BOOK REVIEW

書評

 2020年に向けて、東京近郊を中心に「不動産投資」への注目が集まっています。ウェブニュースにはマンションを購入して不動産投資に成功してリゾート地へ移住したという話が掲載されたり、書店の棚には個人でもできる不動産投資で儲けるための本が並んだりしています。

 「儲け話にはウラがある」というのは、すべてのことに言えること。
不動産投資にも、さまざまなワナが仕掛けられており、一歩間違えればあなたを路頭に迷わせてしまうほど致命的な傷を負ってしまうものもあります。
 『知らないと取り返しがつかない 不動産投資で陥る55のワナ』(総合法令出版/刊)は、住友不動産の総合職出身で自身も不動産投資家として複数棟の投資物件を運営している不動産投資コンサルタントの小林大貴さんが明かす、不動産投資のワナがつづられた一冊です。

 本書の肝は、セミナー講師や不動産投資本の著者などがなかなか教えてくれないようなリスクの部分まで踏み込んでいることでしょう。コンサルタントが業者からバックマージンをもらっている例の暴露や、投資家同士の互助会の必要性にもメスを入れ、これから投資を始めようとする人たちを誘惑する「リスク」に対して警鐘を鳴らします。
ここでは、本書の中から「オーバーローン」についてピックアップしましょう。

■ヤバイときは法に触れることもある「オーバーローン」

 「貯金がない私がオーバーローンで手出し0円から不動産投資!」というような甘い融資文句。「手出し」とは頭金のことで、0円で不動産投資が始められるということです。
 ではなぜそんなことが可能なのか?
「オーバーローン」とは、物件を購入するだけでなく、各種税金や登記費用まで含めた諸経費までをすべて銀行からの融資で賄うというローンのこと。だから頭金が必要にならないのですが、その分、融資を受けられる人は限られてきます。小林さんは、「普通」のサラリーマンで、年収は平均年収並みか少し上回る程度、通常の預金以外に特別な資産がないと、受けるのは難しいといいます。

 さて、オーバーローン、金融機関に正面から相談し融資を受ける形であればいいのですが、法に触れるような手段で金融機関を騙し、ローンを引くことが実際に不動産投資業界で起きているそうなのです。
小林さんの元には、関係業者から自己資金書類を改ざんすることを提案されたという顧客が相談しに来たことがあるといい、それをしてしまえば「 私文書偽造罪」や「詐欺罪」になると注意します。
また、厄介なのは、金融機関を騙すような形で得たオーバーローンについて、業者側は責任を取ってくれないということ。すべての業者が悪いことをしてまで顧客に不動産を買わそうとしているわけではなく、顧客の強い希望がそうさせてしまう一面もあると小林さんは訴えます。

 もし、違法なやり方でオーバーローンを組み、それが明るみに出てしまった場合、銀行からの融資はこの先受けられないと思った方が良いでしょう。目先の儲けにこだわりすぎた結果、最悪の場合は一括返済で全てを失ってしまうことも考えられます。

 本書には他にも不動産投資のさまざまな「ワナ」が書かれており、まさに「知らないと取り返しがつかなく」なるものばかりです。老後のために、不労所得がほしいから、働きたくないから…そういった気持ちを満たしてくれる不動産投資。ですが、そのウラには大きなリスクやデメリットがあることも知っておくべきではないでしょうか。

(新刊JP編集部)

BOOK INFO

書籍情報
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知らないと取り返しがつかない不動産投資で陥る55のワナ

定価 :

1,500円+税

著者 :

小林 大貴

ISBN :

4862804713

ISBN :

978-4862804716

小林 大貴(こばやし だいき)

株式会社泉和コーポレーション 代表コンサルタント
中央大学法学部卒業。大手不動産デベロッパー「住友不動産」総合職出身の不動産投資専門コンサルタント。
住友不動産在籍時にはオフィスビル事業・マンション事業・戸建事業・建築管理事業・事業企画などを経験し、在社中に一棟RCを所有。
2012年に独立し、「徹底してお客様一人ひとりと向き合うこと」を信条に、個人個人に最適な不動産コンサルティングを行っている。
2013年より不動産投資サイト№1の「不動産投資の楽待」にてコラムを執筆し、総アクセス数30万超を達成。
2014年より東京・日本橋にオフィスを出店し、プロのデベロッパーで培った知識と経験を元に自らの投資家目線を合わせた提案を行っている

CONTENTS

目次
第1章
目標設定段階での罠
第2章
物件設定段階での罠
第3章
融資打診段階での罠
第4章
契約~引き渡し段階での罠
第5章
管理段階での罠
第6章
融資を得た後の罠
第7章
売却時の罠
番外編
コンサルタントや不動産投資塾、セミナーの罠

INTERVIEW

著者インタビュー

■“ブラックボックス化”が進む不動産投資の業界

― 小林さんはどのようなキャリアを積まれてきたのでしょうか?

著者写真

小林:
中央大学法学部を卒業したあと、新卒で住友不動産に入社しまして、マンションや戸建て、オフィスビルなどの主要な部門を担当しました。企画だけでなく、マンションの営業もしましたし、戸建てのリフォームの現場でチラシをまいたり、ということもありましたね。また、現場だけでなく新事業の企画なども経験しています。

― そこから独立されたんですね。

小林:
そうですね、一通りの部署を経験した後、独立しました。

― 独立されたきっかけはなんですか?

小林:
新事業企画に在籍していた時のことです。大きな会社は大きな不動産を扱っているのですが、小さい不動産を住友ブランドで扱ったら儲かるんじゃないかと考えたのが始まりです。大手はアパートや小さなテナントに参入しない傾向があるので、ここで大手が入れば市場が取れるはず、土地を探すきっかけにもなるはず、と企画したのですが、一件ごとの利益が薄いこともあって売上目標への到達が難しいことが分かりました。
ただ、会社としては難しくても個人としてはできるだろうということで、個人でそのような不動産を買ってやってみました。そうしたら、やはりうまくまわったので、ならば独立してやってみようと。

― 住友不動産に数年ということは、かなり若くして独立されたんですね。

小林:
そうなりますが、自分なりに投資のゴールと戦略とポートフォリオを組み立てて、確実に儲けられるという確信があってのものです。上場企業でも社長で年収1億円くらい、執行役員で年収2000万円くらいでしょうが、不動産投資をやれば、若くして年収2000万円も達成できますから。ストレスも拘束時間も含めて独立した方が良いと判断しました。

― そこで独立されて不動産投資のコンサルタントもはじめたのですか?

小林:
コンサルタントをはじめたのは、法人を立ち上げて2年目のときですね。実は住友でも働きつつ、個人でも妻を代表にして法人を立ち上げていた時期があります。そのときは建物の運営と管理だけをしていましたが、自身の物件運営経験の蓄積と、知識の体系化、実際に時間をかけずにできるノウハウを構築したので、それをお客様にも提供できると思い、2期目にコンサルティングを行うべく完全独立しました。

― 本書の中で顧客を多く取らない方針だと書かれていましたが、なぜですか?

小林:
私にとっては、自分で不動産を運営して利益を得ることがメインの事業です。コンサルティングは、不動産運営だけでは時間が大量に余るので、その時間で私のノウハウをお伝えして投資で失敗する人が少なくなるように、と思って始めました。そのため、信頼関係を結べて、しっかりとケアできる範囲で行う方針です。確かに人数を集めてたくさんの方をお相手することもできるのですが、きめ細やかにご対応できなくなってしまうと、本末転倒かな、と。

― 今回小林さんが著した『不動産投資で陥る55のワナ』は、不動産投資に孕むリスクをえぐった一冊ですが、反響も大きいのではないですか?

小林:
大きいですね。面談をご希望される方も多くなりましたし…。面談にいらっしゃる方は、ほぼ必ずリスクの描写について評価してくださいます。

― 業界内からの反響はありましたか?

小林:
幸運なことに、今のところはないですね。バッシングなどもありませんし、あなたと取引しませんよとも言われていないです(笑)。「よくここまで書いたね」という声は頂いています。

― なぜこのような本を書かれたのですか?

小林:
書籍の出版前から、初めて不動産投資をする方だけでなく、すでに始められている方からも「こういう方法は大丈夫なんですか?」という不安の声を寄せられることが多かったんですね。それで実際にお話を聞いてみると、違法な手段で投資に手を出してしまっていたというケースもあった、と。

― 「オーバーローン」をめぐる記述は非常に驚きました。

小林:
他にも不良施工をする業者にあたってしまい、入居が始まってからどんどん問題が見つかるということもあります。実は、これらは業界にいる人間からすれば「あるある」なんですが、ちゃんと啓蒙しないとひどいことになってしまうなと感じました。

― それら問題は、皆いけないと思いつつやってしまっているものなのか、これでいいと思ってやっているのか、どちらなのでしょうか。

小林:
業者の立場としては、「これでいい」と思ってお客様に提案しているケースが多いと思います。オーバーローンの場合は、「お客様がそうしたいと言っているからお勧めした」と言うんですね。顧客もそれを望むし、こちらも物件を売ることができるのだから、と。そこでリスクがあることを伝えない業者がいるということが問題なんです。

― リスクを伝えないこともあるんですね。

小林:
そういうケースもあるようです。不動産投資業界は、そこで長く続けられている海千山千の業者さんがたくさん集まっている業界ですからね。知識を持っていない状態でそこに入り込んでいくのはかなり危険です。

■不動産投資ビジネスで成功する人に共通する点は?

― 不動産投資に関する一般読者向けの書籍は数多く出ていますが、「儲かります」というメッセージ色が強いように思います。儲けるためにやるものですから、そうなるのは仕方のないことなのかもしれませんが、小林さんはどのようにお考えですか?

小林:
確かに正面から住宅ローンも組めないような方が投資用物件を購入・運営して成功したというケースはありますが、本当にリスクが高く、FXでいうなら元手1万円で資産を●億円にしましたという事例と同じくらいレアです。
不動産投資はどういう性格のビジネスで、どのくらいの利率なのかということを説明している本もたくさんありますから、まずはそういった本を参考にしてほしいです。

― 書店に行くとたくさんの不動産投資に関する本が並べられていますが、選ぶ際にはどのようなキーワードに注目すべきでしょうか

小林:
自分に合った本を選ぶと良いと思います。例えば自分が派遣社員で年収300万円しかないのであれば、そういった立場の人が書いている本を選ぶとか。ただ、先ほども申し上げた通り、元手1万円で資産●億円というような話は、一つの物語として読むことをお勧めします。それが普通だと思ってはいけません。
また、不動産業者の方が書いている本はあまり間違えたこと言っていないはずです。「宅地建物取引業」の看板がある以上、変なことを書けないんです。ただ、何にせよすべての事例は信じないようにすることが大事ですね。裏に自社の営業トークが隠れていますので。

― 「自分もこれで儲けられる」という気持ちを煽るような本がたくさんありますからね。

小林:
確かにそうなんですよね。特に業者の方がブランディングのために書いている本や、大家さんがとんでもなく成功した体験本には、その業者の広告に重きを置いたり、セミナーに誘導する目的で書かれたものがあります。なので、とにかくどんな情報も疑ってみることが大事だと思います。

― 不動産投資ビジネスで成功する人に共通している点はなんですか?

小林:
これも難しいですね。ただ、成功する方は我慢できる方が多いです。物件の値段が高いときは絶対に買わないとか、自分の基準を決めて守ることができるとか。頑固と言えますが、「その基準を満たさないとやらない」と決めると失敗しにくくなります。「とりあえず、すぐに儲けたい!」という人は失敗しやすいですね。
不動産投資は失敗した時には、真綿で首を絞められるようなビジネスなんです。FXや株のように一気に破産になるものではなく、じわじわとマイナスになって返済が滞ることが多いので、自分がマイナスに向かっていることが分かっていなくて、ダメになってきてから「なんとかしたい」とおっしゃってくる方もいますね。そういう方は、損切の売却をして自己破産をする以外に、どうにもならない場合もあるのですが…。

― では、本書をどのような方に読んでほしいと思いますか?

小林:
一番はこれから投資を始めようと考えている人ですね。次に、すでに投資を始めているけれど、上手くいっていない人、結果が出てない人もぜひ読んでほしいです。何棟も物件を買っていて目標に向けて邁進している方は、こういう失敗事例があるんだなというくらいで楽しんでほしいなと(笑)

― ありがとうございました。

(了)

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