中小企業は「戦略」で劇的に変わる
小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方

小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉
「戦略」のつくり方

著者:山元 浩二
出版:日本実業出版社
価格:1,870円(税込)

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本書の解説

業績向上と組織の成長のために欠かせないのが、どの分野でどのように勝っていくかという「戦略」である。

大企業ではこの戦略を推進する専門の部署があるが、中小企業では経営者本人がこれを行うことも多い。もちろん、戦略を立てることで今やるべきこと、来年やるべきことが整理されるというメリットは大きいが、戦略を実行するPDCAが組織に根づいて、業績が伸び続けている企業となると、かなりまれなのが現実だろう。

戦略を立てたのに成果が出ない3つの理由

もし、戦略を立てたのに成果が伴わない場合、そこにはどんな原因があるのだろうか。多くの場合「戦略がまちがっていたのだ」という結論に行きつきやすい。しかし、戦略が成果につながらない原因は「戦略そのもの」にあるとは限らない。

『小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方』(山元浩二著、日本実業出版社刊)はこんな観点から中小企業に向けて、事業の成長という成果に結びつく戦略の作り方と、実践の仕方を指南する一冊だ。

では、先述の「成果が伴わない原因は戦略そのものにあるのではない」とはどういうことだろうか。

・戦略で成果を出すポイントを間違っている
・戦略を成果に導く体制が整っていない
・戦略のゴールがない

本書ではこの3点を戦略で成果が出ない本質的な原因としてあげている。いずれも戦略そのものが原因ではないことに注目すべきだ。

たとえば「戦略で成果を出すポイントを間違っている」は、効果的な戦略が立案できれば成果につながると考えるあまり、本来成果をあげるために必要な、「戦略を実行すること」がおろそかになってしまいやすいことが背景にはある。戦略は立案するだけでも時間と労力がかかるため「作って満足」になってしまいやすいのだ。

「戦略を成果に導く体制が整っていない」は中小企業にありがちなリソース不足によるもの。多くの中小企業には戦略の推進担当者がいないため、戦略を学び、立案し、組織に浸透させ、実行させるという各段階をすべて社長自身か一部の経営幹部が担うことになりやすい。そして、経営者・経営幹部自身も現場に出て働くプレイング・マネジャーであることが多いため、日々の仕事に忙殺されてしまい、戦略の立案や実行、推進管理に十分な労力をかけられないのである。

また、「戦略のゴールがない」は、組織として達成したい目標を定める前に戦略を作ってしまうことが原因。これは元をたどると会社の「理念」が定まっていないことに起因する。企業の理念を具現化するためには目標が必要で、その目標を達成するための作戦こそが戦略だからである。



戦略が成果に結びつかないことの本質的な原因を特定したうえで、本書ではこれらの原因を解消し、正しい戦略がそのまま成果に結びつくマネジメントの方法を伝授していく。

戦略の必要性は重々承知していても、なかなかそこに注力できず、立案も実行も中途半端になってしまい、成果も出ない、というのが全国の中小企業で起きていることである。本書はその現状を打開し、組織が一皮むけるための助けになってくれるはずだ。

インタビュー

■中小企業の「戦略」がうまくいかない理由

『小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方』は、中小企業の戦略立案と実行がテーマになっています。これまで中小企業経営者に向けて経営計画や人事評価制度についての本を書いてこられた山元さんですが、今回「戦略」をテーマにした理由を教えていただきたいです。

山元: 私は中小企業が人事評価制度と経営計画を連動させて組織を成長させていく仕組みとして「ビジョン型人事評価制度(R)」というものを提唱しているのですが、中小企業において「戦略」というのはもっとも弱い部分なんです。

戦略が明確になっていなかったり、戦略を実行するためのアクションプランのPDCAを回し切れず、戦略を立てただけで終わってしまいがちというお話をされていましたね。

山元: そうです。経営計画の中に「戦略」は含まれるので、今回の本ではこの戦略の部分にクローズアップしています。

本書は中小企業を対象に書かれていますが、どのくらいの規模の会社をイメージされていますか?

山元: 従業員数が15人から30人くらいの会社です。この規模の会社だと、戦略が社長の頭の中にしかないケースが多いんです。その社長も目標と戦略を混同していたり、戦略そのものが何かわかっていないことが圧倒的に多いですね。

目標と戦略の混同とは具体的にどんなことですか?

山元: たとえば、「今期の戦略は新規客拡大」とか「既存客の売上を増やしていく戦略」と言う社長は少なくありません。でもこれらはいずれも目標ですよね。その目標を達成するために何をするのかが戦略です。

じゃあ、混同したままどんなことをしているかというと、新規客拡大のための具体的な行動は営業パーソン任せだったりする。たまたま組織内の部署に優秀なリーダーがいる場合は、そのリーダーが部署の戦略を考えて指示しているケースもあるのですが、そうそうそんな優秀な人材はいません。会社全体の戦略があって、それが部門や個人に落とし込まれている会社となると10%もないのではないでしょうか。

戦略自体はまちがっていなくても、その戦略が機能しないこともままあります。山元さんはその理由を3つ挙げられていて、その1つが「戦略を成果に導く体制が整っていない」ことです。なぜ、成果が出る体制を整えられないのでしょうか?

山元: 中小企業はみんな現場中心で動いています。そうなると戦略立案や推進になかなか時間を割けないんですよね。そんな状況から戦略の重要性を認識させて、立案して、推進してということをやるとなると、やはり簡単にはいかないものです。戦略を推進して成果を出せる体制を作ることには年単位の時間がかかると思います。

戦略以前に経営計画を定着させて、人事評価制度を整備してといったことも必要ですから、経営計画の定着に1年、人事評価制度の整備に1年、戦略に1年で、3年くらいのスパンで考えた方がいいと思います。長いと感じるかもしれませんが、会社を成長させていきたかったらそのくらいの時間をかける価値はあります。「ビジョン型人事評価制度(R)」は100年企業を作るための仕組みなので。

また、「戦略にゴールがない」点も挙げられていましたね。

山元: そうですね。たとえば「とにかく業績を上げること」という号令のもとにやみくもにやっているケースです。「いつまでにいくら上げるか」「その先どんなビジョンを実現するか」といったゴールがないままだと現場が疲弊してしまい、やはり戦略が成果に結びつきにくいんです。

もう一つが「戦略で成果を出すポイントをまちがえている」です。この点について詳しく教えていただければと思います。

山元: これは「立派な戦略さえできればうまくいく」と考えてしまうことです。本来はどんなにいい戦略でも、実行しないと成果は出ないのですが、戦略を作るところまでは一生懸命やるのに実行は各リーダーや現場任せにしてしまう会社は少なくありません。

戦略によって中小企業の生産性が上がるとされていましたが、戦略と生産性の関係について改めてお話をうかがえればと思います。

山元: 戦略がない会社の場合、さっきもお話ししたように、現場の施策は現場任せ、個人任せになってしまうので、個々が一生懸命仕事をしていても、本来会社が向かうべき方向とは違うベクトルに向かって仕事をする人がどうしても出てしまうんです。これだと、組織としての生産性は上がりません。

従業員のベクトルが揃わないと、推進力にロスが出てしまうということですね。

山元: そうです。たとえば現状5億円の粗利益を10億円にしましょう、という目標が示されたとして、その実現のための戦略が提示されないと、ある人は新規顧客の開拓に向かい、別の人は既存客の掘り起こしをやり、他の人は原価を下げるために全力を尽くす、とばらばらに動いてしまう。こういう光景はコンサルタントをやっているとよく見かけます。

■「アクションプラン」と「評価制度」でリーダーが育つ

戦略を推進するマネジメント層の育成の重要性も指摘されていました。本書では「アクションプラン」と「評価制度」の二つで育成していくことができるとされていましたが、この二つでリーダーが育つプロセスを教えてください。

山元: たとえば戦略のアクションプランを、まずは社長と経営幹部で立案して発表します。一方このアクションプランを実行するために何をしたらいいのかという案は、現場のリーダーからも提案させます。それを集約してまとめて、適宜修正を加えて現場で何をするかを決めていきます。

それが決まったら戦略アクションプラン会議を定期的に開くのですが、アクションプランごとに責任者となるリーダーを決めて、その責任者が実践状況と成果を報告します。この会議の中でアクションプランをどう推進していくかを決めて、あとは責任者に任せる、というやり方ですね。

これを繰り返していくうちにリーダーが育っていきます。中小企業だとリーダーも経験が少ない人が多いので、最初からプラン通りに進められる人はまずいません。でも、部下の協力を得ながらだんだんとプラン通りに推進できるようになっていきます。

評価制度についてはいかがですか?

山元: この本で紹介している評価制度には「評価の実施」「育成会議」「育成面談」「成長目標設定」「チャレンジ面談」という5つのステップがあるのですが、この5ステップをリーダーに任せることで、彼らに部下育成能力とマネジメント能力が身につきます。これらの能力は自分が任されているアクションプランの実行や目標の達成に必要な能力なのです。

本書は、戦略の立て方から実践の仕方まで、細かく解説されています。この本の使い方についてアドバイスがありましたらお願いします。

山元: 本書は私が提唱している「ビジョン実現型人事評価制度(R)」に沿った作りになっています。たとえば、その一つに「ビジョン実現シート」というのがあって、これは10個の要素で成り立っているのですが、実践していただく際はかならず10個すべて埋めるようにしてください。

あるいは「評価制度 5つのステップ」もすべてのステップをきちんとやること。この本で示されている型どおりに運用していくのがポイントです。評価制度に関しては今回の本では書ききれていないところもあるので、『改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』の方も併せて読んでいただくことをおすすめします。

最後になりますが、本書の読者となる中小企業の方々にメッセージをお願いします。

山元: 一生懸命やっても業績が上がらない、生産性が上がらない、いい人材が来てくれないことに悩んでいる社長が中小企業にはかなりいらっしゃいます。

その要因はマネジメントが属人的なものになってしまっていることです。それを仕組み化し、属人性を排し、仕組みでマネジメントすることで、生産性は大きく上がるということを、本書を通して知っていただければと思います。

結果として、大手に対抗できるような生産性を持った中小企業がどんどん出てくるようになったらこんなにうれしいことはありません。すべての中小企業の社長の方々に読んでいただきたいです。

書籍情報

目次

  1. 「現象」と「本質」
  2. なぜ今、中小企業に戦略が必要なのか
  3.   
    組織のパワーを活用しようとしない中小企業
  4.   
    戦略が中小企業の生産性を劇的に上げる
  5.   
    中小企業が「戦略」で成果を出せない3つの理由
  6.   
    「戦略」は2つの仕組みで実行する
  7. 理念と目標で「戦略」のゴールを決める
  8.   
    「経営計画」の目的と構成
  9.   
    「ビジョン実現シート」を作成する
  10. そのまま使って「稼ぐ力」を高める20の戦略
  11.   
    戦力ラインナップと使い方
  12.   
    3つの「基本戦略」が組織を理想環境に導く
  13.   
    17の個別戦略がビジョンを実現する
  14. 戦略は「アクションプラン」で実行する
    ~業績を向上させ続ける戦略PDCAの仕組み
  15.   
    3つのPDCAが「戦略」を成果に導く
  16.   
    「アクションプラン」のPDCAが成長組織に導く
  17.   
    「個人アクションプラン」で全社員が「戦略」を実行する
  18. 「評価制度」が「戦略」で成果を出せる人材を育てる
  19.   
    「評価制度」で理想の人材づくりを推進する
  20.   
    4つの視点で「評価基準」を作成する
  21. リーダーがグングン育つ「評価制度」運用の手順
  22.   
    「評価制度」の運用で成果を出せる人材を育てる

プロフィール

山元 浩二(やまもと・こうじ)
山元 浩二(やまもと・こうじ)

山元 浩二(やまもと・こうじ)

経営計画と人事評価制度を連動させた組織成長の仕組みづくりコンサルタント。10年間を費やし、1000社以上の経営計画と人事制度を研究。双方を連動させた「ビジョン実現型人事評価制度®」を約680社の運用を通じて開発、オンリーワンのコンサルティングスタイルを確立した。中小企業の現場を知り尽くしたコンサルティングを展開、“94.1%”という高い社員納得度を獲得するとともにマネジメント層を強化し、多くの支援先の生産性を高め、成長し続ける組織へと導く。その圧倒的な運用実績を頼りに全国の経営者からオファーが殺到している。自社組織も経営計画にそった成長戦略を描き果敢に挑戦、創業以来21年連続増収を続け、業界の注目を集めている。著書に『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』『【改訂新版】図解 3ステップでできる! 小さな会社の人を育てる 人事評価制度のつくり方』(以上、あさ出版)『小さな会社の〈人を育てる〉賃金制度のつくり方』(日本実業出版社)などがある。累計16万部を突破し、多くの経営者から注目を集めている。

小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉「戦略」のつくり方

小さな会社の〈人を育てて生産性を高める〉
「戦略」のつくり方

著者:山元 浩二
出版:日本実業出版社
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