ページトップへ
アマゾンへのリンク 介護で会社を辞める前に読む本―――介護はリハビリで9割変わる

介護で会社を辞める前に読む本―――介護はリハビリで9割変わる 家族の誰もが幸せになれる介護を考える!

このエントリーをはてなブックマークに追加

著者インタビュー

 もし明日、親が突然倒れて、要介護状態になってしまったら。家族として、どのような手続きを踏んで親をサポートすればいいのか。いまやテレビなどで介護関連のニュースを目にすることは珍しくとも何ともないが、いざ自分が「介護をする」という状況に立たされたときに何をすればいいのか分からないという人は少なくないはずだ。

介護で会社を辞める前に読む本 介護はリハビリで9割変わる』(ダイヤモンド社/刊)の著者である山下哲司氏は全国140カ所でデイサービス施設を運営している。
山下氏が現場で見てきた実例を通して、介護者を抱える家族がどのようなことに気を配り、どのような支援ができるのかについて話をうかがった。今回はその前編である。

――まず本書の執筆経緯を教えていただけますか?

著者近影

山下: 私は現在、デイサービス施設を約140ヶ所運営しており、高齢者の自立支援を目的にリハビリ介護サービスを提供しています。ただ現状ではリハビリ介護というものの知名度はほぼゼロです。
一方、働きながら介護をする「兼業介護者」が全国に約291万人、さらには介護を理由に職場を離れる「介護離職者」が毎年およそ10万人いるといわれています。
リハビリをしっかり行なえば、車椅子や杖が要らなくなるケースもあるということを知らないために必要以上に苦しんでいる人が沢山います。そのような人に本書を手にとっていただくことで、介護にも希望を見いだすことは可能なのだと実感してもらいたい。そう思って執筆しました。

――リハビリ介護とはどのようなものなのでしょうか?

山下: 私たちの施設で行なうリハビリ介護では、国際医療福祉大学大学院・竹内孝仁教授が開発・指導している「パワーリハビリテーション(以下、パワーリハビリ)」という方法論を採っています。パワーリハビリでは専門のマシンを使って、動かなくなってしまった「不活動筋」から再び「活動筋」へ戻すことを目的としたリハビリを行ないます。
この方法論で重視しているのは「座る」「立つ」「歩く」という3つの動作。なぜなら、これらの基本的な動作を行なう筋肉がうまく動かなくなると、自力で日常生活を送るのが困難になるからです。
これらの動作を行なえる状態にする、あるいはこれらの動作を行なえるよう状態を維持する。これがリハビリ介護における目標です。本人にとって「自分で自分のことができる」というのは何よりの自信になりますし、家族にとっても介護の負担が減る、あるいはこれ以上増えないというメリットがあります。

――まだリハビリ介護の認知度は低いとのことですが、現在の介護業界ではどのような考え方が主流なのでしょうか?

山下: 介護する側には「お世話してあげる」という意識がまだ強いですね。またこれがいちばんの問題だと思うのですが、いまの介護保険サービスは「家族の負担をどれだけ減らせるか」という1点にフォーカスしすぎています。従来型の介護サービスのひとつに、レクリエーション型のものがありますが、他の高齢者と一緒に歌を歌ったり、ゲームをしたりといったことに抵抗を感じる人もいます。それなのに、とりあえず預けておけば家族の手をはなれて楽になるからという理由だけで、本人の意思をないがしろにしてでも施設に入れてしまう。そういった状況が少なくないのです。

――それは言いかえれば、本人と施設との間でミスマッチが起きているとも言えますね。ミスマッチが起きていないかどうかを見極めるにはどうすればよいですか?

山下: ミスマッチの見極めはさほど難しいものではありません。本人が「行きたくない」とストレートに言うケースも珍しくありませんし、逆に「最近、着る服に気を遣うようになってきた」とか「ちゃんと鬚を剃ってから出かけるようになった」等、本人にポジティブな行動変化が見られるようであれば、ミスマッチは起きていないと判断してよいでしょう。

――では施設選びにおいて家族が気をつけるべきポイントは何でしょうか?

山下: 施設を選ぶタイミングですね。たとえばご家族が脳梗塞や心筋梗塞を患い、緊急搬送されて入院したとしましょう。リハビリを必要とするような疾患を発症した場合、病院で上半身を起こして座っていられる程度に回復するまでの期間、発症後およそ1~2週間くらいを「急性期」と呼びます。この期間を経て、日常生活に必要な動作や機能が回復するまでの期間を「回復期」と呼びます。そして「回復期」の在院日数はどの病気も最長180日と決められていて制度上は6か月ですが、入院期間が90日を過ぎると診療報酬が減額されるために、ほとんどが3ヶ月以内に退院を余儀なくされます。この3ヶ月の間に施設選びを始める必要があります。
多くの人は退院してから施設探しを始めますが、通院で受けられるリハビリは1回当たりたったの20分、しかも1カ月に13回までと決められています。退院してから「あっちがいいかな、こっちがいいかな」と探しているうちに要介護者の機能がみるみる低下してしまうというケースが少なくないのです。つまり施設とのミスマッチどころか、通うことすら難しくなってしまうわけですね。

――ということは、退院する前に施設選びを済ませておくのが理想的ということですか?

山下: そうです。入院中に要介護認定をとってしまいましょう。とり方が分からなければ、お住まいの市町村に相談すれば教えてもらえます。そして必要であれば、ケアマネージャーの助けも借りながら情報収集を行ない施設を探す。退院して自宅に戻るのであれば、退院後すぐにリハビリを始められるような体制を整えておくのがよいでしょう。

――序盤ではリハビリ介護のメリットについてお話いただきましたが、デメリットはあるのでしょうか?

山下: デメリットらしいデメリットはないと思います。あえて挙げるとすれば、リハビリをがんばりすぎると、ケガをしてしまう危険性があるということぐらいでしょう。リハビリの効果が出始めて、立ちやすくなったり、歩きやすくなったり、座りやすくなると、つい嬉しくなって「もっともっと」とリハビリを張り切りすぎてしまうケースがあるのです。「身体が動くようになる」というのはそれだけ希望を生むものなのだと思います。

――リハビリ介護をするにせよ、できるだけ「手遅れ」にならないうちに早めに親の変化に気づきたいものです。どのような点に気を配ればよいでしょうか?

山下: 気を配るべきポイントは2つあります。まず外出の量が減っていないかどうか。ひきもりになれば筋肉を動かす機会が減りますから、寝たきりになるリスクが増してしまう。以前に比べて外出量が減り始めたなと思ったら要注意です。
次に水分の摂取量。日本自立支援介護学会によれば、必要な水分量を摂取するようにしただけで、約70%の認知症の人の症状が改善されたという報告もあるほど水分摂取とは重要なのです。
にもかかわらず、高齢者は基本的に水分不足に陥りがちです。30代から50代だと、体内の60%程度は水分が占めているといわれていますが、65歳以上の高齢者はそれが平均的に50%程度にまで落ち込むといわれています。
たとえば体重50kgの高齢者の場合、その半分にあたる25kgが平均的な体内水分量ということになりますが、この水分量に対して1%から2%の水分が失われるだけで意識障害が起こるといわれています。
体重50kgの高齢者の場合、1%といったら、たったの250cc。コップ1杯程度の量。汗をかいてトイレへ行って水を飲むのを忘れたらすぐに失われてしまうような量ですよね。たったこれだけの水分が不足しただけで意識障害が起きてしまうのですから、本人がどれくらい水分をとっているかについて家族は注意を払うべきだと思います。

――意識障害を起こすと、たとえばどのような状態に陥るのでしょうか?

山下: お年寄りがテレビを見ながら、あるいは人の話を聞きながら居眠りをしている光景を見たことがあるかと思いますが、あれは単なる居眠りではなく水分不足が原因で意識障害を起こしている場合があります。
さらにいえば、水分が3%以上不足すると循環機能に影響が出ます。血液がドロドロになり血流が悪くなってしまうんです。脳梗塞や心筋梗塞は早朝に発症するケースが多いのですが、これも水分不足が原因といえます。よく「夜中トイレに立ちたくないから」と就寝前の水分摂取を控える方がいますが、これは逆に危険だということを知ってほしいですね。

――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

山下: この仕事に携わるなかで「親が要介護状態になったことを受け入れられない」ご家族を目にすることが少なくありません。受け入れられないがために「なんでこんなこともできないの!」と声を荒げてしまう。また介護というものの「終わりの見えなさ」がここに拍車をかけ、ご家族の方がますます追い詰められてしまう場合もあります。
そんな状況に突破口を見いだす意味でも、ぜひリハビリ介護という選択肢があることを知っていただきたい。介護の問題というのは往々にして「突然」降りかかってくるものです。そのときになって慌てないためにも、本書を通してリハビリ介護を含め、介護の現状を知っていただければうれしいです。

(新刊JP編集部)