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怒りにとらわれないマインドフルネス

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本書の解説

日々の生活の中では、様々なことが起きます。
その中で強い「怒り」の感情に襲われてしまい、誰かに心無いことを言ってしまったり、衝動的に行動してしまったりした経験はないでしょうか。
その結果、自分でも「何であんなことをしたのだろう」と後悔することも。

「怒り」をコントロールする方法としてよく知られるのは「アンガーマネジメント」ですが、そのベースになっているのが「マインドフルネス」です。

40年の瞑想歴がある精神科医・藤井英雄さんの著書のタイトルはズバリ『怒りにとらわれないマインドフルネス』(大和書房刊)。
「怒り」という感情はなくすことができないという前提のうえで、そのやっかいな「怒り」をコントロールするためのマインドフルネスの方法を伝授します。

では、どうすればそれができるのでしょうか。

すぐ怒ってしまったり、ネガティブになる人こそ「マインドフルネス」が有効

マインドフルネスとは「今、ここ」の気づき。もっと言うと、「今、ここの現実にリアルタイムかつ客観的に気づいていること」だと藤井さんは定義します。つまり、自分は今何をしていて、どう思っているのかを客観的に見られている状態といえるでしょう。

もちろん、普段の生活でもずっとその状態を維持しなさい、というわけではありません。何かに集中したいとき、嬉しかったり感動をしたりしたときなど、ポジティブな感情の時は「今、ここ」の気づきがなくても問題ないのです。

「今、ここ」の気づきが最も必要な場面は、怒りや悲しみなどネガティブな感情に囚われているとき。ネガティブな感情のままでいると、自己肯定感が下がり、自己嫌悪がどんどん上書きされ、強固なものになっていきます。

藤井さんは「自己肯定感」が弱い人こそ、マインドフルネスが有効だといいます。ネガティブな感情に囚われたとき、一度「今、ここ」を見る。そして心をニュートラルに戻し、そこからゆとりをもってポジティブ思考に移る。こうしていくことで、自己肯定感を高めるわけです。

瞑想中はさまざまなことを「実況」すべし

では、ネガティブな感情によって我を忘れているときに「今、ここ」を感じるにはどうすればいいのでしょうか。

藤井さんは「瞑想」をすることを促します。
まず鼻で呼吸をし、ゆっくりと息を吐く。腹式呼吸、胸式呼吸どちらも大丈夫ですが、その時にお腹がへこんだり、膨らんだり、胸が広がったり、縮んだりする変化を感じて「実況する」ことが大事です。

「ふくらみ」「へこみ」を実況していると、他の思考は希薄になっていきます。そこで、もしかしたら集中力が切れてしまい、雑念が出てくることも。そんなときも「雑念が出てきた」と実況しましょう。そうすることで雑念自体を客観視して手放し、呼吸に集中を戻すことができます。

瞑想は座っていても立っていてもOK。ただし、「今、ここ」の気づきなので瞑想中に眠ってはいけません。背筋を伸ばして、余計な力を抜きましょう。
また、瞑想の時間ですが、最低限のハードルとして10秒を確保することを藤井さんはあげています。その際、「スタート」「Go」「はじめ」など、意識を「今、ここ」に集める合図を始まるときに宣言するといいそうです。

「怒り」を客観的に見ることで、どんなときに怒りやすいのかを知る

マインドフルネスを続けると、自分はどういうときに「怒り」を感じるのかという、自分の「怒り」のパターンが見えてきます。

藤井さんによればそれはだいたい5つの要因に当てはまるようです。

  • 「環境」…狭い、暑い、天気が悪いなど
  • 「体調」…疲労、睡眠不足、空腹など
  • 「状況」…忙しい、人目が多い、苦手な人がいるなど
  • 「一時感情が恐怖」…失敗を恐れる、批判を恐れるなど
  • 「一時感情が悲しみ」…失敗した、批判されたなど

その上で、自分が感じた「怒り」を記録にしてつけておきます。これは「アンガーダイアリー」といい、気づいたことを書くだけでも、「怒り」のコントロールの効果は高まるといいます。

感情的になってしまい、相手とすぐに口論になる。思うように上手くいかないときについ人に強く当たってしまう。

本書は、「怒り」をはじめとしたネガティブな感情が起因となり、人間関係を上手く築けないと悩んでいる人にぴったりな一冊。自分のコントロールだけでなく、相手の「怒り」を受け止める方法も指南されています。

まずは自分自身を客観的に見つめる1日10秒の瞑想からスタートしてみてはいかがでしょうか。だんだんと「怒り」との付き合い方が分かっていくはずです。

(新刊JP編集部)

インタビュー

すべての問題は「マインドレス(うわのそら)」から始まっている

――怒りにとらわれないマインドフルネス』についてお話をうかがえればと思います。「怒りにとらわれない」という部分がとてもポイントになる一冊ですが、本を執筆した経緯から教えてください。

著者、藤井英雄さんお写真

藤井:私は精神科医として活動していますが、最近、うつ状態で病院に受診されにいらっしゃる方の中で目立つのが、職場の上司からの理不尽なパワハラ・モラハラを受けて、心を病んでしまった方々です。

一方で、自らの怒りやイライラを相手にぶつけてしまい、人間関係を壊してしまう方も増えているように感じます。

こうした「怒り」を理不尽に相手にぶつけたり、イライラを外に出してしまう人たちにはある共通した原因があるんです。

―― その原因とはなんでしょうか?

藤井:「自己肯定感」の弱さ。そして、他者を支配・抑圧することで弱い自己肯定感を補強しようとしていることです。他者を支配・抑圧できる自分はパワーがあると錯覚しているんですね。

強いものは自分のイライラを弱者に向け、その被害者はぶつけられたイライラをさらに弱者にぶつける。このようにして、イライラと怒りは無限に循環・増殖し、私たちの世界を破壊し、住みにくい世界へと変えてしまいます。

たとえば、上司に叱られた部下が家に帰って妻にあたり、ストレスがたまった妻は子どもにあたり、子どもは学校で弱い子をいじめるといった具合です。

―― 負のループですね…。

藤井:近年、あおり運転がクローズアップされています。私もあおり運転されて怖い思いをしたこともあるし、逆に前の自動車がノロノロと運転していると、ムッとしてしまうことがあります。

みんながイライラと怒りの問題を抱えて生きているのが、この社会です。その一つの解決法として、私が提示しているのが怒りをも客観視する「マインドフルネス」なんですね。これは私自身の経験にも基づいています。ちなみに私のモットーは「マインドフルネスで幸せになる!マインドフルネスで幸せな社会を創る♪」です。

社会全体が幸せになるためには、ひとりひとりの心の中の平和が実現することが必要だと思います。私の心が平和なら、私に接している人が影響を受けて、小さいながらも幸せな社会ができるでしょう。そうやって、影響をどんどん広げていくことが大切なのかなと。だからこそ、本という形にこだわったんです。

―― 「怒りをコントロールする」という意味合いでは、アンガーマネジメントが思い浮かびます。アンガーマネジメントとマインドフルネスはどのような点で違い、どのような点で重なるのか教えていただけますか?

藤井:その2つは並列に比較するものではなく、マインドフルネスの中にアンガーマネジメントがあると考えたほうがいいでしょう。

アンガーマネジメントは「マインドフル」に行うかどうかが成功の秘訣であり、その意味では重なっていると思います。実はマインドフルネスは「怒りのコントロール」だけでなく、すべてのことの成功に通じるんですね。

私たちがしている全てのことは、2種類に分類できると考えています。それは、「マインドフル」に行ったか、もしくは「マインドレス(うわのそら)」にしてしまったか。そして「マインドフル」に行うことが成功に近づく秘訣だと思います。

アンガーマネジメントもそうです。マインドフルに行えば怒りをコントロールすることはできるでしょうし、マインドレスにしていれば、どんなに素晴らしいテクニックであっても上手くはいきません。

―― 「マインドフル」と「マインドレス」の違いをもう少し詳しく教えてください。

藤井:正反対の概念と考えていただければいいでしょう。

心の状態は2つあり、マインドフルな状態とマインドレスな状態です。とりわけ、自分自身の思考と感情を客観視できている状態をマインドフルネスと呼び、感情にとらわれずに冷静な判断を下せます。

一方、「今、ここ」の気づきを失って、思考と感情に巻き込まれている状態をマインドレスネスといい、感情にとらわれて冷静さを失い、外界の刺激に反応する人生を送ることとなります。

―― 私自身も「売り言葉に買い言葉」で、つい怒りに任せて強い言葉を言ってしまうことがあります。怒りにとらわれたとき、私は「マインドレス」の状態になっているということですね。

藤井:そういうことですね。マインドレスであれば、感情に巻き込まれてしまうんです。たとえばメールに返事がなかったので嫌われたと思い込み、傷つき、悲しみ、怒りを感じて、相手をなじってしまうのはマインドレスであるからです。

一方で、マインドフルな状態であれば、感情に巻き込まれずに一歩引いた見地にたって冷静に現実を見ることができます。頭に上っていた血が下りてくれば、たとえメールの返信がなくても「ああ、忙しくて返事する暇がないのかも」とか「スマホを見ていないだけかもね」など、別の見方もできて穏やかに生きることができます。

―― なるほど。では、怒りにとらわれたことを自覚したときに、どうすればコントロールできるのでしょうか。

藤井:たとえば自動車を運転していて無理な割り込みをされた。ムッとしますよね。でも、「周りが見えないくらい急いでいたんだろう。トイレかな? もしかしたら後ろの座席には出産直前の奥さんが…」と別の見方をすることができれば、怒りは少しおさまります。

ただ、ポジティブに考えることができればいいのですが、普段からネガティブ思考ですと、いきなりポジティブに振れることは結構難しいですよね。だからまずはマインドフルネスになって自分を客観視することです。そうすれば自然に冷静な観方ができるようになります。

―― 藤井さんから見て、「怒りやすい人」と「怒りにくい人」の違いはどこにあると思いますか?

藤井:「怒りやすい人」は 怒りを誘発するような行き過ぎたネガティブな考え方をしやすい。一方で、わりと鷹揚に、つまりゆったりと考えることができる人は「怒りにくい人」といえます。

先ほどの「メールに返事がなかった」という例を引き出すと、返事がすぐ来ないことに「嫌われた」「失礼だ」と考える人と、「忙しいんだろうな」と考えられる人は何が違うのか。

その時の体調や環境も関係する因子になりえます。風邪で体調が悪く、自分の体が思うように動かないというときは、イライラしてしまいがちです。ただ、それは因子の一つであって、もっと本質的な問題は「自己肯定感」の強弱だと思います。

―― なるほど。冒頭でお話した「自己肯定感」ですね。

藤井:そうです。自己肯定感とは、あるがままの自分を「それでよし」と感じることができる感覚です。自分は「あるがままでよい」ので、無理して周りに迎合しなくても、周りからも受け入れられ、愛されていると感じることができます。

自己肯定感は生まれてから今までの間に他者――特に親に自己を肯定され、そして自らを肯定してきた度合いによって決まりますし、長じては自分自身が肯定してきたかということが大切です。

一方でネガティブな感情に浸る時間が長ければ、自己肯定感は弱くなっていきます。さらにネガティブに考え、自己肯定感が弱まり…という負のループに入っていくわけですね。
ただ、ここでどうにかしてポジティブ思考になろうと思っても上手くはいきません。

―― では、「怒りやすい人」が「怒りにくい人」になるためにはどうすればいいのでしょうか。

藤井:肉体と心を持って生きている私たちですから、肉体と心を脅かす存在を嫌い、脅かす行為に対して反発するのは当然です。そのとき、率直に毅然と「ノー」と言えればそれで足りるのですが、そうできないのは自己肯定感が弱いからです。

自己肯定感が弱い人は「ノー」と言えば嫌われ、受け入れてもらえないと恐れて、我慢してしまいます。しかし、その我慢は、自分の欲求を抑える行為ですから、自己肯定感はどんどん弱くなります。「こんな価値のない自分は、少々のことは我慢して、周囲に認めてもらわなくてはならない」という破壊的なメッセージが、潜在意識に上書きされてしまうんです。

しかし、我慢には限界があり、いつかは破綻します。いつもはおとなしく言うことを聞いている、いわゆる「よいこ」だったのに、ついに「ノー」を言わざるを得ない状況に追い込まれます。

この時、今までの恨みやつらみ、悲しみ恐れを巻き込んで怒りとして爆発します。もしくは怒りのエネルギーを借りることで「ノー」を宣言しているのです。これが「キレる」という現象でしょう。しかし、怒りをもってわが身を守ることは自己肯定感が弱い人にとって当然の反応です。

受け入ることができない状況を押し付けられたとき、その都度、我慢せずに小出しにし、率直に「ノー」ということができれば、怒りを感じることなく、もしくは感じたとしても怒りにとらわれることがなくなるはずです。

自己肯定感を強化すること。そのためには自分を大切にするため、ちいさな怒りや悲しみ、恐れにマインドフルに気付きながら、勇気をもって「できる範囲で」ノーと言うこと。それが回答になります。

ネガティブな思考にとらわれたら、まずは一呼吸

―― 個人的な悩みがあるのですが、嫌なことをずっと思い出して自分にいらついてしまったり、誰かの悪口を言ってしまったりすることがあります。こうした怒りや不快な感情もマインドフルネスで解決できるのでしょうか。

藤井:嫌なことを思い出してイライラしている時、自分の心が「今、ここ」を離れて過去にさまよっているので、イライラしていることには気付いていません。だからずっとイライラすることを無防備に考え続けてしまうんです。

マインドフルネスとは「今、ここ」の気づきであり、「自分は過去のことを考えてイライラしているなあ」と気づいている状態です。そのマインドフルな気づきが継続できれば、嫌なことを思い出している自分を客観視でき、やがてイライラは鎮静するでしょう。
もしくは単に嫌なことを考え続けるのをやめてしまうかもしれません。その場合もイライラは静まります。

―― 確かにイライラしているときって、過去のことばかり追いかけていて、今を見ている感じではないですね。

藤井:過去の嫌な出来事ばかり追うのではなく、怒りや不快な感情を「今、ここ」の現実として捉えてみたらどうでしょう? 上司やパートナーの理不尽な言動が怒りの原因なら、自分を殺してまで我慢するのではなく、怒りをまじえずに冷静に「ノー」と言えれば怒りの感情は静まります。

「今、ここ」で、必要のない怒りの元になるネガティブ思考をやめること。そして、怒りの元にたいして「今、ここ」で必要な対処をすることは、どちらもマインドフネスの結果として得られるんです。

―― 本書の中にある、「感情は一巡する」という考え方は興味深かったです。感情は悲しみから恐れに変わり、そして怒りに変わっていくと藤井さんはご指摘されていますが、これは悲しみを断つことが怒らない秘訣と考えていいのでしょうか。

藤井:かなりの比率で、一次感情としての悲しみや恐れが怒りの原因となっています。その根底にあるのは幼いころからの傷つき体験と自己肯定感の弱さです。今ここにあらわれた怒りだけに焦点をあて、6秒数えて深呼吸して怒りを抑圧したり、リラクゼーションのテクニックを使ったりしても、根本の原因を断ち切らなければ怒りはすぐに再燃するでしょう。

怒りは悲しみと恐れを放置したために、今ここに現れているだけです。無視された悲しみと恐れが「気づいてくれ」と言っているんです。今ここに現れた怒りを通して、怒りの奥にある悲しみを癒し、恐れを乗り越えた時に自己肯定感が回復します。そして、怒りが喜びにつながり一巡するわけです。

―― 第2章で、怒りを鎮めるマインドフルネス瞑想が紹介されています。10秒で行う瞑想ですが、なかなか心が落ち着かないときは10秒以上やっても良いのでしょうか。

藤井:マインドフルネス上達の秘訣は、と聞かれれば、私は迷わず「毎日継続すること!」と答えます。10年ほど前にマインドフルネスの指導を始めた頃からずっとセミナーでも個人セッションでもそう言い続けてきました。

ですが、実はこの継続が難しいんです。30分、1時間も瞑想をする時間を確保できない。落ち着ける場所でゆっくり座ってやろうと思うと億劫になる。そうおっしゃる方が多かったのです。実際、私も毎日30分、時間と場所を決めて瞑想することになれば長続きしないでしょう。

―― では、藤井さんが瞑想を続けられている理由はなんでしょうか?

藤井:私が20年以上毎日瞑想を続けられるのは、思い切りハードルを下げているからです。

10秒どころか、たった一呼吸、マインドフルに呼吸するだけ。それも場所や時間にとらわれずに思いついた時にやることにしています。ここまでハードルを下げれば、さすがに瞑想することは苦になりません。そして毎日続けていることは習慣になります。歯磨きと同じレベルで習慣化します。

いったん歯磨きが習慣化すれば、歯磨きをしない日は逆に落ち着かなくなりますよね。瞑想も同じです。習慣化するまでは思い切りハードルを下げてしまってください。それでゆとりがあれば2呼吸、3呼吸と伸ばしていきます。

瞑想は「今、ここ」に心を結び付け、すべてのストレスから解放されるので、本来とても気持ちがいいものです。
そして、気が向いたらもっと長時間の瞑想に取り組んでみてください。ただ、「昨日は気がのったので10分やった。今日も10分やらねば!」となると本末転倒になります。だから当分は、習慣化するまではノルマは10秒としておく方がいいでしょうね。

―― なるほど。では、場所も時間も回数もそこまで気にしなくていいわけですね。

藤井:はい。本書で書いている10秒マインドフルネスは、あくまで継続のための手段ですから、10秒にこだわることもありませんし、1日1回に制限する必要もありません。思いついた時にはいつでも10秒、マインドフルに時を過ごせばいいのです。

ただ、このタイミングで必ず瞑想をすると決めておくことは習慣化のために役に立つこともあります。

たとえば目が覚めて布団の中で、歯を磨くときに最初の10秒をマインドフルに、扉を開ける時はマインドフルに一呼吸するとか、ご自分の好きなタイミングで10秒マインドフルネスを創り出すことができます。

でも、あまりこだわらない方がいいように思いますね。忘れたときに「しまった!忘れていた」と悔やむことになりますから。もしも悔やんでしまったときには、自分は今、しまったと思い悔やんでいると客観視しておくこと。それがその時点でのマインドフルネスになります。

―― 藤井さんは40年の瞑想歴を持ち、25年以上マインドフルネス瞑想を実践されてきました。マインドフルネス瞑想をはじめて明確に変わったと思う部分はなんですか?

藤井:最初はわけも分からず瞑想をしていました(笑)。ただ、瞑想とは何かを正しく理解したのはマインドフルネス瞑想を始めてからですね。

それまではネガティブ思考にとらわれることが多くて、その理由で瞑想を始めたのですが、その時はまだ瞑想によって波立った感情を抑えること、すなわちリラクゼーションが瞑想だと勘違いしていました。それは先ほど言ったように、ネガティブな思考にフタをしているだけなんです。

それが、マインドフルネス瞑想を始めてから、自分のネガティブな思考を客観視して手放し、癒す方法を学ぶことができました。「今、ここ」の自分の思考と感情を客観視することが、過去の傷ついた悲しみや、深く隠され気づくことのできなかった恐れまでを客観視でき、まるごと手放せるようになったんです。そこで生きることがだいぶラクになりましたね。

―― どのくらい続けることで変化を感じられるようになるのでしょうか?

藤井:どのくらい続けたら変化を感じられるか、ではなく、変化を感じるまで継続することが大切です。

ただ、それでも目安がほしいという方もいると思いますので、まずは一ヶ月続けていただきたいです。一ヶ月続けられたらそれは習慣化できるはずです。そして、習慣にしてしまえば、変化を感じる日も近づいてくるでしょう。

―― 本書『怒りにとらわれないマインドフルネス』をどのような方に読んでほしいですか。

藤井:本書のテーマは「怒り」ですから、まずは「怒り」で困っている人に読んでいただきたいですね。怒りを抑えることができず、キレてしまう人は、マインドフルネス瞑想を続けることで怒りの問題から解放されると思います。

次に、めったに怒らない人。つまり、怒りを抑えることに成功している人です。このタイプも危険なんです。我慢には限界があり、我慢強いほど心の中のストレスがたまりやすいといえるでしょう。マインドフルネスによって「今、ここ」のちいさな不満に気づき、そしてその小さな不満をためずに、怒りにまで育つ前に解消していくことが大切です。マインドフルネスはそのための武器になるでしょう。

マインドフルネスのように生きるための基本的なツールは、すべての人に身につけてほしいと思います。それも人生のうちになるべく早い段階で身につければ、傷をため込むこともなく、軌道修正できるでしょう。だから、なるべく若い人に読んでいただきたいですね。

そして今は、このマインドフルネスを小学生の高学年の皆さんにも習慣づけてもらいたいと、本を執筆しています。そちらもぜひ注目してください。

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 第1章 怒りたくないのに怒ってしまうわけ
  3. 第2章 怒りをあるがままに見つめる
  4. 第3章 本当の怒りを知り、解消する
  5. 第4章 怒りを遠ざけ、思いを伝える
  6. 第5章 相手の怒りを受け止める
  7. 第6章 マインドフルネス・ストーリー
  8. 第7章 アンガーダイアリーで記録する

プロフィール

藤井 英雄

精神科医。作家。1957年、神戸生まれ。
1982年鹿児島大学医学部卒業。2011年、心のトリセツ研究所を設立。日本キネシオロジー学院顧問