書かれた動機についてお話をうかがいたいです。

坂木: 一番は今の日本社会に抱いている危機感です。私は今年63歳になるのですが、戦後の日本が実際にたどってきた道を振り返ってみると、大日本帝国が戦前戦中に犯した「あやまち」や「失敗」がきちんとした総括もされず、きちんと反省もされずに今も繰り返され、現代の社会にもそっくり受け継がれていると感じています。

一部の学者や作家は、「歴史の反省を教訓にしよう」というメッセージを出していますが、残念ながらそれらは、多くの人の心に響かなくなっている。

なぜ総括がされなかったのでしょうか。

坂木: 日本人が高度経済成長の「成功体験」に酔って「成功の陰にある反省や教訓」を見ようとしなくなったということでしょうね。そして、国の力が低下し、様々な不都合が浮き出てくると、見たくない事から目をそらして見なくなり、「現状維持」や「安定志向」になってきた。

多くの人が、何となく「このままじゃまずいんじゃないか」と思っているでしょう。でも、薄々それに気づいていながら、そのヤバさを誰も指摘しないし声を出そうとはしません。なぜなら声を出すと、村八分にされ、社会からのけ者にされる。時には「非国民」や「売国奴」と呼ばれる。それが怖いから、みんな沈黙するようになった。それが現実です。

でも、これじゃさすがにまずいでしょう。だから、もっとひどい世の中になる前に、「失敗から得られる歴史の教訓」を、とくに若い人たちに届く形で誰かが発言すべきだと思いました。誰もやらないなら自分でやろうということで、今回の本を書きました。

文字だけでなく漫画もありましたが、ご自身で描かれたんですか?

坂木: そうです。表紙以外は全部自分で作っています。

熱量がすごいですね。日本の国力が落ちているというのは、おそらく誰もが気づいてはいるのでしょう。そうなると不思議なのが、最近よく見かける、日本を過度にほめたたえるような歴史認識に基づいた情報です。

坂木: 私は世代的に高度成長期に少し触れているのですが、道路がきれいになったり高いビルができたりといったことを目の当たりにして、社会がどんどん豊かになる実感があるわけですよ。若い人がたくさんいて、将来に希望が持てました。

ただ、その時代が終わって、今度は中国やアジアの国が台頭してきました。高度成長の後のやり方に改めることもなくぼーっとしているうちに、中国や韓国がどんどん抜いていった。そうなると日本人にも焦りが生まれますから「日本は世界に強い影響力を持っていて、こんなにすごい国なんだ」と思って安心したい心理になるんだと思います。一種の現実逃避ですよね。

坂木さんが感じている日本の歴史教育についての問題意識についてお聞かせください。個人的には、社会人になってからは意識的に学ばない限りほとんど歴史に触れる機会がない点や、若年層の歴史への関心が低下しているように見えることが気になっています。

坂木: 日本の歴史教育は、暗記重視の詰め込み教育ですよね。歴史教育で大事なのは、過去の出来事から未来への教訓となることを学ぶことなのに、それができていないと感じます。

最たるものが明治維新以後の近現代です。現代につながる重要な時代なのに、学校の歴史の授業は古い方から順を追っていきますから、どうしても学年の最後の方に、時間に追われてささっと済ますことになりがちです。

わかります。三学期に駆け足でやるという。

坂木: 個人的には歴史の授業は近現代史から勉強するべきだと思います。現代の「民主主義」や「人権主義」にたどりつくために、どんな道筋をたどってきたのかをもっと知るべきでしょう。

また、今後の生き方の羅針盤になるという意味で、歴史のような「生きた教科書」は他にありません。だからこそ、日本にとって都合の悪いことも、包み隠さずに教えていただきたいと思っています。

また、日本の侵略史の認識などがそうですが、極端なものも含めて様々な歴史認識が乱れ飛んでいて、どれを信じていいのかわからず、歴史そのものから遠ざかってしまう人は多いのではないかと思います。歴史を学ぶ際の、見通しの悪さや雑音の多さについてご意見がありましたらうかがいたいです。

坂木: 現代はインターネットなどで自分の意見に合ったものを見つけて「いいね」をする時代ですから、ある歴史上の出来事を知った最初のきっかけの時点で、おかしな思想に触れたり、その時の気分で「いいね」と思える考えに染まってしまうと、それが「刷り込み」になってしまう危うさがありますよね。

特に今は「極論」が受ける時代です。「南京事件はなかった」と断定されると「そうなんだ、知らなかった」と目からウロコのように思ってしまう。あるいは強い口調で極論を言う批評家や政治家の意見を、まるで神様の言葉のように感じて、そのまま受け取ってしまう。

本当は極論に触れたら「これは危ないな。そのまま信じない方がいいな」と思った方がいい。でも、疑うためにはある程度の知識が必要です。そのためには、回り道になるけども、歴史について信頼できる資料を読んで、様々な人の主張を見比べてみるしかない。それが歴史を自分で判断する力を養う唯一の方法なんです。

出来事の解説だけでなく、時代の流れを抑えているのでわかりやすかったです。執筆・制作過程で心がけていたことについて教えていただければと思います。

坂木: 「歴史の教訓を現代に活かす」ということを一番に主張したかったので「日本はすごい」的なことはあえて書きませんでした。そういうことを書いた本はたくさん出ていますから。その代わりに日本人のダーティな暗部をできるだけシンプルに書こうと思っていました。そのためにマンガやイラスト、図表を多く入れて、登場人物が対話を通して歴史の事実に迫っていく形式にして、若い人に少しでも目を向けてもらえる工夫をしています。

また「歴史が大きな流れとして理解できるようにする」ことも大きなテーマでした。一部のローカルな紛争を取り上げて「中国が悪い」「日本が悪い」という犯人捜しをするのではなく「そもそもこの紛争はこういう理由で起きたものだよ」という、源流に立ち返って解説することにこだわっています。

たとえば南京事件だけを見て、どちらが悪かったのだと今話しても意味がありません。そうではなくて「そもそも日本はなぜ日本は中国大陸に進出したのか」という原点を問うことが大切だと考えています。

■インパール作戦に注目しても歴史から学びを得ることはできない

「日露戦争に勝利した成功体験が捨てられず、戦略をアップデートしなかったことが太平洋戦争での敗戦につながった」という指摘はごもっともだと感じました。そして、今の日本もまた高度成長からバブル期の成功体験を引きずっているように見えます。なぜ、日本は失敗から学ぶことを忘れてしまったのでしょうか?

坂木: そもそも日本は「失敗から学ぶ」ということを教育してきませんでした。社会はどうあるべきか、民主主義とはどのようなものなのか、あるいは「ひとの道」とはどういうものか。私達は「地球市民」としてどう生きるべきか。そういった、子どもがグローバル社会の荒波を渡っていくために必要な、大切なものを見事に教えてこなかった。そこが前提として大きな失敗だと考えています。

一方で、資本主義の行きつく先として、バブル景気を享受しました。株価が上がり、寝ていても大金を得られる時代でした。こうした時代を「成功体験」として記憶している人は、そこで自分が手にした既得権益を守ろうとして、現状維持の考え方になりますから、いくら「歴史で失敗の教訓を学ぼう」と言っても、聞く耳を持たないでしょう。こうしたことが「歴史の事実や教訓に謙虚であれ」という大切な教えを、いつの間にか忘れてしまった要因ではないでしょうか。

「歴史から学ぶ」ということについて、よくビジネス誌などではインパール作戦のような旧日本軍の失敗談が教訓として挙げられていますが、太平洋戦争以前の近現代史はあまり顧みられていないように見えて、不思議な印象です。

坂木: 昔の軍隊の失敗が今もビジネスの現場で繰り返されている、というやつですよね。それはその通りで、今も日本の企業では当時と似た失敗が繰り返されているんだと思います。ただ、そこから学びを得たいならもっと根本から振り返るべきです。

本でも書きましたが、明治維新当時、政治家たちは天皇を頂点とする家族的な国を作ろうとしました。そこで天皇のためなら命を捧げて当然なんだという価値観が徹底的に植え付けられたんです。インパール作戦の失敗の根本はそこにあるわけで、作戦自体を取り上げるだけでは、なぜインパール作戦で無茶苦茶な命令に誰も抵抗せずに従ってしまったのかはわからないでしょう。

また坂木さんから見て歴史から正しく学んでいると思える国はどの国ですか?

坂木: ドイツでしょうね。ネオナチがまだ活動していますが、ドイツはナチスドイツが歴史上犯した所業を常に頭の片隅に置いて、根幹は何とかブレずに持ちこたえているように見えます。

ただ、植民地を持っていた国は多かれ少なかれ「負の遺産」を今も抱えていますよね。植民地との間の禍根がすべてなくなるということはなかなか難しいのではないかと思います。

今回の本をどんな方々に向けて書かれましたか?

坂木: ぜひ若い方に読んでいただいて、考えてほしいと考えています。今の日本は、政治や経済を見ても、主導権を握っているのは「年寄り」です。彼らは、もう時代は変わっているのに、いまだに昔の成功体験に浸っている。だから現状を変えることをひどく怖がるんです。そういう人たちはもうどかしてしまえばいい。

若い方々が「自分たちで新しい歴史をつくる」という意気込みを持っていただきたいです。多様性のある社会の実現、国際協調、地球温暖化防止など、やるべきことは山積しています。既得権益にとらわれずに、歴史の教訓から多くを学んでいただきたいですね。

最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

坂木: 国というものを簡単に信用するなと言いたいです。右だろうが左だろうが関係ありません。政権を常に批判的に見て、騙されないでいただきたい。日本人の多くは、「政治はお上のやること、自分には関係ない」という、昭和の考えをまだ引きずっています。それを打破してほしい。そして、自分の人生哲学をしっかり持ってほしいです。そのためにも歴史を学ぶことは有用です。

最後に付け加えると、この本は私のような昭和生まれの「歴史の教訓の情報弱者」に向けても書いています。結局、私たち昭和生まれがしっかりしていないから、子どもたち、孫たちに「情けない日本」を残してしまった。これは大きな罪です。

昭和生まれの私たちは頭が固くて、自分らが受けてきた教育や生き方が一番すばらしいと思っていますし、子の世代にも同じ事をさせたい、それでいいんだと思いがちです。でも、実はとても気が弱くて、「自分たちは間違っていた」と正直に認められないだけなのかもしれません。

今からでも、せめて自分の子どもや孫には、将来「俺たちの親ってさ、過去の過ちを素直に認め、世界中と仲よくつきあっていくことに努力した、勇気ある奴らだったよな。誇りに思うよ」と、尊敬されるような親になれるように目指していただきたい。そのためには「歴史の教訓」を今からでもしっかり知ってほしいです。「学ぶこと」に定年はないですから。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. 「戦前・戦中、日本国民がすりこまれた『思想』」
  2. 「戦前の日本では『戦争』は儲かるビジネスだった。」
  3. 「中国・韓国を見下す日本人。そもそも、なんで?」
  4. 「日清・日露戦争は、朝鮮半島の争奪戦。」
  5. 「第一次大戦後、世界のトレンドと逆行する日本。」
  6. 「満洲国建国へ。全ては日本のため。」
  7. 「満洲国、または日本の傀儡国家。」
  8. 「日中戦争へ。沈黙する立憲政治。」
  9. 「日中戦争。」
  10. 10
    「いわゆる南京事件。」
  11. 11
    「事実上の植民地、台湾と韓国で日本がやったこと。」
  12. 12
    「対米戦争への道。」
  13. 13
    「全くやる必要のなかった、アメリカとの戦争。」
  14. 14
    「太平洋戦争って、こんな戦争だった。」
  15. 15
    「『5 つの負け戦』からわかること。」
  16. 16
    「特攻、戦艦大和、そして沖縄。」
  17. 17
    「本土決戦、原爆、ソ連の侵攻。」
  18. 18
    「東京裁判。」
  19. 19
    「大本営発表、そして天皇と靖国神社。」
  20. 20
    「憲法9 条はこうして生まれた。」

プロフィール

坂木 耕平(さかき・こうへい)

1958(昭和33)年生れ。早稲田大学政治経済学部卒業。大手情報通信会社に長く勤務、昭和のサラリーマン体質が身体に染みついており、これを払拭すべく体質改善中。これまでに音楽関係の著書を上梓、本作品は2作目。趣味は日本各地の秘湯巡りと鉄道廃線跡探訪。好みの指揮者はユッカ=ペッカ・サラステとクラウス・マケラ。

Lockon!近代史

Lockon!近代史

著者:坂木 耕平
出版:幻冬舎
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