■ ズボラな人でもできる銀行員の“お金の管理術”
― まず、本書を執筆した経緯からお聞かせ下さい。もともと長岐さんは不動産鑑定士という国家資格をお持ちで、不動産投資に関する本を何冊も書いていらっしゃいましたが、今回はそれよりも広く“お金”をテーマにしていらっしゃいますよね。

「私は不動産鑑定士として不動産にまつわる仕事をしていまして、その活動の一環として不動産投資についての本を書いたことがあったのですが、本書ではより広い人たちにお金のことを考えてほしいと思って、このようなテーマ、タイトルにしました」
― かつてメガバンクに勤めていらっしゃったんですよね。
「そうなんです。銀行員としてメガバンクに勤めていたことがあります。銀行員はお金のプロですが、やはりお金に対しての考え方も一般の方とはかなり違う部分があるように思いましたし、とても役立つノウハウもあったので、そういった内容をメインにしながら本書を書いていきました」
― 長岐さんは不動産業界からメガバンクに転職なさったとのことで、ギャップがすごかったのではないかと思うのですが。
「ギャップは激しかったですね。全く違いました。銀行って特にクローズな世界ですから、驚くこともことが多かったです」
― 本書の執筆時に、どこまで書くか苦労された部分もあるのではないですか?
「銀行の内部事情はもちろん書けませんからね(笑)でも、私が入行した当時、中途で採用される行員はすごく珍しかったんです。そういう意味では、客観的に銀行という組織を見ることができていたように思います」
― 長岐さんは銀行でどのような仕事をされていたのですか?
「デベロッパーやゼネコンに対して融資をする部署にいました。通常ですと、借りる人の信用を見てお金を貸すのですが、この部署では借りる先の信用ではなく、担保となる不動産の担保力で判断してお金を貸すというとても特殊なところだったんです。ノンリコースローンと呼ばれるのですが、その融資を担当していました」
― 銀行員ならではのお金に対する向き合い方の特徴を教えていただけますか?
「銀行員は想像以上に保守的で堅実です。そういうところはファイナンシャル・プランナーさんが書いているような節約術や投資の話と比べても、かなり色が違うように感じますね」
編集・藤井氏「私が最初に長岐さんとお話したときに驚いたのは、とにかく1円でもちゃんと向き合うという点です。毎日精算をして、1円でも計算が合わないと血眼になって探す。そういうお金のこだわりは銀行員ならではですよね。常に財布の中にいくら入っているか把握していれば、お金も管理できるだろうと思いますし」
「それは私も『さすがだな』と思いましたね。本書は、そうした銀行員マインドを紹介しているのが大きな特徴なんです」
― 銀行員は非常にお金に細かいイメージがあるのですが、ズボラな人でも本書のマインドやスキルは身につくのでしょうか。
「銀行という場は、本質的に細かい性格の人が集まりやすいのですが、それでも彼らのスキルやコツは細かくない人にとっても再現性はあると思います。私自身も細かい人間ではないのですが、実践できたので(笑)」
藤井氏「例えば財布を3つに分けるということは誰でもすぐにできることです。その誰でもできるレベルからどんどん積み上げていくように読んでもらえるといいですね」
「銀行口座を3つに分けるというメソッドにも、銀行員ならではの分け方がありますからね。かなり具体的な内容になっていますよ」
■ P/LとB/Sで個人資産を管理する
― これから貯金を始めたいと考えている人は、まず何をすべきでしょうか?
「そもそも、どうして貯金をするのかという目的をはっきりさせたほうがいいでしょう。漠然と将来が不安だからお金を増やしたい、お金を貯めたいといって、どこで教わったか分からないような資産運用に手を出す…そういう人たちを見ると、お金についての教育がまだまだ足りないなと思いますね。
お金に対しての考え方、なぜ貯金をするのか、そういったマインドをしっかりと固めることが大事です」
― お金が貯まらない人たちの共通点を教えていただけますか?
「大きなポイントとしては、お金も数字なので、数字で物事を判断できない人は貯まりにくいと思います。知り合いから聞いて良さそうと思ったとか、言葉やイメージだけで判断してしまうのはNGです。いくら耳あたりの良い情報でも、数字で裏を取るのは必須です。また、現状のまま変わろうとしない人もなかなか貯まらないでしょうね」
― 銀行員の中には不動産にはまる人も多いという話は面白かったです。確かに転勤も多いですしね。
「そもそも銀行員ができる資産運用って、かなり限られているんですよ。だから大家をしている方は多かったし、あとはおっしゃる通り転勤が多いので、売ってしまうよりも貸した方がいいという考えになるんですね。不動産は家賃がいきなり乱高下したりしないので、リスクを好まない銀行員でもできるのだと思いますね」
― 銀行員はやはりリスクを好まないのですね。
「好まないですね。だからといって行動しないわけではありません。リスクに対してすごく敏感なので、いろんなリスクヘッジをとります。その上で大丈夫と分かれば乗り出す。やはり堅実なんです。豪遊する人もあまり見られませんし」
― 第3章『「お金を引き寄せる」10のスキル』のところでは、「決算書が読める」などの経営的な知識を求めていますが、やはりそういった知識は必要なのでしょうか。
「銀行員はお金の知識を広く浅く持っていますが、そうなると全体を見る力が身につくんですね。それは数値化と並び、銀行員の優れている点だと思います。決算書を読めば、数字からその会社の全体像を把握できるわけで、その能力を個人の財産にも適用しているということです。なかなか個人資産でP/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)をつくるという発想は生まれないと思いますが、彼らは意外とやっているんですよね」
― なるほど。そのことも他の業界から転職された長岐さんならではの気づきですよね。
「そうでしょうね。みんな当たり前だと思っている節がありましたから」
― 銀行に勤めていたなかで「これは他の業界でも使えそうだ」と思うものがあれば教えてください。
「敵を作らないというのは、本音を言わないというデメリットがあるものの、チームワークを重んじるということなので、組織一丸となれるメリットがありますね。今の個人主義的な風潮の中でも良い作用をもたらしているように思えました」
― これから資産運用を始める人に対してアドバイスをください。
「ぜひ、この本を読んでいただきたいというのもあるのですが(笑)周囲に成功をしている人を見つけ出して、話を聞くことがいいと思いますね。まずは成功のイメージを具体的にしてから、数字で裏を取るということですね。今ならばFacebookやブログなどのソーシャルメディアを使って自分と同じ価値観を持っている人にアクセスできるようになりましたから、そういう人を探してコンタクトをとるのもいいでしょう」
― では、この『お金を増やすしくみ』をどのような方に読んでほしいですか?
「この本は誰も読める内容になっていて、難しさを感じないと思います。なので、若い方から年配の方まで幅広く読んでほしいですね。ただ、特にあげるとすると、20代の若い人でしょうか。これからの人生長いですし、将来の人生設計に対して、いろいろ考える部分もあると思います。この本が、お金の不安を少しでも拭う助けになれば幸いですね」
― 最後に、このインタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いします。
「この本は私の銀行員の経験に基づいた、誰でもお金も増やすことができる方法を書いています。今後、お金を増やすこと、すなわち「資産運用」はわれわれ日本人にとって必要不可欠なものになると思います。本書が、お金との向き合い方やお金の教養を身につけるきっかけになればうれしいです」