- 定価:
- 1,600円+税
- 著者:
- 吉野勲 (著), 資格スクエア (監修)
- 出版社:
- 中央経済社
- ISBN-10:
- 4502138215
- ISBN-13:
- 978-4502138218
【目次】
- 第1章
- 法科大学院に行かずに弁護士になる
- 第2章
- まずは予備試験を知ることから全ては始まる
- 第3章
- 予備試験短答式の系統・科目別攻略法
- 第4章
- 予備試験論文式の科目別攻略法
- 第5章
- 予備試験を一発突破する人の15の法則
- 第6章
- 予備試験に関する10の質問と処方箋
- 第7章
- 司法試験最終合格に向けて
著者インタビュー
― 『司法試験予備試験一発突破ナビ』についてお話を伺えればと思います。司法試験の予備試験はまだ始まってから日が浅く、対策本の類もまだ十分に出そろっていない感があります。その意味で、この本はとても貴重だと思うのですが、吉野さんがこの本で一番に伝えたかったことはどんなことですか?
伝えたいことは二つあって、一つは「挑戦してほしい」ということです。司法試験の受験生の数は昔と比べると減ってきていて、一部で「法曹離れ」ということも言われていますけども、まだまだ司法試験合格というのは自分の人生を変える大きな武器になると思うので。
それと、司法試験の予備試験は、勉強法のところで「やっていいこと」と「やってはいけないこと」がまだうまく伝わっていないと感じていて、それをこの本でまとめて伝えたかったというのもありますね。
― 予備試験の制度ができて今年で5年目ですが、この試験をパスするための指導法はどの程度確立されてきているのでしょうか。
予備試験の内容は、2011年まで行われていた旧司法試験の延長線上にあるので、指導方法も旧司法試験向けのものとさして違うわけではないんです。そういう意味では「指導の仕方がわからない」という問題はないと思っています。ただ、まだ予備試験自体が十分に認知されていないんですよ。
― たしかに、「司法試験を受けるならまずは法科大学院に行って…」というのが今は一般的ですね。
そちらのほうが優勢ですね。「予備試験」というネーミングからして、「何の“予備”なのかよくわからない」という人も多いようです。
― しかし、実際はかなり便利な制度ですよね。法科大学院に行かなくても、予備試験に合格すれば司法試験の受験資格が得られるわけですから。
そうですね。コスト的にもかなり安く済むはずです。法科大学院に行くと既修と未修の二つコースがあるのですが、司法試験の合格率が高いのは上位の既修者です。
じゃあ既修者のコースに入ろうということで、予備校に行ってそのための講座をとりますよね。それで法科大学院の既修者コースに行けても、今度は2年間なり3年間の授業料がかかります。
予備試験にパスするならばこの「授業料」の部分が丸ごとなくなるわけですから、金額的には大きな差です。おそらく400~500万円くらいは違うはずです。
― 吉野さんが今教えている「資格スクエア」は、位置づけとしては「予備校」ですが、オンラインなので通常の講義式の予備校よりはかなり安いと聞きました。
そう思います。予備校の値段が今はかなり高くなってしまっていて、それが司法試験挑戦の参入障壁になってしまっているところがあるんですよ。「ああ、こんなに高いならやめておこう」となってしまって、挑戦してみようという気になかなかならない。それは良くないなとずっと思っていたので、「価格破壊」ではないですが、「資格スクエア」では値段を安くすることで、みなさんに挑戦していただきたいと思っています。
― 司法試験を目指す方の中には、社会人として働きながら予備試験を目指す方も多くいます。勉強できる時間が限られた中で合格するために、どんなことが大事になりますか?
勉強は結局、「量」と「質」です。一般的に資格試験を受ける人は真面目な人が多いので、「量」はきちんとこなすんですよ。その反面、「質」に問題がある人が非常に多い。
0は何倍にしても0なのと同じで、勉強のやり方を間違えると何十時間勉強しようが力はつきません。そして、司法試験というのはその勉強法の間違いを犯しやすい試験です。
「方向性を間違えずに正しい勉強法をやりきる」には、ある種の「要領のよさ」が必要ですが、社会人の方に関していえば、すでにそれは持っていることが多い。じゃあ、あとはどうやって勉強時間を確保するかということになるわけですが、学生と比べて絶対的な時間数がない分、彼らほど短期間で合格する必要もないわけですからね。学生が1年、2年で合格するところを5年かけたって、すでに仕事がある分そこまで困ることはないわけで。学生と比べるのではなく、あくまで「自分にとっての最短合格」を目指していけばいいと思います。
― なるほど。ただ、長期間かけて挑戦するとなると、今度はモチベーションをいかに保ち続けるかという問題が出てきます。
そうですね。「何のために司法試験を受けるのか」、というところは、やはりきちんと自分で考えて持っておく必要があると思います。さすがに社会人の方だと「何となくノリで司法試験合格を目指す」という人はいないと思いますが、司法試験を突破した後の人生設計や生活について考えておくとモチベーションにつながりやすいはずです。
― 本書のテーマになっている「司法試験予備試験」ですが、科目が多いのが難点です。どの科目もまんべんなく力をつけるためのポイントがありましたら教えていただければと思います。
予備試験は「法律基本科目(憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法・行政法)」「法律実務基礎科目(民事・刑事)」「一般教養(社会科学・人文科学・自然科学・英語)」とあって、確かに科目数はすごく多いのですが、基本的には「法律基本科目」の7科目で勝負が決まるので、まずはそこをきちんとやると。「法律実務基礎科目」はある程度できればいいやという感覚でよくて、一般教養は一切やらなくていい、というように、「重点的に勉強するもの」「そこそこでいいもの」「やらなくていいもの」と濃淡をつけることが大事です。
あくまでも「法律基本科目」で勝負するという意識でいいと思います。理屈上それは可能ですから、全部まんべんなく勉強する必要はありません。
― 講師としてこれまで予備試験を4回経験されてきて、合格する人とそうでない人の違いは見えてきましたか?
合格する人の特徴としては、「人の話を素直に聞く」こと、それと「信じた勉強法をやりきる」ことでしょうね。
これは司法試験の本試験も予備試験も同じですが、「これをやりなさい」「こうやればいいんだよ」という指導を素直に受け止められる人は、あとはもう勉強するだけなんですよ。
「これをやれば受かるんですよね?」「そうだよ」となったら、それを躊躇せずにやり切ればいいんですけど、「何をどのようにやれば合格するか」というところが納得できないと、なかなか勉強が前に進みません。
― 特に、予備試験とはいえ「司法試験」ですから、とてつもない難関試験というイメージがあって「この勉強法でいいのか?」という悩みがつきまといそうです。
そうなんですよね。やたらと難しいイメージが先行していて、「いろいろな仕掛けがあるんじゃないか」とか「ただの試験とは違うんじゃないか」っていう疑念が出てきてしまう。
でも、実際は普通の試験ですからね。もっと単純に考えた方がいいと思います。大学受験の延長にあると思えばよくて、その時の成功体験を捨てて新しいやり方を探る必要はありません。
― しかし、やはり予備試験はかなりの難関であることは間違いありません。
予備試験が難しいというのは、おそらく合格率が3%ほどと低いことからそう言われているんだと思いますが、どんな試験でも受験生の数がある程度いくと合格率は下がります。
今、予備試験の出願者は1万2000人くらいいますから、どうしても合格率は低いのですが、1万2000人のうちの何%が本気で勉強して受験してるのかというと、「記念受験」の人もいるでしょうし、「とりあえず受けるだけ受けてみようかな」という人もいるので、決して多くはないはずです。
それに、予備試験を受けようという動きが全国的に盛り上がっているわけではないですし、合格点も上がっていませんから、実際の競争率はそれほど高くない。表に出ている合格率ほど苛烈な試験ではないんです。
― そうなると、まだ数年間はパスしやすい状態にあるというわけですか。
そう思います。今年とか来年で急に受験者が倍になるようなことは考えにくいですし、あまり予備試験の存在を法務省が積極的に告知していないということもありますから、もう4、5年は「凪ぎ」の状態が続くのではないでしょうか。
― どうしてあまり告知がされないのでしょうか。
これは「大人の事情」でしょうね。やはり司法試験を受験するなら法科大学院に行くっていうのが原則としてあります。大学側にしても、自分のところに法科大学院があるのに、予備試験を積極的に勧めるということはやりにくいでしょう。
― 予備試験の勉強をするうえでのアドバイスをいただければと思うのですが、参考書や判例集の選び方について、どんなことがポイントになりますか?
参考書は大別すると「基本書」と「予備校本」があるのですが、一般論で言えば「予備校本」を使った方がいいだろうというのはあります。
「基本書」は、司法試験対策に限らず、その科目全体を解説する目的で書かれたテキストですから、予備校が出している、司法試験対策に絞って書かれたテキストの方がわかりやすいですし、使いやすい。
ただ、「予備校本」にしてもいろいろな予備校が出していますから、そこはもう好みの問題というところはあります。そこそこ大手の予備校が出しているものであればまずいことはないので、自分に合いそうなものを選べばいいと思います。
― 本書でおすすめの参考書や判例集を挙げていらっしゃいますが、知人の弁護士に見せたら「古いものを使っているんだなあ」という感想でした。
今手に入る参考書で信頼性の高いものというのは、実は昔からあまり変わっていないんですよ。それで「古い」という印象になってしまったんだと思います。参考書に関してはこの10年間ほとんど新しい動きがなかったので。
さっきお話ししたように、予備試験は旧司法試験の延長上にあるので、参考書も旧司法試験向けのものなら予備試験は戦えます。ただ、予備試験を合格したら次は現行の新しい司法試験があるわけで、これを突破するには既存の参考書では古い、という感はあります。
僕はこれを変えようと思っていて、新司法試験向けの新しいテキスト作りをやっているところなんです。
― 予備試験から司法試験合格を目指すというのは、司法試験を巡る全体の流れからいえば“新興勢力”です。先ほど「原則」とおっしゃっていた法科大学院の側は、予備試験を勧める予備校をどのような目で見ているのでしょうか。
法科大学院によっても色々なんですけど、予備試験だとか予備校を目の敵にしているところもあるにはあります。東京ではそうでもないのですが、アンチ予備校派は実は多いんです。
― これは司法試験に限ったことではないのですが、難関資格をとっても「食べていけない」ということがよく言われます。こういった意見についてはどのようなご感想をお持ちですか?
これは当たり前ですよね。今までは司法試験さえ受かってしまえば、多少コミュニケーション能力に問題があっても楽に生活できていたということでしょうが、そもそもそれがおかしかったのであって、今はまともな状態になったということだと思います。
― 現行の司法試験が行われるようになった2006年あたりから弁護士の数は飛躍的に増えています。それによって就職しにくくなったということはあるのでしょうか。
求人に対する募集者が増えたということなので、就職しにくくなったかどうかということでいえばなったとは思います。ただ、弁護士事務所に就職する以外に企業内弁護士になったり、早い段階で独立したりと、弁護士のキャリアの選択肢も増えているので、本人次第といいますか、自分が弁護士として何をやりたいのかが明確であれば、活躍の場はあるはずです。
― 特に、最近ではIT訴訟が増えていますし、PCの遠隔操作事件など以前は存在していなかった事件も起こるようになってきています。となると弁護士の方にも新しい需要が生まれるわけですよね。
そうですね。IT訴訟などは特に、上の世代の弁護士のなかにはついていけない人もいるはずです。ITに関してはやはり若い人の方が慣れているので、そういう訴訟に特化した事務所に入ったりすることもできるでしょうし、その分野で新しいフィールドを自分で作ってしまうこともできるはずです。法というのは人間活動の全てが対象になるのですから“ブルーオーシャン”は自分で作ってしまえばいい。
世の中が動いている時には新しいルールや運用が生まれるわけで、そういう時はキャリアの浅い弁護士でもベテランの弁護士と同じ土俵で戦えます。今度、民法の大改正がありますが、法律が変わる時というのは、「今さら新しい法律に適応するのは無理」ということで引退してしまう弁護士がいるので、新旧が入れ替わるんです。そういう意味でもチャンスですよね。
― 最後になりますが、予備試験から司法試験合格を目指す方々にメッセージをお願いできればと思います。
僕はこの本の中で、「司法試験合格はプラチナチケット」って書いているのですが、合格したからといって、即お金持ちになれるということではありません。でも、人に決められるのではなく、自分のやりたいことに取り組む人生を送れるようになりますし、何より選択肢が広がるのは間違いありません。
先ほどのお話に出ましたが、予備試験は確かに大変な試験ではありますから、勉強を続けるモチベーションを保つのが難しいかもしれません。もし勉強する意欲がなくなりそうな時は、「司法試験に合格することで、人生の舵を自分の手に取り戻すことができる」と考えて、苦労をする価値のあるものに挑戦しているんだということを再確認してほしいと思います。