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心を休ませるために今日できる5つのこと マイクロ・レジリエンスで明日のエネルギーをチャージする

amazonへのリンク『心を休ませるために今日できる5つのこと マイクロ・レジリエンスで明日のエネルギーをチャージする』
  • 著者:
    ボニー・セント・ジョン アレン・P・ヘインズ
  • 翻訳:
    三浦 和子
  • 出版:
    集英社
  • 定価:
    1,700円+税
  • ISBN-10:
    4087860973
  • ISBN-13:
    978-4087860979

本書の解説

「心に余裕がないな」と思ったときに試したい、5つの“自己マネジメント法”

どんなに苦しい時間や出来事があっても、それを乗り越えていく人がいます。
そんな人たちを私たちは「折れない力を持っている」と表現しますが、この「折れない力」は今、「レジリエンス」という言葉でビジネスやスポーツを中心に重要視されています。

「レジリエンス」を正しく表現すれば、「折れない」というよりも「もとの形状に戻る力」といっていいでしょう。言うなれば潰されてもすぐに元通りになる「スポンジ」です。

ただ、「レジリエンス」は病気や離婚といったライフイベントや、ハリケーンや地震などの災害など、立ち直るのが難しいと見なされている大きな試練を乗り越えたというマクロ的なアプローチで語られることが多いのが現状。
この考え方を個人の日々の習慣として捉え直せれば、毎日落ち込むことなく、生き生きと、ポジティブに生活できる術が身に付くのではないでしょうか。

その方法を教えてくれるのが『心を休ませるために今日できる5つのこと』(ボニー・セント・ジョン、アレン・P・ヘインズ著、三浦和子翻訳、集英社刊)です。
著者のボニー・セント・ジョン氏は、5歳で片脚を失ったものの、1984年の冬季パラリンピックのスキー種目でアフリカ系アメリカ人として初めてメダルを獲得。その後、ビジネスコンサルタントに転身し、リーダーシップや人材開発の分野で活躍しています。

そんな彼女が個人の能力を引き上げ、日々生産性を高めるために重要視しているのが「マイクロ・レジリエンス」という手法です。
著者によれば、生活の質の向上に関わるのは、長期的な課題の克服よりも、むしろ日々の小さな課題をどのようにクリアしていくかということ。「塵も積もれば」とはよく言うものですが、毎日経験する無数の小さな傷が生産性に強く影響しているというのです。

では、「マイクロ・レジリエンス」ではどんなことをすべきなのでしょうか。
著者は5つのフレームワークを用意します。

  • 1、脳の使い方を切り替える(リフォーカス)
  • 2、原始的な恐怖をする(リセット)
  • 3、思考のクセを見直す(リフレーム)
  • 4、体をリフレッシュする
  • 5、心を活性化する(リニュー)

この5つのテクニックを駆使することで、「プレーの合間(業務の合間)」に心身が回復するスピードを高められるというのです。では、一つ一つ少しずつ見ていきましょう。

1、脳の使い方を切り替える(リフォーカス)

効率化の名のもと、複数の業務を同時並行で進めているビジネスパーソンは多いでしょう。しかし、このマルチタスクこそが、活力を衰えさせる原因になります。
ならば、毎日の中に一つのことを集中して片づける時間を持つことが大事。カレンダーに自分の集中時間をあらかじめ書き込んでおき、集中できる環境を確保しましょう。
また、疲れた脳を切り替える方法として「運動」も取り入れるべきだと本書。その日の運動が脳の活動にも影響するとしたうえで、「肩まわし」や「首のストレッチ」でも切り替えるためのスイッチになるといいます。

2、原始的な恐怖をする(リセット)

ビジネスは競争の場であり、過度なストレスに晒される現場でもあります。そして、受けているストレスを我慢したままでいると、急に感情をコントロールできなくなってしまうことも…。
こうしたストレスに対しては、日々ケアをし、気持ちをリセットすることが必須です。例えば、今、自分が思っている感情に名前をつけて客観視して冷静さを取り戻す、深呼吸などでリラックスする、安らぐ香りを嗅ぐこともいいでしょう。一つ一つの小さな習慣がストレスフルな自分をリセットする方法になるのです。

3、思考のクセを見直す(リフレーム)

怒りや悲しみなどのネガティブな感情を出すことは、健康の維持に役立つ場合もあります。しかし、そうした感情が周囲のモチベーションを下げてしまう側面もあるでしょう。
だからこそ、自分の思考の癖を把握し、客観的に見直すことが有効な対策になります。どんなことでも分解し、事実を抜き出せば対処ができますし、別の視点を持つように努めれば、一つの感情に苛まれることもなくなります。

4、体をリフレッシュする

生産性の向上は食生活からはじまるといっても過言ではありません。あなたを動かすエンジンの質は大事。不適当な種類のオイルを使えば、円滑に動く能力を失くしてしまいます。
本書では身体をフルで動かすための、水分補給と血糖値の考え方がつづられています。例えば水分ならば、マイクロ・レジリエンスの視点でどのタイミングで水を飲むべきかを教えてくれるのです。普段水分をあまり摂らないという人は参考にしてみるといいでしょう。

5、心を活性化する(リニュー)

心の活性化を実現するには、これまでのような日常的な対策ではなく、マクロ的な視点が必要になります。未来のことを考える「目的意識」を持つことが活性化につながるのです。
著者は、目的には「人の生命力の通常の能力以上に拡大する神秘的な性質がある」と解きます。その性質を応用し、未来に目を向けさせるのが、この「リニュー」というレジリエンスの方法といえます。

本書は具体的なケースをもとに、どのように日常にマイクロ・レジリエンスを取り入れるべきかがつづられています。

上手くいかなかったり、余裕がないと焦りばかりが募り、他人につらくあたってしまったり、すべてがストップしてしまうこともあります。ただ、それでは何の解決にもならず、むしろ事態はネガティブな方向へ転がっていってしまうでしょう。

究極の自己管理法ともいえる「マイクロ・レジリエンス」。今後、ビジネスパーソンのキーワードとなるかもしれません。
(新刊JP編集部)

インタビュー

ボニー・セント・ジョンさん写真

頑張り過ぎではこの先やっていけない 今、身に付けるべき回復法とは?

―― この『心を休ませるために今日できる5つのこと』はどのような人に向けて書かれたのですか?

ボニー:一生懸命働いていて、成功をしたいと思っている起業家や若い重役たち、医者や弁護士といったプロフェッショナルたち。ホワイトハウスの中にいる人たち、会社でさまざまなタスクをこなしているビジネスパーソンたち。皆さん、頑張りすぎです!

―― 私もスタートアップにいた経験がありますが、当時は若さもあり、メンバーみんなとにかく働きまくっていたんですね。ただ、年数を重ねれば重ねるほど無理ができなくなる。回復が遅くなるんです。

ボニー:そうでしょう。私にもそういう時期がありました。でも、「頑張る」だけでは何も解決しません。「継続して頑張れる」環境を作らないといけません。
この課題はある特定の業界の話ではなく、様々な業界において共通しています。しかもみんなが言うのは、「頑張りたいのにあまりにも変化が速すぎてとてもじゃないけど対応できない。どんなに働いても変化についていけない」ということです。

―― 同じ状況は日本でも見られます。特に「過労死」という言葉が生まれたように、日本人はオーバーワークになりがちです。その意味では、この本は日本人の救いになりそうです。

ボニー:日本人は世界でも一番働くのではないかと思うくらい、真面目に働きますよね。また、自分に対するハードルを高く持ち、これだけのことを成し遂げなければ十分ではないと思い込んでいる。実はそれが問題だと思います。
私自身がそういう人間であったから、足手まといになりたくないし、みんなが頑張っているから自分も頑張ろうとする。でも、それって幸せな生活ではないですよね。幸せな生活を送りたいし、満足感も得たいと思う人もいるでしょう。
この本はそういう人たちに向けて書いた本なんです。

―― この本は個人に変革を促すために書いたということですか?

ボニー:いえ、「あなたは変わらないとダメ」と言うつもりはありません。色んな調査・研究の結果から得た知見を私たちは利用して、そのメソッドを開発した、その事実を提示しているということです。

働き過ぎて疲れていると最高の実力は出せませんよね。アイデアも閃かない。そこでマイクロ・レジリエンスという方法で回復を促し、その人がもともと持っている能力を常にベストな状態で発揮できるようにする。ゆっくりでいいから具体的で現実的な方法を取っていくことで、脳の動きも判断力も少しずつ良くなっていくのだと思います。

―― 少しずつ良くなっていく。なるほど、「こういう働き方以外にない」からの脱却ですね。

ボニー:そうですね。本当に立ち止まってしまったら終わりですよ(笑)。“Don’t Stop!”です。

―― 「マイクロ・レジリエンス」はボニーさんたちが作った言葉と書かれていました。この発見に至った経緯を教えて下さい。

ボニー:すでにリサーチから、食生活を正すとか、睡眠をとるとか、運動をすれば、パフォーマンスは良くなるというのは分かっていましたが、それは誰でも知っていますし、その日に実感しにくいものです。だから、「今日少しでも実践すれば結果が出る」という回復法を私たちは探しました。

ヒントになったのはテニスのウィンブルドンです。世界的なプロテニスプレーヤーたちが集まっているのに、頂点に行く人は限られています。では、なぜトッププレーヤーたちは安定して勝てるのか。その部分を一生懸命リサーチしたジム・レーヤー博士という研究者がいるのですが、彼はトッププレーヤーたちがプレーとプレーの間にやっていることに共通点があるということに気付きます。

大事なことはプレーとプレーの間に何をするかということ。もちろん食生活や睡眠、食事も大事であり、プロのテニスプレーヤーたちはみな実践しています。ただ、もっと小さな単位で差が出るわけです。
トッププレーヤーたちは、得点が入ってからベースラインまで下がったり、ゲームやセットの合間にコートサイドで出たりするマイクロな瞬間に、エネルギーの回復や集中力の維持を図っていました。つまり、その瞬間すばやく効率的に理想的な心拍数に戻していたんです。一方でランクの低い選手たちは回復のための動作を活用できていませんでした。
これは今やテニスの指導には欠かせない要素となっています。

―― それをビジネスの場面でも応用したのが、ボニーさんたちの「マイクロ・レジリエンス」というわけですね。

ボニー:そうです。ちょっとした回復。それが大きな差を生み出し、高い競争力を維持する原動力になっていたんですね。

―― ボニーさんはパラリンピックのメダリストでもあります。アスリート的な視点も非常に活かされているのでは?

ボニー:私は「勝ちたい!」という想いがとても強いですからね(笑)。メンタル面も肉体面も、そして感情面でも、一つ一つ、少しずつ動いていかないと勝てませんよ。

ボニー・セント・ジョンさん写真

まずは「頭の切り替え」から 回復力を高めるには?

―― 『心を休ませるために今日できる5つのこと』には、脳を鍛え直し体の元気を取り戻す5つのフレームワークが紹介されています。このフレームワークのどれか一つから始めるとしたらどれが最適でしょうか?

ボニー:5つのフレームワークはそれぞれ関連しているので、相互に実行することで最も役に立ちます。考え方は人それぞれですし、どれか一つやればいいとか、どれが一番いいというものではありません。

ただ、「脳の使い方を切り替える」を最初に持ってきている理由は、燃え尽きているのは頭だからです。頭が疲れちゃうと何もできなくなるでしょう? まずはそこを回復させて、使い方を切り替える。目的と目標をはっきりとさせないと次には進めないけれど、まず頭が疲れていて出来ていない人も多いですよね。

その上で全部やっていけば5つのフレームワークはお互い強化されていくので、ぜひいろいろとトライしてみてほしいです。

―― 2つ目に取り上げられている「原始的な恐怖をリセットする」では、ポーズ(体勢)を作って自分の挑戦心を高める方法が紹介されています。

ボニー:ストレスが大きくなりそうなときに、例えば両脚を開いて立って両手に腰を当てたり、両足を机の上に投げ出して座って両手を頭のうしろで組んだりすることで、ストレス反応を和らげることができるんですね。

―― ただ、日本のオフィスですと「こういうポーズを取るのも難しい」という声もあるんですね。

ボニー:そこはリーダーが率先して言うことが大事ですね。「みんなでやってみよう」と。
それから、人前でする必要はないので、空いている会議室やトイレに行って、ポーズを取ってもいいんですよ。

―― 「マイクロ・レジリエンス」は個人の働き方に応用できるものですが、会社全体での取り組みとしてこの方法を導入できないかとも思います。

ボニー:そうですね。本は個人向けですが、私たち自身は様々な業界にアプローチし、回復を早くさせようという文化を、セミナーなどを通して会社に定着させようとしています。また、トレーナー教育も合わせて広げていこうと思っています。

現代の変化は並大抵の速さではありません。5年後、社会がどうなっているのか、もう見当もつきませんよね。そうした変化に対応するために企業は早急に動かなければ、生き残ってはいけないと思います。

その時に大切になるのが回復力です。回復力を身に付けなければスピードに対応できない。ある企業の役員がこんな話をしていました。「変化が速いと言っているけれど、実は今が一番遅いんです。これから先、もっと速くなる」と。

―― なるほど…。

ボニー:これは大事なことです。もっと速くなる(笑)。

―― では、ボニーさんは今後私たちの「働くこと」の意味がどのように変化するとお考えですか? 例えば人工知能の発達によって仕事によるパフォーマンスの定義はどう変わるのか。考えをお聞かせ下さい。

ボニー:働く上では「回復」はますます重要になるでしょう。ある程度の仕事はAIがこなしてくれるようになるでしょうし、例えば弁護士の仕事もAIができるようになるのではと言われています。

その中で人間は「人間にしかできない仕事」を求められます。つまり、脳を使ってクリエイティブを高めていかないといけない。ただ、日々の業務で燃え尽きて疲れ切っていたら、それを高めることはできませんよね。

常にアップグレードし続けていかないといけない。そうでないと無駄が多くなります。そうした上でベストを尽くすには、マイクロ・レジリエンスが役に立つと思っています。

―― ボニーさんは回復のためにどんなことをしていますか?

ボニー:All of them! 全部やっています(笑)。そうじゃないとパフォーマンスは出せませんからね。今回のように日本に来ても欠かさず行っていますよ。、ゾーンを確保する、つまり自分が集中できる時間や場所は旅先でも必ず確保するようにしています。そうしないと、自分が流されてしまいますから。

―― 現在、日本とアメリカ・ニューヨークは時差が13時間あります。その大きな時差の中でもパフォーマンスを落とさないために「マイクロ・レジリエンス」は欠かせないわけですね。

ボニー:そうです。このようにインタビューを受けるのも分かっていましたから、賢くなってないといけません(笑)。なので、朝はホテルで必ずジムに行って体調を整えます。ほんの短時間ですが、行くことが大切だと思っています。

―― 最後に日本の読者の皆様にメッセージをお願いします。

ボニー:日本の方々はこの本の最高の読者ではないかと思います。皆さん、働き過ぎです。でも一生懸命働いてしまう気持ちも分かります。そういう人にぜひ読んでほしい。この本を通して幸せになって下さい。

書籍情報

目次

  1. 第1章 脳の使い方を切り替える

    • ・他の人がじゃまをできない空間「ゾーン」を設定する
    • ・1つのタスクに集中するための時間帯「ゾーン」を設定する
  2. 第2章 原始的な恐怖をリセットする

    • ・感情が高ぶって自制心を失いそうなときは、自分の感情に名前をつける
    • ・腹式呼吸、ポジティブ思考、香り、パワーポーズなどによって恐怖をリセットする
  3. 第3章 思考のクセを見直す

    ・心の救急箱「ジョイキット」、ABCDEモデル、逆転発想法などによってネガティブになりがちな思考を見直す
  4. 第4章 体をリフレッシュする

    ・水分補給、血糖バランスによるリフレッシュ
  5. 第5章 心を活性化する

    ・試金石、スケジュール、フローによる活性化

著者・翻訳者プロフィール

ボニー・セント・ジョン

著者近影

5歳のときに、切断手術で片足を失う。パラリンピックのスキー選手として活躍した後、オックスフォード大学のローズ奨学生に選ばれた。
現在、世界的に知られたリーダーシップ専門家として、フォーチュン500社経営幹部から起業家に至るまで、数多くの人材を指導し、高い業績目標の達成に導いている。
『ピープル』誌、『フォーブス』誌、『エッセンス』誌、『ニューヨーク・タイムズ』紙、TV番組『トゥデイ』、CNN、CBSニュース、PBS(公共放送サービス)、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)など、広くメディアに取りあげられ、NBCニュースのなかで「全米で最も感動を与える女性」と呼ばれた。

アレン・P・ヘインズ

20年にわたって、映画・テレビ業界で販促キャンペーン企画を担う高成長中堅企業数社のCEOを務めてきた。
また、ソニー、ディズニー、IMGインターナショナル・マネジメント・グループ、NBCユニバーサル、フォックスの経営幹部にアドバイスとコーチングを行っている。

三浦和子

翻訳家。兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文学科卒業。
訳書に、『[超訳]エマソンの「自己信頼」』(ラルフ・ウォルドー・エマソン著、PHP研究所)、『世界の山岳大百科』(共訳、英国山岳会・英国王立地理学協会編、山と渓谷社)、『ドラグネット 監視網社会―オンライン・プライバシーの守り方』(ジュリア・アングウィン著、祥伝社)などがある