解説
斬新なアイデアだけではヒットさせることはできない
「アイデア」という言葉は魔法のようなものだ。面白いアイデア、楽しいアイデア、異端なアイデア、斬新なアイデアなど、数多くの枕詞がつき、そうした素晴らしいアイデアによって生み出された商品がヒットすると信じられている。
しかし、ヒット商品を生み出すことができるマーケターたちの多くは、おそらくは「アイデア」という言葉に縛られずにさまざまな視点から発想し、ヒットの仕組みを生み出している。売るために必ずしも「斬新なアイデア」は必要なく、かつて失敗したアイデアの巻き直しが大ヒットすることもあるのだ。
例えば、コンビニエンスストアーのコーヒーは3年ほど前に大ブレイクし、巨大市場になった。しかし、初めてコンビニコーヒーが登場したのは約30年前のこと。それなりにヒットはしたものの、完全な定着はしなかった。
ではどうして今、ここまで大きなヒットになったのか?
経営コンサルタントとして数多くのヒット商品を企画・立案してきた高杉康成氏は、現代に、3つの「追い風」が流れていて、それが大きな要因になっていたことを分析している。
(1)「時短トレンド」
時間をかけずに素早く済ませることが今のトレンドだ。コンビニコーヒーの場合、「美味しいコーヒーを並ばずに素早く買うことができる」というコンビニの特長を活かしており、喫茶店でコーヒーを飲んだり、自宅でコーヒーメーカーを使って作ったりするよりも、はるかに時短になる。これの流行が商品と合致したというわけだ。
(2)「セルフトレンド」
自分自身でサービスを行う「セルフ○○」もトレンドの一つ。ガソリンスタンドやうどん屋など、セルフの波は広がっている。現在のコンビニコーヒーは、一部の店舗を除いて大多数が「セルフ方式」をとっており、それが結果として安くてスピィーディーなサービスにつながっている。これも30年前のコンビニコーヒーにはなかったサービスの形式であり、たまたまニーズが時代に合ったということだ。
(3)「香りトレンド」
3つの「追い風」の最後は「香りトレンド」だ。アロマオイルを使った良い香りのする芳香剤や加湿器をはじめ、入浴剤や柔軟剤など、匂いという人間の嗅覚を刺激する効果をもたらす商品のトレンドは、今やスタンダードとなりつつある。コーヒーの香りが好きという人も多く、コンビニコーヒーが注がれるときに漂ってくる香りが好きで購入しているユーザーも少なくないだろう。
つまり、コンビニコーヒーの大ヒットはひねり出された斬新なアイデアではなく、既存のビジネスモデルと、今のブームの組み合わせによって生まれたものだ。世の中に隠れているニーズを的確に見つけ出し、トレンドと組み合わせる。そこにテコの原理が働いてヒットに結び付いていくのだ。
ニーズとトレンドをプランに落とし込む
ただ、ニーズとトレンドを捉えただけですべてがうまくいくかというと、もちろんそうではない。
高杉さんの著書『一流ビジネスマンは誰でも知っているヒットの原理』(日経BP社/刊)は事例をもとにしながら、ニーズやトレンドを的確に捉え、その上でどのように良いプランを組み立てて展開していくかという部分に力点を置かれて書かれている。
ニーズやトレンドの捉え方、良いプランの立案…こう聞くと、マーケティング担当者を対象にしているのでは? と思うかもしれないが、そうではない。多かれ少なかれ仕事をしている限り、さまざまな「プラン」を練る機会がある。企画職ならば企画プラン、人事なら人材採用プラン、営業ならば営業プランなどを詰めて考えていくわけだが、どうしても「浅い」プランしか作れず悩んでいる人は多いはずだ。
「深い」といわれる一流のプランとは一体どのようなプランなのか?本書ではこうした「ダメプラン」を「エクセレントプラン」に変えるために何をすべきかということが具体的に提示されている。
その中から一つだけ紹介すると、優れたプランは「収益性」「客観性」「妥当性」「持続性」「展開性」「実現可能性」の6つの要素を兼ね揃えているという。この6つを意識してプランを磨いていくことが大きなヒットにつながるのだ。
本書はビジネスパーソンたちの盲点を突くような一冊である。プラン作りは一度きりでは終わらない。意識すべき点を意識しながら、少しずつ磨き上げていくことが大事なのではないだろうか。
目次
Lesson 1 Four Examples
「あの商品、そういえば買っている」のはなぜか?
- コンビニコーヒー→「追い風トレンド」を捉えた
- ロールケーキ→「隠れたニーズ」を見つけた
- T - fal→「あれっと思うギャップ」を突いた
- レイコップ→「強いニーズ」をすくい上げた
- ヒットの原理
Lesson 2 Trends & Needs
トレンドとニーズを捉える
- 3つの視点
- 「マクロ」と「ミクロ」
- ニーズタイムを作る
Lesson 3 Tate & Yoko
プランを展開する
- 深く掘り下げる
- 横に連鎖させる
- 「タテヨコ展開」を使いこなす
- 展開例① 新聞記事から展開する
- 展開例② ミクロニーズを展開する
- 展開例③ マクロニーズを展開する
Lesson 4 Before & After
ダメプランを変身させる
- 変身例① ストーリーを埋め込む
- 変身例② 尖らせる
- 変身例③ 優先順位をつける
Lesson 5 Excellent Plan
エクセレントプランへの道
- 「外堀」を埋める
- 競合分析は後回しでいい
- 「参入余地」を確かめる
- 「3C」より「3T」
- 優れたプランが備える6つの要素
Lesson 6 Needs Management
ニーズ分析を習慣化する
- 引き出しを増やす
- ニーズをマネジメントする
- 顧客の要望を集める仕組みを作る
著者プロフィール
高杉 康成(たかすぎ・やすなり)
コンセプト・シナジー代表取締役
1969年大阪府生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了(MBA)。中小企業診断士。岡山県立大学地域共同研究機構客員教授。
日本屈指の高収益企業キーエンスに入社し、ソリューション営業に従事。
数々の社内表彰を受ける。その後、分析力と発想力を評価され、本社の新商品企画立案グループに抜擢された。そこで企画立案した商品の中には、世界のデファクトスタンダードになった大ヒット商品もある。
キーエンス退職後、新規事業や新商品開発、収益力改善などの「価値づくり」を専門とした経営コンサルタントとして独立。中小企業から大企業まで、さまざまな業種の新規事業・新商品開発を中心にアドバイスを行い、ヒット商品を連発。ハイテクセンサーのような感度で物事を捉える深い洞察力と、高速CPUのような速さで課題抽出を行う分析力によって、新規事業、新商品開発を成功に導く実戦的な方法論を指導している。質の高い高付加価値ビジネスを軌道に乗せていく「勝ち筋戦略」を得意とする。