捕鳥に警備員…流浪の人生を送る私が探偵に行き着いたワケ
わたし、探偵になっちゃいました

わたし、探偵になっちゃいました

著者:オーサキ・コー
出版:幻冬舎
価格:1,200円+税

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本書の解説

毎日の仕事にやりがいを感じられなかったり、今の仕事が本当にやりたいものではなかったりしても、なんとなく惰性で、「これは生活のため」と心を殺すようにして、こなせていけてしまうのが仕事というもの。

しかし、「不本意ながら今の仕事をやっている」という人も、(その仕事を今後も続けるかは別として)せめて今日この一日の業務に楽しみを見つける努力をしても、損はない。どんな仕事にも、「事件」や「ドラマ」が満ちている。それに気づくことができるかどうか、それを面白がれるかどうかはあなた次第だ。

食肉用のニワトリの捕獲に警備員、転職を繰り返す男の味わい深い人生

誰しも実は、物語みたいな日常を生きている。
フィクションのようであったり、ノンフィクションのようであったり、漫画のようであったり、それがなおかつ面白ければ、それで良し。


『わたし、探偵になっちゃいました』(オーサキ・コー著、幻冬舎刊)の序章にはこんなことが書いてある。

その主人公である「私」は、挫折に挫折を重ね、転職を繰り返した折、母を亡くして自暴自棄になり、深夜に大量の食肉用のニワトリを手づかみでカゴに入れる「捕鳥」という仕事の求人に応募する。夜な夜なニワトリを追いかけて、ひたすらカゴに入れ続けるという、かなりの重労働かつ風変りな仕事なのだが、そこで働く人々も一癖ある人物ばかりだ。特に、すさまじい速さで鳥を捕まえることができる元自衛官の通称「サウザー」は、その能力から職場で絶大な権力を振るっていた。

やけっぱちでこの仕事についた「私」だったが、やるからには「捕鳥の王」を目指す、ということで体力強化に励み、ついにサウザーと肩を並べる存在になるが、ライバルとなったことでサウザーと対立し、サウザーが職場を去ると追随する者が続出。16人いた従業員が6人まで減ってしまい、「私」もついにギブアップ。とても仕事を続けられる状態ではなかった。

またしても転職をすることになったわけだが、次の仕事に導いたのが、ほかならぬ「サウザー」だった。警備会社に転職していたサウザーの話から興味を持った「私」は、警備会社に入社。今度は交通整理で使う誘導棒の扱いに誰よりも習熟しようと、努力を重ねていくが、またしても事件が起こり、経営者と対決するハメに…。

華やかな業界でもなく、誰に注目されるわけでもない仕事を転々とする「私」だが、「日々を生きる金のために働く」というニュアンスがまったくない(もちろん、裕福なわけではないし、「私」には子どもが4人いる)のがおもしろい。ひたすら「目の前の仕事」「目の前の人間関係」に対峙して、思い通りにいかないことも笑い飛ばすたくましさは爽快さすら感じられる。

せっかくの人生、楽しむためには、悩んでいる時間なんて無駄、とばかりに先のことよりもとにかく「今」を生き続ける主人公に励まされる人は、きっと少なくないはずだ。「作り話」と銘打った割に、エピソードが生々しく、どことなく「実話くさい」のも味わい深いポイントだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

オーサキ・コー

■破天荒な人生を歩んできた男が行き着いた「小説」という表現

オーサキさんは現在探偵をされているとお聞きしましたが、『わたし、探偵になっちゃいました』で「小説」という形をとったのはなぜですか?

オーサキ: 以前、新聞記事の中で、作家の大江健三郎さんが「人は誰でも、人生に一度は小説を書きたくなるものだ」と言っていたんです。それを読んで、私も含めて人は誰でも物語を書くに足る存在だと思ったんです。それを皆さんに知らしめたかったというのがあります。

正直、本を書くのであれば、エッセイでも自己啓発の本でも、建築の本でもいいわけじゃないですか。だけど、そこでどんなに良質な本を書いても、「食べてはいけない」ということに気がついたんです。なぜかというと娯楽性がなかったり、世間の関心が薄い分野だったりするからです。そこでいうと、小説はまだ一応は読まれていますからね。

捕鳥、警備、探偵、という主人公「私」の職業遍歴と、そこで経験した人間関係や事件について書かれています。出てくる人がみな個性的でおもしろかったのですが、これはある程度創作が入っているのでしょうか。

オーサキ: エピソードについては実際にあったことが大いに入っているので、フィクションかというと「半フィクション」というのが正しいと思います。ただ、作中で同僚の実名を出すのはまずいので「北斗の拳 イチゴ味」のキャラクターから名前を借りています。たとえば「サウザー」という人物が出てきますが、「北斗の拳 イチゴ味」のサウザーと性格が似ているので、作中でその呼び名を使っています。

主人公の「オレは雲! 金や名誉とは無縁の自由人 面白おかしければそれでよし」という考え方が印象的でした。こういう姿勢は、人生を少しでも楽しくするために役立ちそうです。

オーサキ: 主人公は自分を「雲のジュウザ(「北斗の拳 イチゴ味」の登場人物)」と名乗っているのですが、彼なら人生をそうやって考えるだろうなと。

お金も名誉も実体がないものです。そしてその人が自由かどうかは、これらがあるかどうかではなくて、心のありようで決まる。少なくともお金や名誉はゴールではないというのは、いつも心に留めています。

捕鳥も警備も探偵もかなり過酷な仕事ですが、主人公はすべてを楽しむ姿勢で取り組んでいます。こうしたメンタリティを持つためのアドバイスをいただければと思います。

オーサキ: 私はこれまでに数えきれないほどドロップアウトしてきました。大学は中退ですし、たくさん転職もしています。

だけど、職業に貴賤はないですし、どんなことであっても、無駄な経験なんてなくて、すべてに意味がある。私の場合は、そこに気づいてからどんな仕事も楽しくやれるようになりましたね。

作中に出てきた「捕鳥」の仕事はかなり珍しい仕事ですね。手づかみでニワトリを捕まえて、カゴに入れていくという作業なのですが、ニワトリを出荷するときに発生する作業ということでしょうか。

オーサキ: そうです。当時、私生活でいろいろあって、「頭を使わず、汗を流してスカッとする仕事がしたい」と思っていたところに求人があって飛び込んでみました。

職場での人間関係に戸惑いながらも、仕事を効率的にこなすために肉体の鍛錬を始める主人公はたくましいですね。

オーサキ: 普通ならそこまでしないかもしれませんね。私は昔から「人の動き」そのものに興味があって、水泳でも陸上でも、効果的な身体の動かし方をよく観察していました。同じようにニワトリを効率的に捕まえるためにはどうすればいいか、ということを研究するようになったんです。

■「悩んでいる時間は1秒でも無駄である」の真意

「悩んでいる時間は1秒でも無駄である」という言葉も心に残りました。悩まないための秘訣について教えていただきたいです。

オーサキ: 私自身はこれまで何度も傷ついたり、悩んだり、迷ったりしてきました。20代後半までそんなことの連続でした。具体的な話は避けますが、子どもができてからは「こんな労働者でいいのかな」と悩んで落ち込んだりとかね。

でも、年齢を重ねるごとに、なんだかんだ、こういう時はこう対処する、という「引き出し」は増えますよね。迷いを断ち切る方法も自分なりにわかってくる。この本で書いた「悩んでいる時間は1秒でも無駄である」というのは、悩むこと自体が無駄ということではなくて、悩んで深い穴に落ちていく前に、すぐに何か行動を起こすことで少なからず楽になることがある、ということを言いたかったんです。

何もしないとかえって落ち込んでしまうというのは理解できます。

オーサキ: ただ、悩んでいる時間は悩んでいる時間で、大切にしてほしいとも思います。「職場を勇気を出してサボる事」も「前を向いて行動を起こすこと」の一部ですし、悩み、悶え苦しむのもそうです。生存していることそのものが、すでに前向きなことですよね。たった1秒で済ます無駄な悩みは、無限の悩みの裏返しです。

作中に、小説家の名前や小説の名前がたびたび登場します。オーサキさんがこれまでに愛読した本や影響を受けた作家について教えていただきたいです。

オーサキ: 一番好きなのは船戸与一さんです。ハードボイルド作家だと思われがちですが、詩的な文章も書けるし、叙事詩のようなものも書ける。幅の広さがすごいなと。

あとは、伊坂幸太郎さんとか谷川俊太郎さん、石川淳さんとか坂口安吾さんからも影響を受けたと思います。小説家ではないですが中島みゆきさんと荒木飛呂彦さんも大好きです。あまり自意識が過剰すぎず、人の心情を推しはかるようなものを書く方、文章にあるリズムや音色を大事にしながら物語を書ける人が好きなんだと思います。

芥川賞があまりお好きでないとお聞きしました。

オーサキ: というよりも、いたずらに文章が難解だったり、ジャンルに凝り固まったものが好きではないんです。何年か前にボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞しましたが、ああいうオープンさが芥川賞にもほしいと、一読者として思います。

次の作品も書かれているそうですね。今後の活動についてお話をお聞きしたいです。

オーサキ: 書きたいことはいくらでも湧いてくるので、どんどん書いています。世の中には、たとえば会社の社長が「自分は偉くなったから、ここらで自伝でも書いて社員に配ろう」というような本が溢れていますが、私はどんな時でも、肉体労働者として、身体を動かした働く日々の中から出てくる言葉を語りたいです。そして、どんな時でも弱者の立場に立って、言葉を紡ぎ出していきたいと思っています。

そして、この活動でいくらかのお金を得ることができたのなら、社会貢献に使っていきたいと思っています。それが表現活動をする人間の義務だと思っているので。

現在は探偵をされているというオーサキさんですが、この仕事を始めてみての感想をお聞きしたいです。

オーサキ: 探偵業法ってすごくグレーなんだなというのが感想です。現行の探偵業法は平成19年6月に施行されたものなのですが、内容を要約すると「私人ができる範囲でやりなさい」ということなんです。警察のように捜査権限がないから、たとえば不倫の証拠をとるためにカメラをもってラブホテルに潜入したら、不法侵入になってしまう可能性がありますし、盗聴器を仕掛けるのもダメ。民事法上の肖像権の侵害に当たるので、顔写真撮影もダメです。唯一許されているのが、当事者録音といって、自分がマイクを持って案件の当事者の声を録ることです。

オーサキ・コー

となると、できることがあまりなさそうですね。

オーサキ: 一方で、探偵って誰でもなれるんですよ。刑罰に処されず、欠格事由に相当しなければ、3600円で開始届出を出せば誰でも探偵を名乗ることができる。探偵として何ができるかわからないけども、とりあえず探偵にはなれるんです。私の場合は、警備の仕事をしていた関係で警備業法について調べていたら、探偵に行きついたんです。あまり知られていないのですが、警備と探偵は表裏一体なんですよ。この話は本のネタバレになるので、ここまでにしますが。

最後に、今回の本の内容と絡めて、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

オーサキ: 今回の本は「勇気」と「自由」を土台に据えて書きました。どんな人でも、毎日の生活の中にたくさんの冒険があります。これからお皿を洗おうというのも冒険だし、筋トレをしようというのも冒険です。そして、こういう小さな冒険を乗り越えた時、それをやりきった自分の勇気を認めてあげてほしいと思います。

岩月謙司さんの『女は男のどこを見ているか』では「英雄体験」と呼んでいるのですが、こういう体験を積み重ねることで自分の中の勇気がだんだんと大きなものになっていく。そしていつかは、自分の人生を自分で決めていくだけの勇気が手に入っているはずです。それはどういうことかというと、誰かに反対されても、自分のやりたいことを貫いたり、心のない誹謗中傷に惑わされなかったりすることです。

SNSの中の言葉に傷つく人が本当に多い今だからこそ、自分の勇気を認めたり、他人の勇気に気づいてあげることが必要なのではないかと思います。今回の本がその一助になればうれしいですね。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. 序 章
    子供返りしたオジサン
  2. 第1章
    熱き血潮の海陸魂!捕鳥の王 聖帝サウザーとの出会い
  3. 第2章
    燃えよ誘導棒、魂の章!
  4. 第3章
    燃え過ぎたジュウザ、フライングマニュアル通用門事件!
  5. 第4章
    宣戦布告のちコケオドシ。さらばえーけーびー!
  6. 終 章
    探偵として駆け出す前に

プロフィール

オーサキ・コー
オーサキ・コー

オーサキ・コー

本名 大﨑航。 昭和48年5月28日生。
令和2年3月12日、独立資金1万円、畳6畳の一室で、大﨑探偵事務所を設立する。
探偵業届出証明書(第10200009号)日本調査業協会 北海道支部(第2444号)
職種、ジャンルに縛られない活動を展開中。

わたし、探偵になっちゃいました

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著者:オーサキ・コー
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