ツカむ!話術 名門大卒芸人 パックンが教える ハーバード流トーク術!!

著者インタビュー

■相手に嫌な印象を与えずに自分のことを自慢するには?

― 本日はありがとうございます。『ツカむ!話術』はとてもロジカルながら、笑いの要素も織り交ぜられていて、新しい感覚のコミュニケーションの本でした。

パックン : ありがとうございます。

― 今日はなんてお呼びすれば良いでしょうか。パックン先生はいかがですか。

パックン : パックンでいいですよ!パックン先生と呼ばれるとすごく中途半端な感じがしますね。

― わかりました(笑)今、パックンは池上彰さんのご推薦で、東京工業大学で非常勤講師をされているとのことですが、どうしてそのお話を受けたのですか?

パックン : 自分にとっての社会貢献の一つですね。コミュニケーションスキルや話術は、国際的にも非常に重要なスキルですが、それを次世代に伝えていくことが自分にとっての責任というか、大事なテーマだと思っています。

今回、角川書店さんが本を出しませんかという話をくださって、ありがたく受けたのも、授業の内容プラスアルファを、新書という形で多くの方々に知っていただくことができれば、自分の仕事として非常に大きなものになると思ったからです。

― パックンはお笑い芸人としてもご活躍されていて、立川談志師匠にも可愛がられたそうですけど、そういった方の話術を直に学べるというのは、学生にとってはすごく良い環境なのではないかと思います。

パックン : 僕が言うと自慢に聞こえるかもしれないけど、彼らは恵まれていますよ。僕の授業を受けない他の何千人の学生たちは損していますね。

― (笑)この本の最初に、東工大の学生の8割がコミュニケーションに悩んでいるというデータを見つけて、コミュニケーションに関する授業をしようと考えたと書かれていましたが、具体的に接してみて、どういった場面でコミュニケーションのまずさを感じられましたか?

パックン : これは学生に限らず、国民性によるものだと思うんですが、自己PRが足りないですね。相手に自分の凄さを直接言わずに汲み取ってもらおうというやり方は日本人同士ならば空気を読んで成り立っていたんでしょうけど、国際社会の中ではそれでは通用しないと思うんですね。

自分のいいところを、嫌な気分を与えずにアピールすることができると、外交でも貿易でも、すごく強くなると思います。決して威張る必要はありませんが、さりげなく自慢できるような力をつけないといけません。

もう一つは、説得力を身につける必要があるということです。上からではなく、対等な立場や下の立場から、権力に頼らずに人を説得する力です。日本では議論というものがほとんど見られなくて、民主主義社会に必要なスキルを備わっている人はあまり多くないのではないかと思いますね。

― 僕自身、このようにいろいろな方にお話をうかがっているのですが、相手に嫌な印象を与えないようにすると、どうしても突っ込んだ話ができなくなるときがあります。深堀りしたり、反対意見を言ったりするのは、すごく憚られてしまうときがありますね。

パックン : 日本では意見が対立すると、個人攻撃にすり替えられるでしょ。意見が否定されたら、それが自分自身も否定されたと受け取ってしまう。実はそれは、話し手だけではなく、聞き手にも問題があるんです。“thick skin”つまり鈍感さを身につけて話を聞いた方がいいと思うんですね。

個人攻撃と受け取ってしまうと、感情的になって議論が進まなくなりますし、お互い悪印象のまま終わってしまう。でも、悪印象にならないまま、伝える話術はあるんです。

― この本はその点で、とてもロジカルに話を聞く姿勢を身につけることができる、非常に冷静になれる一冊だなと思いました。

パックン : コミュニケーション力を身につけるというテーマの本は数え切れないほどあると思うんですが、この本のパトス・ロゴス・エトスという修辞学の構成に基づいて論理的に伝えていこうという特徴は、僕の性格的なものですね。

― 論理的に理解していないと「才能があるんだ」だけで片づけてしまいがちです。

パックン : そうそう。魔法みたいに思えちゃう。でも、ツールを通して考えて、冷静に分析すれば魔法じゃなくなるんです。「人の気持ちを考える」ということも、相手の立場に合わせた言葉、相手が反応する言葉を選ぶということをすることが大事で、それは才能がなくても磨くことができると思います。

― そういえば、この本の中でパックンと池上彰さんの対談が収録されています。漫才的なやりとりも可笑しくて笑いながら読めるのですが。池上さんがパックンの授業を聴講していたら、しきりに「ハーバード出身」を強調していたそうですね。

パックン : いやらしいですよね……。

でも、それもこの授業が役に立つと思ってもらうための「戦略」なんですよね。ところで、ハーバード大学の人たちの頭の使い方は、私たちのような普通の日本人と一番異なるところはどこだと思いますか?

パックン : それはいい質問ですね。ハーバードの現役大学生も、卒業生もピンキリだから一概には言えないところがあります。超エリートのビジネスマンや政治家もいれば、日本で中途半端な芸人になっている人もいるからね。

ただ、素直じゃないという印象はあります。言われたことを鵜呑みにせず、反論もするし、話に乗るときも何かひとクセある。それも一つの話術になるんです。批判的思考とともに、プラスアルファ、何か付加価値をもたらして返そうとする、それがハーバード流ですね。

有名な話ですが、テストで知らないことについて聞かれても、ハーバードの学生は小論文が書けてしまうんです。例えば、デカルトの「実存主義」という主張について論じよと聞かれて、全く知らないとしましょう。すると、その問題への突っ込みで小論文を仕上げてしまうんです。「存在の定義は」とか、「存在主義はパラドックスだ!」とか。素直に知らないとは絶対に言わない。

― パックンにもそのご経験が?

パックン : ありますよ。試験で0点とるならダメ元で誤魔化してみようとしたところ、稀に高得点を取った覚えもあります!

■「痛い目は美味しい目、失敗は笑いの種」

― パックンが子どもの頃に読んでいた本で、最も印象に残っている一冊はなんですか?

パックン : これはいっぱいあります。小説が大好きで読んでいたし、あとは、聖書も好きでした。ミサの説教がつまらないから、ずっと読んでいた! 周囲からは聖書を読んで偉いねと言われるし。旧約聖書はファンタジーみたいで、『ロード・オブ・ザ・リング』と通じるものがあって、読んでいて楽しかったです。ただ、その結果、神様を信じられなくなったのですが……。

ギリシャ神話も読みあさったし、キップリングも30冊くらいは読んでいます。それと、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロックホームズ』シリーズも好きでしたね。普通のアメリカのジャンキーな小説も読んでいるし…。テレビがなかったので、子どもの頃は本ばかり読んでいました。

― コナン・ドイルといえば、映画『名探偵コナン 異次元の狙撃手』で声優のお仕事をされていますよね。

パックン : そうなんですよ。意外にもお仕事が来てしまいましたね。あっ、エドガー・アラン・ポーも多少読んでいます。

― 今でも本はたくさん読まれるのですか?

パックン : 以前ほどは読まなくなりましたが、今は池上さんの本を読んでいます。前は吉本ばななさんの本も読んだし、最近ならカーレド・ホッセイニというアフガニスタンの小説家が書いた『カイト・ランナー』という小説も読みました。それは中近東やアフガニスタン、パキスタンの勉強をしようと思ったのがきっかけですね。

雑誌では外交の専門誌とか『TIME』誌なんかも読みます。読んでいるとあっという間に時間が過ぎ去りますね。

― 後半ではプレゼンや交渉術など、実践的に使える話術を紹介されていますが、特にディスカッションやディベートのスキルが詳しく書かれていて新鮮に感じられました。日本人が最も不得意としているところの一つですね。

パックン : 確かに日本人は議論やディベートがあまり好きではないということは感じますね。僕は天の邪鬼だから、反対意見を言いたいときがある議論をしたくて、あえて反対意見を言っているのに、全く乗ってこなくて寂しいときがあります。

― 相方の吉田眞さん(マックン)とは議論をすることがあるのですか?

パックン : 議論より喧嘩になります。それも兄弟みたいなもので、感情的になってしまうんですよ。マックンはストレートに物事を言うので、僕が「自分はそうは思わないけど、まあいいよ」で終わるか、喧嘩になるかどちらかです。

喧嘩の原は、ネタのダメ出しが多いですね。一生懸命相方のためにネタを書いてきてストレートに「これつまんないよ」って言われたら、怒るでしょ? 「じゃあ、あんたが書けよ!」って言いたくなる。そんな感じなので、兄弟みたいなんです。一番議論ができるのは、妻ですね。

― お笑いのステージに立っている中で学んだことはなんですか?

パックン : たくさんあります。この本の帯を見てください。表に「ハーバード流」とでっかく書いてありますが、裏に小さく「笑いのコツ」と書いてあるでしょ。でもこの本は、「ハーバード流」と同じくらい「芸人流」で磨いた話術が入っているんです。「笑いのコツ」は本当に小さい字ですけどね。

「笑いのコツ」はその場のことを拾って使うことです。上手い司会者はみんな使っていますよね。3分前、5分前に出た話の内容をカウンターの上に置いておいて、いずれ使える武器として揃えておくんです。舞台や番組ではそれを心がけておいて、一回笑いを取って、さらに二回目も取るという。

― 話している中でも、頭の中を整理し続けるということですね。

パックン : 出来るならばそうしたほうがいいですね。だから、同じ話に参加している他のお笑い芸人が、自分より早く前に出たことを持ち出して笑いを取ると、スゲエ悔しい!みんな同じ武器を持っているわけで、いつどのタイミングで出すかというのをはかっているんです。

あとお笑い芸人を通して学んだことをもう一つ言うと、これは僕の生きざまでもあるのですが、「痛い目は美味しい目」です。失敗は笑いの種です。それをどこかで話すことによって笑いが取れる。痛い目にあって損をしたじゃなくて、どこかで元が取れるんです。
例えば以前、僕は自転車に乗っていたときに落ちて鎖骨が折れてしまったことがあるのですが、もう十分すぎるくらい元が取れました。あとは、これから走ろうと思って準備運動をしていたらギックリ腰になった話もそうです。怪我をしないためにストレッチなのに、ポキッと。悲しかったですが、ネタとして十分使えます。

― 失敗談というのは大変盛り上がりますよね。ただ、失敗に対して厳しい目を向ける人もいます。

パックン : うん、だからお笑い芸人だからできる技というのもあるかも知れません。僕はちょっとした失敗を笑いに変えられるのは余裕があるからでもある。勝ち組だからね、でも、日本人もアメリカ人も失敗したときは悔しがるし、怒るけれど、後々にそれで話が盛り上がるし、何より敵を作らないですよね。

もちろん、株のトレーダーが「自分、これだけ損しちゃいました」と言うのは、クライアントからの信頼を失うことになるのでしない方がいいです。でも、昔の大恥かいた話を、飲み会で晒してみるというのも、「あなたは面白い人ですね」となるかもしれない。面白がられることが大事だし、かばってもらえるようにもなりますから。

アメリカには主賓をいじるパーティーも結構あるんですよ。「今日は誰々の引退パーティーです。それでは、何々さんにお言葉をいただきます」「うちのボスは、本当に最高のボスです。だって、全部仕事をまわしてくれるんですよ。あの企画も私が考えたものなんです」といって笑いを取ったりしてね。「ロースト」というのですが。

― 主賓の心はいかばかりか…。

パックン : それは主賓の人間の大きさ次第ですね。たまに間違えてとんでもないブッキングをしてしまい、可愛いローストどころではなくなってしまうこともあります。それは注意が必要ですね。

― では、この本をどのような方に読んで欲しいですか?

パックン : みんなに買って欲しい。読むかどうかは自由で、買ってください! この本は、いろいろな方の役に立つと思うけれど、特に新しい何かに挑戦したいと思っている皆さんには、効果を発揮します。学生生活、社会人生活、結婚生活、子育て、婚活、就活……
『ツカむ!話術』というタイトルの通り、何かをつかみたい人はこの本を懐に入れて、攻め込んでもらいたいですね。

― ありがとうございます。このインタビューの読者の皆さまにメッセージを。

パックン : 話術はいわば思考術です。話術を鍛えることで自分の頭も鍛えることができます。だから、人との付き合いだけではなく、自分のためにも磨くべきものだと思うんですね。自分の人生を明るく、楽しく、より世界がはっきりと見えてくるように話術を磨いて、学んでもらいたいなと思います。

番外編 ~お悩み相談~

■初対面の異性との距離を近づける“パックン流話術”を教えてもらった

金井 : ここからはインタビュー番外編ということで、『ツカむ!話術』を著したパックンに教えてほしいことがあります。僕個人の話ですが、女の子の心をツカむ話術を知りたいんです。気の効く言葉をかけられない、初対面の人だとどうすればいいのか分からない。
例えばバーなんかに言っても、男性なら気軽に話しかけられても、同じように女性に接することができない。彼女がいない歴も長いので、まずはそこから克服したいと思って。

パックン : それは僕じゃなくて、うちのマネージャーに聞いた方がいいんじゃない?

金井 : ぜひ女性の意見もうかがいたいところですが、まずはパックンの「ツカむ話術」をご教示いただければ幸いです(笑)

パックン : この本にも書きましたけど、とにかく質問をすることですね。相手に興味を持つことが一番です。喋り上手というのは、自分が話すのではなく、相手に話をさせる技術を持っている人です。

自分の話をしたがらない人はそんなにいません。もし自分の話をしたくない人がいれば、それは何かやましいことを持っている人で、付き合わないほうが賢明です。
「今日はどこから来たの?」「埼玉のどちらですか?」「どんな街なんですか?」「何をされているんですか?」「もともとそういうお仕事をしたいと思っていたのですか?」という感じで、インタビュアーになればいいんですよ。金井さんの場合、普段やっていることを出せばよくて、「こんな悩みがあるんですけど、教えてくれませんか?」という感じで相手のやっていることを引き合いに出して話を聞くんです。

いきなりがっつくのではなくて、「あなたの話に興味を持っています」という姿勢を少しずつ出しながら聞くと、向こうも飽きずに話してくれると思います。

金井 : そうやって質問をしていくなかで、自分との共通点を見つけていくわけですね。

パックン : 共通点は大事ですね。あとは、しゃべる姿勢。これも本で説明していますが、前のめりで目を見て「あなたに興味を持っているよ」という感じを出しましょう。そして、相手に対する相槌で愛や興味を示すといいです。

金井 : 僕はよく「目を合わせて話さないよね」と言われてしまうんですよね…。

パックン : 僕も金井さんに指摘すべきかどうか迷っていましたけど、目を見て話すことはすごく大事です。「あなたに興味を持っているよ」ということを見せるには、まばたきの数は少ないほうがいいし、目を見ている方がいい。

まばたきが多いと緊張が見えてしまうんです。相手が緊張していると、こっちも緊張しちゃうでしょ? だから僕が今、結構ラフな格好で座っているのは、こういう場面だからなんですよ。もちろん、場面に応じて座り方は変えます。目上の人じゃない限りは、女性に対してはリラックスするムードをつくるために、気楽な座り方やしゃべり方がいいと思いますね。

金井 : 大変参考になります。今、パックンが話している間、机越しにどんどん体を近づけてきたんです。話が乗ってくると、自分の体も近づいていっていましたね。

パックン : そうそう、そして声のトーンを少しずつ落としていくと、さらに体が近づいていって、その距離が縮まったところでキスをすればいいんですよ。
あ、今も距離が多少縮まってきているけど、僕とキスしちゃダメだよ!

■取材後記

 話し方、姿勢、声の高揚など、パックンのコミュニケーション術はすごく洗練されていて、「相手に嫌な印象を与えずに自分の考えや良さを伝えていく」というこの本で書かれていることを肌で感じ られた時間でした。これは大学の講義を受けると、コミュニケーション能力伸びるだろうなあ……(授業内容はかなりハードらしいですが)。
 インタビュー終了後、「もし彼女ができたら、教えてください」と笑顔で言われました。いつになるか分からないですが、頑張ります。
 (新刊JP編集部/金井元貴)