だれかに話したくなる本の話

致命的な時間ロスを生まない問題解決のアプローチ

解決すべき問題や新たなプロジェクトに取り組むときには、「問題を定義すること」に始まり、「入念な分析」をして、「推奨される案を出す」というステップで解決法を導き出す人が多いだろう。

しかし、そうしたアプローチを遠回りだと感じたことはないだろうか?
問題の定義や分析にムダな時間を費やし、解決策を十分に練られなかった。可能性のある代替案を見落としていた。そんな経験をしてきた人は、そもそもの問題解決法を見直すべきだ。

『すべての仕事は[逆]から考えるとうまくいく』(ロブ・ヴァン・ハーストレッチト、マーティン・シープバウアー 著、細谷功訳、日本実業出版社刊)は、そんな遠回りのアプローチを見直し、効率的、且つ、即座に実行に移せるレベルの問題解決法を指南している。

■ムダな「分析」を切り捨てて「目的」から逆算する解決思考法

本書で伝えているテーマは「シンキング・バックワーズ(逆から考える)」という実にシンプルなものだ。

「問題を分析する」のではなく、最初からはっきりとした「解決策に注目する」。また、分析も、問題を膨らませるためではなく、解決策をテストするために行おうというのが基本的な考え方である。

そんなことは当たり前だと思う人もいるかもしれない。
しかし、意外にこれを実践できている人は少ない。

たとえば、ある会社で広告収入が落ち込んだという問題が持ち上がったとしよう。
典型的な問題解決のアプローチでは、まず、様々な疑問が列挙される。「市場が縮小しているのか、それとも自社の市場シェアが小さくなっているのか?」「シェアを失っているのは全般的か特定分野だけか?」「商品、価格、プロモーションのいずれかが悪いからか?」などである。

そして、原因の徹底追及から始まるわけだが、こうした疑問点を精査するのは意外と時間がかかるし、そもそもこういった疑問の提示にはあまり意味がない。なぜなら、収益を呼び戻すもっとも効果的な道が他にある可能性のほうが高いからだ。

こうした徒労は、「可能性のある解決策」よりも「問題そのもの」を中心に考えるから起こる。
そうではなく、まず「目標や理想は何か?」を検討することが問題解決には大切だ。「収益の下落を止める」「収益を増やす」「市場でトップ」になるといった目標を先に設定すれば、解決策の領域が絞り込まれ、無駄がないだろう。

■問題解決に直結する「分析」のフレームワーク

ビジネスでは時間のロスが命取りになる。問題解決策を探るときに、関わりそうなデータを全部拾って精査していたらいくら時間があっても足りない。そこで、一体に何を分析すればいいかを探る段階が非常に重要になる。

本書では問題解決に直結するような、「分析」するポイントを探し出す方法がいくつか紹介されている。そのひとつが「解決策型アプローチ」というフレームワークだ。

この方法は仮説的な解決策を上げるところから始まる。
本書では「ある国の飢餓に苦しむ人々を50%減少させる」というプロジェクトを例にしているが、解決策型アプローチでは、まず「飢餓の主な原因は水不足である」といった仮説を立てる。すると、「すべての村で水供給プログラムを立ち上げる」「地域に食料貯蔵施設を開設する」といった解決策が思いつく。

この手法の良い点は、問題を無用に掘り下げていたずらに時間を浪費せず、即座に解決策を中心にした議論がなされることだ。そして、その解決策が正しい解決策であると見解の一致を見れば、即座に行動に移せるのもポイントだ。

同時に、この手法では、仮説を裏付ける情報ばかりに目が向いてしまう「視野狭窄」といったデメリットもあるが、その恐れが大きい場合は、本書で紹介されている別のフレームワークで補完することもできる。

しかし、この手法をひとつ知っているだけでも、問題解決に対するアプローチは格段に変わるはずだ。何かにつけて問題解決に対する動きが鈍い部署や組織のリーダーやそこに参画する人なら、こうしたアプローチを知っておいて損はないだろう。

(ライター/大村佑介)

すべての仕事は[逆]から考えるとうまくいく

すべての仕事は[逆]から考えるとうまくいく

問題解決の「問題」を見つける思考プロセスを身に付ける。

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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