だれかに話したくなる本の話

珠玉のエンタメ集『マドンナの宝石』ができるまで(2)

空港での偶然の出会いから、学生時代に起きた殺人事件への扉が開くミステリ。
火星移住計画が実現し、移住した人類の未来を予見するSF。
現実には起こらなかった歴史上の剣豪の邂逅を描く歴史短編。

『マドンナの宝石』(ヘンリー川邉著、幻冬舎刊)は様々なジャンルのエンターテインメント作品が詰め込まれた珠玉の作品集。1990年代から執筆活動を続けてきた著者の集大成的な一冊となっている。

この作品がどのように出来上がったのか。そしてこの作品を書き上げる土壌となった読書体験はどのようなものだったのか。著者のヘンリー川邉さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。

ヘンリー川邉さんインタビュー前編を読む

■『マドンナの宝石』の礎となった読書体験とは?

――川邉さんのこれまでの読書体験について教えていただきたいです。好きな作家、影響を受けた作品がありましたら教えてください。

川邉:好きな作家は、ロス・マクドナルド、レイモンド・チャンドラー、ピーター・ラヴゼイ、J・アーヴィング、井上靖、小林秀雄、萩原朔太郎、宮沢賢治、石川啄木、大江健三郎などです。詩的な文章が好きなのかもしれません。逆に粘着質な文章を書く作家は苦手ですね。谷崎潤一郎的な。

――大江さんの文章はかなり個性が強いですが、ああいう文章は大丈夫なんですか?

川邉:学生の頃に『飼育』を読んですっかり好きになってしまいまして、その後の作品も読んでいます。確かに難しい文章ですが『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』などもすごく好きです。

――最近読んで面白かった本はありますか?

川邉:『フェルマーの最終定理』(S・シン著)がおもしろかったです。難しい数学の話ではなくて、その定理の解明に辿り着くまでの人間ドラマのおもしろさですね。

あとは、『数学をつくった人びと』(E・T・ベル著)、『ベスト&ブライテスト』(ハルバースタム著)、『ミレニアムIドラゴン・タトゥーの女』(スティーグ・ラーソン著)、『史記』などがおもしろかったです。『ベスト&ブライテスト』は著者が取材旅行中に交通事故で死亡したのを契機に読み直しました。『史記』は昔からの愛読書ですが、文庫本が出たので購入して7巻を一気に読みました。良い本は何度読んでもおもしろいと思います。

――また、小説を書きはじめたきっかけについて教えていただければと思います。1990年代から賞の候補に入っていたりと、かなり執筆歴は長いですよね。

川邉:中学生の頃から「シャーロック・ホームズ」シリーズが好きで、ミステリばっかり読んでいて、大学に入った頃から書きたいなとは思っていたんですけど、それから就職して仕事をしながら、結婚して、子育てしてというところで、なかなか書けずにいました。どちらかというと怠け者で遊び人だという気質もありまして。

その後、会社に入って25周年で長期休暇をもらったので、そこでようやく書き始めたという流れです。

――次の作品の予定などありましたら教えていただきたいです。

川邉:短編集を出版して一区切りしましたので、再度昔応募して最終選考に残った江戸川乱歩賞に挑戦しようかなと思っていますが、なかなか筆が進みません。構想はかなり前から練っていますが。

「失敗した人とは、成功しなかった人ではない。あきらめた人のことだ。挑戦しないことこそ失敗だ」という言葉を支えにあきらめずに挑戦したいと思っています。

――最後に読者の方々に、『マドンナの宝石』の内容を踏まえてメッセージをお願いいたします。

川邉:私はエンターテインメントを書いています。エンターテインメントは読者を楽しませるもの、快い読後感を読者に与えるものでなければならないと思っています。甘くなく、さわやかなハッピーエンドで終わり、熟成された芳醇なブランデーのような読後感を目指しています。

作品は作者の人生観の顕れであり、作者自身が投影されたものです。この作品が、そういう作者の人生観を具現化しているかどうかは、読者の皆さんの判断にゆだねるしかありません。

(新刊JP編集部)

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マドンナの宝石

マドンナの宝石

学⽣時代のマドンナが連れ⽴っていたのは、
かつて彼⼥に、フィアンセ殺害の容疑をかけられた男だった――。
美貌の⼥性と⼤学時代の親友の不可解な結婚の謎に迫る、
優雅で奇妙なミステリー。

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