だれかに話したくなる本の話

人気建築家が考える、これからの住宅に求められる機能とは

日本の住宅はもっとコストを抑えながら理想的なものにすることができる――。

テレビ番組『大改造!!劇的ビフォーアフター』に「匠」として8回出演、現在では中国のリフォーム番組にも出演するなどの人気建築家・本間貴史さんは、著書『理想の注文住宅を建てたい!: 価格の見える家づくりの教科書』(東洋経済新報社刊)で、「CM分離発注方式」による家づくりを提唱する。

コストの見える化を実現し、建て主さんにとって理想に近い住宅を適えてくれる「CM分離発注方式」とは一体どんなものなのか。本間さんへのインタビュー後編ではこれからの住宅に対するニーズの変化や、家を建てる際に気を付けるべきことについてお話を聞いた。

■これからの住宅の機能に対するニーズはどう変わっていく?

――2001年より本間さんはCM分離発注方式に取り組まれてきましたが、そのきっかけはなんだったのでしょうか。

本間:2000年に焼き肉店の建設工事を行ったのですが、私が現場に行ったところ、設計と違う塗料が塗られていました。そこで現場監督を呼び、なぜ設計資料と違う塗料が塗られているのか聞くと、工程が逆転してしまい、その結果塗りつぶしの塗料を変更したということでした。私はガッカリし、現場監督の存在に疑問を抱いたわけです。

その頃、仙台で建築士による講演会がありまして、そこでCM分離発注方式について触れられたんです。住宅くらいならば、総合建設業者を入れないでバラバラに専門工事業者に発注するやり方も面白いよ、と。そこから興味を持ってすぐにインターネットで調べ、勉強会に参加したという流れです。

――CM分離発注方式は、設計事務所(建築士)と建て主のコミュニケーションが重要になってくると思います。そのコミュニケーションにおいて、本間さんが気を付けていることはなんですか?

本間:私は、まず建て主さんへの説明責任をきっちりと果たすことを最優先にしています。リスクなどのデメリットも何度も説明していますし、その上で業務全体をガラス張りにすることで、建て主さんの意思決定を支援するように努めています。

特に工事段階では、メーリングリストを活用して工事関係者全員同時にメール配信することで、情報の共有を図っています。各専門工事業者と我々建築家、そして建て主さんも参加します。そこには隠し事など何も存在しません。毎日のように工事の進捗がわかる写真が配信され、工程表や是正の指示・設計変更なども配信し共有されています。

――CM分離発注方式では、建て主にどの程度の建築の専門知識が必要になるのでしょうか。

本間:ほとんどの部分で、私たち建築士が発注者に代わって支援をしますから、それほど必要ではありません。専門工事業者に見積もりを取ったり、契約書の事前準備などをはじめ、さまざまなことを私たちがサポートしています。

――では、建て主は意思決定の役割を担うわけですね。

本間:そうです。あとは建て主さんの大変な作業というと、専門工事業者に工事代金を振り込むときですね。1社で済むはずが、毎月4、5社振り込むことになるので。

――ただ、建て主は家づくりに深く関わっている気持ちが持てそうです。

本間:「一緒になって家を建てたという実感がわきます」といった言葉はよくいただきます。。特に、過去にハウスメーカーや工務店と家づくりした経験がある方ほど、「一緒につくった」という印象を持たれるようですね。

――新型コロナウィルス感染拡大の中で、私たちにとって「自宅」「住まい」という存在がすごく大きくなっているように思います。新型コロナは住宅づくりにおいてどんな影響が出てくると考えますか?

本間:以前から住まいは、「寝る」「食べる」「入浴する」など基本的な住生活を行う場所だったと思います。しかし新型コロナウィルスが感染拡大する中で、外出自粛が叫ばれ、家族は巣籠りを強いられています。そうすると、家の中で「遊ぶ」「学ぶ」「仕事する」などの機能に対する優先順位が昔より高まることが考えられます。

体を動かせるジムのようなスペースだったり、家族みんなでカラオケや映画やTVゲームを楽しめる場所だったり、家族皆の書斎スペースなど、今までもあったけど比較的優先順位の低かった要望が増えてくる事が考えられますよね。

以前よりも、より積極的に、そして具体的に住まいでの過ごし方をイメージして家づくりが行われると、私は前向きに考えています。

――「住む側」からすると、プライベートスペースだった自宅を仕事場としても使えるようにするという点で書斎やワークスペースを注文したいと思う人も増えるのではないかと思います。また、高齢化など社会問題も合わせて、これまでとは違う機能が住宅に求められるように感じますが、ニーズの変化について感じることはありますか?

本間:今はまだ、それらのニーズの変化を感じていません。ただ、私も間違いなくニーズは変化してくると思っています。弊社でもテレワークを実施していますので、在宅勤務の課題を肌で感じています。業種にもよりますが、テレワークをしやすい環境を自宅に整備したいと考えている人は、かなり多くいるのではないでしょうか。

しかし、床面積が限られている事も少なくないはずですから、様々な工夫が必要になると思います。リビング脇にご家族共用の多機能机を設けたり、ダイニングテーブルでも仕事ができる環境にするなどが考えられます。このように今後、書斎スペースなどは、合理的で機能的な発想の空間を求める人が増えてくると思います。

――ニーズを受けて住宅を設計する立場として、「住む側」「注文する側」に覚えておいてほしい事前知識がありましたら、一つ教えてください。

本間:日本は地震の多い国なのに、耐震性に関して淡泊な人が少なくないと感じています。特にリフォームでは、耐震改修の優先順位が低く、内外装や設備機器には拘るけど耐震性能は無頓着という建て主さんがあまりにも多いのです。住まいは家族を守る場所でもあります。もしも大地震がきても家族を守れる耐震性能をぜひ備えてほしいと思います。

また、家を供給する側も耐震性に対する意識の低い業者が散見されます。建築基準法は最低限の基準なので、法律を守っていれば安心できる訳ではないのですが、建築基準法上問題ないからと言って、耐震改修を勧めないビルダーには注意が必要です。

日本の耐震基準は1981年と2000年に大きく変わっています。皆さんに私がお勧めしたいのは、リフォームでも2000年の耐震基準で考えた上で、建築基準法の1.5倍以上の余力を持った耐震設計とすることです。

また新築の場合は「壁量計算」ではなく「許容応力度計算」という構造設計方法で設計した上で、耐震等級3相当の性能を確保することを強くお勧めします。住宅は、大切なご家族を守るシェルターですから、ぜひ実行して頂きたいと思います。

――東日本大震災の後、耐震意識が上がっていると思っていたのですが、そうではないのですね。

本間:確かに、以前よりは目が行くようになっている部分はあると思いますが、結局は建築基準法をクリアすればいいと思っている人が建て主側だけではなく、プロの中にもいるんです。

法律は最低限を示しているに過ぎないので、基準をクリアしているだけでは全く安心できません。そこを知らない方が多いですね。

――公式ページから出演されている中国のリフォーム番組を拝見しました。少し脇道に逸れますが中国の住宅事情についてもお聞きしたいです。

本間:上海や北京など中国の大都市圏では、一部の富裕層を除いてはマンションなどの集合住宅形式に住んでいるご家族がほとんどです。マンション建設については、建築の本体部分(スケルトン)を建築士が設計し、内装(インフィル)は別のインテリアデザイナーが設計を行うのが一般的です。日本のように建築士が内装を設計するケースはとても稀です。

また中国は急激な経済発展によって生活がどんどん豊かになってきており、住宅に対するニーズも急激に変化しています。日本の文化や生活スタイルを好む中国人も増えており、畳の出荷総数は日本よりも多いほどです。さらに建材の安全性や機能性・耐久性なども、日本と同様のニーズが増えてきているように感じています。

特に日本製の建材や設備機器を用いた住宅を日本人の設計者に依頼したいと考えている中国のご家族は富裕層を中心に年々増え続けています。日本人も中国人も同じ東アジアに暮らす民族ですから、住まいに対する価値観も必然的に近づいているのだと思います。

――本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?

本間:やはり住宅や施設などの建設を考えている建て主さんに読んで頂きたいです。きっと、「こんな方法もあったのか」と新たな気づきを得て頂けると確信しています。

CM分離発注方式は新築やリフォームなど様々な工事に対応できますし、様々な用途の建設が可能です。一方で、特有のリスクもあります。リスクの部分は本書に詳しく書いていますので、ぜひ手に取って読んで頂けたら嬉しく思います。

またCM分離発注方式に興味のある建築士の方にも読んで頂きたいと思っています。私が使用している業務書式や業務手順なども可能な範囲で公開させて頂きましたので、非常に参考になると考えています。分割工事請負契約約款や建物補償制度などCM分離発注方式に欠かせないものが見えてくると思います。

(了)

理想の注文住宅を建てたい!: 価格の見える家づくりの教科書

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