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無戸籍の日本人 タイトル

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定価: 
1700円+税
著者: 
井戸 まさえ
出版社: 
集英社
ISBN-10: 
4087815951
ISBN-13: 
978-4087815955
無戸籍の日本人 タイトル
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インタビュー

――「無戸籍者」にスポットをあてた衝撃的な一冊です。その人数は推定1万人以上にものぼると言われていますが、なぜそういった人が生まれてしまうのでしょうか。

著者近影

井戸:主因は民法772条2項、いわゆる「離婚後300日問題」と経済的困窮やDV等の問題を孕んだ児童虐待、ネグレクトが絡む、と言われています。

――井戸さんは無戸籍者の支援活動を行っていますが、そのきっかけについて教えて下さい。

井戸:自らの子も「無戸籍児」となった経験からです。行政からは「存在しない子」と言われ、本当につらかった。そしてこんなことがあってはならないと思いました。
私がこの問題に打ち当たった14年前は弁護士さんたちに相談しても誰も受けてくれないというような状況でした。ならば、私がやろうと。

――無戸籍者の方々からの相談としてはどのようなものが多いのでしょうか。

井戸:まず、調停・裁判の手続きに関しての相談。そして健康保険証や健診等について。
調停・裁判をしないと基本的には住民票がとれないので、そうなると福祉関係や就学等に支障が出る場合があるんです。そうしたことを心配して、もしくは困って相談というケースが多いです。

――無戸籍が生まれる背景として、その家族や取り巻く環境による要因が非常に大きく、家族もまた苦しみを抱えています。過去13年間、井戸さんが無戸籍者とそのご家族の支援活動を行ってきた中で、彼らを取り巻く環境・状況に変化を感じることはありますか?

井戸:そうですね。支援を始めた当初は前夫に子どもの存在を知られたくないとか、親御さんたちの立場からの相談が主だったのですが、最近では成人無戸籍当事者の方たちからの相談も多いです。
戸籍がないまま成長せざるを得ない方たちの場合、生活困難など別の問題を抱えていらっしゃる方々も多く、そうした場合は家族関係も崩れているケースも少なくありません。
戸籍を取るためにはまず家族の再生が必要なので、そのあたりは支援をしていても難しいなと感じる部分でもあります。

――私たちは戸籍に対してその重さや存在を感じることが少ないと思います。戸籍の重みについて井戸さんはどのように考えていますか。

井戸:通常「あって当たり前」のものですから。ただ、今の日本では戸籍に載らないと生活の基盤すらない、つまり人権がないということになります。
支援をして来た中では戸籍に「バグ」が多いことも気づかされます。この国の登録制度として適切かどうかは、別途議論が必要ではないかと思います。

――井戸さんはご自身のご経験から、市民団体の代表や政治家として民法772条の改正を訴え続けていらっしゃいます。民法第772条が持つ問題点について教えて下さい。

井戸:民法772条は全ての日本人が生まれて初めて出会う法律です。しかし1800年代後半、血液型すら発見されていなかった今から約130年前の常識の中で決まった父親を定めるルールです。
当時から医学も科学も飛躍的に進歩し、また私たちの生き方も多様なものとなっています。
にもかかわらず、相変わらず19世紀のルールのままで、21世紀の私たちは生きざるを得ない。これは立法府、政治の怠慢と言われても仕方がないと思います。
少なくとも、今となっては全く根拠のない民法772条2項の条文「離婚後300日」「婚姻後200日」を廃止することはもちろんですが、ともかくまずは法律の規定によって生まれた子どもをはじめから排除するようことがないようにしなければなりません。

――本書は無戸籍者たちの証言だけでなく、その要因の一つになっている民法第772条が政治の現場でどのように議論されているのかを克明に描いている点でも非常に重要な一冊だと思います。これは井戸さんにしか書けない内容だと思いますが、無戸籍者たちが自身の人生を語るというストレートなノンフィクションの中に、政治の現場でのやりとりを収めることは、一冊の本を作るという意味でとても挑戦的だと感じました。この政治の現場で起きたことをこの本の中に入れた(別の本にしなかった)理由を教えて下さい。

井戸:開高健ノンフィクション賞に応募をすると言った段階で、政治的な話は書かない方が良いと言われました。私個人の政治的プロパガンダだと思われるのは損だから、と。
もちろん私も逡巡しました。しかし、そこを書かなければノンフィクションではなくなってしまうのではないか、また赤裸々に苦しいことも語ってくれた無戸籍者やその家族たちにも、私が保身に走っては申し訳ないと思い、踏み込むことにしました。
ただ本が書店に並び、感想が寄せられるようになると、最も印象に残った場面のひとつに「政治の場で起きたこと」をあげられる方が多くて、驚いています。

――無戸籍者の問題は今後も続いていくと思いますが、この問題において国民が注視すべきことはなんだと思いますか?

井戸:立法府の動きですよね。
この法律は日本人を、そして「家族」をも規定する国にとっては根幹部分でもある。それは逆に言えば全ての日本人にとって基本中の基本の根幹なのです。
だからこそ変えられない。だからこそ変えなければならない。
誰がどう動くかも含めて、注視してもらいたいと思います。

――本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

井戸:声をあげることもできず、今もひとりで悩んでいる無戸籍当事者の方はもちろん、「戸籍はあって当たり前」だと思っている方々にも。
これは誰かの問題ではなく、誰にでも起こる問題、つまりは自分の問題なのだと思ってもらえたらばうれしいです。

――このインタビューの読者の皆さんにメッセージをお願いします。

井戸:「無戸籍の日本人」の存在は、この国が抱えているさまざまな社会問題とつながっています。なぜ解決がつかないのかを一緒に考えていただけたら。
政治的な攻防や無戸籍当事者の境遇は驚きの連続で、現実に起こっていることとは思えず「小説を読んでいるみたいだ」と言う感想もいただきました。
でも、これが真実です。今、日本に起こっている「リアル」なんです。
また一方、我妻榮先生をはじめ、明治・昭和とこの国の民法を作りあげてきた人々とその思いの強さも含めて知っていただけたらと思います。