BOOK REVIEW
- 書評 -

Amazonで「1時間でわかる省エネ住宅!夢を叶える家づくり」の詳細をみる

 ヒートショックという言葉を聞いたことがあるだろうか。
これは、家のなかの温度の急激な変化がもたらす健康被害のことで、血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすことがある。
 このヒートショック、室内における高齢者の死因の4分の1にのぼるとも言われているが、若くても肥満や高血圧、糖尿病などに問題を抱えている人は注意が必要だという。

 日本の住宅の多くは、冬、暖房の効いた部屋と寒い廊下とで温度差が15度以上になることは珍しくない。つまり、ヒートショックに見舞われるリスクがきわめて高いのだ。
 『1時間でわかる省エネ住宅! 夢を叶える家づくり』(青春出版社/刊)によると、このような状況を生み出している原因のひとつは、日本の住宅特有の断熱性の低さにあるという。この問題を解消するために本書の著者、高垣吾朗さんが推奨しているのが、「パッシブデザイン」という設計手法だ。

■夏と冬、何もしなくても部屋の温度を15~16度に保てる家

 「パッシブデザイン」とは、太陽の光、熱、風など自然の力をうまく利用することで、住みやすい家を造る設計手法のこと。
 では、住みやすい家を実現する上でのポイントは何なのだろう。本書では、そのポイントを三つにまとめている。

  • 断熱性、気密性を上げる
  • 夏の太陽の光はしっかり防ぎ、冬の太陽の光は取り入れる
  • 風通しが良くなるように窓の設計をする

 これらの点を踏まえた家づくりをすることが、1年を通して家全体の温度を一定に保つことができる「パッシブデザイン」の基本となる。とりわけ「断熱性や気密性を上げる」ことは重要で、断熱性の高い設計にすれば、冬に無暖房でも部屋の温度を15~16度に保つことができるそうだ。

■断熱性・気密性を高めるための具体的なポイント

 家の断熱性や気密性を高め、ヒートショックが起こりにくい家を造るために、特に気を配るべき場所は寝室だ。
 冬場に暖かい布団から出れば誰でも寒いはず。だからこそ、この場所は万全の断熱対策、気密対策をしておくべきで、これを怠ると布団の中と外とで温度差が大きくなりすぎてしまう。
 無暖房時でも室温が下がりにくくするためにカギになるのは窓の配置の仕方だ。具体的には、寝室が北に向いている場合、北面に大きな窓を設置しないこと。この位置に窓を設置すると、室内から外へ逃げる熱が大きくなってしまう。
 また、廊下も部屋の中との温度差が大きくなりがちなため注意すべきだろう。結論から言ってしまえば、家の断熱性を高めるために、廊下のスペースはできるだけ小さくするほうがいい。

 これから家を建てる予定がある人、リフォームを計画している人などは「住みやすい家とはどんな家か」について嫌でも考えるだろう。
 本書はこの問いに対する的確な回答をくれるとともに、その家を実現するための最新の方法が詳しく紹介されている。
 冷暖房に頼らず一年の寒暖差を小さくする。「そんなことが本当に可能なのか?」とも思うが、技術と創意工夫によってそれは可能なのだ。
(新刊JP編集部)

PROFILE
- 著者プロフィール -

高垣 吾朗(タカガキ ゴロウ)

1981年、島根県出雲市生まれ。
父親は医師、母親は薬剤師の医療一家に生まれる。医者の世襲制に疑問を持ち、自分は医学ではない道を進むことを決意する。琉球大学理学部卒業後、北海道大学大学院地球環境科学研究科修了。その後、大手電機メーカーに就職。エンジニアとしてコンピュータの設計開発に携わる傍ら、海洋、気象を学んだことをベースに、「物理学を応用した快適な家を建てたい」と独学をスタート。より良い家づくりのために数々の工務店回りをしている際にコラポハウス一級建築士事務所の社長に出会い、入社。入社後は家の標準仕様を全面的に変えると同時に、自然の力を活かす「パッシブデザイン」の設計手法をスタッフ・お客様に伝えている。現在は「パッシブデザイン」を取り入れた「高気密・高断熱」な住宅を年間130棟作り、住宅建築業界で注目度ナンバーワンの会社へと成長させている。
ブログ「メンドクサイけどお得な話」連載中
http://collabo56.blogspot.jp/

CONTENTS
- 目次 -

  1. 第1章 : 本当に快適な家を知っていますか?
    ~ 2020年省エネ住宅づくりが義務化!建てる前に、リフォームする前に押さえておくべきこと
    1. サザエさんの家は超寒かった!?
    2. 不思議なニオイと気密性の関係
    3. 太陽の光を入れ過ぎた灼熱の家
    4. 快適な家をつくるための基本事項
    5. これまでの基準は努力目標にすぎなかった
    6. パッシブデザインが必要な時代が迫っている
    7. 2030年には、さらなる高基準に!
  2. 第2章 : 省エネ住宅は「パッシブデザイン」で叶える
    ~ こんなにある「断熱」「気密」のメリット
    1. 震災で注目が高まった「断熱性能の高い家」
    2. 寒さのアレルギーに対する影響
    3. 同じ気温でも体感温度はなぜ違う?
    4. 自然の力を活かすから、省エネ&エコになる
    5. 家計に優しく、コストパフォーマンスも高い
  3. 第3章 : 夏は涼しく、冬に暖かい家の秘密
    ~ 一年中Tシャツ1枚で過ごせる家をデザインする
    1. 本場ドイツの考え方と異なる点
    2. 自然の風を活かす
      ─ 住む場所・季節・時間帯で風の通り方を調べる
    3. 太陽の光を取り入れる
      ─ 自然の明るさをしっかり確保、照明器具も最小限で済む
    4. 断熱性を高める
      ─ 外壁・屋根・床・窓の工夫で冬でも寒くない
    5. 断熱と同時に気密性も高める
      ─ 換気の効率をよくするツボ
    6. 夏の暑さ対策をする
      ─ 室内にぜったい熱を入れない工夫から
    7. 窓の役割と種類
    8. 太陽熱温水器と太陽光発電
  1. 第4章 : 自然の力で年中、風通しも日当たりもいい、家づくりのコツ
    ~ 間取りの工夫からリフォームの注意点、業者選びまで
    1. 快適に住むための間取りの工夫
    2. 南側に日当たりのいいリビングが定位置
    3. キッチンは風通しを良くして
    4. 夏の夜に涼しい寝室をつくる
    5. お風呂や洗面所に窓をつけて明るくする
    6. 流行の設計様式には注意が必要
    7. 水回りで気をつけたいこと
      • キッチン
      • 浴室・トイレ
      • 洗面所・脱衣所
    8. 部屋別の傾向と対策
      • リビング・ダイニング
      • 子ども部屋
      • 書斎
      • 寝室
      • ロフト
      • 廊下
      • 階段
    9. 建具を考えるときに注意すること
      • ドア
      • 収納
      • 照明器具
    10. 外装で注意すること
      • 外壁
      • 屋根
      • バルコニー・ベランダ
      • エクステリア
    11. さらに断熱性を高めるために
    12. 改築・増築をするときのコツ
      • 部分改築
      • 全面改築
    13. ハウスメーカー選びに失敗しないためのQ&A
    14. おわりに
    15. 日本の家に見られる工夫
      • 中庭と屋根裏の秘密
      • 縁側のパッシブデザイン的な要素
      • 用途が広がる「田の字」型の家

INTERVIEW
- インタビュー -

 多くの人にとって、家を建てることは、一生に一度の「大きな買い物」。できるだけ快適な家を建てたいものだが、そもそもあなたが求める「快適さ」とは、どのようなものだろうか?

 『1時間でわかる省エネ住宅! 夢を叶える家づくり』(青春出版社/刊)の著者、高垣さんによると、「夏涼しく、冬暖かい」ことこそが、「快適な家」の本来あるべき姿。しかし、この快適さを実現している日本の住宅は驚くほど少ないという。
 この問題を解決すべく、本書では「パッシブデザイン」という工法を取り上げている。この方法を用いることにより家の断熱性を高めることができ、無暖房でも、部屋の温度を最低、15~16度に保つことができる。
 このような効果を持つ「パッシブデザイン」とはどのようなものなのか。住宅会社で戦略立案や営業支援の仕事に携わっている高垣さんにお話をうかがった。

―まずは本書の執筆経緯を教えていただけますか。

高垣:これは、今の仕事に就いた経緯も含めてお話しさせていただいたほうがいいと思います。
8年ほど前、結婚するタイミングで自分の家を建てようと住宅会社をいくつか廻りはじめました。当時はまだ大手電機メーカーの子会社に勤めていたのですが、学生時代、熱力学や流体力学を学んだこともあり、住宅会社の人と話すときに、「断熱材って、どんなものがありますか?」と尋ねてみたんです。
すると、どの会社の人も「いや、高垣さん、それはいいんですけど……」とスルーするんですよ。不思議に思って色々と調べると、彼らは熱に関する知識を持っていないことが分かりました。

著者近影

―住宅を扱っているのに断熱材について知らないというのは意外です。

高垣:日本では、東京大学工学部の建築学科のカリキュラムが住宅業界の考え方を方向づけているといって過言ではありません。でも、そのカリキュラムのなかで熱に関するものが本格的に登場するようになったのは、ここ10年ほど前の話なんです。つまり、私が住宅会社を廻りはじめた当時、この業界で働いていた人たちはほぼ全員、熱に関する知識を持っていなかったことになります。
これでは、いくら断熱材についての話をしたところで、住宅会社の人にまったく理解してもらえないのも当たり前だなと思い、いったんは家を建てるのを諦めたのですが、4年前にもう一度、色々な会社を廻りはじめましてね。その際、出会ったのが、いま所属している「コラボハウス」という住宅会社だったんです。コラボハウスの創業者は正直な人で、私が持ちかける相談に対して、「高垣さん、あなたの言っていることは意味が分からないよ」と言いながらも、面白がってくれました。
そして、何度かやりとりを重ねるうちに「この会社となら、自分の理想にかなった家を作れそうだ」と思うようになっていったんです。ついには「今、自分が模索していることは、ほかの人の家づくりにも役立つはずだ」と思い、ある時「自分のこと、雇ってくれませんか?」と訊いてみたら「いいですよ」と。
そんないきさつでコラボハウスに入り、お客さんと話をしてみて、やはり「家づくりにおいて、熱のコントロールがいかに大事か」という考えは世間にまったく浸透していないことが分かりました。工務店の人たちに対しては、専門家が「パッシブデザイン」についてのセミナーや勉強会を開いているということは分かってきたんですが、これではいつまで経っても一般に浸透しない。消費者に直接、パッシブデザインがどういうものなのかを説明したいと思って、本書を執筆しました。

―パッシブデザインとは、簡単にいうとどういうものなのでしょうか。

高垣:「光熱費を節約できて、快適に過ごせる家」をつくるためのデザイン手法のことです。「パッシブ」とあるのは、人工的な設備に頼らずに、光や風など自然の力を受動的に取り入れて快適な室内環境を実現できるという意味ですね。

―ここで言う「快適さ」とは、具体的に何を意味していますか。

高垣:「健康に暮らせる」という意味です。本の中でも紹介しましたが、イギリスでは家の性能の高低をはかる基準として、「室温環境」を設けています。この基準は「室温が19℃を下回ると、健康リスクが増大しはじめる」という統計データにもとづいて作られたそうです。

―つまり「快適な家」とは、年中、室温が19℃を下回らない家のことを指すというわけですか。

高垣:そうです。もっといえば、年中、室温が19℃を下回らないようにするだけでなく、室温差が生まれないようにすることも重要になります。さきほど「健康に暮らせる」という言い方をしましたが、室温差があるとヒートショック(※)など、健康上のリスクが高まってしまうんです。
従来の建築手法を使った住宅の場合、冬に暖房の効いた部屋と、寒い部屋や浴室(脱衣所・洗面所)、トイレなどとの気温差は15℃以上にもなると言われています。このような室温差をなくすために、色々な工夫を凝らすことが必要になってきます。

―具体的には、どのような工夫をすればよいのでしょうか。

高垣:断熱性と気密性を上げる必要があります。具体的には、高い断熱性能を持った窓を採用したり、外壁や屋根、床、窓などに使う断熱材を高性能のものにする、厚みを増すといった策が効果的です。

―そのように断熱材に工夫を凝らすとなると、コストもかなりかかるのでしょうか。

著者近影

高垣:いえ、かかるコストは従来のものとそう大きく変わりません。
ざっくり言って、家を建てる際のコストは、「材料費が半分、人件費が半分」と思っていただいて問題ないのですが、高性能の断熱材そのものの値段もさほど高くありませんし、断熱材を厚くするにしても手間が大きく増えるわけではありません。なので、パッシブデザインを取り入れることでコストが極端に跳ね上がることはないんです。

※ ヒートショックとは、家のなかの温度の急激な変化がもたらす健康被害のことで、血圧が大きく変動し、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすことがある。

―「日本の住宅寿命は、欧米のそれに比べて圧倒的に短い」という話を聞いたことがあります。これは本当なのでしょうか。

高垣:まったくのウソというわけではありませんが、やや正確さに欠ける表現だと思います。
「住宅寿命」とひと口に言っても、物理的耐久性と社会的耐久性の二通りの意味があります。まず前者についていえば、日本の住宅の物理的耐久性は欧米のそれにひけをとらず、きちんとメンテナンスを行なえば、30年どころか50年以上はもちます。
ではなぜ日本の住宅の多くは30年で建て壊されてしまうのかといえば、「家が消費の対象になっていたから」でしょう。戦後の高度経済成長によって、あらゆるものの消費スピードを上がっていくなかで、私たちは「家をどんどん建て替えること」に抵抗を感じなくなっていきました。なので「住宅寿命が短い」よりも「社会的耐久性が落ちた」と言ったほうが正確だと思います。

―では、パッシブデザインを取り入れることは、住宅の物理的耐久性と社会的耐久性にそれぞれどのような影響を及ぼすのでしょうか。

高垣:パッシブデザインの前提条件である高気密・高断熱な家においては、断熱性や気密性を上げることと同じくらい、「壁のなかに湿気が入らないようにする」ことが重要です。湿気が入ってしまうと、「壁体内結露」といって、ガラスの表面がビシャビシャに結露しているような現象が壁のなかで起きてしまうからです。この状態は極めて危険で、酷い場合は柱が腐ってしまうなど物理的な耐久性に大きな影響を及ぼします。
さきほど断熱材の話をしましたが、家の断熱性が高まれば高まるほど、外気温と室温との差が大きくなり、結露のリスクは高まります。その意味では、中途半端な知識しか持たない状態で高気密・高断熱な家にすると、物理的な耐久性にマイナスの影響を及ぼすリスクがあるということです。
一方、社会的耐久性については、パッシブデザインを取り入れることで、プラスの影響が考えられます。室内の温度差を小さく保つためには、断熱性能の向上外に、廊下スペースを減らし、できるだけ「仕切り」を少なくするという方法があるんですが、仕切りが少なければ間取りを自由に変えられる。
たとえば、元々は四人家族が真四角な部屋の四隅を四等分してプライベートな空間として使っていたとします。でも余計な間仕切りがなければ、子どもが巣立ち夫婦ふたりになった段階で、部屋を二等分して使うということも可能なわけです。つまり、わざわざ建て替えたりしなくても、目的に合わせて住環境を再設計できる。これは社会的耐久性を向上させることにつながると言っていいでしょう。

―インタビューの冒頭では、パッシブデザインという考え方が、まだ日本にはまったく浸透していないというお話がありました。今後、この考え方がどのように広がっていけばいいと思われますか。

高垣:パッシブデザインという言葉は使われなくても、「こういうふうに家をつくれば、熱をコントロールできるよね」という考えが、消費者のあいだで根づいていけばいいと思います。
この考え自体は難しいものでもなんでもありません。日本人は昔からごく自然な形で「パッシブデザイン的なもの」を実践していたという意味で、これからの日本の住環境は「原点回帰」していくべきだと思っています。
北海道を例にとれば、アイヌ民族の人々は「チセ」という竪穴式住居のなかで、年中、焚き火を焚くということをしていました。竪穴式住居の構造を簡単に説明すると、床は藁と土を何層にも積み重ねることでできていて上には穴が開いています。「冬になったら寒そう」と思うかもしれませんが、これがまったく寒くないんです。それは夏の間じゅう、ずっとチョロチョロと焚き火をすることで大地に熱をためこむことに成功しているからです。つまり、夏のあいだにためておいた熱がジワジワと上にあがってきて、冬はその輻射熱によって竪穴式住居のなかが暖まるんです。
日本の各地には、このように寒暖差を乗り切るための知恵が沢山あります。そうしたものに目を向けていくことも重要だと思いますね。

―最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

高垣:パッシブデザインの考え方を取り入れれば、光熱費を抑え、しかも健康な暮らしも手に入れられる。つまり、パッシブデザインはとてもおトクな方法なのだということを知っていただきたいですね。この本を通じて、「パッシブデザインを知っているだけで、おトクなんだ」ということだけでも是非知っていただければと思います。
(了)

著者近影
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