だれかに話したくなる本の話

意外に地味だけど絶対にビジネスで使える「諜報員」の対人テクニックとは?

ビジネスシーンでは、仕事を進める上での「情報」を持っているかいないかで、戦略や成果に至るまでのスピードは大きく変わる。

たとえば、営業マンなら訪問先の会社の実際の財務状況や、どんなモノや人を求めているかといった「情報」を事前に知ることができれば、ポイントを突いた的確なプレゼンで顧客を虜にすることができる。また、社内で自分の企画を通したいと思ったときは周囲に根回しをしておきたいところだが、誰に根回しすれば効果的なのか、ということも「情報」だ。

こうした「情報」の獲得に役立つ一冊が 『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』(J.C.カールソン著、佐藤優解説、夏目大訳、東洋経済新報社刊)である。

本書は、元CIA諜報員が一般的なビジネスシーンで使える「情報」を得るための対人技法をまとめた一冊だが、解説を手掛ける佐藤優氏は、本書をインテリジェンス(諜報)の技法をビジネスに活かす書籍として日本で読める最高の一冊だと評している。
では、諜報員が持つ対人技法とはどのようなものなのだろうか。本書から紹介していこう。

■諜報活動においても大切なスキルは「聞く」こと

諜報活動と聞くと、通信傍受や人工衛星などによる偵察をイメージしがちだが、インテリジェンス(諜報)の王道は、人間を通して情報を入手する「ヒュミント(ヒューマン・インテリジェンス=人的諜報)」だ。
また、映画で登場するような「肉体派のスパイ」もイメージする人もいるかもしれないが、本職の諜報員のもっとも大切なスキルは「聞き上手」であることだという。

その仕事で特に重要なのは、情報を提供してくれる「協力者」を得ることであり、そこにはどんな場合でも共通する基本的なプロセスがある。それが次の4つだ。

1.協力者の候補を決める
2.候補者と接触する
3.協力者として適切かどうかを見極める
4.候補者と親しくなり、信頼関係を築く

候補者を決めるというのは、自分の欲しい情報を手に入れられそうな人物を探すということだ。
たとえば、取引先の会社の景気がいいかどうかを知りたければ、単純に取引先の社内の人間を「候補者」にしてもよいが、他にも、下請けのサプライヤー、会社に出入りする業者、近所の飲食店の店員なども求める情報が得られることもある。
そのような「候補者」を、時間的制約と情報の質を考慮して絞り込んでいくといいだろう。

■相手から話を引き出すために必要なプロセスとは?

「候補者」と接触したら、実際に話を聞いて情報を引き出さなければいけないが、諜報員は知りたいことを直接尋ねずに、相手から話させるように仕向ける

取引先の実際の財務状況を知るのに、いきなり「御社の財務状況はどうなっていますか?」という聞き方をしても答えてもらえないか、はぐらかされるのがオチだ。そもそもそんなことを聞く人間は警戒されるだろう。

諜報員が相手から話を聞き出すテクニックは、大きく分けて**「自分から話して、情報を与える」「徐々に話題を移していく」「誰かに紹介を頼み、会話の中で紹介者について触れる」という3つのパターンがある**。

先の二つは直感的に理解できるだろう。三つめは「紹介者」を使うことで信用を担保し、相手に話させやすくする手法だ。たとえば、「○○さん(紹介者)が、この会社では△△でお困りだと伺いました」と言えば、相手は「この人となら、仕事の話題をしてもかまわない」と思ってもらえる可能性は高い。

本書では他にも、諜報員の人脈構築術や交渉術、サプライチェーンでの諜報活動、競争に勝つためのノウハウなど、ビジネスシーンに活かせるテクニックが満載だ。しかも、標準的な能力と忍耐力さえあれば、だれでも応用できるレベルに落とし込んで書かれているので、実現性、再現性も高い。
仕事を有利に進めたいビジネスパーソンや人間関係を円滑にしたい人まで幅広く活用できる一冊だろう。

(ライター/大村佑介)

CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる

CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる

ビジネスにも実生活にも役に立つ一冊。

この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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