だれかに話したくなる本の話

中村うさぎとマツコ・デラックスに質問した。「読書って本当に必要ですか?」

――これは本全体に言えることなんですが、今は「短文」、ようは短く分かりやすい文章が好まれる傾向にあります。こうした変化についてはどうお考えですか?

マツコ:それは本に限らず、すべてのものが短くなってきているわよね。多分、いろいろ与えられ過ぎちゃったんだと思うよ。今見ているものだったり、今読んでいるものだったり、今感じていることを、骨の髄までしゃぶりつくしてやろうみたいな感じはないわよね。

昔は貧乏人根性みたいなものがあったじゃない。DVDをレンタルしても、せっかくお金を払ったんだから面白くなくても最後まで観てやろうっていうのがさ。

うさぎ:それはあるわね。

マツコ:本もさ、全然面白くないなと思っても、お金払ったんだから最後まで読んでやろうっていうのがあったじゃない。でも、前に比べたら今は我慢しないんだろうね。

うさぎ:確かに私も最初の何ページかで挫折しちゃう本が増えたし、DVDもそう。最初の30分くらい観て「もういいや」と思ってみなくなっちゃう作品も増えたわ。

その「我慢できなさ」は若い人だけじゃなくて、私たちもそうなってきていると思うんだよね。だから、おっしゃる通り「短文」の文化じゃないけれど、最初のつかみの部分がしっかりしていないと最後まで見られないという文化があるのかもしれない。でも、それは時代に要請なんだろうね。ニーズに合わせて変わっていけばいいと私は思うよ。
 

■うさぎ&マツコに影響を受けた作家・本を聞く!

――先ほどマツコさんが「本は読まないけれど、影響を受けた本がある」とおっしゃっていました。そこで、うさぎさんとマツコさんにそれぞれ影響を受けた作家や本を教えていただけますか?

うさぎ:作家で選ぶわね。私は高校生でJ・D・サリンジャーに強い影響を受けて、大学のときはフィリップ・K・ディックばかり読んでいたの。世界観に没入しましたね。その2人からはすごく影響を受けています。

――高校生のときに影響を受けられたサリンジャーで、特に印象に残っている作品はなんですか?

うさぎ:『ナイン・ストーリーズ』から読み始めた私は、「グラス家の兄弟」シリーズが好きだったの。それこそシリーズ全作品読み耽った。

大学で英文科に入って、現代アメリカ文学を専攻したのも、サリンジャー好きが高じての選択だったんだけど、大学の授業にはサリンジャーの課目がなかったの(笑)。

――でも、高校生でサリンジャーというのは荒みますね。

マツコ:高校生でサリンジャーに影響されるとこういう風になるのよ(笑)。

うさぎ:サリンジャーを読んじゃうとね(笑)。

マツコ:高校生くらいなら、星新一を読んでおけばいいのよ。

うさぎ:星新一も読んだよ。だけど、やっぱりサリンジャーとディックだね。

――では、マツコさんはいかがでしょうか?

マツコ:私は、中学生のときにビジネスノンフィクションばかり読んでいたのよ。西武グループの堤家の骨肉の争いとか、あとは渋沢栄一の評伝とか。でも、今思うと何でそんなものばかり読んでいたのか分からないんだけどね。

ノンフィクションが好きなの、私。だから今でもドキュメンタリーを見るのが好きだし、そこにビジネスノンフィクションで一族の争いとかを読むと、昼ドラ要素が入り込んでくるじゃない? だから娯楽として読んでいたのよ。

西武グループについては、堤義明が結局2005年に(証券取引法違反で)逮捕されたわけだけど、中学生のときに始まったドラマの結末がまさかあんな結末になるとは思ってもいなかったから、すごくドキドキしたわよね。

弟の義明の完全勝利と、小説家、詩人としてファンタジーの中で生きていた兄の清二の敗北は、ファンタジー派の人間にとってはつらい現実だったのよ。あ、清二は負けたんだ、って。でも、最後に義明が逮捕されちゃったじゃない。こんな大どんでん返しが待っているなんて思っていなかった。ドキュメンタリーって(物語の)先があるんだよね。現実が続いていくじゃん? そこにリアリティがあるんだよ。

うさぎ:そうだね。

マツコ:だから、当時は意味も分からずに読んでいたけれど、私はこれが好きなんだと思った。現存する人のノンフィクションはオススメよ。でも、堤家のような面白い一家はなかなか出てこないわよね。

――確かにあのような一族は数えられるほどしかいませんね。

マツコ:そうよね。ドラマ化してほしいもん。本当のことは誰も知らないけれどね。

(取材・構成:新刊JP編集部・金井元貴)

■『信じる者はダマされる うさぎとマツコの人生相談』


著者:中村うさぎ、マツコ・デラックス
出版社:毎日新聞出版

■中村うさぎ

1958年、福岡県生まれ。同志社大学卒業、OLなどを経て作家デビュー。ジュニアノベル「ゴクドーくん漫遊記」シリーズ(角川書店)で好評を博す一方、浪費・美容整形など実体験をもとにしたエッセイで注目を集める。著書多数。

■マツコ・デラックス

1972年、千葉県生まれ。美容専門学校を卒業後、ゲイ雑誌の編集部を経て、エッセイスト、コラムニストに。現在はテレビを中心に活躍の場を広げている。著書に『世迷い言』『デラックスじゃない』(ともに双葉文庫など)

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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