だれかに話したくなる本の話

コロナ前は「ドル箱」も…成田空港タクシーの今

飲食業や観光業など、昨年から続くコロナ禍で大きな痛手を被った業種は多い。
その最たるものが航空業界で、コロナの影響による世界全体の累計損失額は、2020年から2022年で22兆円にのぼるとも言われている。コロナ前の2019年には45億人いた世界の総旅客数は、2020年、2021年と激減したままだ。

となると、航空業界に付随する仕事もあおりを受ける。「日本の玄関口」である成田空港を拠点に、周辺各地に旅客を送り届けていた「空港タクシー」は、コロナ前までは「ドル箱」として知られていた。しかし、今はどうなっているのだろうか。

■「一日の売り上げが12万円を超える日もあった」空港タクシーの現在の姿

朝の6時に前に空港に来て、順番が来ると都内の外資系ホテルなどへ送迎。運がいいと、そこから成田へと戻る利用者も拾えた。そうなると労せずに2時間程度で4万円超えの売り上げになるわけです。(中略)それくらい成田はイケイケの状態だった」(『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』P55より)

『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』(栗田シメイ著、扶桑社刊)によると、成田空港から都内までのタクシー料金は2万円ほど。コロナ前はそれが6本ほど入り、一日で12万円を超える売上げがあることも珍しくなかったという運転手の談話が紹介されている。「インバウンド」という言葉はいまやすっかりかすんでしまったが、成田空港を拠点とするタクシー運転手たちは、コロナ前まではインバウンド景気を謳歌していたのだ。

空港でのタクシー営業は、基本的に「待ち」だ。空港利用者が多ければ、何もしなくても客はやってくる。しかし、人の移動が止まった時に、地獄が始まる。どんなに腕のいいドライバーでも手の打ちようがない。

今、成田空港に集うタクシーの一日の売上は1万円ほどで、ピークだった2018年~2019年の10分の1以下にまで落ち込んでいる。

ただでさえ、成田空港でタクシー営業をするためには、手間と労力がかかる。タクシー業界の中で、空港の乗り場はさまざまな利権が絡む特殊な場所なのだそう。特に成田は行き先ごとに乗り場が細分化されている異色の存在。順番待ちの場所も、早朝に抽選が行われ、その結果でその日の待機場所が決まるという。

こうした手間・労力にもかかわらずドライバーが成田空港に集っていたのは、やはり他の場所で営業するより何倍も稼げたからだ。それだけに、現状はドライバーにとってつらいものがある。実際、多くのドライバーが辞めてしまったというが、転職も容易ではない。

「子供からも『コロナ感染のリスクが高く危ないし、転職してほしい』とせがまれました。でもね、他の業種からタクシーに移るのは簡単だけど、逆は違った」(P56より)

移動が著しく制限されているコロナ禍で、移動を担うタクシー運転手たちがどんな困難に直面し、どう生き残りをはかっているのか。大阪や名古屋といった大都市での現状や、従業員の一斉解雇で話題になった「ロイヤルリムジン」のその後など、タクシーにまつわる注目テーマが目白押し。

コロナが残した爪痕がはっきりと感じとれる、生々しい一冊だ。

(新刊JP編集部)

コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル

コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル

タクシー業界の売り上げは各社とも、2019年からの昨対比で最大50%超の減少、身売りや従業員の強制解雇を強いられた企業も出た。
さらにタクシー運転手の平均年齢は60.1歳と超高齢化(2018年時点)。2015年に全国34万人いた乗務員の数は、2020年には28万人と激減している。
こうした市場縮小のさなかに訪れた新型コロナウィルスというさらなる厄災、それによる東京五輪特需やインバウンドの霧散……未曾有の苦境をタクシー業界はいかにして乗り切ったのか。

この記事のライター

新刊JP編集部

新刊JP編集部

新刊JP編集部
Twitter : @sinkanjp
Facebook : sinkanjp

このライターの他の記事