―菊原さんの著書『失敗はお金に変えられる』についてお話をうかがえればと思います。まずは、本書をお書きになった動機についてからお聞きしてもよろしいでしょうか。
菊原:まず、私自身が若い頃からずっと失敗ばかりしてきたというのがあります。そういう時期が長かったのですが、今振り返ってみると失敗した経験は一番の財産になっている。
この経験を今の若い人、仕事がうまくいかずにくすぶっている人に伝えることができたら、みなさんが仕事を通して成長していく手助けができるのではないかと考えたのが直接の動機です。
―『失敗はお金に変えられる』というタイトルですが、「失敗」と「お金」はどのように結びつくのでしょうか。
菊原:失敗といっても、ただ失敗して終わるのではなく何か学ぶものがあるはずです。その学びを利用することで仕事の力がつき、結果的に収入増につながるというイメージですね。また、詳しくこの本に書きましたが、失敗は教訓化、コンテンツ化することでもお金に変わります。
―菊原さんがやってしまった一番大きな失敗はどんなものですか?
菊原:私はずっと住宅営業をやっていたのですが、一番大きな失敗というと屋根の形をまちがえて業者に発注してしまったことです。
お客さんから要望を聞いて、それを私が業者に伝えて作ってもらうわけなのですが、いざ現場に行ってみたらお客さんが希望していた屋根ではなかったんです。形が違っていた。
これがキッチンだったらまだいいんですよ。最悪壊して作り直すことができますから。でも屋根だとそうはいきません。お客さんから「このままじゃないですよね?」って聞かれて、あの時は冷汗が出ましたね。
―わかります。ちなみに、どうやって対応されたんですか?
菊原:お客さんが希望していたものより短い屋根をつけてしまったので、最終的にはテラスをつけて対応したと思います。もちろん、お客さんは許してくれなくて、しばらく出入り禁止にされてしまったのですが。
―それはかなりきつい失敗ですね。菊原さんはこの失敗をどのように、後に生かしていったのでしょうか。
菊原:そのお客さんは、「長い屋根がいい」とはっきり意思表示したわけではなくて、「長い屋根がいいけど、短い屋根でもいいかな。コストダウンのためなら多少屋根が短くても仕方ないかな」という態度でした。
こちらとしては、最終的にどちらの屋根がいいかを確認する必要があったわけですが、それをせずに発注してしまったことがトラブルの原因だったんです。だから、事前に立体図を見せるなりして、お客さんの確認を取るようになりましたね。
―失敗ばかりの時期が長かったとおっしゃっていましたが、その状態から抜け出すきっかけはどんなことだったのでしょうか。
菊原:住宅営業マン時代、お客さんのところを訪問しても、アポイントなしの飛び込みでしたから全く契約に結びつかなかったんです。平日の日中に行くと、大体奥さんが出るんですけど、「もう他で決めたので二度と来ないでください」と言われるか「必要な時はこちらから連絡します」と言われるかで。そんなことを30歳までやっていました。
でも、ある時に、お客さんが住宅を買う際に失敗したポイントをまとめて、郵送で訪問先の家に送るようにしたら、こちらが訪問しなくても、向こうから連絡がくるようになったんです。こちらから追いかけている時は逃げられてばかりだったのに、待ちの姿勢に変えたらお客さんの方から相談を持ちかけられるようになった。
そうなると成績も伸びましたし、何よりお客さんに必要とされているという実感を初めて持つことができました。これはすごく大きな出来事でした。
―失敗を財産にしていける人と、潰れてしまう人を分けるのはどんな要素だとお考えですか?
菊原:その失敗をネタというか、笑い話にできるかどうかというのは大きいです。
ふさぎ込んでしまって誰にも話せない人、自分だけで抱え込んでしまう人は潰れてしまう可能性が高いと思います。
もちろん、失敗は後の仕事に役立てないといけないのですが、笑い話として吐き出すことはすごく大事です。誰かに話すことで冷静になれますし、その失敗を客観視することにもなる。失敗を誰かと共有することでアドバイスをもらえたりしますからね。
―また、失敗を許してもらえ、すぐにまたチャンスをもらえる人とそうでない人がいます。両者にはどんな違いがあるのでしょうか。
菊原:それは完全に「日頃の行い」でしょうね。たとえば、待ち合わせ場所には必ず約束した時間の前に来ている、仕事の締め切りに間に合うよう余裕を持って仕上げるなど、自己管理ができている人は、たまたま大きなミスをしたとしても「こいつはもうダメだ」とはならないものです。
逆に、いつも遅刻をしていたり、居留守を使うような人が失敗すると、周りの人も「もういいや」となってしまう。
普段からどんな姿勢で仕事をしているかで、ミスした時の周りの反応は違ってきますね。
―日頃の行いが、失敗をした時のリスクヘッジになるというのはよくわかるお話です。菊原さんご自身はどんなことに気をつけてお仕事をされていますか?
菊原:本を書いたり、企業の研修をしたりと原稿を書くことが多いので、やはり締切りには気をつけています。締切りまでに原稿を仕上げるのは当然として、私は「締切りよりかなり前に提出する」というのを心がけています。
これが失敗した時のリスクヘッジになるのかはわかりませんが、同じ位の売れ行きの著者がもう一人いて、どちらに原稿を書かせようかとなった時に、自分が選ばれるようにはしたいなと思いますね。
―失敗した時は、どう謝るかというのも大事ですよね。何かポイントがありましたら教えていただけますか?
菊原:クレーム処理などでお客さんに謝る時は、まず言い訳は絶対にダメ。お客さんが言っていることをとにかく最後まで聞くことが大事です。
よく、同じことを三回くらい言うお客さんがいますが、こういう人でもきちんと三回聞いて、こちらの説明はその後です。向こうが話している時にこちらが割って入ってしまうと、余計に怒らせてしまって収拾がつかなくなることがあります。
相手の言い分を最後まで聞くことと、絶対に逃げないという姿勢を相手に見せること。この二点でしょうか。
―たとえば上司など、社内の人に謝る時はいかがでしょうか。
菊原:こちらもやはり、言い訳をしないことでしょうね。会社の中では言い訳をしたくなりますが(笑)
―失敗を恐れて消極的になったり、事なかれ主義になる危険性は誰にでもあります。仕事で積極性を失わないためにはどんなことが大事になりますか?
菊原:先ほどの答えに近いのですが、普段から仕事のことを話せる人や場を作っておくことですね。できれば同僚よりも、仕事とは全く関係がない仲間が集まるコミュニティがあるといいです。
そういった場で、自分の失敗について話して、アドバイスをもらえますし、単純に人の失敗談は盛り上がりますからね。上手に落ち込んだ気持ちを発散させてあげれば、後々まで引きずって、仕事が消極的になることはないと思います。
―失敗しても消極的にならずに仕事をしていくために、座右の銘にしている言葉がありましたら教えていただければと思います。
菊原:「座右の銘」ではないのですが、「今できることを考えて、ベストを尽くす」というのは常に意識しています。過去の経験を踏まえて、今一番にやるべきことを考えて、実行する、ということですね。
「あの時、お客さんにああ言えばよかったなぁ~」などと過去のことに捉われすぎてしまうと、目の前のことがおろそかになるので、過去の失敗から何か改善点なり教訓にすることを得ることができたら、もうその失敗のことを考えるのは終わりにして目の前のことに向かうようにしています。
―本書をどんな人に読んで欲しいとお考えですか?
菊原:営業マンであれば、「ダメ営業マン」に、ビジネスマンなら「ダメビジネスマン」に読んでいただけたらうれしいなと思っています。仕事の種類に関わらず全然結果が出ていない人、ということですね。
失敗続きで、「どうして他の人はうまくいっているのに俺だけがダメなんだろう」と悩んでいる人に読んでいただければ、その失敗を糧にする方法がわかると思います。
―これから社会に出る学生が読んでも得るものが多そうですね。
菊原:そうですね。私は大学講師もやっているので、授業で配ってみようかなと思います。今の学生はどんなことであっても、ものすごく失敗を恐れるところがあるので。失敗をした方が、実は得るものは多いんですけどね。
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
菊原:「どんどん失敗しましょう」と言いたいです。失敗というと悪いイメージがありますけど、失敗って本当はいいことばかりなんです。どうすればもっと改善できるかがわかりますし、仕事であればそうやって改善を続けていくことで実力がついて、収入も上がる。失敗談として話のネタにもなりますしね(笑)。だから、どんどんチャレンジして、失敗してほしいです。その具体的な方法をこの本にまとめました。
営業コンサルタント。関東学園大学経済学部講師。
大学卒業後、営業の世界へ。「口ベタ」「あがり症」に悩み、7年もの間、クビ 寸前の苦しい営業マン時代を過ごす。
失敗から目をそむけ、さらなる失敗を呼ぶというスパイラルの中で、「対人恐怖 症」「訪問恐怖症」にまで陥る。
今までの営業活動の失敗経験を活かし、やり方を大きく変えるようにしたとこ ろ、突如として独立するまでの4年間連続でトップ営業マンに。
自分と同じように仕事で悩んでいる人たちをサポートしたい、「失敗をお金に変 える」方法を伝えたいとの思いから、2006年に独立。
現在は、企業研修や営業通信講座の他に、全国でも初の「営業の授業」を大学で 行う。
社会に出てすぐに使えるノウハウ・知識・心構えは、幅広い層からの支持 を受けている。
著作に 『訪問しないで「売れる営業」に変わる本』(大和出版)、
『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』(明日香出版社)、
『面接ではウソをつけ』(星海社新書)など。