だれかに話したくなる本の話

マツコ・デラックスは、なぜ出たくなかった『SWITCH』のインタビューを受けたのか?

■「この人だったら話してもいい、という人になる」

新井編集長はインタビューの名手である。それは揺るぎない事実であるのだが、なぜこんなにも表現者の言葉を引き出すことができるのだろうか。

私自身、インタビュアーとして誰かに話を聞きにいく機会は多いが、本音を言ってもらったり、自分だけに語ってくれるような話を引き出すのはとても困難だ。それが特にメディアを通じて多くの人の目に触れるとなれば、なおさら相手は身構えてしまう。

  ◇     ◇     ◇

――インタビュアーとして相手のお話を聞く際に、どんなことを念頭に置かれているのですか?

新井:僕はインタビューで、相手から大事な言葉をもらいたい。僕にしか言わない言葉を引き出して、僕しか聞けないことを聞きたいと思っています。

例えば意図的に相手を怒らせて本音を話してもらうという手法があるけれど、それは映像向けの方法論です。怒らせてしまえば、深く話を聞くための濃密な時間はなくなってしまうだろうし、怒った様子を書いても何も引き出せていなければそのインタビューは失敗です。

この人だったら大事なことを話せるという存在になることが、インタビュアーの一番の喜びだと思います。そこには信頼が必要で、怒らせても信頼は得られませんよね。

――信頼を得られるにはどうすればいいのでしょうか。

新井:本当に思っていることを伝える。その人のことを誰よりも深く勉強して、知る。そして誰よりも深く、斬新な企画を出す。その繰り返しだと思います。

インタビューは「氷山の論理」と一緒です。言葉として表出してくる部分はわずかですが、水面下には、外からは見えない大きな氷の塊があるんです。つまり、膨大な時間をかけて得た情報が蓄積されていないといけない。それはインタビュアーとして最低限、クリアしておかないといけない部分だと思います。

  ◇     ◇     ◇

もう一つ、新井編集長の言葉の中で繰り返し出てきたことが「何度も会う」ということだ。マツコ・デラックスのインタビューは何度も会うことによってその誌面が構成されていった。

何度も会うことで、新しい発見を繰り返していく。

そんな新井編集長の言葉を体現しているのが、『SWITCH』とともに編集長を務める『Coyote』である。その最新号となるVol.59では、没後20年を迎えた写真家・星野道夫を特集している。

新井編集長はかねてより星野道夫からの強い影響を公言しているが、それは一体なぜなのだろうか?

(後編へ続く)

SWITCH Vol.34 No.9 若木信吾 写真家の現在

SWITCH Vol.34 No.9 若木信吾 写真家の現在

若木信吾さんとSMAP・木村拓哉さんの対談も掲載。

この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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