著者インタビュー

 近年、増えているという“うつ病”ですが、どのように対処すれば良いのでしょうか。 湯島清水坂クリニック院長で、『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』(河出書房新社/刊)を執筆した精神科医の宮島賢也さんは、かつてうつ病になり、考え方を変えて今は喜びの人生を送っているといいます。

 “薬を使わない精神科医”として注目を浴びる宮島さんですが、うつは「体からの愛のメッセージだ」と言います。その真意とは? 今回はそんな宮島さんにインタビューを行いました。

■ 薬を使わない精神科医が提案する“うつ病からのメッセージ”

―「うつ」は真面目で几帳面な人がなりやすいというイメージがあるのですが、やはりそういった傾向は見られるのでしょうか。

「そうだね、従来のうつ病は真面目で几帳面な人、神経質な人がなることが多いね。それと最近言われている新型うつ病(*1)は、自分に素直な人たちかな。

今、うつ病を病気と言わなくてもいいんじゃないかっていう提案をしています。病気と思ったら、病院に行って受診したり、薬を飲まないといけないと思うかも知れない。けれども、うつは病気の症状ではなくて、自分が過度なストレスがかかる生き方をしていることを教えてくれる、体からの愛のメッセージだと感じるんです。頑張りすぎているよ、悩みすぎている、イライラしすぎているよということを伝えてくれるとっても素敵なサインだな、と」

(*1・・・仕事中だけうつになるといった、従来型と異なるうつ病のこと)

―自分が今、ストレスを受けているという状態を教えてくれているわけですね。

「もっと言うのであれば、自分が満たされていない、不幸せな状態であることを体が教えてくれていると思うんです。だから、うつ病を治すんじゃなくて、生き方を直すこと大事なんです。直すのを頑張るのではなくて、楽にしようと提案してます」

―本の中にも書かれていましたが、ここ近年、新型を含めてうつ病の患者が増えてきているといわれています。その背景について、宮島先生はどうお考えですか?

「実は親子関係からはじまってるんです。さっき言った、真面目さ、几帳面さ、頑張りすぎ、悩みすぎっていうのは子育てのしつけの中でだんだん刷り込まれていくものなんだ。だから、うつになってしまう人と、エリートの人は紙一重なんだよね。それまで出来ていても、ノルマが高くなったり仕事量が増えたりすると過度に頑張り過ぎちゃってうつの症状が出る。職場で喜ばれるタイプの人とうつになりやすいタイプの人は、同じ傾向のことがある。

一方、新型うつの人は、自分の好きじゃない仕事は嫌といえる、僕から言えば素直な人たちなんだよね。でも、新型かそうでないか分ける必要はないなと思っていて、どちらのタイプでも自分でしたくないと思っていることはやりづらいし、したいと思っていることはできるんですよ。だから、その仕事が本人にとって喜びであれば復帰するときにリハビリは要らないんですよ。みんな嫌々仕事をしていたり、嫌々生きていたりするんだよね」

―宮島先生がおっしゃった通り、子どもは親との関係から、人との関係のとり方を学ぶと思います。これは本書内でも詳しく書かれていますが、うつ病患者が増えて来ているということは親子の関係が変わってきているということでしょうか。

「日本人の親子関係には昔から厳しさがあったと思うけれど、高度成長期の中ではガマンしたら報われるというのがあったね。それが、マイナス成長の時代になって頑張ってガマンしても報われなくなっているから、ギブアップする人が増えているんじゃないかな。

周囲に気を使いなさいと親に注意されたことがある人は多いと思うけれど、周りを気にする傾向がどんどん集積しているのかも知れないね」

―最近では、就職活動を通してうつ病になってしまう“就活うつ”という症状も出てきているようですが、就職活動は何がなんでも内定を取らないといけない強迫観念みたいなものがあると思います。

「それをしなければいけないと思うところで、実はうつに近づいているんだよね。まずはその仕事をやりたいかどうか。合わない仕事に無理に合わせているといろんな病気が教えてくれる。また、会社と合わなくて、入社してから3年以内で辞めてしまうという人もいるけれど、これからは逆に会社が3年以内で辞めちゃう人たちに合わせていく必要があるんじゃないかな。仕事が好きだからそこにいるという集まりにしていくのが、これからのメンタルヘルスであり、生産性の向上にも繋がるね」

―自分でうつになりつつあると気がつくための症状はどんなものがありますか?

「新型うつの人は体が反応してくれているから分かりやすい。危ないのは、すごく真面目な人がなってしまう従来型うつだね。子どもの頃、習い事とか受験勉強とか自分のやりたくないことをさせられ続けてきた人は、ストレスにマヒしちゃっているんだよね。だから体に拒絶反応が出ていても気付かずに、突然倒れたり、パニック障害を起したりする。でも、よく話を聞くとね、ストレスが必ずあるんだよね。嫌な仕事も、嫌な人間関係も全部ガマンしている。薬で症状を麻痺させて、嫌な仕事や人間関係に居続けるのももったいないね。

うつ病は無理してること、ガマンしてることの警告サインなんだよね。うつ以前に一番ミニマムな赤信号は、笑顔がなくなることかなと思うな。笑顔が出にくくなっていることは、オーバーペースを教えてくれている」

―宮島先生ご自身もうつ病をご経験されています。その中でうつ病について伝えたいことはありますか?

「そうだね、うつ病は恐ろしいものと捉えないでおこう、というのが提案かな。最初にも言ったけれど、うつ病は愛のメッセージなんだよって言いたい。

今の生き方が苦しいよというメッセージを体から受け取って、それをきっかけに生き方を変えた人はすごく楽にそして喜びに生きているんだよね。けれども、うつを薬とかで抑えてしまって、マヒをさせて嫌な仕事や嫌な人間関係を続けていると、急に死にたくなってしまうこともあるんですよ。警告サインをマヒさせているだけから、根本的な解決にはなっていない。ガスが漏れているのに警報装置を切るだけじゃなくて、ガス漏れの原因を解決するのが根本治療なんだよね」

―なるほど。宮島先生のプロフィールに書かれていた“薬を使わない精神科医”はそういったところから来ているのですね。

「薬を飲んでいるときに考え方を変えた人は薬を飲んでいても止められる。でも、薬を飲んでいるだけで考え方を変えなかったら、またストレスかかると警告サインの症状が出てくるんだよね。薬を飲もうが、飲むまいが、考え方を変えるのが根本解決なんだよ」

■ 退職も離婚も“選択肢に入れたほうが安全”

―本書を読んでいて印象に残ったのが、ジェームス・スキナー氏の『成功の9ステップ』という本に影響を受けていらっしゃる点でした。この『成功の9ステップ』との出会いはどのようなものだったのでしょうか。

「うつ病になったとき、もう医者をやめたかったんだよね。精神科医の仕事がすごくしんどくて(苦笑)。そこで医者以外の仕事がないかなと思って、いろいろな勉強会にも行っていたんだけど、その中でたどり着いたのが、この本だったんです。仕事も自分も変えたかったんだよね。

うつの前はすごく真面目で責任感も強く、家族ともぶつかることも多かった。今は自分のやりたいことを大事にする、自分自身を大事にしているかな」

―本当に嫌でしょうがなくなったとき、仕事をやめてしまうという選択肢もありだと思いますか?

「そうだね、選択肢に、退職や離婚を入れておくのは安全のため大事だね。ただ、すぐに退職や離婚を選んで、退職や離婚を繰り返している人もいる。いつでも退職や離婚も選べるからこそ、先に自分の内側を楽にしていく。嫌々仕事をする習慣や、嫌な人とガマンして付き合う習慣を変えながら、他にやりたい仕事があれば、今の仕事をやめて、やりたい仕事に変わるのもステキです。離婚しても、父と子、母と子の関係は変わらない。離婚をきっかけに夫婦の勝ち負けを止め、それぞれの子どもとの関係を大切にしよう。もう片方の親と子どもの関係も大切にするとステキな循環が起こるかも」

―この本の中の、人間関係のあり方のところで、相手を変えることはできないと書かれていて、とても共感できました。まさしくその通りだと思うのですが、仕事の場面などでは、相手が思い通りに動いてくれないとどうしてもストレスが溜まってしまいますよね。相手に「変わって欲しい!」と思ってしまうというか。

「そう思っていると悪循環かもよ」

―そうなんですよね。ただ、なかなかそれを変えることができません

「焦らないで。変えなくちゃいけないと思わないで。相手のためと思って自分が相手を変えようとプレッシャーを与えても、変わりづらいんですよ。相手を変えようとするより、自分を変える。そうすると、関係が楽になるんです。自分が笑顔になるために、自分を楽にしていくことが大切なんですよ」

―この『自分の「うつ」を治した精神科医の方法』をどんな方に読んで欲しいとお考えですか。

「悩んでいる人、うつの人には読んで欲しいですね。あとは、これはうつとは書いてあるけど、人間関係を楽にしようという僕からの提案です。病気を持っているあらゆる人、家族で苦しんでいる人がいる人にも読んでみて欲しいです。あとは経営者の方にも読まれているんですよ。この本にはビジネスマインドやコミュニケーション、健康のことも書いてあるので。メンタルヘルスも生産性の向上も同じベクトルなので、経営者にも読んで欲しいですね。後、学校の先生にも、是非、読んで欲しいです」

―部下や子どもと接する機会のある方々ですね。

「そうだね。あと、この本を読んだ医者の人も受診してくれてんだよね。医者は苦しんでますよ。病院って、緊張度高いでしょ。高いストレスがかかる場所だから、医者や看護師など医療従事者にも読んで欲しいな。

悩んでいる人と真面目な人は紙一重なんだよね。心配性で神経質なんだけど、緻密な作業が得意で、経理として優秀だったりするじゃない」

―ただ、優秀だからこそミスできないとか、期待されていると思ってしまう。

「期待されて苦しいなら、相手の期待に従うのを続けるのか、自分がどうしたいかに従うことに軌道修正していくのか。今は、相手を愛しながら、期待せず、必要とせず、嫉妬せずという楽な人間関係を創っていくことを提案しています」

―では、最後にこのインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。

「私は、うつや他の体の病気まで含めて、病気と捉えるのではなくて、自分の苦しい生き方を楽にしてという体からの愛のメッセージだと感じています。今、体に症状が出ている人、うつ病になっている人は、受診して薬を飲むかは自分で選んでもらって、まずは苦しい考え方を変えて生き方を楽にしていきませんかと伝えたいですね。自分は自分でいいんだ、自分を信じてあげる、自分を愛してあげる、自分のやりたいことを選んでいいんだ、何より人生楽しんでいいんだという許しを、自分で自分に出していこう。喜びの人生を生きていきましょう」

(聞き手/金井元貴)

書籍情報
書影

自分の「うつ」を治した精神科医の方法

著者: 宮島 賢也
定価: 798円
出版社: 河出書房新社
ISBN-10: 4309503691
ISBN-13: 978-4309503691

Amazonでみる