だれかに話したくなる本の話

ヒトラー、プーチン、カダフィ…独裁者だけが持つ非凡な人心掌握術

ヒトラーにスターリン、フィデル・カストロ、カダフィ大佐、プーチン、毛沢東……。

歴史上には「独裁者」と評される政治リーダーがいる。多くは死後も毀誉褒貶があり、ほとんどは「悪の権化」として断罪されている。日本でも「独裁者」のイメージは基本的には良くない。

しかし、当然ながら独裁者は誰にでもなれるものではない。選挙プロセスを経る以上、国民からの一定の支持は必要だし、カダフィのようにクーデターや革命で政権を奪取した人物にしても、同志が一枚岩でないと密告のリスクが常に付きまとう、危ない賭けに勝ったわけである。誤解を恐れずにいえば、彼らは良くも悪くも「非凡」ではあったのだろう。

■「弱者」から熱烈に支持される独裁者たち

では、その非凡さはどんなところにあったのだろうか。
『独裁者たちの人を動かす技術』(真山知幸著、すばる舎刊)は、歴史上のさまざまな「独裁者」の言動にスポットライトを当て、その非凡さの秘密を解き明かしていく。

たとえば、独裁者のカリスマ性の一要素として、その人心掌握術が挙げられることは多い。彼らはどのように国民の心をつかんでいたのだろうか。

まず、多くの独裁者に言えるのは貧困層や社会的弱者から熱烈な支持を受けていた点だ。ヒトラーは失業者問題に熱心に取り組み、カダフィは教育・医療を無料化するなど、支持層の期待に応えた。

彼らが本心から「弱者の味方」だったかどうかはわからないが、間違いなく言えるのは、大衆の不満を読むのに長けていた点だ。独裁者というのは、基本的に既存政治をくつがえす「ポピュリスト」として頭角を現すのである。

■ヒトラーにチャベス…敵を作りながら強い味方も作った独裁者

では、独裁者の高圧的で強権的なイメージはどこから来るのだろうか。
もちろん、それは彼らの政策によるところも大きいが、「極端で過激な物言い」も多分に影響している。

極端で過激な物言いというのは、「明確なターゲットを定めてそれ以外の層には配慮しない」ということであり、「皆が思っていながら口に出さないことを、大声で叫ぶ」ということだ。普通の政治家は、自分の発言が様々な層の様々な人に届くことを想像し、それに配慮した物言いをする。しかし、これでは耳障りは良くても人の心には残らない。

ユダヤ人を公然と敵視する発言をするヒトラーは、多くの憎悪を買ったが、同じくらい多くの人々の溜飲を下げた。内心同じことを思っていた人間がいたためだ。アメリカ大統領のジョージ・W・ブッシュ(当時)を「悪魔」と呼んだベネズエラのウゴ・チャベス元大統領も国際社会の顰蹙を買ったが、反米傾向の強かった当時の中南米では「思っていたことを代弁してくれた」と感じた人も相当数いたはずである。

皆が思っていながら口に出せないことを言えば、ある層を敵に回すことになる。しかし、それは強固な味方を作る方法でもあるのだ。

「弱者への優しさ」にしても「口に出したくても言えないことを代弁してくれる」にしても、人が誰かを信用してしまう普遍的な条件である。

本書では、この他にも独裁者たちが国民を魅了し、奮い立たせ、操っていくために使っていた手法が解説されるが、それらを読めば彼らがいかに人間の持つ普遍的な性質を深く理解していたかがわかるはずだ。

そして、それらの手法は目的さえ間違わなければ模倣しても構わないものである。独裁者を独裁者たらしめた対人術や人心掌握術から私たちが得られるものは、案外多いのかもしれない。
(新刊JP編集部)

独裁者たちの人を動かす技術

独裁者たちの人を動かす技術

臣下や民衆を下僕のように扱って好き放題に振る舞い、気に食わないものがいれば切り捨てる……。

古今東西の「独裁者」と呼ばれる人物たちには、そんな悪印象がつきまとう。

しかし、なぜそんな彼らが、しばしば周囲から熱狂的な支持を集め、世界史を変えてしまうほどの力を持ったのか?

本書では、独裁者たちが人の心を動かすために駆使していた、驚きのテクニックを彼らの事績とともに紹介する。くれぐれも悪用は厳禁である――。

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